3月 16, 2025 •
教育, インドネシア
インドネシアの教育制度や義務教育と教育の課題を徹底解説
インドネシアの教育制度は、幼児教育(PAUD)から高等教育(Pendidikan Tinggi)まで、国が定めたカリキュラムに基づいて運営されています。義務教育は9年間(小学校6年+中学校3年)であり、政府は教育の普及と質の向上を目指してさまざまな改革を進めています。しかし、地域間の教育格差や学校の設備不足、教師の質の向上など、課題も多く残されています。本記事では、インドネシアの教育制度の全体像を詳しく解説し、その特徴や課題、政府の支援策について深掘りしていきます。
インドネシアの幼児教育(Pendidikan Anak Usia Dini: PAUD)の特徴
インドネシアの幼児教育(PAUD)は、0歳から6歳までの子どもを対象とした教育システムであり、国家教育法(Undang-Undang Sistem Pendidikan Nasional)に基づいて運営されています。PAUDは、幼児期における発達を促進し、子どもたちが小学校教育にスムーズに適応できるようにすることを目的としています。
1. PAUDの種類
PAUDは主に以下の3つのカテゴリーに分類されます。
① 託児所(Taman Penitipan Anak: TPA)
対象年齢: 0〜2歳
目的: 保護者が働いている間、子どもを安全な環境で預かる。
特徴: 保育が中心で、教育的要素は少ない。基本的な生活習慣の習得や社会性の育成が目的。
② 幼児教育センター(Kelompok Bermain: KB)
対象年齢: 2〜4歳
目的: 遊びを通じて社会性を育む。
特徴: 絵本の読み聞かせやリズム遊び、簡単な運動活動を通じて、子どもの好奇心を育む。
③ 幼稚園(Taman Kanak-Kanak: TK)
対象年齢: 4〜6歳
目的: 文字・数字の基礎学習やコミュニケーション能力の向上。
特徴: 公立と私立があり、宗教的な幼稚園(イスラム系やクリスチャン系)も多い。
また、PAUDには地域コミュニティ主体のPAUD Terpadu(統合型PAUD)や、非公式な家庭ベースのPAUD(PAUD Berbasis Keluarga)も存在する。
2. PAUDのカリキュラム
① 国家カリキュラム(Kurikulum PAUD 2013)
幼児教育は公式には必須ではないが、インドネシア政府は幼稚園(TK)卒業を小学校入学の前提条件とすることを推奨。
発達領域に基づいた教育が重視され、以下の5つの要素に分かれる。
宗教と道徳教育(Pendidikan Agama dan Moral)
→ イスラム教やキリスト教などの宗教教育が組み込まれる。
運動・粗大運動発達(Perkembangan Fisik-Motorik)
→ 体を動かす遊びや、細かい作業(お絵かき、折り紙)を通じた指先の発達。
認知と知識(Perkembangan Kognitif)
→ 簡単な数字の概念や言葉の学習。
言語発達(Perkembangan Bahasa)
→ インドネシア語の基本的な会話、語彙の習得。
社会性・情緒の発達(Perkembangan Sosial-Emosional)
→ 友達との関わりや感情表現の練習。
② ローカルカリキュラムの導入
バリ島やジャワ島の一部では、伝統文化(バリ舞踊、影絵芝居)をPAUDの活動に取り入れる。
地域によっては、バイリンガル教育(インドネシア語+英語/中国語/アラビア語)を採用する幼稚園もある。
3. PAUDの運営形態
インドネシアのPAUDは、公立と私立の両方が存在し、次のような運営形態がある。
① 公立PAUD
政府の支援を受けて運営され、授業料が無料または安価。
教育の質にはばらつきがあり、施設や教材が十分でない場合もある。
② 私立PAUD
月額Rp. 100,000(約1,000円)〜数百万ルピア(数万円)の授業料がかかる。
インターナショナルスクールに付属する高級幼稚園(Jakarta Intercultural School, Singapore Intercultural School など)もあり、教育レベルが高い。
③ イスラム系PAUD(Raudhatul Athfal: RA)
イスラム教に基づいた教育が行われる幼稚園。
クルアーンの暗唱(Tahfiz Al-Qur'an)やイスラム道徳教育を取り入れる。
4. PAUDの課題と現状
① 就学率の格差
都市部ではPAUDへの就学率が高いが、地方や離島ではPAUDの施設が不足しているため、入学率が低い。
貧困家庭ではPAUDに通わせる余裕がないケースもある。
② 教師の質
PAUDの教師の多くは、正式な幼児教育の資格を持っていない。
政府は教師の育成・研修プログラムを強化しているが、まだ十分ではない。
③ 施設と教材の不足
特に地方部では、教室や遊具が不足している幼稚園が多い。
一部の学校では、政府の助成金を受けた教材が供給されるが、最新の教育技術(タブレットや電子黒板など)の導入は進んでいない。
5. 政府の支援策と今後の展望
インドネシア政府は、幼児教育を義務教育の一部として強化する方針を掲げ、以下の施策を進めている。
PAUDの普及促進
地方のPAUDへの財政支援を増やし、幼児教育の機会均等を図る。
教師の質向上
PAUDの教師に対する資格取得支援と研修プログラムの拡充。
デジタル教育の導入
「Merdeka Belajar(自由学習)」政策の一環として、幼児教育にタブレットやオンライン教材を活用する動きが加速。
インドネシアの初等教育(Pendidikan Dasar)の特徴
インドネシアの初等教育(Pendidikan Dasar)は、小学校(Sekolah Dasar: SD)と中学校(Sekolah Menengah Pertama: SMP)を含む義務教育の段階です。政府は教育の普及と質の向上を目指してさまざまな改革を行っています。以下に、インドネシアの初等教育の特徴を解説します。
1. 初等教育の概要
対象年齢: 6〜15歳
義務教育: 9年間(小学校6年間+中学校3年間)
学年: 1年生(Grade 1)〜9年生(Grade 9)
教育制度: 6-3-3-4制(小学校6年 + 中学校3年 + 高校3年 + 大学4年)
インドネシアでは、小学校と中学校が「Pendidikan Dasar(基礎教育)」とされており、憲法(Undang-Undang Dasar 1945)と国民教育法(Undang-Undang Sistem Pendidikan Nasional)により義務教育と定められている。
2. 初等教育の種類
① 公立学校(Sekolah Negeri)
政府が運営する学校で、授業料は基本的に無料。
施設や教育の質には地域差がある。
国のカリキュラム(Kurikulum Merdeka)に基づいた教育を実施。
② 私立学校(Sekolah Swasta)
個人や財団が運営し、授業料が発生する。
設備や教師の質が公立よりも良い場合が多い。
カリキュラムは国の基準をベースにしながら独自の教育を導入。
③ イスラム系学校(Madrasah)
イスラム教育省(Kementerian Agama)が管理する宗教系の学校。
小学校に相当する「Madrasah Ibtidaiyah(MI)」、中学校に相当する「Madrasah Tsanawiyah(MTs)」がある。
一般科目に加え、イスラム教の教義やアラビア語を学ぶ。
④ インターナショナルスクール(Sekolah Internasional)
主に外国人向けに設立され、IB(国際バカロレア)やケンブリッジカリキュラムを採用。
授業は英語または外国語で行われる。
インドネシアの子どもが通うには特別な許可が必要。
3. 小学校(Sekolah Dasar: SD)
① 教育目標
基礎的な読み書き、計算、社会性の習得。
生徒が自主的に学び、創造力を発揮できるよう促す。
② 教科構成
2023年の新カリキュラム「Kurikulum Merdeka」に基づく主要科目
国語(Bahasa Indonesia)
数学(Matematika)
理科(Ilmu Pengetahuan Alam: IPA)
社会(Ilmu Pengetahuan Sosial: IPS)
英語(Bahasa Inggris, 一部の学校のみ)
宗教(Pendidikan Agama)
公民教育(Pendidikan Pancasila dan Kewarganegaraan: PPKN)
体育(Pendidikan Jasmani dan Olahraga: PJOK)
芸術(Seni Budaya)
地元の言語と文化(Muatan Lokal)
③ 授業時間と学習環境
1日5〜6時間、週5〜6日制(地方によって異なる)
一部の学校では「フルデイスクール(Full Day School)」制度を導入し、朝7時〜午後3時まで学習。
クラスの人数は30〜40人ほどで、日本に比べて教師1人あたりの生徒数が多い。
4. 初等教育の課題
① 地域格差
都市部では教育設備や教師の質が高いが、地方や離島では教育機会が限られる。
一部の地域では、小学校の就学率が100%に達していない。
② 教師の質
多くの教師が十分な教育を受けていないため、質の向上が課題。
政府は教師資格の厳格化やトレーニング強化を進めている。
③ 施設の不足
地方の学校ではトイレ、教室、インターネット環境が不十分な場合がある。
近年、政府がデジタル教育の導入を推進している。
④ 教育の自由度
2021年から「Merdeka Belajar(自由学習)」という新しい教育方針が導入され、生徒がより実践的な学びを経験できるようになった。
しかし、カリキュラムの実施方法が学校ごとに異なり、一部の学校では従来の詰め込み教育が続いている。
5. 政府の支援策と今後の展望
① 無償教育の強化
2015年から「Kartu Indonesia Pintar(KIP)」プログラムを導入し、貧困家庭の子どもに学費補助を行っている。
② ICT教育の推進
インドネシア政府は、デジタル教材を活用した「スマートスクール(Sekolah Digital)」プロジェクトを進めている。
Google for Educationとの協力により、各地の学校にChromebookを導入。
③ STEAM教育の強化
プログラミング教育やロボティクスの導入が進んでおり、一部の学校では「アクティブラーニング」を導入。
インドネシアの中等教育(Pendidikan Menengah)の特徴
インドネシアの中等教育(Pendidikan Menengah)は、前期中等教育(SMP: Sekolah Menengah Pertama)と後期中等教育(SMA/SMK: Sekolah Menengah Atas / Sekolah Menengah Kejuruan)に分かれています。義務教育(Wajib Belajar)として前期中等教育(SMP)までは全ての子どもが通うことが求められていますが、後期中等教育(SMA/SMK)は義務ではありません。
1. 中等教育の概要
対象年齢: 12〜18歳
義務教育: 9年間(小学校6年 + 中学校3年)
教育制度: 6-3-3-4制(小学校6年 + 中学校3年 + 高校3年 + 大学4年)
学年:
SMP(中学校): 7年生(Grade 7)〜9年生(Grade 9)
SMA/SMK(高校): 10年生(Grade 10)〜12年生(Grade 12)
2. 中等教育の種類
① 前期中等教育(SMP: Sekolah Menengah Pertama)
小学校(SD)を卒業後、義務教育として通う。
学力の基礎を固め、後期中等教育への準備を行う。
② 後期中等教育(SMA/SMK)
後期中等教育(SMA/SMK)は義務ではないが、大学進学や職業教育を受けるために重要な段階となる。
(1) 一般高校(SMA: Sekolah Menengah Atas)
大学進学を目指す生徒向けの教育機関。
10年生(Grade 10)から理系・文系・社会系に分かれる。
主要科目には、数学、国語(Bahasa Indonesia)、英語、理科(生物・化学・物理)、社会(地理・歴史・経済)、宗教、公民教育などが含まれる。
(2) 職業高校(SMK: Sekolah Menengah Kejuruan)
職業訓練に重点を置いた学校で、卒業後すぐに就職できるようなスキルを習得。
工業、観光、農業、IT、ビジネス、医療アシスタントなどの専攻がある。
企業との連携が強く、インターンシップや実技試験が重視される。
3. 学習カリキュラム
中等教育では、2021年に導入された「Kurikulum Merdeka(自由学習カリキュラム)」を基盤として、より柔軟で実践的な教育が行われている。
① SMP(中学校)の主要教科
国語(Bahasa Indonesia)
数学(Matematika)
理科(Ilmu Pengetahuan Alam: IPA)
社会(Ilmu Pengetahuan Sosial: IPS)
英語(Bahasa Inggris)
宗教(Pendidikan Agama)
公民教育(Pendidikan Pancasila dan Kewarganegaraan: PPKN)
体育(Pendidikan Jasmani, Olahraga, dan Kesehatan: PJOK)
芸術(Seni Budaya)
職業教育(Prakarya)
② SMA(高校)の専攻コース
10年生(Grade 10)までは共通カリキュラムを学び、11年生(Grade 11)から以下の3つの専攻コースに分かれる。
コース
特徴
IPA(Ilmu Pengetahuan Alam)
理系(数学、物理、化学、生物が中心)
IPS(Ilmu Pengetahuan Sosial)
文系(歴史、経済、地理、社会科学が中心)
Bahasa(Bahasa dan Sastra)
言語・文学系(国語、英語、外国語、文学が中心)
③ SMK(職業高校)の専攻コース
SMKでは、特定の職業スキルを身につけるための専攻コースが用意されている。
分野
代表的な専攻
工業(Teknik)
電気、機械、建築、土木
IT(Teknologi Informasi)
プログラミング、ネットワークエンジニア
観光(Pariwisata)
ホテルマネジメント、ガイド、料理
ビジネス(Bisnis dan Manajemen)
会計、マーケティング、秘書
医療(Kesehatan)
看護助手、薬学アシスタント
4. 評価と試験制度
① 全国統一試験の廃止
かつては「Ujian Nasional(UN)」という全国統一試験が義務付けられていたが、2021年に廃止。
現在は、各学校で実施される「Ujian Sekolah Berstandar Nasional(USBN)」が評価の中心となっている。
② 卒業要件
学校ごとの試験(USBN)や成績評価に基づいて卒業が決定される。
SMKの場合は、職業試験(Uji Kompetensi Keahlian: UKK)を受ける必要がある。
5. 中等教育の課題
① 地域格差
都市部の学校と地方の学校の設備・教育水準の差が大きい。
特に離島や農村部では、教師の不足や教材の不備が問題。
② 職業教育(SMK)の課題
SMK卒業生の就職率が低い。
企業との連携が不十分で、実際の産業界のニーズと合っていない専攻もある。
③ デジタル教育の遅れ
「スマートスクール(Sekolah Digital)」の導入が進んでいるものの、学校ごとのICT環境に大きな差がある。
インターネット環境の未整備地域では、デジタル教育が実施できない。
6. 政府の教育改革と今後の展望
① Kurikulum Merdeka(自由学習カリキュラム)の拡大
より実践的で柔軟な学習を推奨し、各学校が独自のカリキュラムを組めるようになった。
特にSMAでは、「プロジェクトベースの学習」が導入され、実社会に即した学びが推進。
② デジタル教育の強化
政府は「Sekolah Digital(デジタルスクール)」の概念を推進し、インターネットやタブレットを活用した学習を強化。
Google for Educationとの提携により、Chromebookの導入が進む。
③ 職業教育の改善
企業とSMKの協力を強化し、より実践的な職業教育を提供。
インターンシップの義務化など、卒業後の即戦力化を目指す。
インドネシアの高等教育(Pendidikan Tinggi)の特徴
インドネシアの高等教育(Pendidikan Tinggi)は、大学(Universitas)、専門学校(Politeknik)、学院(Institut)、高等学校(Sekolah Tinggi) などの機関で提供されています。高等教育は義務ではなく、国家教育法(Undang-Undang Sistem Pendidikan Nasional) に基づいて運営されています。
1. 高等教育の概要
対象年齢: 18歳以上
教育制度: 6-3-3-4制(小学校6年 + 中学校3年 + 高校3年 + 大学4年以上)
学位構成:
Diploma(D1-D4): 1〜4年(職業教育向け)
学士(Sarjana/S1): 4年間
修士(Magister/S2): 2年間
博士(Doktor/S3): 3年以上
2. 高等教育の種類
① 総合大学(Universitas)
最も一般的な高等教育機関で、文系・理系・工学・医療など多様な学部を持つ。
代表的な大学:
国立: Universitas Indonesia(UI)、Institut Teknologi Bandung(ITB)、Universitas Gadjah Mada(UGM)
私立: Universitas Bina Nusantara(BINUS)、Universitas Pelita Harapan(UPH)
② 工科大学(Institut Teknologi)
理工系や技術分野に特化した大学。
代表的な工科大学:
Institut Teknologi Bandung(ITB)
Institut Teknologi Sepuluh Nopember(ITS)
③ 専門職大学(Politeknik)
実践的な職業教育を提供する高等教育機関。
D3(3年間)やD4(4年間)の職業学位を取得できる。
④ 学院(Institut)
特定の分野(教育・芸術・農業など)に特化。
例: Institut Seni Indonesia(ISI, インドネシア芸術学院)
⑤ 高等学校(Sekolah Tinggi)
一つの特定分野に特化した単科大学。
例: Sekolah Tinggi Ilmu Ekonomi(STIE, 経済高等学校)
3. 高等教育のカリキュラム
① 学士課程(Sarjana/S1)
4年間(144単位以上) の学習が必要。
必修科目(Mata Kuliah Wajib):
Pancasila(国家理念)
国語(Bahasa Indonesia)
英語(Bahasa Inggris)
宗教(Pendidikan Agama)
統計学、論文執筆
卒業要件:
論文(Skripsi)の提出が必要。
② 修士課程(Magister/S2)
2年間(36単位以上) の学習が必要。
専門分野の研究に特化し、修士論文(Tesis)が求められる。
③ 博士課程(Doktor/S3)
3年間以上(42単位以上) の研究。
博士論文(Disertasi)の提出が義務。
4. 大学入試制度
インドネシアの大学入試は、主に3つの方法で実施される。
① SNBP(Seleksi Nasional Berdasarkan Prestasi)
高校の成績を基準にした国立大学の推薦入試。
成績優秀者のみが対象。
② SNBT(Seleksi Nasional Berdasarkan Tes)
全国共通のコンピュータ試験(UTBK: Ujian Tulis Berbasis Komputer)。
数学・国語・英語・科学などの試験が含まれる。
③ 独自入試(Ujian Mandiri)
各大学が独自に実施する試験。
私立大学や一部の国立大学が実施。
5. 高等教育の費用と奨学金
① 学費
大学タイプ
年間学費(概算)
国立大学(PTN)
Rp. 5,000,000 ~ Rp. 20,000,000(約5万~20万円)
私立大学(PTS)
Rp. 10,000,000 ~ Rp. 50,000,000(約10万~50万円)
インターナショナル大学
Rp. 50,000,000 ~ Rp. 200,000,000(約50万~200万円)
② 奨学金
政府・民間・海外機関による奨学金が提供されている。
奨学金プログラム
提供元
対象
Kartu Indonesia Pintar (KIP-K)
インドネシア政府
貧困層学生
LPDP(Lembaga Pengelola Dana Pendidikan)
政府
国内・海外大学院
Erasmus Mundus, Fulbright, MEXT
EU, 米国, 日本
海外留学
6. 高等教育の課題
① 教育の質の格差
国立大学は比較的質が高いが、私立大学の水準にはばらつきがある。
地方の大学では、設備や教員の質が都市部に比べて低い。
② 産業との連携不足
大学のカリキュラムが産業界のニーズと合っていないため、卒業生の就職率に影響。
実務スキルが不足し、即戦力になりにくい。
③ 大学進学率の低さ
進学率は約40%と、日本(約60-70%)に比べて低い。
貧困層では、経済的な理由で進学を断念するケースが多い。
④ 研究・技術開発の遅れ
インドネシアの大学の研究水準は国際的に遅れており、論文の発表数も少ない。
政府はAI・テクノロジー分野の投資を増やしているが、まだ発展途上。
7. 政府の改革と今後の展望
① デジタル教育の推進
「Merdeka Belajar Kampus Merdeka」政策により、学生が企業や外国大学で学ぶ機会を増やす。
オンライン学習(MOOC)の導入が進む。
② 産学連携の強化
インターンシップの義務化や、企業と連携した共同研究の推進。
工業・デジタル分野の大学と企業の提携を強化。
③ 海外大学との協力
二重学位プログラム(Double Degree)の増加。
外国大学のインドネシア進出を許可し、教育の国際化を進める。
インドネシアの教育の質と課題:地域格差の詳細分析
インドネシアの教育制度は近年大きく改善されていますが、地域間の格差(kesenjangan pendidikan) は依然として深刻な問題です。ジャカルタやバリ島のような都市部と、パプア、スラウェシ、カリマンタンなどの地方・離島部では、教育の質、学校のインフラ、教師の能力、インターネット環境などに大きな差 があります。
1. 教育の質における地域格差の現状
① 都市部 vs 地方・離島の教育環境
項目
都市部(ジャカルタ・バリ・スラバヤ)
地方・離島(パプア・カリマンタン・スラウェシ)
学校の設備
最新のIT機器、プロジェクター、冷房完備の教室
机や椅子が不足、老朽化した校舎、電気・水道が不安定
教師の質
大学卒業者が多く、トレーニングの機会が多い
資格を持たない教師が多く、トレーニング不足
学習教材
デジタル教材や最新の教科書が揃っている
教科書が不足、古い教材を使用
インターネット環境
Wi-Fi完備、オンライン学習が可能
インターネットが未整備、オンライン学習不可
進学率(高校・大学)
高校進学率90%以上、大学進学率50%以上
高校進学率60%以下、大学進学率20%以下
都市部では、政府の支援や民間投資が行われているため、比較的質の高い教育が提供されています。一方、地方・離島部では、学校の数が少なく、教師の不足、学習環境の劣悪さが深刻な問題 となっています。
2. 教師の質の格差
① 教師不足と資格の問題
都市部の公立・私立学校では、大学卒業者が教師として採用されるケースが多い。
地方部では、資格を持たない教師や、教育学を学んでいない教師が多い。
一部の地域では、教師が足りないため、高校を卒業したばかりの若者が教師として働く こともある。
② 教師の給与と待遇
項目
都市部(ジャカルタ)
地方・離島(パプア・スンバワ)
教師の平均月収
Rp. 4,000,000 ~ Rp. 10,000,000(約4万~10万円)
Rp. 2,000,000 ~ Rp. 4,000,000(約2万~4万円)
研修機会
年間複数回、海外研修の機会もある
ほとんど研修なし、教育法のアップデートが遅い
地方の教師は、給料が低く、生活が苦しいため、他の仕事を掛け持ちするケースが多い です。その結果、教育に集中できない という問題が発生します。
3. 学校の設備とインフラの格差
① 学校の物理的環境
都市部: 近代的な校舎、クーラー付きの教室、デジタルホワイトボード完備
地方・離島: 老朽化した校舎、木造の教室、椅子や机が不足
② インターネットとデジタル教育
都市部の学校: 高速インターネット完備、Google ClassroomやZoomを活用
地方の学校: インターネットが未整備、パソコンの数が不足、オンライン授業が困難
政府は「スマートスクール(Sekolah Digital)」の導入を進めていますが、地方ではインフラ整備が進んでおらず、都市部とのギャップが拡大しています。
4. 学習成果の地域差
① 全国学力試験(ANBK: Asesmen Nasional Berbasis Komputer)の結果
ジャカルタ、バンドン、スラバヤなどの都市部の学校は、全国平均より高得点。
パプア、マルク、スンバワなどの地方・離島の学校は、全国平均より30%以上低得点。
② 進学率の格差
地域
小学校卒業率
高校進学率
大学進学率
ジャカルタ・バリ・スラバヤ
98%
90%
50%
カリマンタン・スラウェシ
85%
70%
30%
パプア・マルク・ヌサトゥンガラ
70%
50%
20%
地方では、小学校を卒業しても、高校に進学できない子どもが多い。これは、家庭の経済的な問題や、学校の距離が遠いことが原因 となっています。
5. 地域格差を解消するための政府の取り組み
① 「Merdeka Belajar(自由学習)」政策
各地域のニーズに応じた柔軟なカリキュラムを導入。
地方の学校でも、地元の文化や産業に合わせた教育を実施。
② Kartu Indonesia Pintar(KIP)奨学金制度
低所得世帯の子どもが高校・大学に進学できるように支援。
2023年時点で約200万人の学生がKIPの支援を受けている。
③ 教師派遣プログラム(Guru Garis Depan: GGD)
地方の学校に優秀な教師を派遣するプロジェクト。
しかし、多くの教師が都市部での生活を希望し、地方への派遣を避ける傾向がある。
④ デジタル教育の推進
Google for EducationやMicrosoftとの提携により、オンライン学習環境を強化。
離島の学校にもChromebookやインターネット設備を提供するプロジェクトが進行中。
6. 地域格差解消のための今後の課題
課題
解決策
地方の教師不足
給与の引き上げ、地方での教師育成プログラムの強化
デジタル教育の遅れ
インフラ投資、地方へのインターネット普及
学校設備の老朽化
政府・民間の協力で校舎の建設・修繕を進める
経済的理由での進学断念
KIP奨学金の対象拡大、通学支援の強化
インドネシアの教育の質と課題:教育予算と汚職の詳細分析
インドネシアでは、教育の質向上を目指して政府が大規模な予算を投じていますが、その運用には多くの課題があります。特に、教育予算の不適切な配分や汚職(korupsi dalam pendidikan) が、地方と都市部の教育格差を助長し、教育の質を低下させる要因となっています。
1. インドネシアの教育予算の概要
インドネシア政府は、国家予算(APBN: Anggaran Pendapatan dan Belanja Negara)の20%を教育に割り当てることを憲法で義務付けています(憲法第31条)。これは教育の重要性を示すものですが、実際の運用には課題が多くあります。
① 教育予算の規模
年度
教育予算(IDR)
教育予算(USD換算)
国家予算全体に占める割合
2020年
Rp. 508兆(約35.6兆円)
約350億USD
20.0%
2021年
Rp. 550兆(約38.5兆円)
約380億USD
20.2%
2022年
Rp. 620兆(約43.4兆円)
約420億USD
20.1%
2023年
Rp. 660兆(約46.2兆円)
約440億USD
20.2%
政府は毎年約20%の国家予算を教育に投じていますが、その効果が十分に発揮されていない という批判が多くあります。
② 教育予算の内訳
分野
割合
具体的な用途
教員の給与・手当
60%
公立学校教師の給与・昇給・ボーナス
学校のインフラ整備
20%
新校舎建設、修繕、ICT教育設備の導入
奨学金・補助金(KIP)
10%
低所得層の学生支援
研究・開発
5%
大学・研究機関のプロジェクト支援
その他(教材費など)
5%
教科書、教師の研修プログラム
最大の割合を占めるのは「教員の給与・手当(60%)」 ですが、この配分が適切に行われていないため、地方の教師の待遇が悪いままとなっています。また、インフラ整備の予算が汚職の対象となりやすい という問題もあります。
2. 教育予算の課題
① 地方への予算配分の偏り
都市部の学校 には充実した設備が整えられる一方、地方・離島の学校 には予算が十分に行き渡らない。
教育予算の約70%以上がジャワ島に集中 しており、パプア、スラウェシ、カリマンタンなどの地方には予算が少ない。
② 研究開発への投資の不足
教育予算のうち、研究開発(R&D)への投資はわずか5%。
その結果、インドネシアの大学の国際的な研究ランキングは低く、AIやテクノロジー分野での競争力が弱い。
③ 予算の使途不明金
毎年、数兆ルピア(数千億円相当)の教育予算が、不透明な契約やプロジェクトを通じて消失 している。
例えば、2021年には「教育部門の予算のうち約Rp. 10兆(約700億円) が適切に使用されなかった」との報告がある。
3. 教育分野の汚職問題
インドネシアでは、教育分野の汚職が教師採用、学校建設、奨学金制度などのさまざまな場面で発生 しています。
① 学校インフラ建設における汚職
学校建設プロジェクトの入札で賄賂が横行 しており、契約の透明性が低い。
質の低い建築資材を使用し、建設費用の一部が関係者に流れる ケースが頻発。
例: パプア州の学校建設プロジェクト(2019年)で、約Rp. 5億(約3500万円)が不正流用 されたと報道。
② 教師採用・昇進の汚職
一部の地方では、教師の採用・昇進に賄賂が必要。
教育省の監査報告によると、「教師の昇進試験の合格にはRp. 50万〜500万(約3,500円〜35,000円)の賄賂が求められる場合がある」と指摘。
③ 奨学金(KIP)制度の不正利用
低所得層向けの「Kartu Indonesia Pintar(KIP)」奨学金制度では、不正受給が多数発生。
例えば、2020年に発覚したジャワ中部の学校では、奨学金の対象外の学生に支給され、約Rp. 20億(約1.4億円)が消失 した。
4. 汚職問題への対策
インドネシア政府は、教育分野の汚職問題を解決するためにいくつかの施策を導入しています。
① e-Governmentの導入
学校の予算管理をデジタル化(e-Budgeting) し、透明性を向上。
学校建設プロジェクトのオンライン監視システムを導入 し、不正行為を防止。
② 反汚職委員会(KPK)による監視
Komisi Pemberantasan Korupsi(KPK: 汚職撲滅委員会) が教育予算の監査を強化。
2019年には、教育省の高官が汚職容疑で逮捕されるなど、取り締まりが強化。
③ 公務員(PNS)制度の改革
教師採用における汚職防止のための試験監視強化。
学校管理者の透明性向上プログラム を実施し、教師の不正昇進を防止。
④ 地方分権化の見直し
地方政府に任せていた教育予算の配分を中央政府が直接管理する方式を検討。
5. 今後の課題と展望
課題
具体的な解決策
教育予算の不適切な配分
地方・離島向けの予算比率を増やす
研究開発費の不足
R&D予算を現在の5%から10%以上に引き上げ
汚職の撲滅
反汚職委員会(KPK)の監査強化、AIによる監視システム導入
デジタル化の推進
予算管理をブロックチェーン技術で透明化
インドネシアの教育の質と課題:大学の競争力と大学進学率
インドネシアの高等教育(Pendidikan Tinggi)は、近年政府の支援を受けて発展していますが、大学の国際競争力の低さ や 大学進学率の低さ が依然として課題となっています。
1. インドネシアの大学の競争力
① インドネシアの大学の国際ランキング
インドネシアには3,000校以上の大学が存在 しますが、国際的な大学ランキングでの順位は低く、世界的な競争力はまだ十分ではありません。
大学名
QS世界大学ランキング2024
Times Higher Education (THE) 2024
Universitas Indonesia (UI)
237位
801-1000位
Institut Teknologi Bandung (ITB)
281位
1001-1200位
Universitas Gadjah Mada (UGM)
263位
1001-1200位
Institut Teknologi Sepuluh Nopember (ITS)
701-750位
1201-1500位
Universitas Airlangga (UNAIR)
751-800位
1201-1500位
主要な国立大学(UI, ITB, UGM)はQSランキングで250位前後ですが、世界トップ100には入っていません。
② 国際競争力が低い理由
研究・論文の質が低い
インドネシアの大学から発表される国際論文(Scopus収録数)はマレーシアやシンガポールよりも少ない。
研究開発(R&D)予算の不足。
産学連携の弱さ
企業との共同研究が少なく、実社会に即した研究が少ない。
日本や韓国のような「大学発ベンチャー」がほとんどない。
英語教育の不足
インドネシアの大学では、多くの授業がインドネシア語(Bahasa Indonesia) で行われる。
国際学生が少なく、外国人教授も不足している。
研究予算の不足
政府の教育予算のうち、研究開発(R&D)への投資はわずか5% で、国際競争力のある大学を育てるには不十分。
2. インドネシアの大学進学率
① 大学進学率の現状
年
大学進学率(18~24歳人口に対する割合)
2010年
約18%
2015年
約25%
2020年
約35%
2023年
約40%
インドネシアの大学進学率は向上していますが、日本(65%)、韓国(70%)、シンガポール(80%) に比べると低水準です。
② 進学率が低い理由
学費の高さ
公立大学の学費は安いが、私立大学は高額(年間Rp. 10,000,000~50,000,000)。
低所得層の学生が進学できないケースが多い。
奨学金制度の不十分さ
KIP(Kartu Indonesia Pintar)奨学金 はあるが、対象が限られている。
大学院(S2, S3)向けの奨学金が少ない。
地方と都市の格差
ジャカルタやバンドンなどの都市部では大学進学率が50%以上 だが、地方や離島部では20%以下。
高校卒業後に大学へ進学するのではなく、家業を手伝う人が多い。
職業教育(SMK)の影響
職業高校(SMK)の卒業生は、大学進学よりも就職を優先する傾向 が強い。
3. 大学改革の取り組み
政府は、インドネシアの大学の競争力向上と進学率アップ のために、いくつかの政策を推進しています。
① Merdeka Belajar – Kampus Merdeka(自由学習・自由大学)政策
大学のカリキュラムを柔軟にし、インターンシップや企業研修を学位取得の単位として認める。
企業と連携し、実践的なスキルを身につける機会を増やす。
② 研究・開発(R&D)の強化
研究助成金(LPDP)を拡大し、国際的な論文発表を奨励。
AI、テクノロジー、環境分野の研究に重点投資。
③ 海外大学との連携強化
インドネシア国内の大学に海外のトップ大学と共同プログラムを導入(例:UIがオーストラリアの大学と提携)。
ダブルディグリー(Double Degree)制度の導入(海外の大学と共同で学位を取得)。
④ 奨学金制度の拡大
政府の奨学金(LPDP)を拡大し、低所得層の大学進学を支援。
海外留学を支援する奨学金制度を強化。
4. インドネシアの大学の今後の課題
課題
具体的な問題点
解決策
大学の競争力
国際ランキングが低い、研究の質が低い
研究予算の増額、英語教育の強化、産学連携の推進
進学率の低さ
地方の進学率が低い、学費が高い
無償教育の拡大、KIP奨学金の拡充
産学連携の弱さ
企業との共同研究が少ない
インターンシップの義務化、企業との提携強化
外国人学生の少なさ
インドネシア語が中心で国際化が進んでいない
英語コースの拡充、外国人向け奨学金の強化
インドネシアの教育の質と課題:労働市場とのミスマッチ
インドネシアでは、高等教育機関の拡充や政府の教育改革が進められていますが、教育と労働市場のミスマッチ(kesenjangan antara pendidikan dan pasar kerja) が深刻な問題となっています。大学や職業学校を卒業しても、労働市場が求めるスキルと一致しないために就職できない というケースが多く見られます。本記事では、インドネシアの教育と労働市場のミスマッチの現状、原因、課題、今後の解決策 について詳しく解説します。
1. 労働市場とのミスマッチの現状
① 高学歴者の失業率が高い
インドネシアでは、大学(S1)卒業者や職業高校(SMK)卒業者の失業率が高い という逆転現象が発生しています。
教育レベル
失業率(2023年)
小学校(SD)卒業以下
2.5%
中学校(SMP)卒業
4.6%
一般高校(SMA)卒業
7.1%
職業高校(SMK)卒業
10.4%
大学(S1)卒業
6.2%
特にSMK卒業生の失業率(10.4%)は、すべての教育レベルの中で最も高い という深刻な状況になっています。これは、SMKで学んだスキルが実際の労働市場のニーズと一致していない ことを示しています。
② 求人と応募者のスキルの不一致
インドネシアの雇用市場では、企業が求める人材と、教育機関が輩出する人材の間にギャップがある ことが問題視されています。
業種
企業の求人数
求職者数
充足率
IT・デジタル技術
500,000
120,000
24%
製造業(エンジニア)
300,000
150,000
50%
観光・サービス業
200,000
300,000
150%
教育・公共サービス
100,000
250,000
250%
IT・デジタル技術分野では深刻な人材不足(充足率24%)
観光・サービス業は求職者が多すぎて競争が激化(充足率150%)
このように、需要の高い業種では人材が不足し、競争の激しい業種では失業率が上昇する という構造的な問題があります。
2. 教育と労働市場のミスマッチの原因
① 産業界と教育機関の連携不足
企業が求めるスキルが教育カリキュラムに反映されていない ため、卒業生が即戦力にならない。
大学や職業高校では理論中心の教育 で、実践的な経験が不足している。
② 職業教育(SMK)のカリキュラムが古い
職業高校(SMK)では、10年前の技術や手法を教えている ケースが多い。
最新のデジタル技術(AI、データ分析、クラウドコンピューティング)に関する教育が不足。
③ インターンシップ・実習の不足
インターンシップ(Magang)が義務化されている大学は少なく、実際の職場で経験を積む機会が少ない。
日本やシンガポールのように、大学と企業が共同でプログラムを作る仕組みが整っていない。
④ 大学進学の偏り
インドネシアでは、多くの学生が文系(経済・ビジネス・社会学)を専攻し、理系や工学系を選ぶ学生が少ない。
その結果、企業が求めるエンジニアやプログラマーが不足し、文系の失業者が増えている。
3. 企業の求めるスキルと大学教育のギャップ
インドネシアの企業が求めるスキルと、大学が提供するスキルの間には、大きなギャップがあります。
スキルカテゴリ
企業の需要(%)
大学の提供(%)
ギャップ
デジタルスキル(AI・プログラミング)
70%
30%
-40%
ソフトスキル(コミュニケーション・リーダーシップ)
65%
40%
-25%
技術・エンジニアリングスキル
60%
35%
-25%
外国語(英語・中国語)
55%
25%
-30%
企業が特に求めているのは デジタルスキル、ソフトスキル、技術スキル ですが、大学のカリキュラムでは十分にカバーされていません。
4. ミスマッチを解決するための政府と企業の取り組み
① 「Merdeka Belajar – Kampus Merdeka(自由学習・自由大学)」政策
インターンシップや企業研修を学位取得の単位として認める。
大学と企業が共同でカリキュラムを作る ことを奨励。
② 職業教育(SMK)の改革
企業と連携し、カリキュラムを最新の技術にアップデート。
職業教育の実習時間を増やし、卒業前に実務経験を積む機会を拡大。
③ STEM(科学・技術・工学・数学)教育の推進
IT・エンジニアリング系の学部を増設し、文系偏重を是正。
女性のSTEM分野進出を奨励し、多様な人材の確保を目指す。
④ 産学連携の強化
企業が大学と共同で人材育成プログラムを開発する仕組みを導入。
日本の「デュアルシステム(大学と企業の二重教育)」を参考にした制度を検討。
⑤ 外国語教育の強化
英語・中国語の授業を義務化し、国際市場で通用する人材を育成。
多国籍企業とのパートナーシップを拡大し、グローバル人材の育成を推進。
5. 今後の課題と展望
課題
解決策
産業界と教育機関の連携不足
企業が教育カリキュラム作成に関与する仕組みを導入
デジタルスキルの不足
AI・データ分析・プログラミングの教育を強化
インターンシップの不足
すべての大学・職業学校でインターンシップを義務化
理系人材の不足
STEM教育を強化し、奨学金を拡充
公立学校・私立学校・ナショナルプラス・インターナショナルスクールの違い
インドネシアの教育システムは、公立学校(Sekolah Negeri)、私立学校(Sekolah Swasta)、ナショナルプラススクール(Sekolah Nasional Plus)、インターナショナルスクール(Sekolah Internasional)の4つの主要なカテゴリに分かれています。それぞれの学校はカリキュラム、授業料、言語、学習環境が異なり、家庭の経済状況や進学先の希望によって選択されます。
1. インドネシアの学校の種類と特徴
学校の種類
管理・運営
カリキュラム
言語
授業料
特徴
公立学校(Sekolah Negeri)
政府(教育文化省)
インドネシア国家カリキュラム(Kurikulum Merdeka)
インドネシア語
無料または安価
ほとんどの子どもが通う。学校の質に地域差がある
私立学校(Sekolah Swasta)
民間団体・宗教団体
国家カリキュラム+独自カリキュラム
インドネシア語(英語を強化する学校も)
Rp. 500,000~5,000,000/月
設備が整っているが、質のばらつきが大きい
ナショナルプラス(Sekolah Nasional Plus)
民間団体
国家カリキュラム+国際カリキュラム
英語+インドネシア語
Rp. 5,000,000~30,000,000/月
バイリンガル教育を行い、国際的な視点を重視
インターナショナルスクール(Sekolah Internasional)
国際財団・外国政府
IB(国際バカロレア)、ケンブリッジ、アメリカ式
英語(またはその他の外国語)
Rp. 100,000,000~500,000,000/年
富裕層や外国人向け、インドネシア人の入学には制限あり
2. 公立学校(Sekolah Negeri)
① 概要
政府(教育文化省Kementerian Pendidikan, Kebudayaan, Riset, dan Teknologi)が運営。
小学校(SD)、中学校(SMP)、高校(SMA)の3段階に分かれる。
授業料は基本的に無料(教材費や制服代は自己負担)。
インドネシア国家カリキュラム(Kurikulum Merdeka) に基づいた授業を実施。
② 特徴
✅ メリット
費用が安く、ほぼ全てのインドネシア人が通える。
政府の支援があり、教育の質が一定レベル保たれている。
❌ デメリット
都市部と地方の格差が大きい(ジャカルタの公立校は比較的質が高いが、地方では教師不足や教材不足が深刻)。
英語教育が弱い ため、将来的に国際的なキャリアを考えている家庭には不向き。
3. 私立学校(Sekolah Swasta)
① 概要
民間団体や宗教団体(イスラム系・キリスト教系など)が運営。
授業料は公立校より高く、月額Rp. 500,000(約5,000円)~Rp. 5,000,000(約5万円)。
国家カリキュラム+独自カリキュラム を採用。
② 特徴
✅ メリット
公立学校に比べて授業の質が高い。
英語教育が強化されている学校も多い(私立学校の一部は英語バイリンガル)。
宗教教育が充実している(例: イスラム系のMadrasah)。
❌ デメリット
授業料が高いため、裕福な家庭向け。
学校によって質が大きく異なる(有名な私立校は教育水準が高いが、そうでない学校も多い)。
4. ナショナルプラススクール(Sekolah Nasional Plus)
① 概要
インドネシア国家カリキュラム+国際カリキュラム(ケンブリッジ、IBなど) を組み合わせたハイブリッド教育。
授業料は月額Rp. 5,000,000(約5万円)~Rp. 30,000,000(約30万円)。
② 特徴
✅ メリット
授業の半分以上が英語で行われる(バイリンガル教育)。
国際的な視点を持つカリキュラム(外国人教師が多い)。
卒業後にインターナショナルスクールや海外大学への進学がしやすい。
❌ デメリット
学費が高い ため、裕福な家庭しか通えない。
公立・私立学校と比べて少数派 のため、通学できる地域が限られる。
③ 代表的なナショナルプラススクール
Sekolah Pelita Harapan(SPH)
Global Jaya School
BINUS School Simprug
5. インターナショナルスクール(Sekolah Internasional)
① 概要
外国政府・国際財団が運営する学校 で、主に外国人向け。
ケンブリッジ(Cambridge)、IB(国際バカロレア)、アメリカ式、シンガポール式 などの国際カリキュラムを採用。
授業料は年間Rp. 100,000,000(約100万円)~Rp. 500,000,000(約500万円)。
② 特徴
✅ メリット
授業は100%英語(またはフランス語、中国語など)。
海外の大学進学に有利(IBやA-Level資格が取得可能)。
国際的な教育環境(多国籍の生徒が在籍)。
❌ デメリット
インドネシア人の入学制限(政府の規制により、インドネシア国籍の生徒は特別許可が必要)。
学費が非常に高い(上流階級・駐在員向け)。
インドネシアの歴史・文化教育が少ない。
③ 代表的なインターナショナルスクール
Jakarta Intercultural School(JIS)(アメリカ式)
British School Jakarta(BSJ)(イギリス式)
Singapore International School(SIS)(シンガポール式)
インドネシアの Pesantren(イスラム寄宿学校)とは?
Pesantren(ペサントレン) とは、インドネシアにおけるイスラム寄宿学校(イスラムボーディングスクール) のことを指します。インドネシアは世界最大のイスラム教徒人口を誇る国であり、多くのイスラム教育機関が多数存在しかなり多くの生徒がいます。その中でも、Pesantren は長い歴史を持ち、宗教教育だけでなく、一般教育や職業教育の役割も果たしています。
1. Pesantren の概要
① Pesantren とは?
Pesantren は イスラム教の教義を中心に教育を行う寄宿学校 で、主に ウラマ(イスラム学者) によって運営される。
インドネシアの 宗教省(Kementerian Agama, Kemenag) の管轄にあり、国家教育システムの一部として認められている。
全国に27,000以上の Pesantren があり、約400万人の学生(Santri)が学んでいる(2023年時点)。
② Pesantren の特徴
✅ イスラム教の学習が中心
クルアーン(コーラン)の暗誦
ハディース(預言者ムハンマドの言行録)
イスラム法(フィクフ: Fiqh)
アラビア語
スーフィズム(イスラム神秘主義)
✅ 寄宿制(住み込み学習)
生徒(Santri)は学校内の寮で生活し、規律ある環境で学ぶ。
学校の運営は「Kyai(イスラム教師)」が主導。
✅ 一般教育や職業教育も提供
伝統的な Pesantren では宗教教育が中心だが、現代では 数学、科学、英語、職業訓練 なども取り入れる学校が増えている。
2. Pesantren の種類
Pesantren には、伝統的なもの(Salafiyah) と 近代的なもの(Khalafiyah) の2つの主要なタイプがあります。
種類
特徴
カリキュラム
学生の進路
Pesantren Salafiyah(伝統的ペサントレン)
イスラム学問のみに特化
クルアーン、ハディース、フィクフ、アラビア語
イスラム学者、宗教指導者
Pesantren Khalafiyah(近代的ペサントレン)
イスラム教+一般教育
イスラム学+数学、科学、英語、社会
大学進学、公務員、ビジネス
Pesantren Terpadu(統合ペサントレン)
一般教育+職業教育
イスラム学+職業訓練(IT、農業、ビジネス)
技術職、起業家
Pesantren Tahfidz(クルアーン暗誦専門)
クルアーンの暗誦が中心
クルアーンの完全暗記(Tahfidz)
イスラム教師、宗教リーダー
3. Pesantren のカリキュラム
① イスラム教教育
クルアーン(アル・コーラン) の暗誦と解釈(Tafsir)
ハディース(Hadith) の学習
イスラム法(Fiqh)
スーフィズム(Tasawuf, 神秘主義)
アラビア語(Nahwu, Sharaf)
② 一般教育(Pesantren Khalafiyah)
数学、理科、社会、英語
国語(Bahasa Indonesia)
歴史(特にイスラム史)
③ 職業教育(Pesantren Terpadu)
IT、プログラミング
農業・畜産
ビジネス・マーケティング
近年では、「Pesantren 4.0」 というデジタル教育を取り入れたモデルも登場しており、オンライン学習やeラーニングの導入が進んでいる。
4. Pesantren の社会的役割
① 宗教教育の中心
インドネシアのムスリム社会において、Pesantren は イスラム学者(Ulama)を育成する重要な機関。
モスクや地域コミュニティでのリーダー(Imam)を養成。
② 貧困層への教育機会の提供
公立学校に通えない子どもたちに無料または低コストの教育を提供。
特に 孤児や貧困層の子どもを受け入れる Pesantren も多い。
③ 道徳・倫理教育
Pesantren では、「アダブ(Adab)」(礼儀や倫理) を重視する教育が行われる。
「Santri(学生)」は誠実さや規律を学ぶ ことが求められる。
④ テロリズム防止の役割
一部の Pesantren では 過激思想を持つイスラム団体と関係がある とされていたが、政府の監視強化により、近年では 穏健派(Moderate Islam)の教育を推進 している。
5. Pesantren の課題
① 施設や教育の質の格差
一部の Pesantren は 財政難のため、施設が老朽化 している。
都市部の Pesantren は設備が充実しているが、地方の Pesantren は教材や教師が不足 している。
② 近代教育とのバランス
伝統的 Pesantren(Salafiyah)は 現代的な教育が不足 しており、卒業後の就職が難しい。
一般教育や職業教育を取り入れることで、現代社会でも役立つスキルを習得 する Pesantren が増加。
③ 一部の Pesantren における過激思想
ほとんどの Pesantren は穏健派だが、一部の Pesantren は 過激派の影響を受けた宗教教育 を行っている。
政府は Pesantren の登録制を導入し、監視を強化 している。
6. 現代の Pesantren の変化
① デジタル教育の導入
オンライン学習やeラーニングを導入する Pesantren も増加。
Google for Education や Zoom を活用したイスラム教育 が行われる。
② 女性の教育機会の拡大
以前は男性中心だった Pesantren も、女性専用の Pesantren(Pesantren Putri) を増やし、女性の宗教リーダーを育成。
③ グローバル化対応
英語教育の導入や、海外のイスラム大学(エジプトのアル=アズハル大学など)との提携 を進める Pesantren も登場。
インドネシアの塾(Bimbingan Belajar)や習い事の文化
インドネシアでは、塾(Bimbingan Belajar, Bimbel)や習い事(Les) の文化が根付いており、都市部を中心に多くの子どもが学校外の教育を受けています。特に、受験対策、英語教育、数学、音楽、スポーツ などの分野で塾が人気です。また、インターナショナルスクールやナショナルプラススクールの生徒向けに、外国語や弊社の提供するようなSTEAM教育(Science, Technology, Engineering, Arts, Mathematics) の習い事も増えています。
1. インドネシアの塾(Bimbingan Belajar: Bimbel)
① 塾の種類
インドネシアの塾(Bimbel)は、主に以下の種類に分類されます。
塾の種類
目的・特徴
人気の塾
受験対策塾(Bimbel Ujian)
SMP(中学校)・SMA(高校)・大学入試 の対策。数学・理科・国語が中心
Primagama, Ganesha Operation, Neutron
英語塾(Kursus Bahasa Inggris)
子ども向けからビジネス英語まで。IELTS/TOEFL対策も人気
EF English First, Wall Street English, LIA
算数・数学塾(Les Matematika)
クムオン式(Kumon)やシンガポール数学(Singapore Math)が流行
Kumon, Sempoa, Mathnasium
科学・STEAM教育(Kursus Sains/Robotik)
プログラミング、ロボット、AI教育が人気
Timedoor Academy, Robotic Explorer, Code Academy
音楽・芸術塾(Les Musik/Seni)
ピアノ、ギター、バレエなど
Yamaha Music School, Purwacaraka Music Studio
スポーツ塾(Les Olahraga)
サッカー、バドミントン、テコンドーなど
Soccer School Indonesia, PB Djarum(バドミントン)
2. 受験対策塾(Bimbel Ujian)
① 目的
SMP(中学校)・SMA(高校)・大学入試の合格を目指す
全国統一試験(UTBK-SNBT)や私立大学の入試対策
公務員試験や警察・軍隊の試験対策
② 人気の塾
Primagama(プリマガマ): インドネシア最大級の受験塾。全国展開。
Ganesha Operation(GO): 数学・理科に強い。
Neutron: 科学・工学分野の指導が得意。
③ 授業スタイル
個別指導(Les Privat): マンツーマン授業
グループ授業(Les Kelompok): 5~10人の小規模クラス
オンライン塾: COVID-19以降、ZoomやGoogle Meetを使ったオンライン授業が増加。
3. 英語塾(Kursus Bahasa Inggris)
① 需要の高まり
インターナショナルスクールや海外大学進学を目指す生徒が多い
IELTS/TOEFLなどの英語試験対策
仕事で英語を必要とする社会人向けコースも増加
② 人気の英語塾
EF English First(EF): 幼児~社会人向けの総合英語スクール
Wall Street English(WSE): ビジネス英語に特化
LIA(Lembaga Indonesia-Amerika): 歴史の長い英語学校
British Council: IELTS試験対策に特化
4. 算数・数学塾(Les Matematika)
① 日本式・シンガポール式数学が人気
日本式のKumon(クムオン) は、インドネシアの多くの都市で展開。
Singapore Math(シンガポール数学)は論理的思考を鍛えることで人気。
② 人気の数学塾
Kumon: 算数と国語の基礎力を伸ばす
Sempoa: そろばん教育に特化
Mathnasium: シンガポール数学とアメリカ式数学を組み合わせた学習法
5. 科学・STEAM教育(Kursus Sains/Robotik)
① 近年のトレンド
プログラミング教育の需要が急増
ロボット、AI、ゲーム開発の授業が人気
政府の「Merdeka Belajar(自由学習)」政策により、IT教育が推進
② 人気のSTEAM塾
Timedoor Academy: Scratch、Python、Roblox、AI学習などを提供
Robotic Explorer: レゴロボットやドローン教育
Code Academy: コーディング&アプリ開発
弊社の提供するSTEMスクールTimedoor Academyもインドネシアに40拠点を構える人気のスクールとなっております。
6. 音楽・芸術塾(Les Musik/Seni)
① 人気の習い事
ピアノ、ギター、バイオリン、バレエ、ダンス
音楽コンペティション(Yamaha Music Festivalなど)が活発
② 人気の音楽スクール
Yamaha Music School: 日本発の音楽教育。ピアノ・ギターが中心。
Purwacaraka Music Studio: インドネシア最大の音楽学校。
7. スポーツ塾(Les Olahraga)
① 人気スポーツ
サッカー(PSM Makassar、Persijaなどのクラブアカデミー)
バドミントン(PB Djarumなどの名門クラブ)
テコンドー、柔道、空手(国際大会を目指すジュニア育成)
8. 塾・習い事の費用
インドネシアの塾・習い事の費用は、種類や都市によって異なります。
塾・習い事の種類
料金(月額)
公立学校の補習塾(Bimbel)
Rp. 500,000 ~ 2,000,000
私立受験塾(Bimbel Ujian)
Rp. 1,500,000 ~ 5,000,000
英語塾(EF, LIA)
Rp. 1,000,000 ~ 4,000,000
算数・数学塾(Kumon, Sempoa)
Rp. 700,000 ~ 2,500,000
プログラミング・STEAM
Rp. 2,000,000 ~ 6,000,000
音楽・芸術(ピアノ、バレエ)
Rp. 800,000 ~ 3,500,000
スポーツ(サッカー、バドミントン)
Rp. 1,000,000 ~ 4,500,000
9. インドネシアの塾・習い事文化の特徴
✅ メリット
受験競争が激しいため、塾の需要が高い
英語教育が重要視され、バイリンガル教育が普及
STEAM教育(プログラミング・ロボット)が急成長
スポーツや音楽など、習い事の選択肢が豊富
❌ デメリット
都市部(ジャカルタ・スラバヤ)と地方で教育機会に格差
習い事の費用が高く、低所得層には負担
公立学校の教育レベルが低いため、塾が必須になる傾向
インドネシアと日本の教育制度の比較
インドネシアと日本の教育制度は、多くの共通点があるものの、義務教育の期間、カリキュラムの内容、進学率、試験制度、学校の種類 などで大きな違いがあります。本記事では、インドネシアと日本の教育制度を詳しく比較 します。
1. 教育制度の基本構造
インドネシアと日本の教育システムの比較
項目
インドネシア
日本
義務教育
9年間(小学校6年+中学校3年)
9年間(小学校6年+中学校3年)
学年制度
6-3-3-4制(小学校6年+中学校3年+高校3年+大学4年)
6-3-3-4制(小学校6年+中学校3年+高校3年+大学4年)
学期制
2学期制(7月~12月、1月~6月)
3学期制または2学期制(4月~3月)
授業時間
7:00~13:00(公立学校)または7:00~15:00(私立・ナショナルプラス)
8:30~15:30
主要教科
インドネシア語、数学、理科、社会、宗教、体育、英語
国語、数学、理科、社会、英語、体育、音楽、美術、技術
英語教育
小学校では選択制、中学校から必修
小学校5年から必修、中学・高校で強化
試験制度
全国統一試験(UN)が廃止され、学校評価(USBN)へ移行
高校入試・大学入試(共通テスト+個別試験)
2. 義務教育(小学校・中学校)の比較
① 義務教育の期間
インドネシア:9年間(SD6年+SMP3年)
日本:9年間(小学校6年+中学校3年)
インドネシアと日本の義務教育期間は同じですが、インドネシアでは一部の地域で就学率が低く、特に貧困層では小学校を卒業できないケース があります。
② 小学校(Sekolah Dasar: SD)
項目
インドネシア
日本
対象年齢
6~12歳(6年間)
6~12歳(6年間)
授業時間
7:00~12:00(公立)、7:00~15:00(私立)
8:30~15:00
教科
インドネシア語、数学、理科、社会、宗教、英語(選択)
国語、算数、理科、社会、英語、音楽、美術、体育
英語教育
義務ではないが、一部の私立・ナショナルプラスで導入
5年生から必修
宗教教育
必修(イスラム、キリスト教、ヒンドゥー教、仏教など)
なし(道徳教育あり)
インドネシアでは、宗教教育が必修 であり、日本の「道徳」のような授業よりも深い宗教知識が求められます。
③ 中学校(Sekolah Menengah Pertama: SMP)
項目
インドネシア
日本
対象年齢
12~15歳(3年間)
12~15歳(3年間)
授業時間
7:00~13:00
8:30~15:30
試験制度
全国統一試験(UN)は廃止、学校評価へ移行
全国共通の高校入試(都道府県ごと)
教科
インドネシア語、数学、理科、社会、英語、宗教、体育
国語、数学、理科、社会、英語、音楽、美術、技術、体育
3. 高等教育(高校・大学)の比較
① 高校(Sekolah Menengah Atas: SMA)
項目
インドネシア
日本
対象年齢
15~18歳(3年間)
15~18歳(3年間)
進学率
約75%(地方では低い)
約98%
コース選択
11年生(Grade 11)から文系(IPS)・理系(IPA)に分かれる
文系・理系の選択はないが、学校によって進学コースあり
試験制度
全国統一試験(UN)廃止、個別評価制度
全国共通テスト+各大学の個別試験
インドネシアの高校では、早い段階で文系・理系を選択する のが特徴です。
② 大学(Universitas)
項目
インドネシア
日本
学制
4年(S1)、修士2年(S2)、博士3年以上(S3)
4年(学士)、修士2年、博士3年以上
進学率
約40%(都市部では50%以上、地方では20%以下)
約60%
入試制度
全国共通試験(SNBT)+大学独自試験(Ujian Mandiri)
大学入学共通テスト+個別試験
4. 学校の種類の比較
学校の種類
インドネシア
日本
公立学校(Sekolah Negeri)
無料または低価格、都市部と地方で格差あり
市町村が運営、教育の質は比較的均一
私立学校(Sekolah Swasta)
授業料が高いが教育の質が高い
一部のエリート校があるが、公立との大きな差は少ない
ナショナルプラス(Sekolah Nasional Plus)
バイリンガル教育(英語+インドネシア語)
日本には相当するものがない
インターナショナルスクール(Sekolah Internasional)
富裕層・外国人向け、IBやケンブリッジカリキュラム
一部にインターナショナルスクールあり
5. 教育の課題の比較
課題
インドネシア
日本
地域格差
都市部と地方で教育の質が大きく異なる
公立校の教育レベルが比較的均一
英語教育
公立学校では弱いが、ナショナルプラス・インターナショナルでは強い
近年強化されているが、スピーキングは弱い
大学の競争力
世界ランキングで低位
東京大学・京都大学などが上位
インドネシアの教育省の構成と地方自治体との関係
インドネシアの教育行政は、中央政府(教育省)と地方自治体(州・県・市の教育局) が連携して運営されています。特に、教育の権限は地方分権化(Decentralization) されており、地方政府が初等・中等教育の運営に大きな役割を果たします。
1. インドネシアの教育省(Kemendikbudristek)の構成
インドネシアの教育行政は、教育・文化・研究・技術省(Kemendikbudristek) と宗教省(Kementerian Agama: Kemenag) の2つの省庁が関与しています。
① 教育・文化・研究・技術省(Kemendikbudristek)
正式名称:
📌 Kementerian Pendidikan, Kebudayaan, Riset, dan Teknologi(教育・文化・研究・技術省)
主な役割:
幼稚園(PAUD)、小学校(SD)、中学校(SMP)、高校(SMA/SMK)のカリキュラム策定
国家教育政策の策定
教員の資格制度・研修制度の管理
全国共通試験(SNBT, UTBK)の運営
高等教育(大学・ポリテクニック)の管理
主要部門(ディレクター):
部門
役割
基礎教育・中等教育総局(Ditjen PAUD, Dikdas, dan Dikmen)
幼稚園~高校の教育政策
職業教育総局(Ditjen Pendidikan Vokasi)
職業高校(SMK)と職業訓練の管理
高等教育・研究・技術総局(Ditjen Dikti Ristek)
大学と研究機関の監督
文化総局(Ditjen Kebudayaan)
文化教育・伝統文化の保護
教員・教育スタッフ開発局(Badan Standar, Kurikulum, dan Asesmen Pendidikan)
教員の資格・研修・評価
2024年10月の新内閣を発足したプラボウォ大統領の方針により、インドネシアの教育関連の省庁は再編され、以下の3つに分割されました。
初等・中等教育省:基礎教育から中等教育までを担当し、全国的な教育基準の策定やカリキュラムの開発、教師の育成などを行います。
高等教育・科学技術省:大学や専門学校などの高等教育機関の管理運営に加え、科学技術の振興や研究開発の推進を担当します。
職業教育・訓練省:職業教育や技術訓練を専門に扱い、労働市場のニーズに即した人材育成やスキルアップのためのプログラムを提供します。
これらの分割は、各教育段階や分野に特化した政策の策定と実施を可能にし、教育の質と効果を高めることを目的としています。
② 宗教省(Kementerian Agama: Kemenag)
📌 Kementerian Agama(宗教省) も宗教教育の管理を担当。
主な役割:
イスラム系学校(Madrasah) の管理(MI, MTs, MA)
Pesantren(イスラム寄宿学校) の監督
イスラム教師(Guru Agama Islam) の資格認定
ハッジ・ウムラ旅行(メッカ巡礼) の管理
学校の種類
管轄機関
一般教育(SD, SMP, SMA, SMK)
教育省(Kemendikbudristek)
イスラム学校(Madrasah, MI, MTs, MA)
宗教省(Kemenag)
Pesantren(イスラム寄宿学校)
宗教省(Kemenag)
2. 地方自治体との関係
インドネシアでは、1999年の地方分権法(Otonomi Daerah)により、教育の管理が 地方自治体(州・県・市) に大きく移管されました。
① 地方教育局の構成
教育行政は 州・県・市レベルで運営され、地方教育局(Dinas Pendidikan) が設置されています。
レベル
主管機関
主な役割
中央政府(国)
教育省(Kemendikbudristek)
国家教育政策の策定、カリキュラムの作成、大学の管理
州政府(Provinsi)
州教育局(Dinas Pendidikan Provinsi)
高校(SMA, SMK)の管理、教員研修
県・市政府(Kabupaten/Kota)
県・市教育局(Dinas Pendidikan Kabupaten/Kota)
幼稚園(PAUD)、小学校(SD)、中学校(SMP)の管理
重要ポイント:
小中学校(SD, SMP)は「県・市教育局」 が管理。
高校(SMA, SMK)は「州教育局」 が管理。
大学(Perguruan Tinggi)は「中央政府(教育省)」 が管理。
3. 教育行政の流れ
① 教育政策の決定プロセス
教育省(Kemendikbudristek)が国家カリキュラム(Kurikulum Merdeka)を策定
州・県・市の教育局(Dinas Pendidikan)が学校に指導を実施
学校は地方教育局の指示に従い、カリキュラムを適用
教員は地方自治体の研修を受講し、指導力を向上
② 教育予算の流れ
中央政府が教育予算(APBN)の20%を確保
州・県・市に教育予算が配分(APBD: 地方予算)
地方自治体が学校運営費(BOS: Bantuan Operasional Sekolah)を各校に支給
BOS(Bantuan Operasional Sekolah)とは?
小・中学校の無償教育を支援するための学校運営資金。
公立学校はこの資金を使い、学費を無料化。
4. 課題と今後の展望
① 地方格差の問題
都市部と地方の教育格差(ジャカルタ vs. パプア)
地方自治体の財政力の違い により、学校の質に差が出る。
② 教員の質の向上
地方の教員研修が不足 しており、教育の質にばらつき。
給与の地域格差 により、地方では教員が不足。
③ デジタル教育の推進
「Merdeka Belajar(自由学習)」政策 で、オンライン教育や遠隔授業を拡充。
地方のインフラ不足 により、デジタル化が遅れる地域もある。
④ 汚職と資金管理の問題
一部の地方自治体では、教育予算の不正利用(汚職) が発生。
教育省とKPK(汚職撲滅委員会)が監視を強化 している。
まとめ
インドネシアの教育制度は、国家教育法(Undang-Undang Sistem Pendidikan Nasional)に基づいて構築されており、幼児教育(PAUD)から高等教育(Pendidikan Tinggi)まで多層的なシステムが確立されています。義務教育の9年間を基本としつつ、高校(SMA/SMK)以降の進学率の向上、デジタル教育の普及、職業教育の強化など、多くの教育改革が進められています。
一方で、教育の質の地域格差、教師の研修不足、学校設備の老朽化、汚職による予算の不正流用などの問題が依然として存在しています。特に、地方の学校ではインフラの整備が遅れ、都市部と比較して進学率や学力に差が出ています。
政府は「Merdeka Belajar(自由学習)」政策を通じて、教育の自由度を高め、生徒の個々のニーズに対応する改革を進めています。また、奨学金制度(KIP-K)を拡大し、貧困層の教育機会を確保する取り組みも強化しています。
今後の課題としては、産業界との連携を強化し、労働市場に適したスキルを持つ卒業生を増やすこと、地方の学校環境の改善、教育予算の適正な運用が求められています。インドネシアの教育制度は現在も進化を続けており、国の将来を担う若者の育成に向けた取り組みが重要となっています。
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本記事で使用した単語の解説
PAUD(Pendidikan Anak Usia Dini):幼児教育。0歳~6歳までの子どもを対象にした教育制度。
SD(Sekolah Dasar):小学校。6年間の義務教育。
SMP(Sekolah Menengah Pertama):中学校。義務教育の後半3年間。
SMA(Sekolah Menengah Atas):高校。大学進学を目指す教育機関。
SMK(Sekolah Menengah Kejuruan):職業高校。就職を目的とした職業訓練を重視。
Merdeka Belajar:自由学習政策。生徒の主体的な学びを促進する政府の教育改革。
KIP-K(Kartu Indonesia Pintar-Kuliah):インドネシア政府の奨学金制度。低所得層の大学生を支援する。
Pesantren(ペサントレン):イスラム寄宿学校。宗教教育と一般教育を提供する。
Madrasah:イスラム系の公立・私立学校。宗教教育が重視される。
SNBT(Seleksi Nasional Berdasarkan Tes):インドネシアの大学入試の全国共通試験。
UTBK(Ujian Tulis Berbasis Komputer):大学入試のためのコンピュータベース試験。
FAQ(よくある質問)
Q1: インドネシアの義務教育は何年間ですか?
A1: インドネシアの義務教育は9年間(小学校6年+中学校3年)です。高校(SMA/SMK)は義務ではありませんが、政府は進学率を向上させるための施策を進めています。
Q2: インドネシアの教育制度の最大の課題は何ですか?
A2: 教育の質の地域格差、教師の研修不足、学校設備の老朽化、教育予算の不正流用などが主な課題です。特に、地方の教育環境の改善が重要視されています。
Q3: インドネシアの職業教育(SMK)の特徴は何ですか?
A3: SMK(職業高校)は、卒業後すぐに働けるスキルを身につけることを目的としています。工業、IT、観光、医療、ビジネスなどの専門コースがあり、企業との連携も進められています。
Q4: 「Merdeka Belajar(自由学習)」とは何ですか?
A4: 「Merdeka Belajar」は、政府が推進する教育改革で、従来の詰め込み教育からの脱却を目指し、生徒の主体的な学びを促進することを目的としています。カリキュラムの自由度を高め、実践的な学習を重視する内容となっています。
Q5: インドネシアの大学入試制度はどのような仕組みですか?
A5: 大学入試は主に以下の3つの方法があります。
SNBP(Seleksi Nasional Berdasarkan Prestasi):高校の成績を基準とする推薦入試。
SNBT(Seleksi Nasional Berdasarkan Tes):全国共通試験(UTBK)による一般入試。
Ujian Mandiri(大学独自試験):各大学が独自に実施する入試。
Q6: インドネシアの英語教育の現状はどうなっていますか?
A6: インドネシアでは、小学校では英語は選択科目ですが、中学校から必修となります。ただし、英語の授業時間が少なく、スピーキング能力の向上が課題とされています。一部の私立学校やナショナルプラススクールでは、バイリンガル教育が行われています。
Q7: インドネシアの教育費はどのくらいかかりますか?
A7: 公立学校は基本的に無料ですが、教材費や制服代などの負担があります。私立学校やインターナショナルスクールでは、月額Rp. 500,000(約5,000円)〜数十万円の学費が必要になります。
Q8: インドネシア政府の教育予算の割合はどれくらいですか?
A8: インドネシアの国家予算の約20%が教育に割り当てられています(憲法第31条に基づく)。しかし、予算の使途が不透明で、特に地方の教育機関への配分が十分でないという課題があります。
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