9月 30, 2025 • インドネシア • by Delilah

インドネシアで成功した日本の味の素(Ajinomoto)

インドネシアで成功した日本の味の素(Ajinomoto)

インドネシア市場で日本企業がどのように成功を収めているのか――これは、進出を検討する経営者や現地に滞在するご家族にとって大きな関心事です。なかでも調味料メーカーの味の素は、半世紀以上にわたりインドネシア社会に深く根付き、家庭料理から外食産業、さらには環境や教育の分野にまで影響を広げてきました。
本記事では、味の素インドネシアの歩みを通じて、ローカル適応やサステナビリティへの取り組み、そして企業が現地で持続的に成長するために必要な実務的ポイントを整理します。単なる事例紹介に留まらず、これから進出を考える日本企業にとっての学びになれば幸いです。

 

味の素のインドネシア事業:家庭用から業務用、そして社会価値の創出へ

味の素のインドネシア事業:家庭用から業務用、そして社会価値の創出へ

事業の柱と代表ブランド

家庭用では、うま味調味料やだし系のMasako、から揚げ粉などのSajiku、中華系ソースのSAORI、マヨ系のMayumiといったローカル嗜好に寄り添うブランドが長年定着しています。とりわけMasakoは、現地の肉料理文化やスープ文化に適合し、日常使いの“下味の基礎”として浸透しました。
業務用(ホテル・レストラン・ケータリング=HORECA)への展開も拡大。肉の食感改善ソリューション「NIKUPLUS」は、タンパク質需要の底上げと調理現場の課題(歩留まり・品質の安定化)に応える提案として注目されています。

供給体制と地域拠点

ジャワ島の主要工場を基点に、各地の営業拠点・物流網とデジタル計画ツールを組み合わせ、広域での需要変動に機敏に対応する体制を構築。島嶼国家の物流・在庫の難易度を、分散拠点とシステム統合で乗り越えてきました。

 

味の素の徹底したローカル適応と“信頼の前提条件”づくり

味の素の徹底したローカル適応と“信頼の前提条件”づくり

「現地の味」に寄り添うレシピと使い勝手

インドネシアの家庭料理は、煮込み、炒め、揚げの頻度が高く、肉・鶏・魚介の風味を引き立てる“下味の常備化”が進んでいます。Masako や Sajiku はその生活導線に自然に溶け込むよう設計され、「少量で味が決まりやすい」「失敗しにくい」という“家事の可処分時間”に響く価値を提供してきました。

ハラールへのフルコミット

イスラム人口が多数を占める同国では、食品・添加物・製造工程のハラール適合が信頼の前提条件です。Ajinomotoは国内工場・製品ラインでのハラール認証を着実に整備。2024年以降の段階的義務化(とくに中堅・大企業の食品・添加物は2024年10月以降の適合が求められる)にも先回りで対応を進め、輸入品の取り扱いに関する制度進展にも目配りして運用の確実性を高めています。

生活者教育型のブランド活動

学校・地域と連携した食育や給食支援、レシピ普及など、「栄養・健康」の文脈で生活者との接点を積み上げてきました。“売る前に役に立つ”姿勢は、価格訴求だけでは築けない信頼資産となり、長期のブランド選好につながっています。

小袋・小容量SKU戦略:キオスクやワルンで「いつでも買える価格帯」をつくる

インドネシアでは、住宅街のキオスク(小店)やワルン(個人商店)が日々の購買行動を支えています。ここですぐ買える・少額で試せることは、家庭用調味の定着に直結します。味の素は、定番の大容量に加えて小袋(サシェ)や小容量SKUを用意し、「小銭で買える価格帯」を丁寧につくってきました。結果として、

  • 導入障壁の低減:初回購入の心理的・金銭的ハードルを下げ、試用から継続購入へつなげる。

  • 価格階段の設計:所得や使用頻度に応じて量と価格を選べる“階段”を用意し、一度の支出を最小化。

  • 流通適合:小売現場の限られた棚・カウンター周りにフィットし、吊り下げ什器やカウンター横の見せ場で視認性を高める。

  • フレッシュネスと無駄の削減使い切りで風味劣化と食品ロスを抑える(湿気や保管環境のばらつきにも強い)。

 

脱炭素と循環経済を、事業競争力に転換する

工場の燃料転換と再エネ・REC活用

同社はボイラー燃料の石炭からバイオマスへの切替、工場屋根の太陽光発電、電力の再生可能エネルギー証書(REC)導入など、段階的にデカーボン化を推進。サプライチェーン全体のCO₂削減を通じて、コスト・規制・レピュテーションの三面で事業耐性を高めています。

プラスチック資源循環への実装

多層パッケージなど食品包装の回収・再資源化は難易度が高い領域ですが、同社は地場スタートアップや自治体と連携し、回収ステーションやポイント還元などの参加インセンティブ設計を取り入れました。現地の実装知を持つパートナーと組み、行政とも協働して“やり切る”ことが、現実的な成果に結び付いています。

 

オペレーションの“見える化”と意思決定の高速化

計画・需給の統合とSD-WANの基盤整備

需要・在庫・生産計画を横断して一元管理することで、「どこで・何を・どれだけ作り・どこへ運ぶか」の判断を高速化。さらにSD-WAN+プライベートクラウドで50拠点規模を安定接続し、分散ネットワークの運用負荷を軽減。“分散+集中”のバランスをとることで、島嶼国家の供給課題をITで補完しています。

業務用の価値創出:NIKUPLUSの示す方向性

原料相場や品質ばらつきが避けにくい外食・中食市場において、「一定の食感・ジューシーさを再現できる」技術は、歩留まり・満足度・リピート率の土台を作ります。業務用への“課題解決”型提案は、家庭用ブランドの信頼を補強し、B2B2Cの価値連鎖を太くします。

 

マーケットでの存在感:選ばれ続けるブランドの条件

マーケットでの存在感:選ばれ続けるブランドの条件

消費者選好の指標

消費財の“最も選ばれるブランド”を可視化する指標では、同社の主力ブランドが上位常連として認められており、「買われ続ける仕組み」が確立していることが窺えます。単発のキャンペーンではなく、家庭の“当たり前”として棚に並び続けることが、カテゴリーの地位を固めています。

価格だけに頼らない競争

ローカル企業が強い価格訴求を仕掛ける市場で、「味・使い勝手・安心」の複合価値に供給の安定と社会的意義(環境・栄養)を重ね、トータルでの“選ぶ理由”を積み増している点が印象的です。

インドネシアで実際に何が難しいのか

島嶼性・渋滞・港湾:物流の三重苦

国土の広さに加え、ジャワ島の渋滞、港湾の混雑、離島配送の不確実性が、在庫設計と配送計画を難しくします。拠点分散と需要予測の精度を上げ、「欠品と過剰」の両方を最小化する高度な需給バランスが求められます。

規制・制度の変化:ハラール、環境、税務

ハラール制度は段階的に義務化が進み、輸入品の扱い・相互承認スキームなど運用面の理解が必須。環境・包装・廃棄物に関する規制も強まる方向で、行政・自治体・認証機関との関係構築がカギになります。

人材・カルチャー・ガバナンス

多民族・多宗教・多言語の職場を束ねるには、現地主導と本社の標準の最適な折衷が必要。「任せる構造」と「標準の守備位置」を明確化し、教育・仕組み・ITで支えることが、品質とスピードの同時達成につながります。

 

進出・展開のヒント:経営者・管理職が押さえるべき実務論点

進出・展開のヒント:経営者・管理職が押さえるべき実務論点

1. ローカル適応の設計図

  • 製品設計:味・濃度・工程・保存性を現地の調理導線に合わせる

  • SKU戦略:小容量・小袋の価格階段を整え、購買頻度を取りにいく

  • パッケージ:視認性(棚・屋台)と廃棄コストを両立。将来の回収・リサイクル前提で設計

2. ハラール・品質・安全の“当たり前”を制度で担保

  • 認証の前倒し:法の段階的義務化に合わせたタイムラインを全社に周知

  • 輸入・相互承認:輸入商材は相互承認・登録の流れを法務・品質・SCMで共有

  • 監査・トレーサビリティ:工場・倉庫・配送の帳尻を合わせる仕組みを常時点検

3. 需給と物流の“合わせ技”

  • 在庫の役割定義:拠点ごとにバッファの役割を定義し、リードタイムを短縮

  • 需要予測×販促:デジタル販促のピークを需給側に事前共有して欠品を抑制

  • ラストマイル:屋台・小売の現金回収・決済含め、現場の実務から逆算

4. サステナビリティを“コスト”から“収益設計”へ

  • 再エネ・REC:エネルギー原単位とCO₂の“見える化”で投資回収を設計

  • 包装回収:自治体・スタートアップとの官民連携で実装速度を上げる

  • 教育・食育社会価値=ブランド価値の相関をKPI化し、事業活動に埋め込む

5. ガバナンスと“人”のマネジメント

  • 現地権限:価格・販促・SKU最適化は現地最終判断の幅を広く

  • 本社連携:財務・監査・品質の最低ラインは厳格に。本社は道具(IT・標準)で支援

  • 越境育成:奨学金・交換研修などで次世代コア人材を計画的に育てる

  

まとめ

味の素インドネシアの事例は、日本企業が巨大で多様なインドネシア市場で成功するための貴重な示唆を与えてくれます。単に製品を輸出するだけではなく、現地の味覚や購買習慣に適応し、小袋やキオスク販売といった購買導線を整えることで「日常の当たり前」を築きました。また、ハラール認証や食育活動を通じて生活者の信頼を獲得し、脱炭素や循環経済などグローバルな課題にも現地から応える姿勢を示しています。
さらに、IT基盤による需給管理や業務用ソリューションの強化は、オペレーションの高度化を実現し、家庭用と業務用をまたぐ強固な市場基盤を築いています。インドネシア進出を目指す企業にとって、味の素の歩みは「ローカル適応」「社会との共生」「オペレーション改革」という3つの柱が成功の条件であることを明確に教えてくれます。

 

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本記事で使用した単語の解説

  • ハラール認証:イスラム教の教義に基づき、食品や製造工程が適正であることを示す認証制度。インドネシアでは食品流通の信頼性を確保する前提条件となる。

  • SKU(Stock Keeping Unit):商品の最小管理単位。容量や味の違いごとにSKUが設定され、小袋戦略などで細分化することが多い。

  • ワルン(Warung):インドネシアの街角にある個人経営の小さな飲食店や雑貨店。日常的な購買の拠点となっている。

  • サステナビリティ(Sustainability):持続可能性のこと。環境・社会・経済のバランスを重視し、長期的に価値を生み出す経営姿勢を指す。

  • 循環経済(Circular Economy):資源を使い捨てるのではなく、再利用やリサイクルを通じて資源循環を促進する経済モデル。食品業界では包装材の回収や再資源化などが該当する。

  • REC(Renewable Energy Certificate):再生可能エネルギーの利用を証明する証書。企業が環境配慮を示すための仕組みの一つ。

  • B2B2C:企業が他の企業を通じて最終消費者に価値を届けるビジネスモデル。Ajinomotoの業務用ソリューションはこれにあたる。

 

FAQ

Q1. インドネシアで食品ビジネスを展開する際、最も重要な条件は何ですか?
A1. 第一にハラール認証の取得が必須です。これがないと多くの流通網に乗せることができず、消費者からの信頼も得にくくなります。

Q2. 味の素がインドネシアで支持される最大の理由は何ですか?
A2. ローカルの料理文化に合わせた商品設計と、キオスクや小容量SKUといった現地の購買習慣に寄り添う販売戦略です。これにより、幅広い所得層に浸透しています。

Q3. 環境対応はどのように進められていますか?
A3. 工場の燃料転換や太陽光発電の導入に加え、包装材の回収・リサイクルを地場スタートアップや自治体と協働で進めています。これにより企業ブランドと事業持続性を両立させています。

Q4. インドネシアの物流で注意すべき点はありますか?
A4. 島嶼国家のため、輸送リードタイムが長く、在庫設計が難しいことが特徴です。複数拠点を分散して構築し、デジタル需給管理を導入することが有効です。

Q5. 日本企業が味の素の事例から学べる最も大きなポイントは何ですか?
A5. 製品のローカル適応に加え、社会的信頼を築く活動とオペレーションの効率化を同時に行うことです。この三位一体のアプローチが、長期的に「選ばれ続ける理由」を生み出します。

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