9月 29, 2025 • インドネシア, 特定技能・技能実習 • by Reina Ohno

日本企業の人材獲得における技能実習生・特定技能の人気国の変遷

日本企業の人材獲得における技能実習生・特定技能の人気国の変遷

日本では少子高齢化や人口減少が加速し、労働力不足は深刻な経営課題となっています。製造業や介護、建設、外食産業など、人手不足が特に顕著な分野では、外国人人材の受け入れが不可欠な状況です。その中で、日本企業が活用してきたのが「技能実習制度」と「特定技能制度」です。

これまで送り出し国として主流だったのは、中国、続いてベトナム、そしてミャンマーでした。しかし近年はインドネシアが急速に注目を集めています。なぜ国別の人気が移り変わってきたのか、そしてなぜ今インドネシアが「次の主力候補」とされているのか。本記事では、その変遷と背景を詳しく解説します。

 

第1章 外国人人材制度の概要と変遷の背景

外国人雇用を考える企業が「技能実習」と「特定技能」のどちらを選ぶべきか?

1-1 技能実習制度の位置づけ

1993年に正式に創設された技能実習制度は、「国際貢献」と「技能移転」を目的として導入されました。
名目上は「途上国の人材が日本で技能を学び、帰国後に母国の発展に役立てる」という理念に基づいています。

しかし現実には、制度の担い手は日本国内の人手不足産業です。特に 農業・建設・製造・介護 などの分野で「安定した労働力」として技能実習生が受け入れられています。

技能実習制度の特徴:

  • 在留期間は最長5年

  • 職種が限定(約80職種・150作業程度)

  • 言語・生活支援は原則監理団体が実施

  • 日本語試験は義務ではないが、一定の教育が必要

  • 制度趣旨と実態に乖離があり、人権侵害や労働問題の報道が度々起きてきた

1-2 特定技能制度の登場

2019年4月、技能実習制度の補完として導入されたのが「特定技能制度」です。
技能実習が「研修名目」であるのに対し、特定技能は 人手不足を補うための明確な労働制度 です。

特定技能制度の特徴:

  • 14分野(介護・外食・飲食料品製造・農業・漁業・建設・宿泊など)で受け入れ可能

  • 日本語能力試験(N4以上)と技能試験の合格が必要

  • 在留資格「特定技能1号」は最長5年、「特定技能2号」は更新可能で家族帯同も可

  • 技能実習から特定技能へ移行できるルートが整備され、キャリアパスが広がった

1-3 制度改革の流れ

日本政府は、技能実習制度の問題点(人権侵害や失踪問題など)を受け、制度全体の見直しを進めています。
2024年には有識者会議で「技能実習制度を廃止し、より労働力確保を前面に出した新制度へ移行する」方向性が示されました。

つまり今後は、特定技能制度を軸とした外国人人材政策 が進む可能性が高いと言えます。

 

第2章 外国人労働者の出身国プールの変遷

インドネシア人材が向いている特定技能ビザの業種とは

2-1 中国(かつての主力国)

中国は2000年代初頭まで最大の送り出し国でした。

強み

  • 世界最大の人口を背景にした豊富な労働力

  • 教育水準が比較的高く、日本語教育経験者も一定数存在

  • 地理的に近く、輸送コストも低い

衰退の背景

  • 中国国内の賃金上昇により「日本で働くメリット」が薄れた

  • 都市部の発展により、若年層が国内就業を志向

  • 送り出し制度や監理コストが上昇

  • 離職リスクや人件費の増加が企業負担となった

結果として、現在では中国からの技能実習生・特定技能人材は大幅に減少しています。

2-2 ベトナム(現在も最大の送り出し国)

2010年代以降、圧倒的にシェアを伸ばしたのがベトナムです。

急拡大の理由

  • 政府間で協力覚書(MOC)を締結し、制度運用が安定

  • 若年人口が豊富で、出稼ぎ志向が強い

  • 日本語教育機関が急増し、学習者数は世界的に上位

  • 監理団体や送り出し機関が整備され、採用ルートが確立

課題

  • 採用競争が激化し、候補者の質が二極化

  • 離職や失踪が他国より多いと指摘されるケースもある

  • 現地ブローカー問題など、不透明な費用構造が残る

それでも、ベトナムは依然として 技能実習生の過半数、特定技能人材の約半数 を占め、日本企業にとって最重要な国であることに変わりはありません。

2-3 ミャンマー(期待から難航へ)

ミャンマーは2015年頃から注目を集め、ベトナムに次ぐ有力な送り出し国として台頭しました。

強み

  • 勤勉で真面目と評価される国民性

  • 出稼ぎ志向が一定あり、日本語学習意欲も高い

  • ベトナムより採用コストが抑えられる可能性

しかし…
近年は大きな政治・社会的リスクを抱えるようになりました。

  1. 内戦・治安不安
     2021年のクーデター以降、国内は軍政と少数民族武装勢力との衝突が長期化。治安の悪化により、送り出し制度そのものが不安定化しています。

  2. 徴兵制の導入(2024年)
     国防軍は若年層に対する強制徴兵制を施行しました。これにより、国外に出たい若者が増える一方で、合法的に国外に出ることが難しくなり、送り出し機関の活動も制約を受けています。

  3. 日本企業側の懸念
     「入国後に家族へ仕送りできるか不安」「帰国義務が果たせない」「長期定着できないのでは」という声が増加。

結果として、ミャンマー人材の受け入れは リスクが高まり、供給量が安定しない 状況にあります。企業側も「慎重に検討する国」へと変わりつつあります。

2-4 インドネシア(次の主力候補)

近年もっとも注目されているのがインドネシアです。

統計的な伸び

  • 特定技能在留者数は2022年約9,000人 → 2024年約44,000人と急増

  • 技能実習生でも全体の17%前後を占め、ベトナムに次ぐ規模

  • わずか2年間で約4.7倍に拡大したというデータもある

選ばれる理由

  1. 人口規模と若年層比率
     約3.6億人の人口を抱えるインドネシアは、今後も労働供給が豊富。

  2. 日本との協力体制
     日本政府とインドネシア政府はMOCを締結し、特定技能試験や送り出し制度を制度的に整備。

  3. 宗教・文化背景への配慮
     イスラム教徒が多数派であり、礼拝や食事制限に理解が必要だが、日本企業がそれを尊重する姿勢を見せれば定着性が高い。

  4. 日本語教育の拡大
     高校や職業訓練校での日本語学習者が増えており、基礎的な語学力を持つ若者が多い。

  5. 企業評価
     「真面目」「協調性がある」との評価が定着し、特に介護・外食・製造分野での採用が増えている。

 

 

第3章 日本企業・登録支援機関が考えるべきポイント

失敗しない「インドネシアの特定技能人材」と「登録支援機関」の選び方ガイド

外国人人材を採用・受け入れる際、日本企業や登録支援機関は「採用前の準備」「採用プロセス」「入国直後」「定着支援」の4段階に分けて考える必要があります。

3-1 採用前の準備段階

  1. 採用ニーズの明確化

    • どの部署に、何人必要か?

    • 必要な日本語レベルは?(例:介護現場ならN4以上が望ましい)

    • 求める人物像(勤勉さ、チーム適応力、長期定着意欲など)を明確にする。

  2. 採用国の比較検討

    • ベトナムは人数が豊富だが競争激化。

    • ミャンマーは政治リスクが高い。

    • インドネシアは将来性が高いが宗教配慮が必要。
      →「どの国から採用すべきか」を、事業分野や現場の特性に応じて検討する。

  3. 送り出し機関の選定

    • 実績があるか?

    • 日本語教育の内容は十分か?

    • 候補者募集の透明性(ブローカー介在の有無)

    • 渡航前研修の質(日本文化・労働法教育を含むか)

  4. コストの試算

    • 紹介料・渡航費・ビザ申請費用・生活支援費などを見積もる。

    • 採用後の離職リスクも含めた「実質コスト」を考慮する。

3-2 採用プロセス

  1. 募集・選抜

    • 現地での説明会を開催し、仕事内容・給与条件・生活環境を正しく伝える。

    • 曖昧な説明は後のトラブル(早期離職・失踪)につながるため、誠実さが重要。

  2. 試験・面接

    • 日本語試験(NAT-TEST、JLPTなど)や技能試験の実施。

    • オンライン面接を通じて、性格やモチベーションを確認。

    • 家族の理解度も確認しておくと、定着性が高まる。

  3. 契約・手続き

    • 労働条件通知書や雇用契約書を母国語で提示。

    • 送り出し機関・監理団体・登録支援機関の役割分担を明確化する。

3-3 入国直後の対応

  1. 生活支援

    • 住居手配、銀行口座開設、携帯電話契約などをサポート。

    • 食文化(ハラール対応など)や宗教配慮を忘れない。

  2. オリエンテーション

    • 日本の労働法・生活ルール・交通安全・ゴミ分別などを徹底指導。

    • 「言われなければ分からないこと」を体系的に伝える。

  3. 現場教育

    • 日本人社員への研修(異文化理解・簡単なインドネシア語フレーズ)を行い、相互理解を促す。

    • 受け入れ現場のリーダーが「外国人材を教える姿勢」を持つことが大切。

3-4 定着支援(最重要段階)

  1. 継続的な日本語教育

    • オンライン日本語クラスや社内学習会を設ける。

    • 語学力が伸びると仕事の幅も広がり、本人の満足度が高まる。

  2. キャリアパスの提示

    • 技能実習から特定技能への移行、特定技能1号から2号への移行を明確に示す。

    • 「長期的に働ける」という安心感が定着率向上に直結する。

  3. 相談窓口の設置

    • 日本語が不自由でも相談できる仕組み(通訳や母語スタッフ)。

    • トラブルがあったときに迅速に対応できる体制。

  4. 宗教・文化的配慮

    • インドネシア人に多いイスラム教徒の場合、礼拝時間や食事制限への理解が重要。

    • 職場に小さな礼拝スペースを設けるなどの工夫で、安心感が大きく変わる。

  5. 地域社会との交流

    • 地域の祭りや行事に参加する機会を作る。

    • 「外国人労働者」ではなく「地域の一員」として迎え入れる雰囲気が必要。

 

 

第4章 外国人労働者採用の今後の展望

日本の介護業界で深刻化する人手不足の実態と外国人介護人材の活用

日本企業にとって、外国人人材の受け入れは「人手不足解消の手段」から「企業成長戦略の一部」へと進化しています。今後の展望を整理します。

4-1 制度改革の方向性

  • 技能実習制度の廃止・新制度の創設
    2024年以降、技能実習制度は大幅に見直され、労働力確保を前提とした制度へと転換される予定です。これに伴い、新たに 「育成就労」制度 が創設されることが決定しました。

    育成就労は、従来の技能実習制度が抱えていた「研修名目と実態の乖離」や「人権問題」への批判を是正しつつ、外国人が日本で働きながら技能を身につけ、段階的に特定技能へ移行できる仕組みとして位置づけられています。

    • 在留期間は最長3年

    • 就労が前提であり、キャリアパスとして特定技能への移行が可能

    • 職種は人手不足分野を中心に設定される見込み

    • 生活支援や教育の義務化が強化され、人権保護にも配慮

    → つまり、今後は「育成就労」と「特定技能」の二本柱が外国人材政策の中心となり、従来の技能実習制度は廃止に向かうと見込まれています。

  • 特定技能2号の拡大
    現在は建設・造船だけだが、今後は介護や農業など他分野に拡大する可能性がある。
    家族帯同が可能になれば、長期定着に大きな追い風となる。

4-2 国別の動向

  • ベトナム依存のリスク
    人数は多いが、競争が激しく、採用コストが上がる恐れ。

  • ミャンマーの不透明さ
    内戦・徴兵制により、長期的な安定供給は見込みにくい。

  • インドネシアの台頭
    人口・制度整備・文化適応性のバランスから、今後最注目の国。

  • その他の国(ネパール・カンボジア・フィリピン)
    今後はサブの供給国として重要性が増す可能性。

4-3 企業が準備すべき未来戦略

  1. 複数国からの採用ルート確保

    • ベトナム・インドネシアの二本柱に、他国をサブで加える形が望ましい。

  2. デジタル教育の導入

    • オンライン日本語教育、eラーニングで効率的に語学力を向上させる。

  3. 多文化共生の職場づくり

    • 単なる労働力としてではなく、「共に働き、共に成長する仲間」として受け入れる。

    • マネジメント層の意識改革が必要。

  4. 地域社会との共生モデル

    • 地方都市では、外国人材が地域人口の維持に不可欠。

    • 企業と自治体が協力し、生活環境・教育・医療などを支える体制づくりが重要。

  5. 長期キャリア設計

    • 技能実習 → 特定技能1号 → 特定技能2号 → 永住

    • この道筋を企業が提示できれば、外国人材は「腰掛け」ではなく「将来設計の一部」として日本を選びやすくなる。

 

 

 

まとめ

外国人人材の受け入れは、日本企業にとって欠かせない経営戦略の一部となっています。

  • 中国は経済発展により送り出し数が減少

  • ベトナムは依然として最大の送り出し国だが、競争激化が課題

  • ミャンマーは内戦や徴兵制の影響で安定供給が難しい状況

  • インドネシアは人口規模・制度整備・文化適応力の面で注目され、急速に存在感を増している

企業や登録支援機関にとって重要なのは、単に人材を採用することではなく、採用前の準備から入国後の定着支援まで一貫した仕組みを作ることです。制度改革の動向を見据えつつ、インドネシアを含む複数国からのルートを確保する戦略が今後の鍵となります。

 

 

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本記事で使用した単語の解説

  • 技能実習制度
    開発途上国の人材が日本で技能を学び、母国に技術を還元することを目的に導入された制度。ただし実態は日本国内の労働力確保の役割が大きい。

  • 特定技能制度
    2019年に新設された在留資格。深刻な人手不足分野において、一定の日本語能力と技能を持つ外国人が最長5年(2号は無期限)就労できる制度。

  • 送り出し機関
    外国人人材を日本へ紹介・派遣する母国側の機関。日本語教育や渡航準備を担う。

  • 登録支援機関
    日本で特定技能人材を受け入れる際に、生活支援や日本語学習支援を行うことが認められた機関。

  • MOC(Memorandum of Cooperation)
    日本と送り出し国との間で結ばれる協力覚書。特定技能制度の円滑な運用を目的に設けられている。

  • 定着支援
    入国後の生活・仕事のフォローを行い、外国人が長期的に働き続けられるようにする取り組み。

 

 

FAQ

Q1. 技能実習制度と特定技能制度はどう違うのですか?
A. 技能実習は「技能移転」を名目とした研修制度で最長5年、特定技能は「労働力確保」を目的とした就労制度で最長5年(特定技能2号は無期限)です。

Q2. なぜ中国人技能実習生は減ったのですか?
A. 中国国内の賃金上昇や生活水準の改善により、日本で働く魅力が薄れたためです。また、コスト増や離職リスクも影響しています。

Q3. ベトナム人材の課題は何ですか?
A. 採用競争が激化し、質の二極化が進んでいる点です。また、ブローカー問題や離職率の高さも課題となっています。

Q4. ミャンマーからの受け入れはなぜ難しいのですか?
A. 内戦の長期化や2024年に導入された徴兵制により、送り出し制度そのものが不安定になっているためです。

Q5. インドネシア人材の強みは何ですか?
A. 大規模な人口と豊富な若年層、制度整備の進展、日本語学習者の増加、そして真面目で協調性があると評価される国民性です。

Q6. 今後の採用戦略はどうすべきですか?
A. ベトナムとインドネシアを軸にしつつ、ネパールやフィリピンなど複数国からの採用ルートを確保し、制度改革に備えた長期的戦略を立てることが重要です。

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