3月 31, 2025 • インドネシア • by Delilah

インドネシアビジネスの最大の課題:汚職文化にどう向き合うか

インドネシアビジネスの最大の課題:汚職文化にどう向き合うか

インドネシアは東南アジアでも有数の成長市場として、多くの外国企業が注目しています。2億8000万人を超える人口と若年層の多さ、消費市場としてのポテンシャルは魅力的ですが、ビジネスを展開するうえで必ず直面するのが「汚職」という問題です。

この記事では、インドネシアの汚職の現状と構造的背景、そして企業活動への影響、さらには外国企業がどのようにリスクを回避しながら持続的に事業を展開していくべきかを詳しく解説します。

 

 

インドネシアにおける汚職の現状

インドネシアにおける汚職の現状

インデックスで見る汚職の深刻さ

インドネシアの汚職の深刻さを示す指標として、国際的な非政府組織であるトランスペアレンシー・インターナショナル(Transparency International:TI)が毎年発表している「腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index:CPI)」があります。 この指数は、各国の公的部門における汚職の度合いを0から100までのスコアで評価し、スコアが高いほど汚職が少ないことを示します。

2023年のCPIランキングにおいて、インドネシアは180か国・地域中93位であり、スコアは39点でした。 これは、前年と比較して順位が上がったものの、依然として汚職が深刻なレベルにあることを示しています。 同じ年のランキングでは、デンマークが90点で1位、日本は73点で16位となっており、インドネシアのスコアはこれらの国々と比べて低い水準にあります。

大型汚職事件の相次ぐ発覚

近年、インドネシアでは複数の大規模な汚職事件が明るみに出ています。主な事例を以下に挙げます。

  • 現職閣僚の逮捕: 2023年には、現職の大臣2名、副大臣1名、州知事2名が汚職容疑で逮捕されました。 特に、ジョニー・プラテ通信・情報相は携帯電話4G無線基地局の建設をめぐる汚職容疑で起訴され、11月の一審で禁錮15年の実刑判決を受けました。 また、シャフルル・ヤシン・リンポ農業相も収賄や資金洗浄の容疑で10月に逮捕されています。
  • 国営石油会社プルタミナの巨額汚職事件: 2025年2月、国営石油・ガス会社プルタミナに関連する大規模な汚職疑惑が明らかになりました。 検察庁は同社の子会社トップらを含む7名の容疑者を逮捕し、国家に約194兆ルピア(約2兆円)の損失をもたらしたとされています。
  • 汚職撲滅委員会(KPK)委員長の解任: 2023年、KPKのフィルリ・バフリ委員長が収賄容疑で逮捕され、12月に更迭されました。 これは、汚職撲滅を担う最高機関のトップ自らが汚職に関与していたという衝撃的な事件であり、KPKへの信頼性が大きく揺らぐ結果となりました。

これらの事例は、インドネシアにおける汚職の根深さと、その撲滅が依然として大きな課題であることを示しています。

 

 

インドネシアに汚職が根付く背景

インドネシアに汚職が根付く背景

インドネシアにおける汚職が根付く背景について、以下の3つの視点から詳しく解説いたします。

歴史的背景とスハルト時代の遺産

インドネシアの汚職問題は、1967年から1998年まで続いたスハルト政権下で深刻化しました。 この32年間の権威主義体制において、汚職、腐敗、縁故主義(KKN:Korupsi, Kolusi, Nepotisme)が蔓延し、国家財政や経済の非効率性が顕著となりました。

スハルト政権崩壊後、民主化が進展したものの、汚職の手法はより陰湿化し、官僚機構やビジネス界に深く根付いた体質は容易に変わりませんでした。

政治と司法の癒着

スハルト時代には、汚職撲滅委員会(KPK)の独立性と権限を弱める法改正が強行されるなど、政治と司法の癒着が問題視されていました。

また、司法機関内の汚職も深刻で、裁判所や裁判官への贈賄が頻繁に行われているとの報告があります。

インドネシア人の生活や文化

インドネシア社会では、汚職が文化や社会的慣習に関わっていると指摘されています。

また、多様な民族や文化が共存する社会構造の中で、地域やコミュニティ内の結びつきが強く、縁故主義や贈答文化が根付いています。 これらの要因が、汚職を容認する風土を形成していると考えられます。

これらの歴史的、政治的、文化的要因が複合的に絡み合い、インドネシアにおける汚職の根深さを形成しています。 汚職撲滅には、制度改革のみならず、社会全体の意識改革が不可欠です。

 

 

インドネシアで汚職が企業活動に与える影響

インドネシアで汚職が企業活動に与える影響

インドネシアにおける汚職は、企業活動に多大な影響を及ぼしています。以下に、その具体的な側面を詳しく解説いたします。

ライセンス取得や契約時の「非公式費用」

インドネシアでは、事業ライセンスの取得や政府との契約締結の際に、非公式な支払い、いわゆる賄賂が求められるケースが報告されています。 これらの非公式費用は、企業の運営コストを増加させるだけでなく、倫理的なリスクも伴います。 例えば、ある企業の上級幹部は、賄賂を支払わなくても事業ライセンスを取得できると考えていたものの、実際には日常的に少額の賄賂が要求される環境に直面し、事業運営に支障をきたす可能性があると懸念しています。

企業コンプライアンスと事業の進捗や成功とのジレンマ

汚職が蔓延する環境下で、企業はコンプライアンスの遵守と事業の円滑な進行との間でジレンマに直面します。 賄賂の要求に応じないことで、ビジネスチャンスを失ったり、競争で不利になることを懸念する企業も少なくありません。 一方で、賄賂に応じることは、企業の倫理観や法的リスクを高めることになります。 このような状況に対処するためには、企業が集団行動をとり、汚職に対抗する姿勢を示すことが重要です。

公共サービスの質の低下

汚職は公共サービスの質にも深刻な影響を及ぼしています。 例えば、公共サービスを迅速に受けるために賄賂が要求されるケースが報告されています。 このような状況は、企業活動においても、必要なサービスやインフラの提供が遅延する原因となり得ます。 さらに、司法制度における汚職も深刻であり、裁判所や裁判官への贈賄が頻繁に行われているとの報告があります。

これらの課題に対処するためには、企業が内部統制を強化し、従業員への倫理教育を徹底することが不可欠です。 また、現地の法規制を十分に理解し、適切なリスクマネジメントを行うことが求められます。 さらに、在インドネシア日本大使館や関連機関と連携し、汚職に関する情報共有や対策を講じることも有効です。

 

 

外国企業としての対応戦略

外国企業としての対応戦略

インドネシアにおける汚職問題は、外国企業にとって大きな課題となっています。 このような環境下で事業を成功させるためには、適切な対応戦略が不可欠です。以下に、外国企業が取るべき具体的な対策を詳しく解説します。

法令順守(コンプライアンス)の徹底

インドネシアでは、汚職撲滅法が施行されており、贈賄行為に対して厳しい罰則が科されています。 企業は、現地の法令を正確に理解し、遵守することが求められます。具体的な対策としては、以下が挙げられます。

  • 社内規程の整備: 贈収賄防止に関する明確なポリシーを策定し、全従業員に周知徹底します。 これにより、贈賄行為を行う動機を形成させないよう配慮することが重要です。
  • 内部監査の強化: 定期的な監査を実施し、コンプライアンスの状況をチェックします。 これにより、早期に問題を発見し、適切な対処が可能となります。
  • 通報制度の設置: 従業員が不正行為を匿名で報告できるホットラインを設け、不正の早期発見と是正を促進します。 通報者が不利益を被らないよう、適切な保護措置を講じることも重要です。

これらの取り組みにより、企業は法令順守を徹底し、汚職リスクを最小限に抑えることができます。

現地パートナーの選定に慎重を期す

現地企業との提携やビジネスパートナーの選定は、事業成功の鍵を握ります。 しかし、パートナーが汚職に関与している場合、共に責任を問われるリスクがあります。そのため、以下の点に注意が必要です。

  • デューデリジェンスの実施: 提携前に、相手企業の経営状況や過去の取引履歴、法令順守の姿勢などを徹底的に調査します。 これにより、リスクの高い企業との提携を回避できます。
  • 契約書への反汚職条項の挿入: 契約書に贈収賄防止に関する条項を明記し、違反時の対処方法を定めます。 例えば、「当社およびその取締役、役員、代理人は、インドネシアの適用される腐敗行為防止法または贈収賄防止法に違反して行動したことはなく、また、今後もありません。」といった条項を盛り込むことが考えられます。
  • 継続的なモニタリング: 提携後も、定期的にパートナー企業の活動を監視し、問題が発生した場合は迅速に対処します。

これらの対策を講じることで、信頼できるパートナーシップを築き、汚職リスクを低減できます。

社員教育と倫理意識の醸成

従業員が汚職に加担しないよう、企業文化としての倫理意識の醸成が不可欠です。具体的な取り組みとして、以下が挙げられます。

  • 定期的な研修の実施: 贈収賄防止や企業倫理に関する研修を定期的に行い、従業員の意識向上を図ります。 研修内容は、役職や部門に応じてカスタマイズし、具体的な事例を交えることで理解を深めます。
  • 倫理行動規範の策定と共有: 企業としての行動指針を明文化し、全従業員に配布します。 これにより、何が許容され、何が禁止されているのかを明確に伝えることができます。
  • 報奨制度の導入: コンプライアンスを遵守し、倫理的な行動をとった従業員を評価・表彰する制度を設けます。 これにより、従業員のモチベーションを高め、倫理的な行動を促進します。

 

 

インドネシアの汚職撲滅委員会KPKとは

KPK(Komisi Pemberantasan Korupsi)は、インドネシア語で「汚職撲滅委員会」を意味し、2002年に法律第30号に基づいて設立された国家独立機関です。目的は、インドネシアに深く根付いた汚職文化に対抗し、高官レベルの汚職を捜査・摘発・予防することです。

主な機能と権限

  1. 捜査・逮捕・起訴の権限を独自に保有
    KPKは検察や警察に頼らず、独自に汚職事件の捜査・逮捕・起訴を行う権限を持っています。これにより、従来の汚職に甘い司法機関とは異なる独立性が確保されています。
  2. 資産報告の監視
    公務員や政治家の資産報告(LHKPN)を管理し、不正な資産増加の監視も行っています。
  3. 汚職防止の啓発・教育活動
    汚職の再発を防ぐため、企業や学校などへの倫理教育や制度改革の提案も担っています。

これまでの成果

  • 2000年代後半〜2010年代前半にかけて、数多くの大臣や国会議員、知事、市長を摘発し、国民の信頼を集めました。
  • 例えば、元中央銀行総裁、元国会議長、元大統領候補などもKPKによって起訴されています。

近年の課題と批判

近年ではKPKに対する政治介入や制度の弱体化が問題となっています。

  • 2019年の法改正により独立性が低下:KPKは国家公務員扱いとなり、大統領府の下での監督を受けることになりました。
  • 2023年、KPK委員長フィルリ・バフリ氏が収賄容疑で摘発:汚職を摘発する側のトップが収賄に関与していたとして、大きな批判と失望を呼びました。

 

 

インドネシア社会の変化と希望

インドネシア社会の変化と希望

インドネシア社会は、長年にわたる汚職問題に直面しながらも、近年では変革と希望の兆しを見せています。以下に、その具体的な動向と今後の展望について詳しく解説いたします。

汚職撲滅への新たな取り組み

2024年12月、プラボウォ・スビアント大統領は、過去に汚職に関与した者が盗んだ資金を返還すれば恩赦を与える可能性があると表明しました。 これは、国家資産の回復と汚職の抑制を目的とした新しいアプローチとして注目されています。

汚職撲滅機関の積極的な活動

インドネシアの汚職撲滅委員会(KPK)は、金融サービス庁(OJK)や中央銀行(バンク・インドネシア)といった主要機関に対する家宅捜索を実施し、企業の社会的責任(CSR)基金の不正使用に関する調査を進めています。 これらの行動は、政府機関内の汚職に対する取り締まりを強化する姿勢を示しています。

社会の意識変化と市民の関与

汚職に対する社会的な意識も変化しています。 市民やメディアは、政府の汚職対策や透明性の向上に対する期待を高めており、これが政治的な圧力となっています。 例えば、警察の汚職事件が報じられた際には、観光業への影響を懸念する声が上がり、社会全体での汚職撲滅への関心が高まっています。

今後の展望と課題

これらの取り組みや社会の変化は、インドネシアにおける汚職問題の解決に向けた前向きな兆しといえます。 しかし、汚職は依然として根深い問題であり、持続的な改革と監視が必要です。 政府、企業、市民社会が一体となって、透明性と倫理性を重視する文化を築くことが、真の変革への鍵となるでしょう。

 

 

まとめ

インドネシアでの事業展開において、汚職は単なる障害ではなく、深く構造化された社会的課題です。

本記事では、汚職の現状を示す国際指標や具体的な事例、歴史的・文化的背景、企業活動に及ぼす影響を整理し、企業が取りうる対策についても解説しました。特に重要なのは、コンプライアンスの徹底、パートナー選定の慎重さ、従業員への教育と倫理の浸透といった対策です。

また、社会全体にも徐々に変化が起こっており、市民の意識や若年層の価値観にも変化の兆しが見えています。インドネシアで成功するためには、現地の課題を深く理解し、それに対して誠実かつ継続的に向き合う姿勢が欠かせません。

 

 

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本記事で使用した用語の解説

腐敗認識指数(CPI)
トランスペアレンシー・インターナショナルが毎年発表する指標で、各国の公的部門における汚職の度合いを0〜100点で評価する。点数が高いほど汚職の少ない国とされる。

KPK(汚職撲滅委員会)
インドネシアの独立系反汚職機関で、政治家や企業幹部を対象に汚職の摘発を行ってきた。近年はその独立性に疑問の声も上がっている。

KKN(Korupsi, Kolusi, Nepotisme)
インドネシア語で汚職・癒着・縁故主義のことを表す略語。スハルト政権時代に蔓延した体制的な不正の象徴的表現として現在も使われる。

CSR基金
企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)として拠出される資金。時に官僚や関係者によって不正に使用されることがある。

デューデリジェンス
企業が提携や投資を行う前に、相手の財務・法務・コンプライアンス状況などを調査する行為。不正リスクの排除において重要な手続きとされる。

 

 

FAQ(よくある質問)

Q1:インドネシアで事業を始めるとき、最初に気を付けるべきことは何ですか?
A1:まずは現地法制度を理解し、贈収賄や不正取引を避けるための社内ポリシーを明確に整備することが必要です。また、契約書には反汚職条項を盛り込むべきです。

Q2:贈り物や謝礼も汚職にあたるのでしょうか?
A2:商習慣としての贈り物や謝礼でも、それが業務上の便宜供与と見なされる場合は汚職とみなされる可能性があります。形式的な文化と実質的な贈収賄の線引きを明確にする必要があります。

Q3:現地パートナーが汚職に関与していた場合、自社も罰せられるのですか?
A3:はい。共同責任を問われる可能性があります。そのため、事前の調査(デューデリジェンス)と契約書による予防措置が極めて重要です。

Q4:現地スタッフにもコンプライアンス教育は必要ですか?
A4:もちろんです。汚職防止は経営層だけでなく、現場スタッフ全員に関わる問題です。文化的背景を考慮しながら、倫理研修を継続的に行うべきです。

Q5:KPKは信頼できる組織ですか?
A5:KPKは多くの汚職摘発を行ってきた実績がありますが、近年は政治的圧力や組織内の不正が報道されるなど、信頼性については議論があります。情報の更新を注視する必要があります。

 

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