2月 7, 2026 • インドネシア • by Delilah

なぜインドネシア人は自国の医療を信頼しない?160兆ルピア流出!?

なぜインドネシア人は自国の医療を信頼しない?160兆ルピア流出!?

インドネシアでビジネスをしている日本の方がよく驚くインドネシア人の常識の1つがが「重要な治療は海外で受ける」という考え方が広く浸透していることです。

今回、インドネシア保健省は、国民が国外で医療サービスを受けることによって、年間約160兆ルピアもの資金が海外へ流出していると発表しています。これは単なる個人の選択ではなく、国家レベルでも無視できない経済的損失と言えるでしょう。

なぜ自国に病院や医師が存在するにもかかわらず、多くの人々が海外を選ぶのでしょうか。医療技術の問題なのか、サービスの質なのか、それとも制度への信頼の問題なのでしょうか。

本記事では、保健省の発表を起点に、インドネシア人が自国の医療をどのように捉えているのかを整理し、国際比較データや実際の医療事例をもとに、この現象の背景を読み解いていきます。160兆ルピアの流出は危機なのか、それとも変革の前触れなのでしょうか。

 

何があったのか?保健省の発表

何があったのか?保健省の発表

インドネシア保健省は、毎年約160兆ルピア(約100億米ドル)が医療ツーリズムによって国外に流出していると報告しています。これは、年間100万〜200万人の国民が、マレーシア、シンガポール、タイなどの近隣諸国で医療サービスを受けていることに起因しています。この現象は、国内の医療サービスに対する信頼の欠如を示しており、政府にとって大きな課題となっています。

 

なぜインドネシア人は自国の医療を信頼しない?

なぜインドネシア人は自国の医療を信頼しない?

インドネシアの医療制度に対する信頼の欠如は、複数の要因が絡み合って生じています。以下に主な理由を詳しく解説します。

1. 医療サービスの質とアクセスの不均衡

インドネシアの医療制度は、地域や施設によってサービスの質やアクセスに大きな差があります。特に地方や離島では、医療機関の数や医療従事者の不足が深刻であり、適切な医療を受けることが難しい状況です。また、都市部でも病院の等級制度(クラスA〜C)に基づく差別的な対応が指摘されており、患者の満足度を低下させています。

2. 医療過誤とその対応

医療過誤の事例が報道されるたびに、国民の医療制度に対する信頼は揺らいでいます。例えば、2023年から2025年の間に51件の医療過誤が報告され、そのうち24件が患者の死亡に至りました。これらの事例に対する適切な対応や透明性の確保が求められています。

3. 医療スタッフの接遇スキルの不足

医療スタッフの専門性や技術力は高いものの、患者対応やホスピタリティの面で課題が指摘されています。特に、患者とのコミュニケーション不足や説明の不十分さが、患者の不安や不満を招いています。これにより、患者はより良いサービスを求めて海外での治療を選択する傾向があります。

4. 保険制度の運用上の問題

インドネシアの国民健康保険制度(BPJS Kesehatan)は、多くの国民に医療アクセスを提供していますが、長い待ち時間や保険請求の処理の遅延、サービスの質のばらつきなど、運用上の問題が指摘されています。これらの問題が、患者の不満や不信感を増幅させています。

5. 海外での医療サービスへの信頼

多くのインドネシア人が、シンガポール、マレーシア、タイなどの近隣諸国での医療サービスを信頼し、治療を受けるために渡航しています。これらの国々は、高品質な医療サービスと優れたホスピタリティを提供しており、インドネシア国内の医療機関との比較で選ばれる傾向があります。

 

インドネシアの医療レベルを他国と比較

インドネシアの医療レベルを他国と比較

インドネシアの医療制度に対する信頼の欠如は、医療アクセスと質を評価する指標である「Healthcare Access and Quality(HAQ)インデックス」において、同国が204か国中153位と低い評価を受けていることからも明らかです。これは、感染症や非感染性疾患の管理、医療人材の配置などにおいて課題があることを示しています。

HAQインデックスとは?

HAQインデックスは、適切な医療が提供されていれば防げたはずの32の疾患に対する死亡率をもとに、各国の医療アクセスと質を0から100のスケールで評価する指標です。この指標は、Global Burden of Disease(GBD)2019研究に基づいており、医療制度のパフォーマンスを国際的に比較するための重要なツールとなっています。

インドネシアの評価と課題

インドネシアは、HAQインデックスにおいて153位と低い評価を受けており、特に以下の点で課題が指摘されています:

  • 感染症の管理:結核や下気道感染症など、適切な医療介入があれば予防可能な疾患による死亡率が高い。
  • 非感染性疾患の対応:糖尿病や高血圧などの慢性疾患に対する管理体制が不十分であり、早期発見や継続的な治療が行き届いていない。
  • 医療人材の配置:地方や離島部では医師や看護師の不足が深刻であり、医療サービスの地域間格差が顕著である。

これらの要因が、国民の医療制度に対する信頼を損ない、海外での治療を選択する動機となっています。

他国との比較:シンガポールとマレーシア

一方、シンガポールやマレーシアは、HAQインデックスにおいて高い評価を受けています。シンガポールは、医療アクセスと質の両面で優れたパフォーマンスを示しており、国民の健康寿命も世界最高水準です。マレーシアも、医療制度の整備とサービスの質の向上により、国民の信頼を獲得しています。

これらの国々の成功事例は、インドネシアにとって医療制度改革の参考となるでしょう。

実際にあった医療過誤

医療サービスに対する信頼を損なう要因として、医療過誤の事例も挙げられます。2023年から2025年の間に、インドネシアでは51件の医療過誤が報告され、そのうち24件が患者の死亡に至りました。例えば、2023年9月には西ジャワ州ベカシ市の病院で、7歳の男児が扁桃腺摘出手術後に意識を回復せず、脳死と診断される事例が発生しました。これらの事例は、医療制度の信頼性に対する国民の懸念を高めています。

 

インドネシア政府の改善に向けた取り組み

インドネシア政府の改善に向けた取り組み

政府は、医療サービスの質とアクセスの向上を目指し、以下のような取り組みを進めています:

  • 能力ベースの紹介システムの導入:従来のベッド数に基づく病院の等級制度を見直し、医療機関の能力や専門性に基づく紹介システムを導入することで、サービスの質の均一化を図っています。
  • 医療ツーリズム特区の開発:バリ島のサヌール地区に医療ツーリズム特区を設立し、国際水準の医療施設や研究センターを整備することで、国内外の患者を惹きつけることを目指しています。
  • ホスピタリティ向上のための研修:医療スタッフの接遇スキル向上を目的とした研修を実施し、患者中心のサービス提供を推進しています。

これらの取り組みにより、国内の医療サービスの質が向上すれば、医療ツーリズムによる経済的損失を削減し、国内の医療産業の成長を促進することが期待されています。

 

まとめ

インドネシアの医療制度は、国民皆保険の導入や医療インフラの整備など、前向きな取り組みが進められていますが、医療の質やアクセス、地域間の格差など、解決すべき課題が残っています。特に、医療スタッフの教育訓練の強化、標準作業手順の徹底、患者との適切なコミュニケーションの確保が重要です。今後、これらの課題に対処するための制度改革や監視体制の強化が期待されています。

 

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■ 本記事で使用した単語の解説

医療ツーリズム
患者がより高品質な医療や専門的な治療を求めて、自国以外の国へ渡航して医療サービスを受けることを指します。近年はアジア圏でも拡大しており、シンガポールやマレーシア、タイは主要な受け入れ国として知られています。

BPJS Kesehatan(インドネシア国民健康保険)
インドネシア政府が運営する公的医療保険制度で、国民の医療アクセス向上を目的としています。低コストで医療を受けられる一方、待ち時間の長さやサービスの地域格差などが課題とされています。

Healthcare Access and Quality(HAQ)インデックス
各国の医療アクセスと医療の質を測定する国際指標で、防ぐことが可能だった疾患による死亡率などをもとに評価されます。数値が高いほど、適切な医療を受けやすい環境が整っていると判断されます。

医療過誤
医療従事者の判断ミスや手続きの不備などにより、患者に不利益が生じる事例を指します。医療制度への信頼を左右する重要な要素であり、透明性の高い調査と再発防止策が求められます。

医療インフラ
病院、医療設備、人材、救急体制、情報システムなど、医療サービスを支える基盤全体を指します。インフラが整備されているほど、地域間の医療格差は小さくなります。

医療ツーリズム特区
海外患者の誘致や国内患者の流出防止を目的として、高度医療施設や研究機関を集約した特別区域です。インドネシアではバリ島サヌール地区で開発が進められています。

ホスピタリティ(医療サービスにおける接遇)
患者への説明の丁寧さ、対応の迅速さ、安心感を与えるコミュニケーションなどを含む概念です。医療技術と同様に、患者満足度を左右する重要な要素とされています。

地域医療格差
都市部と地方、または島嶼部との間で医療機関の数や専門医の配置に差がある状態を指します。多くの新興国が抱える共通の課題です。


■ FAQ(よくある質問)

Q. なぜ多くのインドネシア人は海外で治療を受けるのでしょうか?
A. 医療技術への信頼、設備の充実度、医療スタッフの対応、待ち時間の短さなどが主な理由とされています。特に高度医療を必要とする場合、より確実な治療を求めて海外を選ぶ傾向があります。

Q. 医療ツーリズムによる160兆ルピアの流出はどれほど大きな問題ですか?
A. 国家規模で見れば非常に大きな経済損失です。本来であれば国内の医療産業に投資されるはずの資金が海外へ流出するため、医療分野の成長機会を失う可能性があります。

Q. インドネシアの医療レベルは本当に低いのでしょうか?
A. 一概に低いとは言えません。都市部には国際水準の医療機関も存在します。ただし地域間の格差が大きく、医療アクセスの不均衡が全体評価を押し下げる要因となっています。

Q. シンガポールやマレーシアの医療が評価される理由は何ですか?
A. 高度な医療設備、専門医の多さ、効率的な運営体制、そして患者中心のサービスが評価されています。国として医療産業を戦略的に育成してきた点も大きいと言えるでしょう。

Q. インドネシア政府はどのような対策を進めていますか?
A. 医療人材の育成、紹介制度の見直し、医療ツーリズム特区の開発、サービス品質の向上などが進められています。長期的には国内で高度医療を完結できる体制づくりが期待されています。

Q. 今後、医療ツーリズムによる資金流出は減る可能性がありますか?
A. 国内医療の質と信頼性が向上すれば、流出の抑制は十分に可能です。そのためにはインフラ投資だけでなく、制度改革や人材育成を含めた継続的な改善が不可欠です。

Q. この問題はビジネスにどのような影響がありますか?
A. 医療は国家の基盤産業の一つです。国内医療の強化は雇用創出や関連産業の発展につながり、結果として投資環境の向上にも寄与します。

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