インドネシアの2045年プラン:Indonesia Emasに向けた壮大な戦略

インドネシアが建国100周年を迎える2045年。これを機に「Indonesia Emas(ゴールデンインドネシア)」というビジョンが掲げられています。この計画は、インドネシアが経済的・社会的に繁栄し、世界で尊敬される先進国になることを目指すものです。本記事ではその背後にある哲学、達成に向けた戦略、そして乗り越えなければならない課題について、解説させていただきます。
歴史的背景と2045年プランの意義

1945年、スカルノとハッタによって宣言されたインドネシアの独立は、すべての国民に公正と繁栄をもたらす国家を築くことを目的としていました。この理想は、憲法1945年(UUD 1945)の前文に刻まれています。しかし、78年が経過した今も、貧困や不平等、インフラの不足といった課題が依然として残っています。
2045年プランは、これらの課題を克服し、次の世代がより明るい未来を手にするための国家戦略です。このプランは、経済、社会、政治、環境、国際的な地位といった多岐にわたる分野にわたり、以下の具体的な目標を掲げています。
インドネシアの2045年プランの5大目標

1. 一人当たり所得の向上
現在、インドネシアの一人当たりGDPは3,869ドル(約4.5万円/月)であり、これは中所得国の水準に留まっています。この状況から脱却し、2045年までに13,000ドル(約14万円/月)まで引き上げることで、高所得国の基準を達成することを目指します。この目標を実現するためには、以下のような具体的な施策が求められます。
- 経済成長の加速
年平均6~7%の持続的な成長を達成し、最終的には10%を超える成長を目指します。この成長には、国内外からの投資誘致、製造業の高度化、観光産業の拡大が重要な鍵を握ります。
- 産業構造の転換
農業や天然資源の輸出依存型から、製造業やサービス業を中心とした高度な産業構造への転換が求められます。特に、デジタル経済やフィンテック分野での発展が重要です。
- 地方経済の強化
経済活動をジャカルタ中心から地方へ分散させ、全国的な経済活性化を図ります。地方自治体への支援とインフラ整備が不可欠です。
2. 貧困率の削減と平等の推進
現在のインドネシアでは、不平等と貧困が依然として大きな社会問題となっています。貧困率を0%に近づけること、そして富や機会の分配を改善することで、すべての国民が平等に生活の質を向上させられる社会を構築します。この目標達成には以下の施策が必要です。
- 社会保障の拡充
最低限の生活を保障するための福祉政策の強化。特に健康保険や失業手当の導入が効果的です。
- 所得格差の是正
資産税の導入や富裕層への課税強化を通じて富の再分配を図ります。また、中小企業支援プログラムを通じて低所得層の収入を増加させることが重要です。
- インフラへの投資
離島や辺境地域へのアクセス改善、学校や医療施設の整備により、地域間格差を是正します。
3. 国際的なリーダーシップの強化
インドネシアはASEAN最大の国であり、地理的にも戦略的な位置にあります。この優位性を活かし、国連やASEAN、G20といった国際舞台での影響力を高め、外交面での強固な地位を確立することが求められます。
- 外交政策の強化
平和維持活動への積極的な参加、気候変動問題への取り組み、グローバルな人権問題への貢献を通じて、国際社会での存在感を高めます。
- 経済外交の推進
貿易協定の締結や外国直接投資(FDI)の誘致により、インドネシア経済のグローバル化を促進します。
- 文化外交の活用
インドネシアの文化や観光資源を世界に発信することで、国際的な認知度を向上させます。
4. 人的資源の競争力向上
インドネシアの若い人口は大きな強みですが、競争力を高めるためには教育や職業訓練の充実が必要です。
- 教育改革
STEM(科学、技術、工学、数学)分野の教育を強化し、AIやICTなどの先端分野でのスキルを持つ人材を育成します。全ての子供に質の高い基礎教育を提供することが目標です。
- 職業訓練の拡充
大学卒業後のスキルアップや転職支援を通じて、労働者が時代の変化に対応できるようにします。
- 国際的な競争力の強化
英語や他の国際言語の普及、海外留学プログラムの推進を通じて、グローバルな市場で活躍できる人材を育てます。
5. ネットゼロエミッションの達成
気候変動は世界的な問題であり、インドネシアもその例外ではありません。2045年までに温室効果ガス(GHG)排出をゼロにすることを目指しています。
- 再生可能エネルギーの推進
太陽光発電、風力発電、水力発電などのクリーンエネルギーへの転換を加速させます。また、石炭火力発電の削減に向けた政策も実施しています。
- 持続可能な農業の推進
森林伐採の削減や再植林プロジェクトを通じて、温室効果ガスの吸収を強化します。
- 都市計画と公共交通機関の整備
都市部の環境負荷を軽減するため、スマートシティ計画や公共交通機関の充実が進められています。
2045年プランを実現するために克服すべき課題



インドネシアの2045年プランを成功させるには、国内外の複雑な課題を解決する必要があります。それぞれの課題は独立した問題であると同時に、相互に関連し合っています。以下に、主要な5つの課題を詳細に解説します。
1. 地球温暖化と気候変動への対応
気候変動は、インドネシアの経済と社会に甚大な影響を及ぼしています。特に農業と沿岸部の生活環境が直撃を受けています。
- 農業生産性の低下
異常気象による干ばつや洪水は、農作物の収穫量を減少させ、食料価格の高騰を招いています。これにより、特に貧困層が深刻な影響を受けています。
- 沿岸部の洪水と海面上昇
海面上昇により、ジャカルタを含む多くの沿岸都市が水没の危機に直面しています。特に小規模島嶼部の住民は、生活基盤を失うリスクが高まっています。
- 現行の対策
政府は、再生可能エネルギーの導入を加速し、石炭火力発電所の削減やカーボンクレジット市場の整備を進めています。しかし、これらの取り組みだけでは温暖化の影響を緩和するには不十分です。例えば、農家に耐干ばつ性の種子を提供したり、洪水に強いインフラを構築するなど、より具体的で地域に根ざした対策が求められています。
2. 人口ボーナスの活用と高齢化問題
インドネシアは現在、労働人口がピークを迎える「人口ボーナス」の状態にあります。しかし、この有利な状況が永続するわけではありません。
- 人口ボーナスの恩恵
若い労働力は、経済成長を加速させる貴重な資源です。これを活用するには、労働者が国際的に競争力を持つためのスキルを習得することが重要です。
- 高齢化の進行
現在のままでは、2035年以降、労働人口の減少と高齢化が急速に進行する可能性があります。これは「老いる前に豊かになる」という目標の達成を阻む大きな障壁です。
- 必要な対策
教育改革や職業訓練を強化し、労働者の生産性を向上させる必要があります。また、年金制度の整備や高齢者向け医療サービスの充実も欠かせません。
3. 不平等の是正
現在、インドネシアの富の36%が1%の富裕層に集中しています。この経済的不平等は、社会の安定に深刻な影響を及ぼします。
- 経済的不平等の現状
貧富の格差は、教育や医療などの基本的なサービスへのアクセスに影響を与えています。特に地方部では、不平等が顕著です。
- 社会的不安のリスク
経済的不平等は、暴動や抗議活動の発生リスクを高めるだけでなく、長期的には経済成長を阻害する要因ともなります。
- 政策提言
富裕層への累進課税を導入し、教育や医療への投資を通じて社会保障を強化することが求められます。また、中小企業支援を通じて、低所得層の収入向上を目指します。
4. 国家財産の国外流出
インドネシアの富は、過去から現在に至るまで国外に流出し続けています。この問題を解決しない限り、国内経済の成長は限定的なものにとどまります。
- 国外流出の現状
2016年には、インドネシア人が海外銀行に預けた資産が11,000兆ルピア(国家予算の5倍以上)に達しました。さらに、多くの輸出収益が国外の企業によって管理されていることも問題です。
- 経済への影響
富が国外に流出することで、国内での再投資が制限され、経済の循環が阻害されています。この状況は、特に地方部の経済成長を妨げています。
- 解決策
海外に流出した資産を国内に戻すためのインセンティブを提供し、国内での投資を促進する必要があります。また、国家が重要な産業を管理し、利益を国内に還元する仕組みを整えることが重要です。
5. 国際競争力の向上
急速に進化する人工知能(AI)やICT(情報通信技術)は、労働市場に大きな変革をもたらしています。これに対応するため、インドネシアの労働力がグローバル市場で競争力を持つことが必要です。
- AIと自動化の影響
多くの業界で自動化が進む中、従来の労働力が競争力を失うリスクがあります。これにより、失業率が上昇する可能性があります。
- 教育とスキルの強化
STEM教育(科学、技術、工学、数学)の拡充や、AI関連スキルの習得を支援する職業訓練が求められます。
- 政策の方向性
デジタルインフラへの投資を拡大し、国内外の企業がICT分野での人材育成に協力する体制を整えます。また、国際的な協力を通じて、最新の技術やノウハウを国内に取り入れることも重要です。
「インドネシアエマス 2045」への具体的な戦略

Prabowo氏が提案する「インドネシアエマス」への戦略は、インドネシアを先進国へと押し上げるための包括的なロードマップです。この戦略は教育や産業、地方自治、政治ガバナンスといった多方面にわたります。それぞれの分野における詳細な取り組みを以下に解説します。
1. 教育と人的資本への投資
教育は、経済成長のエンジンであり、競争力のある国づくりに不可欠な要素です。Prabowo氏は、教育への大規模な投資を通じて、次世代の労働力を育成することを提案しています。
優れた学校と教師の育成
- カリキュラム改革: 科学、技術、工学、数学(STEM)の分野に重点を置いた教育プログラムを導入。特にAIやICT分野のスキルを習得できる教育内容を強化。
- 教師の質向上: 教師向けのトレーニングプログラムを充実させ、教育の質を高める。また、教師の待遇改善を図り、優秀な人材が教育分野に参入しやすい環境を整備。
- 学校施設の充実: 老朽化した校舎の改修や、新たな教育施設の建設を進め、地方の教育格差を解消する。
貧困層への教育支援
- 奨学金制度: 経済的に困難な家庭の子供たちが教育を受けられるよう、奨学金や学費補助を拡充。
- 遠隔教育の導入: 地理的にアクセスが難しい地域の学生に対して、オンライン学習やデジタル教材を提供。
2. 国家産業の育成
インドネシアの経済を持続可能な形で成長させるためには、輸入依存から脱却し、自立した産業基盤を築く必要があります。
製造業の強化
- 国内産業の促進: 自動車、電子機器、建設資材などの分野で国内生産を推進し、外国製品への依存を減少させる。
- 中小企業支援: 国内中小企業への金融支援や技術支援を通じて、サプライチェーン全体を強化。
農業の近代化
- スマート農業の導入: AIやIoTを活用した農業技術を普及させ、生産性を向上。
- 農業インフラの整備: 灌漑システムや倉庫施設を改善し、農作物の品質保持と輸送効率を向上。
- 食糧自給率の向上: 小麦、米、トウモロコシなどの主要農作物の国内生産を拡大し、輸入量を削減。
3. 地方の活性化
インドネシアの経済活動は、現在ジャカルタを中心とした都市部に集中しています。地方の発展を進めることで、全国的な経済成長を促進します。
地方自治体の強化
- 自治体への権限移譲: 地方自治体に予算や政策決定の権限を与え、地域ごとの特性に応じた開発計画を実施。
- 地方経済の支援: 観光業、農業、工芸品産業など、地方特有の産業を活性化するための資金援助や技術提供を行う。
インフラ整備
- 交通インフラの拡充: 地方都市間を結ぶ道路や鉄道、港湾の整備を進め、物流を効率化。
- デジタルインフラ: 地方にもインターネットや通信インフラを整備し、デジタル経済の恩恵を全国に広げる。
4. 政治的なガバナンスの改善
持続可能な成長には、透明で公正な政治体制が必要不可欠です。Prabowo氏は、汚職撲滅と民主主義の強化を柱とする政治改革を提案しています。
汚職の撲滅
- 厳格な監視体制: 汚職防止委員会(KPK)の権限を強化し、政治家や公務員の汚職を厳しく取り締まる。
- 透明性の向上: 政府予算や契約プロセスを公開し、不正が行われにくい仕組みを構築。
民主主義の強化
- 選挙制度の改革: 公正な選挙を実現するため、選挙資金の透明化や不正防止策を強化。
- 市民参加の促進: 政府政策に市民が意見を反映できるプラットフォームを設置し、参加型民主主義を促進。
政府の効率化
- 官僚制度の改革: 官僚機構をスリム化し、効率的で迅速な行政運営を実現。
- 公務員の能力開発: 公務員に対する研修プログラムを強化し、政策実施能力を向上させる。
まとめ

インドネシアの2045年プラン「Indonesia Emas」は、高所得国入りを目指し、教育、産業、地方活性化、ガバナンス改善を柱とした包括的な戦略を展開。課題克服に向け、気候変動対策や人口ボーナス活用、富の平等、国際競争力強化を進める壮大な国家ビジョンです。壮大な計画ですが、本当に達成するためにはたくさんの課題があるのも事実です。これからこの国がどのようにこの成長戦略を実現していくのか注目していきましょう。
参照:Buku Strategi Transformasi Bangsa – Tulisan Prabowo Subianto 2023
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本記事で使用した単語の解説
- Indonesia Emas(インドネシア・エマス)
インドネシア語で「ゴールデンインドネシア」を意味し、建国100周年の2045年に先進国となる目標を掲げた国家ビジョン。
- GDP(一人当たり国内総生産)
国民1人あたりの経済活動の規模を示す指標で、生活水準を測る目安として用いられる。
- 中所得国の罠
経済成長が中所得国段階で停滞し、高所得国への移行が困難になる現象。
- 人口ボーナス
働き盛りの人口が多いことによる経済成長の恩恵。逆に高齢化が進むと「ボーナス」ではなく「負担」となる可能性がある。
- ネットゼロエミッション
温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、実質的な排出をゼロにすること。
- カーボンクレジット市場
温室効果ガス削減量を売買する仕組み。企業や国が削減努力を支援する形で、削減目標達成を目指す。
- デジタルインフラ
高速インターネットやデジタル技術の普及基盤となる設備やサービス。
- STEM教育
科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の分野に焦点を当てた教育。
FAQ(よくある質問)
Q1. インドネシアの2045年プランは具体的に何を目指していますか?
A1. インドネシアは「Indonesia Emas」というビジョンを掲げ、2045年までに高所得国入りを目指しています。主な目標は、経済成長、貧困削減、国際的な影響力の強化、教育の充実、温室効果ガスの削減などです。
Q2. インドネシアの現在の課題は何ですか?
A2. 気候変動による影響、人口ボーナスを活用する必要性、不平等の是正、国家財産の国外流出、国際競争力の強化が主な課題です。
Q3. 2045年プランの実現には何が必要ですか?
A3. 政府、企業、市民社会が一体となって教育、産業振興、地方活性化、ガバナンスの改善に取り組むことが重要です。また、インフラ整備やデジタル経済の推進も必要です。
Q4. 気候変動対策でインドネシアはどのような取り組みをしていますか?
A4. 再生可能エネルギーへの転換や森林伐採の削減、カーボンクレジット市場の開設、スマートシティ計画の推進などを行っています。
Q5. 日本や他国との協力は進んでいますか?
A5. インドネシアは国連やASEAN、G20での協力を強化しており、特に貿易や技術交流の分野で多国間協力を進めています。