
2月 22, 2025 • インドネシア, スタートアップ
9月 8, 2025 • インドネシア • by Erika Okada
目次
インドネシアは、東南アジア最大級のEコマース市場の成長に支えられ、物流産業が急速に拡大しています。群島国家という特殊な地理条件、まだ改善途上のインフラ、そして高い物流コストという課題を抱えつつも、多様な大手物流企業が競争を繰り広げています。本記事では、JNE・J&T Express・SiCepat・Ninja Xpress・SPX(Shopee Express)をはじめとする主要企業を徹底比較し、日本の物流システムとの違いや、現地での実務に役立つ契約・運用の注意点を詳しく解説します。インドネシアでのビジネス展開を考える経営者やマネージャーにとって、物流戦略を立てるうえでの実践的な指針となる内容です。
インドネシアの物流・配送(CEP/ラストマイル含む)は、Eコマースの拡大とインフラ投資を追い風に拡大が続いています。市場規模推計は調査会社により幅がありますが、CEP(宅配・小荷物)やラストマイル単体でも数十億〜百億米ドル規模まで拡大。今後も高成長が見込まれます。
押さえるポイント
ECの取扱個数は引き続き増加、繁忙期は数千万個/日ベースでの処理が発生。中でもJ&Tは24年通年で2百億個超の取り扱いを公表し、収益面でも黒字化を発表しています。
既存大手に加えて、モール系(ShopeeのSPX)、グローバル3PL(DHL等)も存在感を強めています。
群島国家の地理:1.7万以上の島々に分散した居住・需要。東部は人口密度が低く、コスト高・所要日数長が常態です。政府は海上幹線(Tol Laut/Sea Toll)で離島のアクセス改善を継続。
物流コスト:インドネシアの物流コスト比は依然高く、14%台〜23%台という統計が並立。算定法の違いに留意しつつ、政府は長期的に8%までの低減を政策目標に掲げます。
LPI(世界銀行):2023年のロジスティクス・パフォーマンス指数でインドネシアは63位(総合スコア3.0)、改善余地が大きい一方、近年は通関・追跡性・時間厳守性などで着実に底上げが進みます。
3.1 比較表
JNE(PT. Tiki Jalur Nugraha Ekakurir)
全国8万超の到達点、8千超の販売拠点、5万人超の従業員規模。伝統大手で対個人・中小事業者の裾野が広い。
J&T Express
自動仕分け投資・AI活用を打ち出し、24年は通年で黒字化を公表。東南アジアでのシェア訴求が強く、ボリュームドリブン。
SiCepat Ekspres
EC偏重で急伸。月間4千万個規模の処理能力事例も(技術事例)。直近は人員再編なども報じられたが、全国展開を継続。
Ninja Xpress(Ninja Van Indonesia)
EC中小向けに強く、**代金引換(COD)**の明確な手数料体系を提示。API連携・追跡性で評価。
SPX(Shopee Express)
モール内自社配送化が加速。24年以降は過半の荷物を内製化した局面も報じられ、超近接のハイパーローカル網を拡張。
TIKI
老舗。主要69都市・3,700超の窓口網(公式)。重量貨物や企業契約で根強い。
Pos Indonesia
公的ネットワークの強みを持ち、国際郵便や遠隔地で機能。デジタル化・事業改革を加速。
Lion Parcel
航空会社系の強みで全国98%到達を訴求。COD対応も。
SAP Express(Satria Antaran Prima)
上場系。年次報告で財務・拠点情報を公開、B2B/B2C両面。
Wahana
低価格訴求・全国配送。中小ECのコストセーバーとして選択肢。
First Logistics/Paxel
都市間の当日系・プロジェクト配送、食品・冷蔵系の実績(Paxelはハラール物流認証取得を発表)。
注:上記は公式情報・業界報道に基づく要点抜粋。実際のKPI(破損率・遅延率・再配達率等)は契約・地域・期間で大きく変わります。
3.2 JNE:全国カバレッジの「底力」
強み:到達点8万超・販売拠点8千超・従業員5万人超という裾野。遠隔地・離島でも安定運用が可能で、レガシーB2Bや個人小口が厚い。
留意点:ピーク時の処理能力やIT連携のきめ細かさは、地域により差が出る。PoD・API要件は事前検証を。
3.3 J&T Express:自動化×スケールの「量の経営」
強み:24年通期で黒字化公表。自動仕分け投資、AIでのネットワーク最適化を打ち出し、ボリュームに比例してコスト逓減が効く。
留意点:急伸に伴うサービス差の均質化がテーマ。繁忙期のSLA保証条件を契約で明文化。
3.4 SiCepat:ECスピード対応の「俊敏さ」
強み:EC集中のスピード感。テック活用事例(MongoDB/AWS)でオーダー波動に追随。
留意点:過去の人員再編ニュース等、体制変化のモニタリングが必要。大口契約時はバックアップキャリアの用意を。
3.5 Ninja Xpress:中小事業者×CODの「使いやすさ」
強み:**COD手数料3%(最低5,000IDR)**など条件が明快。中小ECのキャッシュフロー支援に適合。
留意点:離島・超遠隔のネットワークは他社と比較して要確認。
3.6 SPX(Shopee Express):モール直送の「内製力」
強み:モール一体の在庫・販促・配送連携。24年以降、自社配送比率の上昇やハイパーローカル拡張が報じられる。プロモ連動の当日〜翌日配送でCVR改善を狙える。
留意点:モール外(自社EC等)との連携要件・発注波動時の他社併用設計が鍵。
3.7 老舗・公共・特定分野のプレイヤー
TIKI:69主要都市・3,700窓口。企業案件の柔軟対応。
Pos Indonesia:全国郵便網+国際便。公共サービス領域の到達性。
Lion Parcel:航空リソースを生かした広域到達とCOD。
SAP Express:上場ゆえの情報開示の透明性。
Wahana:低価格レンジが必要なECで選好。
First Logistics/Paxel:当日系・プロジェクト・食品・クール対応(Paxelはハラール物流認証発表)。
ECピークの巨大波動:J&Tは24年に取扱量の大幅増を公表。モール各社の販促カレンダーが波動源。
ハイパーローカル(超近接):SPXが地域コミュニティ人材を活用し、近距離密度を高めて物流単価を圧縮。
3PL/コールドチェーンの強化:DHL等グローバル事業者が医薬・ヘルスケア分野で設備投資。温度管理・GDP準拠の品質が入札での差異化要素に。
LPI:日本は2023年13位・総合3.9。インドネシアは63位・3.0。タイムリー性・追跡性・通関で差が残る。
物流コスト比:日本は長期平均でGDP比約9%前後とされ、米国よりやや高いが先進国レンジ。インドネシアは14〜23%台の推計が併存。
運用の違い:
課題
解決の方向性
7.1 D2C/中小ECで早く・安く・CODを回したい
第一候補:Ninja Xpress(COD条件が明確)。
併用:SiCepat(ECフレンドリー)、Wahana(低価格帯)、JNE(エリア補完)。
7.2 モール(Shopee)中心でCVR最大化
第一候補:SPX(在庫・販促・配送の一体最適)。
併用:J&T(ピーク耐性と価格)、JNE(遠隔地安定)。
7.3 全国遠隔地含む均質な到達性
第一候補:JNE(裾野が広い)。
併用:Pos Indonesia(超遠隔補完)、Lion Parcel(航空リソース)。
7.4 医薬・温度管理が必要(GDP/GxP)
第一候補:DHL(コールドチェーン・GDP対応の投資拡大)。
7.5 同日・プロジェクト・食品
候補:First Logistics(当日/翌日系)、Paxel(ハラール・食品配送)。
ベンダー選定
ピーク対応
返品・NDR(未配達レポート)
ガバナンス
インドネシアの物流市場は、拡大を続けるEコマース需要と政府のインフラ整備を背景に、今後も高い成長が期待されています。しかし、地理的な分散や物流コストの高さといった構造的課題も残っており、単一の事業者に依存するのではなく、複数のプレイヤーを適材適所で使い分ける発想が重要になります。全国的なネットワークを持つJNE、スケールでコスト優位を築くJ&T、EC特化で柔軟性の高いSiCepat、明確なCOD条件で中小事業者に強いNinja、モール直結で効率を追求するSPXなど、それぞれの強みを理解することで、自社の商材・販売チャネル・配送エリアに最適化した物流戦略を構築できます。最終的には、老舗や公共系、専門系も含めたポートフォリオを組み合わせ、波動や遠隔地への対応を吸収することが、安定した物流運用の鍵となります。
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本記事で使用した単語の解説
・ラストワンマイル:最終拠点から消費者の手元に届くまでの配送工程。
・CEP(Courier, Express, Parcel):小口配送・即配・宅配を包括する業界区分。
・SLA(Service Level Agreement):サービス水準を定めた合意。到達日数や遅延率などを含む。
・PoD(Proof of Delivery):配達完了を証明する仕組み。署名や電子記録など。
・NDR(Non-Delivery Report):配達できなかった理由を示すレポート。
・COD(Cash on Delivery):代金引換方式。東南アジアでは依然需要が大きい。
・ハイパーローカル:小範囲で即配を実現する配送ネットワーク。
・カバレッジ:配送可能エリアの広さや到達率。
・体積重量:荷物のサイズから計算される重量。料金計算に用いられる。
・コールドチェーン:定温を維持する物流システム。食品や医薬品の輸送に必須。
・Tol Laut(Sea Toll):インドネシア政府の離島物流改善政策。
・CVR(Conversion Rate):購入転換率。配送スピードや追跡体験が影響する。
・デポ:集配や中継を行う拠点施設。繁忙期には臨時で設けられる。
よくある質問(FAQ)
Q1. インドネシアで物流会社を選ぶ際の第一歩は何ですか。
A1. まずは自社の商材特性、販売チャネル(モール中心か自社ECか)、配送エリア(都市部か地方か)を整理し、その条件に合致する事業者を複数選定することです。
Q2. 日本と比べてインドネシア物流の大きな違いは何ですか。
A2. 住所表記や地図依存度が高く、配達時にWhatsAppで顧客と直接連絡を取ることが一般的です。また、代金引換(COD)の比率が依然高く、キャッシュ回収の仕組みを前提に設計する必要があります。
Q3. コスト削減の現実的な方法はありますか。
A3. 梱包の最適化で体積重量を抑えることや、ハイパーローカル配送の活用、繁忙期のスロット予約による効率化、複数事業者の併用によるエリアごとの最適化が有効です。
Q4. 繁忙期にサービス水準を守らせる方法はありますか。
A4. 販促カレンダーと連動して事前に増便枠を確保し、処理能力の上限や遅延時の代替対応を契約書に明記することが重要です。
Q5. 医薬や温度管理が必要な荷物はどうすればいいですか。
A5. GDPやGxPに準拠したコールドチェーンを持つ事業者を選び、温度管理記録の提供や監査対応を契約条件に含めることを推奨します。