10月 1, 2025 • インドネシア, 会社紹介
8月 25, 2025 • インドネシア • by Erika Okada
目次
インドネシアに進出する経営者や駐在員にとって、税制は最も気になるテーマのひとつです。法人税や個人所得税は広く知られていますが、「相続税」や「贈与税」について調べると驚くべき事実が浮かび上がります。そう、インドネシアには日本のような相続税や贈与税が存在しないのです。
この「税がない」という事実は、単なる制度の違いに留まりません。社会構造、文化、政治経済にまで影響を及ぼし、経営判断や資産戦略に直結します。本記事では、インドネシアに相続税・贈与税が存在しない理由、日本との制度比較、それが社会に与える影響を包括的に解説します。
結論から言えば、インドネシアには相続税や贈与税はありません。
相続や贈与による資産移転そのものには課税されない
ただし、土地や建物を相続・贈与した際の名義変更時には「土地・建物取得税(BPHTB)」や譲渡税が発生する場合がある
宝くじや懸賞の当選金などには25%の最終課税があるが、これは相続や贈与とは別枠
つまり、富の移転に対する「直接的な課税」は存在しませんが、不動産の取得や譲渡に伴う税は別途かかる点には注意が必要です。
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日本の相続税は世界でも有数の高水準で、税率は10%〜55%の累進課税
基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人」
高資産層にとっては非常に重い税負担となり、相続争いや資産売却につながるケースも多い
贈与税も最大55%の累進課税
年間110万円までの贈与は非課税だが、それを超えると課税対象
「相続時精算課税制度」など相続と贈与を一体的に管理する仕組みも存在
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インドネシア社会は家族・一族を中心に成り立ち、財産は一族内で継承されるものと考えられています。資産移転に課税することは、文化的価値観から強い抵抗を受けやすいのです。
資産評価や分割をめぐる課税制度を導入すると、行政に膨大なコストがかかります。税務リソースが限られるインドネシアでは、こうした課税方式が現実的でないという事情があります。
ここで重要なのは、インドネシアの政治家や大資本家が莫大な資産を保有している点です。彼らは不動産、企業株式、広大な土地を代々保有しており、もし相続税や贈与税が導入されれば、自身や一族の資産に直接的な打撃となります。
そのため、制度の欠如は単なる「文化や実務の問題」ではなく、エリート層の利益保護という政治経済的な力学によって維持されている側面も大きいのです。
相続や贈与に直接的な課税はない
しかし不動産の名義変更には取得税や譲渡税が発生
富裕層の間では、これらを考慮した上で「相続税ゼロ」を最大限活用した資産戦略が一般的
| 項目 | 日本 | インドネシア |
|---|---|---|
| 相続税 | 10〜55%の累進課税 | なし |
| 贈与税 | 最大55%、年110万円まで非課税 | なし |
| 不動産相続 | 相続税+登記費用 | 登録変更税・譲渡税のみ |
| 社会的影響 | 富の再分配を狙うが、相続争いや売却も多い | 富の集中を固定化、格差拡大のリスク |
相続税・贈与税がないことは、資産家が代々財産を保持できることを意味します。その結果、富が一部の家系に集中し、格差が固定化するリスクがあります。
一方で、資産がそのまま次世代に継承されるため、資本の断絶が少なく、事業や土地の長期利用に繋がりやすいという利点もあります。
制度が存在しないこと自体が、エリート層による社会支配の一部であり、富の再分配よりも「保有資産を守ること」に重きが置かれているのが現実です。
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インドネシアには相続税や贈与税が存在しないため、一見すると外国人にとっても資産承継が容易に思えます。しかし実際には、外国人が相続する場合にはいくつかの重要な制約と注意点があります。
インドネシアの基本法制では、外国人は自由に土地を所有することはできません。相続によって土地を取得する場合も、外国人名義では登記できないケースが大半です。例外的に「使用権(Hak Pakai)」を得て一定期間利用できる制度がありますが、土地そのものの完全所有(Hak Milik)は原則として認められていません。
したがって、外国人が土地や建物を相続した場合、名義変更が認められず、売却や名義移転を余儀なくされることもあります。
不動産以外の資産、例えば銀行預金や会社株式は、外国人でも相続可能です。ただし、株式の場合は業種や外資規制に従う必要があります。インドネシアの「ネガティブリスト」や後継の投資関連規制によっては、外国人の保有割合が制限されることがあります。銀行預金については、相続手続きとしてインドネシアの裁判所や公証人による確認が求められる場合があります。
インドネシアでは相続税が課されない一方、日本に居住している場合には、日本の相続税法が国外資産にも適用される可能性があります。つまり、インドネシアにある不動産や金融資産を日本人が相続すると、日本の相続税課税対象となる場合があります。国際的な資産設計を行う際には、この二重課税リスクを必ず念頭に置く必要があります。
相続に伴う手続きでは、インドネシアの公証人(Notaris)や宗教裁判所の関与が必要になることがあります。特にイスラム法に基づく遺産分割が適用される場合、相続人の権利割合が細かく規定されているため、外国人配偶者や子どもが相続人となる際には複雑な調整が必要です。また、必要書類の翻訳、公証、在外公館での認証など、国際的な手続きコストも発生します。
外国人がインドネシアで資産を承継する場合には、以下のような対策が検討されます。
不動産については、事前にインドネシア人配偶者や子ども名義にしておく
株式や銀行預金は遺言(Will)や公証人による事前手続きで承継を明確にしておく
日本の相続税との二重課税を避けるために、税理士や国際税務に詳しい専門家に相談する
長期居住予定の場合、居住資格や滞在ステータスと資産承継の関係を確認しておく
インドネシアには、相続税や贈与税が存在しません。これは一見すると投資や事業承継に有利な環境に見えます。しかし、その背景には文化的価値観、行政コストの問題、そして何よりも政治家や資本家層が莫大な資産を保有し、その利益を守ってきた政治経済的力学が隠れています。
結果として、インドネシアでは富の集中が進み、格差が拡大しやすい構造が温存されてきました。日本のように「富の再分配」を狙った高い相続税制度とは対照的です。
この制度の違いを正しく理解し、国際的な資産設計と現地での資産承継戦略を練ることが欠かせません。
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本記事で使用した単語の解説
相続税
相続によって得た財産に課される税金。日本では世界的にも高い水準の累進課税が採用されており、資産額が大きいほど高い税率が適用される。
贈与税
生前に財産を他人に譲り渡した際に課される税金。日本では年間110万円までが非課税枠で、それを超えると課税対象となる。
累進課税
所得や資産額が大きくなるほど税率が高くなる課税方式。日本の相続税や贈与税で採用されている。
BPHTB(土地・建物取得税)
インドネシアで土地や建物の名義変更を行う際に課される税金。相続や贈与に直接課税はされないが、この税金は必ず発生する可能性がある。
譲渡税
不動産や資産を売却・譲渡する際に課される税金。インドネシアにおける資産移転では、この税が実務上重要になる。
基礎控除
日本の相続税制度で、一定額までは課税対象から外れる仕組み。例えば「3,000万円+600万円×法定相続人」が一般的な計算式。
相続時精算課税制度
日本での特例制度で、贈与時に一度に課税関係を整理し、最終的には相続時に精算される仕組み。相続税と贈与税を一体的に管理するために設けられている。
富の再分配
高所得者や資産家から税を徴収し、社会全体に資源を分配する考え方。日本の相続税はその一環として導入されている。
よくある質問(FAQ)
Q1. インドネシアには相続税や贈与税は本当に存在しないのですか?
はい。相続や贈与による資産移転に対して直接課税される制度は存在しません。ただし、不動産の名義変更や譲渡に際して取得税や譲渡税が課される点には注意が必要です。
Q2. 日本人がインドネシアで資産を持っている場合、日本の相続税はかかりますか?
はい。日本に居住している場合、国外資産も日本の相続税の対象となります。居住地や国籍によって課税範囲が変わるため、国際的な資産設計が不可欠です。
Q3. インドネシアで相続や贈与を受けた場合、税務申告は必要ですか?
相続や贈与そのものには課税されないため、特別な申告は不要です。ただし、不動産の名義変更などに伴う取得税や譲渡税については申告と納税が必要です。
Q4. インドネシアで相続税や贈与税が導入される可能性はありますか?
現時点では導入されていませんが、格差是正や財源確保の観点から将来制度が変更される可能性は否定できません。経営者や投資家は税制改正の動向を注視することが重要です。
Q5. インドネシアに相続税や贈与税がないことはビジネスにどのような影響がありますか?
資産承継において税負担が軽いため、事業や土地を長期的に維持しやすいという利点があります。一方で富の集中が進み、社会的格差が固定化するリスクもあります。
Q6. インドネシアで資産を次世代に残す際に最も注意すべき点は何ですか?
不動産の取得税や譲渡税を見落とさないこと、日本居住者に対する日本の相続税の適用を考慮すること、そして将来的な制度変更リスクに備えることです。