4月 17, 2025 • 特定技能・技能実習, インドネシア • by Reina Ohno

2027年開始予定の新制度「育成就労」と現行「外国人技能実習制度」の違いを徹底比較

2027年開始予定の新制度「育成就労」と現行「外国人技能実習制度」の違いを徹底比較

外国人労働者の受け入れ制度として長年活用されてきた「外国人技能実習制度」が、2027年を目処に「育成就労制度」へと大きく生まれ変わろうとしています。これまで制度の名目と実態のギャップが指摘されてきた技能実習制度に代わり、より現実に即した新制度が導入されることで、企業、外国人材、支援機関それぞれに新たなメリットと課題が生まれることになります。

本記事では、外国人の育成就労制度と技能実習制度の違いを徹底比較し、それぞれの制度の目的、在留資格、職種範囲、転籍可否、企業側の留意点まで詳しく解説します。制度変更の全体像を把握したい企業担当者や支援機関の方にとって、実務に活かせる具体的な内容となっています。

 

 

制度の目的:国際貢献から人手不足対策へ

飲食料品製造業の人手不足が生産・品質・物流にもたらす影響

まず両制度の設立目的の違いを確認します。外国人の技能実習制度は当初、「技能移転による国際貢献」を目的として掲げられていました。一方、育成就労制度はその目的を大きく転換し、「日本の人手不足分野における人材の育成と確保」に重点を置いています。

  • 技能実習制度の目的(建前)
    技能実習制度は1993年に開始され、公式には「日本で培った技能・知識を開発途上国へ移転し、その国の経済発展を担う人づくりに寄与する」ことを目的としていました。つまり、日本企業で一定期間技能を習得した外国人技能実習生が母国へ帰国後にその技能を活かし、母国の発展に貢献することが期待されていたのです。この建前のもと、技能実習生の受け入れは「国際協力」の一環と位置付けられていました。しかし、実際には実習生たちは日本国内の労働力として重宝されており、制度の目的と実態が乖離していることが以前から指摘されていました。
  • 技能実習制度の現実
    上記のような高尚な理念とは裏腹に、技能実習制度は日本国内の慢性的な人手不足を補う労働力受け入れ制度として機能してきました。特に製造業や建設、農業、介護といった業種では外国人実習生なくしては現場が回らない状況が生まれ、実質的に安価な労働力源として依存する企業も少なくありませんでした。結果として、「国際貢献」という名目と現場の実態とのギャップが大きく、制度趣旨とかけ離れた運用になっているとの批判が国内外から高まっていたのです。
  • 育成就労制度の目的
    こうした背景から、新たに導入される育成就労制度では目的が現実に即した形に見直されました。育成就労制度は、日本の人手不足分野で外国人材を計画的に育成し、戦力として確保することを目的としています。つまり、はじめから国内の労働力確保を正面に掲げた制度です。国際貢献よりも日本の産業発展のための人材育成と人材確保が目的と明記されており、制度の理念と運用実態が一致することが期待されています。公式には「特定技能1号水準の技能を有する人材の育成」と「育成就労産業分野における人材の確保」が法律上の目的として掲げられました。要するに、将来特定技能で活躍できる技能を身に付けた人材を育てることが目的となったのです。

このように、技能実習制度は名目上は国際貢献の色彩が強く、実態とのズレが問題となっていましたが、育成就労制度では最初から日本の人手不足解消に資する人材育成を目的に据えることで、制度趣旨と実態を一致させる狙いがあります。目的の段階で両制度は大きく異なっており、これがその他の制度設計の違いにも反映されています。

 

 

在留資格と制度上の位置付けの違い

在留資格と制度上の位置付けの違い

次に、制度の法的な在留資格(ビザ)の位置付けと、日本の外国人受け入れ制度全体の中での位置づけを比較します。

  • 技能実習制度の在留資格
    技能実習生が取得する在留資格は「技能実習」で、法的には研修・技能習得を目的とした特定活動に分類されていました。技能実習生は労働者として賃金を受け取り就労しますが、建前上はあくまで「研修生」であり、一定期間の研修終了後は母国への帰国を前提とする位置付けでした。その根拠法は「外国人技能実習適正化法(技能実習法)」で、技能実習制度は国際協力の一環として位置付けられていました。したがって技能実習生は永住や長期定住を目的とした在留資格ではなく、滞在期間に上限がある一時的な滞在資格でした。また、技能実習の過程で得た技能は本来日本国内での定住就労には直結しない想定で、技能実習の在留期間終了後は一旦帰国することが基本となっていました。
  • 育成就労制度の在留資格
    新制度では、在留資格「育成就労」が新設されます。この在留資格は、技能実習とは異なり特定技能1号への移行を前提としたものです。法改正により、技能実習法は「育成就労法」へと全面改正され、技能実習という在留資格そのものが廃止される見込みです。育成就労は日本で不足する労働分野において人材を育成しつつ就労する在留資格であり、制度上は特定技能制度(2019年施行の在留資格「特定技能」制度)と連携する位置付けとなっています。簡単に言えば、育成就労は特定技能1号にステップアップするための準備段階として設計されています。したがって、育成就労で来日した外国人は、一定の要件を満たせばそのまま特定技能の在留資格に切り替えて日本で就労継続するルートが制度に組み込まれています。
  • 制度全体での位置付けの違い
    技能実習制度は、かつて日本に存在した研修生制度(技能実習の前身)から発展したもので、「研修・技能移転」のカテゴリーに属し、労働力受け入れ制度というよりも教育的プログラムとして扱われてきました。一方、育成就労制度は外国人労働者の受け入れ制度として明確に位置付けられ、同じく外国人労働力の受け入れ制度である特定技能制度と連動する形です。これにより、日本の外国人材受け入れ政策において、技能実習と特定技能という二本立てだった枠組みが一本化に近づくと言えます。育成就労期間は将来の特定技能就労者を育てる期間と明確化され、特定技能制度への橋渡しとして制度上組み込まれています。
  • 法改正と制度転換
    2024年6月に関連法改正が成立し、技能実習制度から育成就労制度への転換が法律上決定しました。具体的には、入管法(出入国管理及び難民認定法)および技能実習法の改正によって、技能実習という在留資格を廃止し、新たに育成就労という在留資格を設ける内容です。技能実習1号〜3号は廃止され、「育成就労」という単一の在留資格に一本化されます。この在留資格で認められる活動は、あらかじめ認定を受けた「育成就労計画」に基づいて特定の産業分野で就労し技能を身に付けること、と定義される見通しです。

以上のように、技能実習生は制度上「研修生」であり一時滞在者という位置付けでしたが、育成就労では最初から将来の労働力候補として迎え入れる位置付けとなります。在留資格としても、技能実習から育成就労へ名称も性格も変わり、日本の外国人労働者受け入れ制度の中で果たす役割が変化します。

 

 

受け入れ期間と在留期間・更新の仕組み

受け入れ期間と在留期間・更新の仕組み

どれくらいの期間、在留・就労できるのかという点も両制度で大きく異なります。また、その期間の区切り方や更新(延長)の条件も変更されています。

  • 技能実習制度の受け入れ期間
    技能実習生として在留できる期間は、最長5年間と定められていました。ただし一度に5年ではなく、技能習熟度に応じて段階的に更新します。具体的には技能実習は「1号(1年目)」「2号(2年目〜3年目)」「3号(4年目〜5年目)」の3段階に分かれており、それぞれ在留期間は1年、2年、2年でした。1号実習(入国後1年目)修了前、2号実習(3年目修了前)には所定の技能検定試験に合格することが求められ、試験に合格しなければ次の段階へ進めない仕組みでした。例えば1号の終了時に基礎級の技能検定試験に合格すれば2号への在留延長が可能、2号終了時に3級相当の試験合格等の条件を満たせば3号(さらに2年)への延長が可能、という流れです。なお、3号実習まで修了すると通算5年になりますが、多くの国と結んだ二国間協定により、優良な実習生は5年目まで在留が認められる枠組みが整えられていました。
  • 育成就労制度の受け入れ期間
    育成就労として在留できる期間は、原則として最長3年間とされています。技能実習制度より短い期間設定ですが、これは特定技能1号への移行を前提としているためです。技能実習のように段階分けはなく、1つの在留資格で通算3年まで就労が可能です。中途で在留資格自体を変更することなく、連続して3年間の育成と技能習得を行うことが想定されています。ただし、育成期間中に一定の節目で評価・試験を受ける必要があり、1年目終了時までに基礎的な試験受験、最終的に3年以内に所定の試験合格が求められます。
  • 更新(延長)の仕組みの違い
    技能実習では1年ごと(または2年ごと)に在留資格を更新し、各段階に進む形式でした。監理団体や実習実施者は、段階ごとに新たな技能実習計画の認定を受け、入管で在留期間更新の手続きを行う必要がありました。一方、育成就労では最初から3年間の育成計画を作成・提出し、それが育成就労機構によって認定されます。この計画には、3年間で習得させる技能内容や育成手順が明記され、企業はその計画に基づいて育成を実施します。なお、在留資格としての「育成就労」は3年間固定であり、技能実習のように段階名称が変わることはありません。
  • 試験不合格時の措置
    技能実習では、所定の技能検定に合格しないと次段階に進めず、そのまま帰国となっていました。育成就労では、この点において一定の救済措置が設けられる予定です。具体的には、最終試験に不合格であっても、同じ受け入れ機関で引き続き就労を希望する場合に限り、最長で1年間の在留延長が認められます。この延長は再試験のチャンスを確保するためのものであり、恒久的な在留ではなく、再延長は基本的に認められません。不合格者が即帰国となる事態を防ぐための配慮ですが、結果として合格しなければ日本での就労は継続できない点は従来と同様です。

まとめると、技能実習は最大5年(通常は3年)で段階的に更新する仕組みだったのに対し、育成就労では最長3年(条件により最大4年)で一貫した計画を実施する形式です。制度設計上も、特定技能への接続が意識されており、単なる期間延長ではなく「一定水準の技能習得」が重視される点に違いがあります。

 

 

特定技能への移行のしやすさ(育成就労からのキャリアパス)

特定技能への移行のしやすさ(育成就労からのキャリアパス)

育成就労を終えた後、特定技能へスムーズに移行できるかどうかは新制度の肝と言えます。この点について、旧制度と新制度では大きな違いがあります。

  • 技能実習から特定技能へのルート(旧制度)
    技能実習制度と2019年開始の特定技能制度は別個の仕組みとしてスタートしましたが、実質的には技能実習修了生を特定技能に移行させることが想定されていました。技能実習2号を良好に修了した場合、特定技能1号への移行時に技能試験の一部が免除されるという優遇措置がありました。ただし日本語試験は別途受験が必要です。また、実習先と同じ企業に再雇用されるか、新たな企業で採用される必要がありました。制度としては移行ルートが存在していたものの、本人と企業の希望が合致しなければ実現せず、実際には帰国する実習生も多く、移行率は限定的でした。
  • 育成就労から特定技能へのルート(新制度)
    育成就労制度では、特定技能1号への移行が制度の設計段階から明確に組み込まれています。育成期間中に所定の技能評価試験と日本語能力試験(N4相当以上)に合格すれば、そのまま特定技能1号の在留資格に変更することが可能です。この構造により、育成就労は単なる一時的な滞在ではなく、将来の労働力確保につながるキャリアパスとして機能します。
  • 試験合格が必須条件
    技能実習では3年間勤め上げれば移行が可能という側面がありましたが、育成就労では移行の要件がより明確かつ厳格になります。必ず試験に合格しなければ特定技能へ進めないため、企業は外国人労働者を計画的に指導し、合格に向けた支援を行う責任を負います。制度上の要件として、受け入れ企業は合格までの育成体制を確保しておく必要があります。
  • 移行のしやすさを高める制度設計
    育成就労計画の中で、あらかじめ特定技能移行を見据えた育成内容や試験スケジュールを設定できるため、外国人本人にとっても企業にとっても、試験合格までの流れが予測しやすくなります。また、特定技能制度側でも、育成就労からの受け入れを想定した分野・制度調整が行われており、制度全体が連携した形で移行を支援する構造となっています。
  • 同一企業での継続雇用
    育成就労から特定技能への移行は、原則として同じ企業での就労継続が前提とされます。これは受け入れ企業にとって、長期的に戦力となる人材を計画的に育成できるメリットとなります。ただし、移行後に転職すること自体は、特定技能制度のルールに基づいて可能です。
  • 制度全体での位置付け
    育成就労3年に加え、特定技能1号で最大5年、さらに一部分野では特定技能2号によって無期限の在留と家族帯同が可能となるため、最大で8年以上の在留が可能です。技能実習制度では最大5年で終了することが多かったのに対し、育成就労制度ではより長期的な労働力として活躍できる道が開かれています。

このように、新制度では特定技能への移行がオプションではなく制度の柱として組み込まれており、外国人材の長期就労・戦力化を後押しする仕組みが整備されています。

 

 

就労可能な職種・分野の範囲

受け入れ期間と在留期間・更新の仕組み

次に、どのような職種・産業分野で受け入れが可能かという違いについて説明します。技能実習制度と育成就労制度では、対象となる職種・分野の設定方法が変わります。

  • 技能実習制度の職種範囲
    技能実習制度では、受け入れ可能な職種・作業が法令で定められていました。具体的には、農業、漁業、建設、食品製造、機械・金属加工、繊維・衣服、介護など、多岐にわたる業種について約140職種・従事作業が認定されていました。これらの職種は各業界団体からの申請等に基づき追加されてきた経緯があり、必ずしも一貫した基準ではなく、業界ごとの事情が反映されていました。技能実習の職種は「技能移転が適当」と認められたものという建前でしたが、実際には人手不足の業界が対象職種に加わることを希望し、対象分野が拡大していった背景があります。
  • 育成就労制度の受け入れ分野
    育成就労制度では、対象職種・分野をゼロベースで見直す方針が示されています。技能実習制度の職種リストをそのまま引き継ぐのではなく、新たに「育成就労産業分野」として設定し直すとされており、特定技能制度の特定産業分野のうち、育成就労を通じて技能習得させるべき分野に限るという考え方が採用されます。

つまり、特定技能で受け入れている14分野(介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造、電気電子情報、建設、造船舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造、外食業)をベースに、国内での育成に適さない分野は除外される予定です。たとえば、熟練技能や資格が必要で、事前に相当の経験がなければ業務に就けない業種などは、育成就労では対象外となる可能性があります。こうした分野では、特定技能での直接受け入れは可能でも、育成就労制度の対象にはならないといった線引きが行われる見込みです。

  • 新たな分野追加の動き
    2024年には、政府の閣議決定によって特定技能の受け入れ分野がさらに4分野追加されることが決まりました。今後も、技能実習で受け入れていた分野の実態などを踏まえ、特定技能の受け入れ対象は順次拡大される見込みです。一方で、技能実習で認められていたが特定技能制度の対象外となっている職種は、今後廃止される可能性もあります。たとえば、伝統工芸や一部の食品加工など、特定技能に含まれない職種が整理対象になるといったケースが想定されます。
  • 季節性のある分野への対応
    育成就労制度では、農業や漁業など季節によって繁閑の差が大きい産業分野において、派遣形態での受け入れが認められる方向で検討されています。技能実習制度では、受け入れ先企業が直接雇用する必要があり、派遣は原則禁止されていましたが、新制度では通年雇用が難しい分野での人材活用を可能にするため、特定の派遣会社が育成就労者を雇用し、繁忙期に複数企業へ派遣するといった仕組みが導入される可能性があります。これにより、農閑期や漁期外においても働く場を確保でき、外国人労働者にとっての雇用の安定性が高まることが期待されます。

まとめると、技能実習制度では非常に多様な職種が認定されていましたが、育成就労制度では特定技能制度との整合性を重視し、より限定的な分野に絞り込まれる見通しです。単に人手不足の補填を目的とした分野や、育成の必要性が薄い分野は対象外となる可能性があります。なお、2024年時点では対象職種リストはまだ確定しておらず、今後主務省令等で正式に発表される予定です。企業にとっては、自社の業種が新制度で対象となるかどうかを早めに確認し、対象外であっても特定技能や他の在留資格での受け入れなど、代替策を検討することが重要となるでしょう。

 

 

労働条件・待遇の違い

労働条件・待遇の違い

外国人労働者の労働条件や待遇に関して、制度上の原則は技能実習も育成就労も共通する部分が多いですが、新制度では問題点を踏まえた改善策が講じられる見込みです。ここでは、賃金や労働時間、福利厚生などの面での違いや新制度での強化点について解説します。

  • 基本的な労働法令の適用
    技能実習生であっても日本の労働者であることに変わりはなく、労働基準法や最低賃金法、労働安全衛生法などの労働関係法令は日本人労働者と同様に適用されます。これは育成就労制度でも同じです。したがって、最低賃金以上の賃金支払い、時間外労働に対する割増賃金、安全な就業環境の確保など、法律上の待遇は日本人と同等が原則です。技能実習だから低賃金で良いということは本来なく、同種の業務に従事する日本人と同等額以上の報酬を支払うことが技能実習制度でも求められていました。新制度でもこの点は維持され、育成就労者にも最低限日本人と同等以上の賃金を保証する必要があります。
  • 待遇面の課題(技能実習制度)
    技能実習制度では、賃金未払いや長時間労働、劣悪な宿舎環境などの問題が現実に多く見られました。その結果、「技能実習生=低賃金で酷使される」というイメージが国内外で定着してしまった側面があります。制度上は守るべきルールが整っていても、受け入れ企業による違反や逸脱が後を絶たず、それを監理する監理団体や行政のチェック体制も十分とは言えない状況でした。また、技能実習生は入国後1ヶ月ほどの講習期間中は「研修員」として扱われ、その間の手当が極端に少なくなることがありました。実習先でのOJT期間も実質的に最低賃金ギリギリの水準にとどまり、さらに寮費や食費の控除が大きく、手取りがごくわずかになってしまうといった事例も指摘されています。
  • 育成就労制度での待遇改善策
    新制度では、こうした問題点を踏まえ、労働条件の適正化が制度設計上から進められる見込みです。大きなポイントの一つは、外国人本人が来日前に多額の借金を負わなくても済むようにすることです。技能実習では、送り出し機関などに対して高額な手数料を支払うケースがあり、それが返済負担となって不当な待遇でも我慢せざるを得ない状況を生んでいました。育成就労制度では、送り出しにかかる費用を日本側の受け入れ企業が負担することで、本人の経済的負担を軽減する仕組みが導入されます。これにより、外国人労働者が不当な待遇に対しても声を上げやすくなり、泣き寝入りするケースの減少が期待されます。
  • 日本語能力向上による待遇改善効果
    育成就労制度では、日本語教育の充実も重要な柱となります。入国前に100時間以上の日本語教育を受けることや、入国後も3年間で合計100時間以上の学習機会を設けることが制度上求められます。これらの教育費用は受け入れ側が負担し、日本語能力の底上げを図ります。日本語力が向上することで、外国人労働者は自ら労働法に関する知識を得やすくなり、問題発生時にも適切に相談・対応ができるようになります。言葉の壁が低くなることで、不当な待遇の是正にもつながりやすくなります。また、職場での定着や業務理解が進むため、職務内容や昇給の機会の向上にもつながることが期待されます。
  • 待遇面の監督強化
    新制度では監理体制の強化も図られます。育成就労制度で監理団体に代わる「監理支援機関」には、外部監査人の設置が義務付けられる予定で、第三者の視点から受け入れ企業の労務管理がチェックされる体制が整えられます。また、不適正な待遇を放置するような企業や支援機関に対しては、厳しい行政指導や認定の取り消しなどの措置が取られる見込みです。例えば、不法就労を助長するような行為に対しては、罰則の強化も予定されています。さらに、育成就労計画の認定においても、賃金水準や労働時間の適正さが厳しく審査されるようになり、一定基準を満たした「優良な受け入れ企業」には手続きの簡素化などのインセンティブも与えられる仕組みが検討されています。
  • 転籍制度による間接的効果
    育成就労制度では、一定の条件を満たすことで外国人本人の希望による転籍(転職)が認められる制度が導入されます。これにより、待遇が悪い企業に対しては人材が定着せず、逆に環境の良い企業へと人材が移動するという流れが生まれる可能性があります。これは企業側にとっては、適切な労働環境を維持しようというインセンティブにつながり、結果として制度全体の健全化にも寄与すると考えられます。技能実習では転職がほぼ不可能だったため、受け入れ企業の対応が不十分でも実習生が逃げ場を失うという構造的な問題がありましたが、新制度ではこのような不均衡の是正も図られています。

まとめると、技能実習・育成就労のいずれの制度でも、法律上は日本人と同等以上の待遇が原則とされていますが、新制度ではこの原則が現場でより適切に運用されるよう、多角的な工夫と監視体制の強化が盛り込まれています。企業側には適正な対応と環境整備が求められる一方で、優秀な人材を長期的に戦力化できるチャンスも広がるため、「安く使う」から「育てて活かす」への発想転換が鍵となるでしょう。

 

 

権利保護と支援体制の違い

海外の受け入れ企業・機関との連携

外国人本人の権利保護策や、受け入れに伴う支援体制にも大きな見直しが入ります。技能実習制度で問題となっていた人権侵害やトラブルへの対応策が、育成就労制度では強化・改善される予定です。

  • 技能実習制度における権利保護の課題
    技能実習生の権利保護に関しては、失踪や人権侵害事件が相次いだことで国内外から批判されてきました。具体的には、パスポートや在留カードを実習先に取り上げられる、暴言・暴行を受ける、妊娠したら帰国を強要されるといった人権侵害事案が報じられています。また、実習生が賃金不払いや過重労働といった労働基準法違反の被害に遭っても、言葉の壁や契約上の縛りから救済を求めにくい状況がありました。監理団体や送り出し機関が形だけの相談窓口になってしまい、実質的に実習生が孤立してしまうケースも指摘されています。政府も改善策を講じてきましたが、制度の構造上「帰国前提」であるため、転職で逃れることもできず、耐えかねた実習生が失踪する問題が後を絶ちませんでした。
  • 育成就労制度での権利保護強化
    新制度ではこれらの問題に対し、複数の権利保護策がセットで導入されます。最大の特徴は、本人の希望で一定条件下において受け入れ先を変更できる、転籍(転職)の容認です。これにより、ブラック企業から合法的に逃げ出せる仕組みが整い、「逃げ場がなく失踪するしかない」という状況の改善が図られます。また、「やむを得ない事由による転籍」の範囲も広がり、人権侵害や契約違反などがあった場合に柔軟な対応が可能になります。

さらに、監理・支援機関や受け入れ企業に対する要件の厳格化も進められます。監理支援機関(旧監理団体)には外部監査が義務付けられ、第三者による継続的な運用チェックが行われます。加えて、受け入れ企業に対しても、日本語教育の提供や分野別協議会への加入といった新たな要件が課されます。問題発生時に迅速に対応できる体制を整えることが求められ、育成就労計画の認定要件としても重要視されます。

また、送り出し国でのトラブル防止にも取り組みます。企業が送り出し機関に支払うことで、外国人本人が高額な保証金や違約金契約を負わないような仕組みに見直されます。政府間協議により、違反する送り出し機関の認定取消しなどの対応も講じられる予定です。

  • 支援体制の違い
    技能実習制度では、生活面・就業面の支援は主に監理団体が担っていましたが、その質にはばらつきがあり、形骸化しているケースもありました。一方、特定技能制度では、登録支援機関が制度として整備され、生活オリエンテーションや定期的な面談などが義務付けられています。

育成就労制度では、この両制度のよいところを取り入れ、「監理支援機関」という新しい形で支援体制が整備されます。監理支援機関は、監督だけでなく、育成就労者への支援にも責任を持つことが明確に定められます。名称の変更にとどまらず、職員配置や支援内容の見直しが実施され、支援の質を担保する体制が構築されます。

また、受け入れ企業自身にも、支援責任が課されます。日本語教育や生活支援などについては、企業が直接行うか、登録支援機関などに委託して実施する必要があります。特定技能への移行後は、登録支援機関による継続的なサポートが行われ、育成就労期間中から特定技能就労者として働く段階まで、支援が途切れることなく提供されます。

  • 相談・苦情対応
    技能実習制度では、外国人技能実習機構(OTIT)による24時間対応のホットラインが設置されていました。育成就労制度でも、この仕組みは継承され、改組された育成就労機構が相談窓口業務を引き続き担う見込みです。さらに、特定技能制度で整備された入管庁の多言語相談窓口や、地方自治体による相談体制とも連携し、よりアクセスしやすい支援環境の構築が進められます。

今後は、権利侵害の事案に対して、行政機関が積極的に情報を収集し、立ち入り検査や改善指導を行う体制が強化されます。監理支援機関や受け入れ企業に対する監督権限も見直され、制度の実効性が高まることが期待されます。

このように、育成就労制度では、外国人本人の権利を守るための法的枠組みや支援体制が大きく見直されます。転籍容認、支援の強化、監督の強化といった多層的な施策によって、外国人も企業も安心して協力し合える仕組みが整えられていくことになるでしょう。

 

 

転職(転籍)の可否と条件

インドネシア人技能実習生・特定技能人材需要急増の背景と採用のポイント

受け入れ途中で外国人が他の受け入れ企業へ移ることができるか、すなわち転籍(転職)の可否について、これは旧制度と新制度の違いが顕著に表れるポイントです。

  • 技能実習制度下での転籍
    技能実習制度では、原則として転籍(実習先の変更)は認められていませんでした。実習生は当初の受け入れ企業で実習を完遂することが前提で、途中で他社に移ることはできない契約となっています。例外的に、「やむを得ない事情」がある場合には転籍が可能でしたが、これは主に受け入れ企業側の事情(倒産、事業廃止、災害による業務継続不能など)に限られていました。実習生本人の都合・希望で転職することは一切認められておらず、仮に職場環境が劣悪でも逃げ出すには失踪するしかありませんでした。この転籍禁止の原則は、技能実習制度が「教育・研修」であり、労働者の自由な職業選択を前提としない特殊な位置付けであったためですが、結果として技能実習生の人権を著しく制限する要因となっていました。
  • 育成就労制度での転籍
    新制度では、一定の要件の下で外国人本人の希望による転籍が認められることになりました。これは技能実習制度から大きく前進した点です。ただし、無条件に自由というわけではなく、あくまで例外措置として要件が定められています。政府は「3年間一つの受け入れ機関で計画的に育成するのが望ましい」との立場を示しつつも、法改正に際して転籍希望申出に関する規定を新設しました。

転籍容認の主な条件は以下の通りです。

  1. 同一の業務区分内であること
    転籍先の企業は、現在の企業と同じ産業分野・業種の業務を行っている必要があります。育成就労計画で定めた技能習得の連続性を確保するためで、異業種への転籍は認められません。例えば農業法人から農業法人への転籍は可能ですが、農業から介護への変更は不可とされます。
  2. 一定期間以上、現在の企業で就労していること
    転籍を認めるには、現職の企業で一定年数(1〜2年程度)以上働いていることが条件とされます。具体的な年数は分野によって異なる可能性がありますが、いずれにしても入国してすぐの転籍は不可で、まずは現在の職場でしっかり働くことが前提です。
  3. 技能検定基礎級および日本語試験に合格していること
    転籍申請時点で、技能検定基礎級などの基本的な技能試験と、日本語能力試験(A1〜A2レベル以上)に合格していることが求められます。これは、一定の技能とコミュニケーション力を証明するためであり、まだスキルや語学力が不足している段階での安易な転職を防止する狙いがあります。
  4. 転籍先企業が適正な受け入れ企業であること
    転籍先となる企業も、育成就労を適正に実施できる能力・基準を満たしており、新たに育成就労計画の認定を受ける必要があります。つまり、転籍先企業も国の許可を受けた受け入れ機関でなければなりません。
  5. 転籍に伴う費用分担の仕組み
    転籍が認められる場合には、元の受け入れ企業が負担した初期コストに対する補填策も検討されています。たとえば、転籍先の企業が初期費用の一部を負担することで、元の企業側の不満や不公平感を緩和することが目的です。
  • 「やむを得ない事情」の拡大
    本人の希望による転籍とは別に、「やむを得ない事情」がある場合にも柔軟に転籍が認められるようになります。たとえば、受け入れ企業によるハラスメントや労働条件の重大な違反、契約内容と著しく異なる待遇などが該当します。これまでの技能実習制度では、明らかに不当な扱いを受けていても実習生本人に転職という選択肢はなく、失踪や不法就労に陥るしかなかったケースもありましたが、新制度ではこうした事態を回避する仕組みが制度的に用意されます。
  • 転籍制度の影響
    転籍制度が導入されることは、外国人にとって大きな心理的安心をもたらします。仮に今の職場に不満があっても、一定の条件を満たせば正規の手続きを経て職場を変えられるという選択肢があるため、過度なストレスや失踪を防ぐ効果が期待されます。一方、企業にとっては、育てた人材に辞められてしまうリスクもあるため、より良い職場環境を提供する努力が求められます。待遇改善や職場の雰囲気づくりなど、外国人が長く働きたいと思える環境づくりがこれまで以上に重要になります。
  • 転籍のハードル
    とはいえ、誰もが気軽に転職できるわけではなく、一定のハードルが設けられています。技能や語学力、就労期間の要件を満たす必要があるため、制度としてはバランスの取れた仕組みです。悪質な仲介業者やブローカーによる人材争奪や不正な転籍が起こらないよう、政府は厳格な監視体制や罰則規定を強化していく方針です。

まとめると、技能実習制度では転籍は原則禁止されていたのに対し、育成就労制度では条件付きで本人希望の転籍が認められるようになります。これは、外国人労働者の権利を尊重するという点で非常に大きな改革であり、適切に運用されれば、外国人も企業もより良い関係を築ける環境が整っていくことが期待されます。

 

 

監理団体・登録支援機関の役割の変化

急増するインドネシアの送り出し機関の背景

外国人受け入れに関わる周辺組織の役割も新制度で見直されます。技能実習制度では送り出し機関・監理団体が重要な役割を担っていましたが、育成就労制度では監理団体が「監理支援機関」へと名称変更され、その機能や責任範囲が変化します。また、特定技能制度で登場した登録支援機関との関係も整理・明確化されます。

  • 技能実習制度における監理団体
    技能実習の大多数は、企業単独型ではなく監理団体型で行われています。監理団体とは、商工会や協同組合などの非営利法人で、送り出し機関と提携して実習生を募集・選抜し、日本の受け入れ企業とのマッチング、入国後の支援や指導、定期訪問による監査などを行ってきました。監理団体は外国人技能実習機構(OTIT)からの許可を得ており、制度運営の中核を担っていました。ただし一部には、実習生から不当な手数料を徴収したり、企業への指導が不十分だったりする問題が指摘されてきました。JITCOやOTITと連携しながら、主に企業への監督と実習生への日常支援を担ってきたのが従来の監理団体の姿でした。
  • 育成就労制度での監理支援機関
    新制度では、監理団体は「監理支援機関」と名称が変更され、監督だけでなく支援も重視する役割が明確化されます。基本的には、現在の監理団体が監理支援機関として再許可を受け、制度の担い手となる見込みですが、その許可基準はより厳しくなります。たとえば、職員数や財務の健全性、過去の実績に加え、外部監査の受け入れや支援体制の質などが審査対象になります。能力と倫理水準を満たす機関だけが存続できる仕組みとすることで、悪質な仲介業者を排除し、制度の信頼性を高める狙いがあります。

監理支援機関の主な役割は、育成就労計画の作成補助や提出代行、受け入れ企業への指導監督、育成状況の確認、相談対応、日本語学習支援など多岐にわたります。また、転籍希望があった場合の手続きサポートや、新規企業の開拓、再マッチングなどの支援も求められます。監理支援機関は育成就労機構(OTITが改組予定)から定期的に監査を受け、不適切な対応があれば許可取消し等の処分対象となります。一方で、適正な対応を継続する優良機関には、監査頻度の緩和などのインセンティブが与えられる可能性もあります。

  • 登録支援機関との関係
    登録支援機関は、特定技能制度において特定技能外国人の支援業務を担う民間機関です。受け入れ企業が自社で支援できない場合に、生活オリエンテーション、公的手続きの同行、日本語教育などの支援を代行します。育成就労制度の期間中は「登録支援機関」という枠組みは使われませんが、育成就労が終了して特定技能に移行した際には、支援を引き継ぐ役割として登録支援機関が登場します。

多くの監理団体はすでに登録支援機関としても届出を行っており、育成就労から特定技能へ移行する外国人への一貫支援が実現しやすくなっています。外国人にとっては支援担当者が変わらないことで安心でき、企業にとっても再委託先を探す手間が省けるというメリットがあります。

また、新制度では企業に対して分野別協議会への加入が義務づけられる予定です。これらの協議会は各産業分野の業界団体などが運営しており、外国人材の育成や支援に関する情報共有・ノウハウ蓄積の場として機能します。監理支援機関や登録支援機関もこれらに参加することで、支援の質が全体として底上げされることが期待されます。

監理支援機関と登録支援機関の役割は制度上異なりますが、育成就労から特定技能へのスムーズな移行を支える両輪として、今後は連携と情報共有がより一層求められるようになります。

  • 送り出し機関の役割
    制度上は日本国内の話ではありませんが、外国人の送り出し国に存在する送り出し機関の役割も新制度で変化します。技能実習では、送り出し機関が人材募集、選抜、日本語教育、マナー指導などを担っており、本人と契約を結び多額の手数料を徴収するケースも見られました。

新制度では、日本側企業が送り出しにかかる費用を負担する方向に変わることで、外国人本人の経済的負担が軽減され、送り出し機関との不当な契約が問題になりにくくなると期待されています。また、日本政府は送り出し前の教育内容にも関与を強め、質の高い人材の受け入れを推進する方針です。

今後は、日本側の監理支援機関と送り出し機関が連携し、候補者の日本語教育状況や適性評価などの情報を共有する体制の整備が求められます。悪質な送り出し機関の排除と、良質なパートナーとの協力体制づくりが、制度全体の質向上に直結する重要な課題となります。

まとめると、新制度では監理団体(監理支援機関)の責任範囲が明確化・拡大され、登録支援機関との役割分担にも一貫性が出てきます。制度全体として信頼できる機関のみが存続できる仕組みとなり、外国人の育成と定着を支える体制がより強化されていきます。企業にとっては、信頼できる監理支援機関や登録支援機関とパートナーシップを結ぶことが、今後ますます重要になるでしょう。

 

 

企業にとってのメリットと留意点

1. 技能実習制度・特定技能制度の背景と近年の制度改革・統計動向

最後に、受け入れ企業の視点から見た新旧制度のメリット・デメリット、および新制度移行に際して注意すべきポイントを整理します。外国人材を受け入れる日本企業にとって、育成就労制度への切り替えは何をもたらすのかを考えてみましょう。

  • 技能実習制度における企業側メリット・課題
    従来の技能実習制度では、企業にとって比較的低コストで労働力を確保できる点がメリットとされてきました。特に単純労働分野で若年層の日本人労働力が不足する中、海外から意欲ある実習生を受け入れることで人手不足を補い、生産ラインを維持できる利点がありました。また、実習生は最長でも5年で帰国するため人件費の長期的な膨張リスクが低く抑えられるという見方もありました。

一方で、技能実習制度には書類手続きや監査対応などの事務負担が大きいという課題もありました。受け入れ前の申請や入国手続き、帳票整備、監理団体やOTITの検査など、日常業務に加えて対応すべきことが多く、人事担当者への負担が増す傾向にありました。また、ようやく戦力化した頃に帰国してしまう実習生が多く、継続的な戦力確保につながりにくいという面もありました。さらに、昨今は制度への世間の目が厳しくなっており、不適切な運用が企業イメージの悪化に直結するリスクも高まっていました。

  • 育成就労制度への期待されるメリット
    • 長期的な人材確保
      育成就労から特定技能1号、そして一部分野で特定技能2号へと進めば、最大8年あるいはそれ以上の就労が可能になります。特定技能2号では家族帯同や更新無制限も認められており、熟練人材として長期的に定着させることも可能です。長期雇用が可能になることで、育成への投資が無駄にならず、企業の生産性や技術継承にも貢献する人材を確保できます。
    • 制度目的の明確化による受け入れやすさ
      育成就労制度では、目的が「人手不足分野への労働力確保」と明記されているため、企業としても研修という建前に縛られることなく、堂々と労働力として受け入れやすくなります。社内の理解や地域の協力も得やすくなり、組織全体で外国人材の受け入れを進めやすくなる点も大きな変化です。
    • 優良企業への手続き簡素化
      優良な受け入れ企業に対しては、育成就労計画の認定手続きの迅速化や受け入れ人数枠の拡大といった優遇措置が導入される予定です。制度運用の信頼性が高い企業には柔軟な運用が認められ、地方の中小企業にとっては都市部に比べて受け入れ枠が広くなる可能性もあります。
    • 外国人材の質の向上
      日本語力や技能水準に関する要件が導入されることで、受け入れ初期から一定のコミュニケーション能力や基本技能を備えた人材が増えます。1年以内に基礎級の技能検定合格を目指す仕組みや、日本語N5相当の水準が求められることにより、現場での指導や連携がしやすくなり、育成負担が軽減されます。
    • 人材流動性の向上(ミスマッチ解消)
      転籍制度の導入により、適材適所の配置が可能になります。現場に馴染めない人材が無理に留まるよりも、転籍によって他企業に移動できることで全体の人材配置の最適化が進みます。企業にとっても、新たな人材を受け入れるチャンスが増えることになり、柔軟な人材活用が可能となります。
  • 企業側の留意点・デメリット
    • 受け入れコストの増加
      送り出し費用を企業が負担する方式となり、これまでより初期費用が高くなる可能性があります。また、日本語教育の手配や試験対応など、育成に必要なコストや時間も企業負担となる場面が増えます。これまで「安価な労働力」として期待されていた外国人材に対して、戦力としての投資という視点が必要になります。
    • コンプライアンス遵守の重要性
      新制度では監督体制が強化され、違反行為が発覚すれば受け入れ停止や社名の公表などの厳しい処分を受ける可能性があります。特に転籍が可能になることで、労働環境が不適切であればすぐに人材が離れるというリスクもあり、企業はより一層、法令遵守と働きやすい環境整備に注力する必要があります。
    • 転籍リスクへの対応
      一定条件を満たせば育成就労者は他企業へ転籍可能となるため、育成した人材が別の企業に移ってしまうリスクも発生します。このため、企業側には「離れたくない」と思わせるような職場づくりが求められます。待遇、キャリアアップの仕組み、日本人社員との関係性など、全体としての満足度向上が必要です。
    • 制度移行期の対応
      2027年以降は育成就労と技能実習が併存する期間となるため、社内で制度ごとの運用ルールを混同しないよう注意が必要です。社内の担当者には制度の正確な理解と、移行対応の柔軟性が求められます。特に、帳票や行政手続き、対象資格の違いなどについての研修を早期に行っておくことが望ましいでしょう。
    • 期待値コントロール
      育成就労者が全員スムーズに特定技能に移行できるとは限りません。試験に合格できないケースや、本人の家庭事情で帰国する例も想定されます。制度の理想だけを信じて人材戦略を立てるのではなく、移行失敗や途中離脱のリスクも加味した計画的な受け入れが求められます。

 

 

新制度への移行スケジュールと最新情報

7. 他国(ベトナム・ミャンマーなど)との比較分析(供給不安・失踪問題など)

最後に、育成就労制度への制度移行のスケジュールと、2023年以降の最新の動きを整理します。

  • 法改正と施行時期
    2024年6月14日、入管法および技能実習法の改正法が国会で可決・成立し、技能実習制度を育成就労制度へ移行することが正式に決まりました。改正法では、公布日から3年以内に新制度を施行すると定められており、2027年までに施行される予定です。政府は2027年4月の施行を目指して準備を進めています。
  • 経過措置(移行期間)
    新制度施行後、約3年間の移行期間が設けられる見込みです。この期間(おおよそ2027~2030年)は、技能実習制度と育成就労制度が併存し、制度移行による混乱を避けるための激変緩和措置が講じられます。具体的には、施行前から在留している技能実習生は、最長2029年または2030年まで現行制度で在留が可能となり、その間に新たな受け入れは育成就労制度で開始されます。2030年頃をめどに技能実習制度は完全に廃止され、以後は育成就労制度に一本化される予定です。
  • 既存実習生の扱い
    施行時点で技能実習生として在留している人については、原則として現行制度の下で在留を継続できますが、新制度への移行を促す方針も示されています。たとえば、1号実習中の実習生には所定の条件を満たすことで育成就労へ移行する道を開く、2号・3号実習中の者には特定技能への円滑な移行を支援する、といった措置が講じられると考えられます。企業としても、現在在籍する実習生には技能実習制度での対応を継続しつつ、希望者には育成就労や特定技能への移行を後押しするなど、柔軟な対応が求められます。
  • 詳細規則の策定
    2025年時点では、育成就労制度の具体的な運用細則はまだ策定中です。受け入れ対象分野の最終リスト、育成就労計画の認定要件、転籍手続きの詳細、評価試験の内容などは今後主務省令やガイドラインとして発表される予定です。これらの情報は入国在留管理庁や厚生労働省、監理支援機関などを通じて順次公開されます。不確定要素も多いため、受け入れ企業や関係機関は常に最新情報をチェックし、準備を進める必要があります。また、2025年から2026年にかけてパイロット事業や説明会が行われる可能性もあります。
  • 関係者への周知・教育
    制度移行に伴い、企業の人事担当者、現場の管理者、送り出し機関のスタッフ、監理支援機関の職員などを対象に、新制度に関する周知や研修が順次行われる予定です。育成就労機構や入管庁が制度解説資料やセミナーなどを提供し、新旧制度の違いや新たな運用ルールについての理解を促進する取り組みが行われます。受け入れ企業も、社内向けの勉強会や監理団体との情報共有などを通じて、制度変更への備えを早めに始めておくことが重要です。
  • 社会的影響
    育成就労制度への移行は、日本の外国人材受け入れ政策における大きな転換点となります。国際的に批判が多かった技能実習制度が廃止されることにより、日本に対する印象改善も期待されます。一方で、新制度が実効性を持つかどうかは現場での運用にかかっています。企業や支援機関が制度の趣旨を正しく理解し、外国人材を「使い捨ての労働力」ではなく「共に成長する人材」として迎え入れる姿勢が求められます。そのような関係構築が進めば、育成就労制度は本来の目的を果たし、日本社会における外国人材活用の新しい時代を築くことができるでしょう。

 

 

まとめ

育成就労制度は、技能実習制度の課題を踏まえ、より現場に即した制度として設計された新たな外国人受け入れ制度です。制度の目的が「国際貢献」から「人材確保」へと明確に転換され、在留資格や職種範囲も特定技能制度との連携を前提に再構築されました。

特に大きな違いとしては、特定技能への移行が制度設計に組み込まれた点、転籍が条件付きで認められるようになった点、監理支援体制が強化される点が挙げられます。企業にとっては人材の長期雇用が可能になる一方、受け入れ体制の整備やコンプライアンス対応がより重要になります。

制度施行は2027年予定で、現在は詳細ルールの整備が進められている段階です。2025年以降の動向を注視しながら、自社の体制を早めに整えておくことが、今後の外国人雇用戦略において重要な鍵となるでしょう。

 

 

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本記事で使用した単語の解説

技能実習制度
1993年に創設された外国人技能実習生の受け入れ制度。名目上は技能移転による国際貢献が目的とされていたが、実態としては日本国内の人手不足を補う制度として機能していた。

育成就労制度
2027年施行予定の新制度。技能実習制度に代わるもので、人手不足分野において外国人を育成・雇用することを目的とし、特定技能1号への移行を前提とする制度設計が特徴。

特定技能1号・2号
2019年に創設された在留資格制度で、1号は一定の技能と日本語能力が求められ、在留は最長5年。2号は熟練技能を要する業種に限られ、在留更新無制限で家族帯同も可能。

監理支援機関
技能実習制度における「監理団体」が、育成就労制度では「監理支援機関」として役割を拡大・明確化。監督だけでなく、日本語支援や生活支援など実務的な支援も担う。

転籍(転職)制度
技能実習制度では原則禁止されていたが、育成就労制度では一定の条件下で本人の意思による転籍が可能となる。これにより、劣悪な職場環境から合法的に離れることが可能になる。

よくある質問(FAQ)

Q1. 育成就労制度と技能実習制度の最大の違いは何ですか?
A1. 育成就労制度は日本国内の人手不足解消を主目的としており、特定技能制度への移行を前提に設計されています。一方、技能実習制度は建前上「国際貢献」を目的としていました。

Q2. 技能実習から育成就労に切り替えることはできますか?
A2. 技能実習制度が完全に廃止される2030年頃までは移行期間が設けられており、条件を満たせば育成就労制度や特定技能制度に切り替える道が用意されています。

Q3. 育成就労から特定技能1号へはどうすれば移行できますか?
A3. 所定の技能試験と日本語能力試験に合格すれば、育成就労から特定技能1号への在留資格変更が可能です。同じ企業での雇用継続が想定されています。

Q4. 転籍が認められる条件とは?
A4. 一定期間の就労実績、技能・日本語試験の合格、同一分野内での転籍先確保などが条件です。また、やむを得ない事情がある場合には柔軟に認められるケースもあります。

Q5. 企業は育成就労制度にどう対応すればよいですか?
A5.
自社が受け入れ対象職種に該当するかを確認し、監理支援機関との連携、日本語教育の実施、育成計画の準備などを早めに進めておくことが推奨されます。

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