8月 30, 2026 • インドネシア • by Yutaka TokunagaY

なぜインドネシアは「砂糖税」を導入しようとしているのか?

なぜインドネシアは「砂糖税」を導入しようとしているのか?

インドネシアが砂糖を多く含む飲料への課税を検討しているというニュースを見かけました。

「本当に、新しい税金を作ってまで政府が介入する問題なのだろうか?」

それが私の最初の感想でした。

インドネシアには素晴らしい食文化があります。

Es Teh Manis(甘いアイスティー)、甘いコーヒー、そしてジャワ料理をはじめとする料理の甘さ。これらは単なる味の好みではなく、インドネシアの日常生活や文化の一部です。

しかし、このテーマについて調べていくと、これは単純な「砂糖の摂りすぎ」の話ではないことが分かってきました。

その背景には、急増する糖尿病や生活習慣病、医療費、BPJS(インドネシアの公的医療保険制度)の財政、そして長期的にはインドネシア経済そのものに関わる問題があります。

 

そもそも「砂糖税」とは何なのか?

インドネシア政府が検討しているのは、MBDK(砂糖入りパッケージ飲料)に対する物品税です。

対象として想定されるのは、

  • ペットボトルのお茶
  • 甘いコーヒー飲料
  • 炭酸飲料
  • その他の砂糖入りパッケージ飲料

などです。

考え方は比較的シンプルです。

糖分の多い飲料に税金をかけることで価格を上げ、消費を減らす。

さらに飲料メーカーに対しても、砂糖の少ない商品を開発するインセンティブを与える。

つまり、税収を増やすだけではなく、国民の行動や企業の商品開発を変えることが目的です。

タバコ税に似ていると言えるでしょう。

 

 

インドネシアは世界有数の「糖尿病大国」になっている

ここまで政府が動く背景には、かなり深刻な数字があります。

IDF(国際糖尿病連合)によると、2024年のインドネシアでは20歳から79歳の約2,040万人が糖尿病を抱えていると推計されています。

これは世界で5番目に多い水準です。

さらに2050年には約2,860万人まで増加すると予測されています。

インドネシアはまだ若い国です。

それにもかかわらず、糖尿病をはじめとする生活習慣病がこれだけ大きな問題になっている。

ここはかなり深刻に考える必要があると思います。

インドネシア人が「甘いもの好き」だから悪いのか?

ただし、

「インドネシア人は砂糖を摂りすぎだから、税金をかければいい」

というほど単純でもありません。

インドネシアと砂糖には長い歴史があります。

白砂糖が一般的になる以前からパームシュガーやココナッツシュガーなどが使われてきました。

ジャワ料理をはじめ、甘みを特徴とする伝統料理も数多くあります。

甘さそのものが、インドネシアの食文化の一部なのです。

変わったのは食文化より「生活」

私はむしろ、こちらの方が重要なのではないかと思います。

昔のインドネシアでは、農業、漁業、建設など体を使う仕事が多く、日常的な運動量も現在より多かったでしょう。

暑い環境で体を動かす人にとって、甘い飲み物は素早くエネルギーを補給できる合理的な飲み物でもありました。

ところが現在は違います。

都市化が進み、オフィスワーカーが増え、バイクや車で移動し、体を動かす機会が減りました。

生活は大きく変わったのに、甘いものを好む食文化は残っています。

その組み合わせが、現代の健康問題につながっている可能性があります。

 

 

本当の問題はBPJSなのか?

この問題を調べていて、私が特に興味を持ったのがBPJS(インドネシアの公的医療保険制度)です。

もしかすると政府が本当に恐れているのは、

「国民が砂糖を飲みすぎること」

だけではなく、

「その結果として将来発生する莫大な医療費」

なのではないでしょうか。

生活習慣病には長期間お金がかかる

糖尿病、高血圧、心臓病、脳卒中、腎不全などは、一度発症すると長期間の治療が必要になる場合があります。

特に腎不全などの医療費は大きな負担です。

インドネシア保健省によると、BPJSにおける腎不全関連の医療費は2019年のRp2.32兆から、2025年にはRp13.38兆まで増加しました。

わずか6年間で5倍以上です。

これは個人の健康問題だけではありません。

国家財政の問題でもあります。

若い国なのに社会保障はすでに赤字

ここは非常に興味深いところです。

インドネシアは人口構成がまだ若い国です。

一般的には、高齢者の割合が高い日本のような国の方が医療保険制度の維持は難しくなります。

ところが、その若いインドネシアでもBPJSの医療保険財政にはすでに大きな負担がかかっています。

JKN(国民健康保険制度)の2025年の収支は約Rp17.13兆の赤字となり、2024年の約Rp7.66兆から大きく悪化しました。

さらに2026年4月時点では、保険料収入に対する医療給付費の割合を示すクレーム率が108.72%に達しています。

簡単に言えば、

「入ってくる保険料より、出ていく医療費の方が多い」

状態です。

BPJS側は2026年6月、月間約Rp2兆規模の赤字が発生しているとして、制度の持続可能性に警鐘を鳴らしています。

まだ人口が若い段階でこれです。

これからインドネシアが豊かになり、平均寿命が延び、高齢者が増えていけば、医療費はさらに大きくなる可能性があります。

だから政府としては、

「病気になってから治療する」

だけではなく、

「病気になる人そのものを減らす」

方向へ動かざるを得ない。

そう考えると、砂糖税の意味が少し違って見えてきます。

 

 

税金で本当に人は健康になるのか?

とはいえ、ここには大きな議論があります。

税金をかければ、本当に国民は健康になるのでしょうか?

砂糖税に賛成する考え方

賛成派の考え方は比較的分かりやすいです。

  • 値段が上がれば消費が減る
  • メーカーが低糖商品を開発する
  • 糖尿病などの生活習慣病を減らせる
  • 長期的にBPJSの医療費を抑えられる

実際、海外では砂糖入り飲料への課税をきっかけに、メーカー側が商品の糖分を減らした事例もあります。

反対意見にも合理性がある

一方で、反対意見もあります。

  • 消費者の負担が増える
  • 低所得者ほど価格上昇の影響を受けやすい
  • 食品・飲料産業への負担になる
  • 税金をかけても飲む人は飲む
  • 砂糖は飲料以外の食品にも大量に含まれている
  • 税金より教育や運動促進の方が重要ではないか

これらも十分に合理的な意見です。

特に、砂糖入り飲料だけを課税しても、別の食品から糖分を摂取するようになれば、健康政策としての効果は限定的です。

政府は個人の生活にどこまで介入すべきなのか?

そして私は、ここが最も面白い論点だと思います。

自分が何を食べ、何を飲むかは、本来個人の自由です。

しかし、その結果として糖尿病や腎不全になり、その医療費をBPJSを通じて社会全体で負担するのであれば、完全に「個人だけの問題」と言えるのでしょうか。

政府は国民を健康にするために介入すべきなのか。

それとも、自分の健康については本人が責任を持つべきなのか。

これは砂糖だけの問題ではありません。

タバコ、アルコール、Vape(電子タバコ)、ギャンブルなどにも同じ議論があります。

どこまでが個人の自由で、どこからが社会全体の負担なのか。

簡単な答えはありません。

 

 

私たちの未来を考えると、意外と重要な問題なのかもしれない

IDFは、インドネシアの糖尿病患者が2024年の約2,040万人から2050年には約2,860万人まで増えると予測しています。

しかもインドネシアは、まだ若い国です。

これから人口が高齢化していく前の段階で、すでにBPJSの医療保険財政に大きな負担がかかっているという事実は、私はもっと注目されてもいいと思います。

一方で、食文化はその国の歴史そのものでもあります。

甘い食べ物や飲み物まで政府が税金でコントロールする社会が本当に望ましいのか、という疑問も理解できます。

 

そして医療保険財政に負担のかかっている国の代表格といえば我らが母国の日本です。

日本には砂糖税はありませんが、世界各国では糖分が多い商品には課税がなされる国もあります。

日本にも砂糖税が必要だ、という声がいつか上がるかもしれません。

一つの完璧な答えがある問題ではありません。

多くの食の選択肢がある現代の我々が考えてみるには面白いテーマではないでしょうか。

 

 

 

 

インドネシアでのビジネスなら創業10周年のTimedoor 

システム開発、IT教育事業、日本語教育および人材送り出し事業、進出支援事業

お問い合わせはこちら

 

 

弊社代表のTimedoor CEO徳永へ直接相談する

Timedoor CEO 徳永 裕の紹介はこちら

 

 

 

Testing