
4月 5, 2025 • インドネシア
4月 27, 2025 • インドネシア, 特定技能・技能実習 • by Reina Ohno
目次
日本の電気・電子情報関連産業は、少子高齢化と労働環境の厳しさが重なり、人手不足が慢性化しています。設計・開発・製造ラインを支える技術人材の数はこの20年あまりで減少を続け、平均年齢も上昇。採用難・定着難に拍車がかかり、製品開発力や生産体制、さらには国際競争力にまで影響が及び始めています。本記事では人手不足の現状と背景を整理し、その結果として現場で起きている課題、そして外国人の技能実習生や特定技能ビザによる電気・電子技術人材活用、スマートファクトリー化による省力化など多角的な解決策を解説します。
労働力人口の減少(少子高齢化)
日本全体の少子高齢化は電気・電子分野にも鮮明に表れています。電機メーカーや電子部品工場、IT関連製造業に従事する技術者やオペレーターは、この20年で大幅に減少し、現場の平均年齢は50歳を超える水準に達しています。特に若手技術者層の不足が深刻であり、20〜30代の人材比率は年々縮小。今後10〜20年で第一線の技術者が大量退職期を迎えることが確実視されています。
業界特有の要因(労働負荷・報酬水準・地域偏在)
電気・電子分野では、設計開発における高い専門性と、製造現場での夜勤や交代勤務など、精神的・肉体的負担が大きいことが人材確保のハードルとなっています。
さらに、価格競争が激しい中でのコスト削減圧力により、他産業と比べ賃金水準が必ずしも高いとは言えず、優秀な若者がITやコンサルティング、スタートアップ業界へ流れる傾向も続いています。
地方工場に勤務する場合、勤務地選択の制約も大きく、特に都市部出身者にとってはハードルが高い要素となっています。
求職者の志向変化と需要ギャップ
リモートワークやフレックスタイムを重視する若年層が増える一方で、電気・電子分野の製造現場は出社必須・シフト勤務が多く、柔軟性に乏しいと見なされがちです。また、「ハードウェアよりソフトウェア志向」が進み、理系人材の多くがプログラミングやAI分野へ進む傾向が強まっています。
その結果、設計職・製造技術職の求人を出しても応募が集まらず、採用できても短期離職するケースが増加。人手不足と技術力低下の悪循環が各地の現場で発生しています。
地域差と深刻なケース
有効求人倍率(求職者1人当たりの求人数)は全産業平均で1.33倍(2024年平均)ですが、電気・電子部品製造業では地域によって2倍を超えるケースもあります。
特に愛知県、静岡県、長野県といった製造拠点集積地では慢性的な技術者不足が続き、派遣会社や外国人技能実習制度に頼る比率が年々上昇しています。地方工場ほど深刻度が高く、国内生産体制維持に課題を抱える企業が増えています。
コロナ禍と外国人労働力の動向
2020〜2021年のコロナ禍では、技能実習生や外国人技術者の入国制限により、製造ラインの人手不足が一気に顕在化しました。その後、水際措置が緩和され、2023年には電気・電子関連分野で働く外国人技能実習生・特定技能労働者数が急回復。
特に特定技能「素形材産業」「産業機械製造業」などにおける在留者数は、2024年6月末時点で大幅増となっています。
今後、受け入れ枠の拡大が進めば、電気・電子情報関連産業でも外国人技術者が人材確保の重要な柱となる見込みです。
では、人手不足が深刻化する電気・電子情報分野の現場では、具体的にどのような問題が起きているのでしょうか。現場レベルでの課題を以下に整理します。
採用難と定着率の低下
まず最大の課題は、新たな技術人材の採用そのものが難しいという点です。求人を出しても応募が集まらず、紹介会社を通しても希望条件に合う人材が見つからない、といった声が各地の製造・開発現場から聞かれます。
電気・電子関連業務は高度な知識や技術力が求められる一方、勤務地が地方工場である場合も多く、都市部の若年層から敬遠される傾向にあります。さらに、IT業界や外資系企業との待遇比較で不利と見られることもあり、若手技術者の採用難が続いています。
せっかく採用できても、数年以内に離職してしまうケースも少なくありません。「思っていたよりも業務負荷が高い」「キャリアパスが見えにくい」「勤務地が限定される」といった理由で、早期離職が繰り返されています。
派遣社員や契約社員など非正規の比率が高い現場では、チームビルディングや人間関係構築が難しく、職場定着の阻害要因になることもあります。また、採用と育成にかけたコストが無駄になるリスクも高く、長期的な技術者育成体制の構築が課題となっています。
さらに、高齢の熟練技術者が退職する際に、ノウハウや現場感覚が若手に引き継がれずに失われるケースも見られます。人手不足のため教育・研修の時間を十分に取れず、次世代リーダー育成が停滞する悪循環も懸念されています。
人件費高騰とコスト負担
電気・電子分野でも、人材確保のためのコストが企業経営を圧迫しています。求人広告費やエージェントフィーが増加し、さらに採用後も人材の流出を防ぐために賃金水準を引き上げざるを得ないケースが増えています。
近年の物価高騰の影響で、部品調達コストやエネルギーコストの上昇と並行して人件費負担も膨らみ、特に中小企業では経営圧迫のリスクが高まっています。
2024年には最低賃金の引き上げに伴い、製造オペレーターや技術サポートスタッフの時給見直しを迫られた企業も少なくありません。しかし電子部品や完成品の市場価格は激しい国際競争にさらされており、簡単に価格へ転嫁できない事情があります。結果として、利益率の低下、設備投資や研究開発費の削減といった影響が広がっています。特に地方拠点の工場や中小メーカーではこの影響が深刻で、人材不足と合わせて事業継続リスクが高まっています。
現場負担の増大と労務管理上のリスク
人手が足りない状況では、現場にいる技術者やオペレーター一人ひとりの業務負担が増大します。生産計画達成のために、繁忙期には長時間労働や休日出勤が常態化するケースもあり、体力的・精神的負担が大きくなっています。
このような状況下では、作業ミスや品質トラブルのリスクが高まり、納期遅延や顧客クレームにつながるケースも見られます。
また、「残業が当たり前」「休日取得がしにくい」といった古い労働慣行が残る現場もあり、若手社員の定着を妨げています。結果として、さらに離職率が上がり、ますます人手不足が深刻化する悪循環に陥っています。
労働時間管理や健康管理が不十分であれば、労働基準法違反リスクも発生するため、経営層・現場リーダーにとっては労務管理の高度化が急務となっています。
外国人材受け入れに伴う課題
人材不足を補う手段として、多くの電気・電子企業が外国人労働者の受け入れを進めています。特定技能制度や技能実習制度を活用し、組立作業員や検査員、製造サポート要員として東南アジア諸国からの人材を受け入れるケースが増えています。
しかし、運用には多くのハードルがあります。まず、日本語での業務指示が十分に伝わらない、専門用語が理解されにくいといったコミュニケーションギャップが生じやすい点が挙げられます。
また、地方工場では外国人スタッフの生活基盤整備(住居、通勤手段、生活指導など)が課題となっており、企業側の負担が増しています。技能実習や特定技能制度の運用には、法務・労務・教育の専門知識も必要であり、特に中小企業では外部監理団体への依存度が高く、そのためのコスト負担も無視できません。
さらに近年では、外国人材同士の求人競争が激化しており、待遇の良い企業へ転職する動きも目立っています。単に「採用するだけ」でなく、教育・フォローアップ・キャリア支援まで含めた包括的な受け入れ体制を整備しなければ、安定的な人材確保は難しいという現実に直面しています。
人手不足は企業経営の内部だけでなく、製造・開発現場の生産性や品質、納期遵守にまで深刻な影響を及ぼし始めています。ここでは、実際に生じている生産量や品質、業務運営面での具体的な影響について見ていきます。
生産ラインの遅延と生産量の減少
最も直接的な影響は、製造現場での基本作業やライン稼働が遅延し、生産量が減少してしまうことです。人手が足りないと、組立・検査・出荷といった各工程でタイムロスが発生し、製品納期に遅れが生じるリスクが高まります。
繁忙期に必要な人員を確保できなければ、出荷遅延だけでなく、顧客からの受注キャンセルや信用失墜にもつながる可能性があります。
一部では、人手不足により特定の製品ラインの縮小や製造停止を決断する企業も出てきています。結果的に、受注機会の損失や、供給責任を果たせない事態が発生し、業界全体の競争力低下にも波及しています。特に手作業が不可欠な精密組立や検査工程では、人手不足の影響が顕著であり、対応できなかった製品の廃棄リスクも増大しています。
品質管理の精度低下と製品ばらつき
人手が足りない状況では、本来なら十分に行われるべき品質管理や製品検査が簡略化され、品質のばらつきが生じやすくなります。たとえば、微細な不具合のチェックが省略されたり、工程ごとのトラブル対応が遅れたりすることで、市場に出荷される製品の信頼性が損なわれるリスクが高まります。
また、熟練技術者の退職により、長年培われた現場対応力や品質目利きのノウハウが若手に十分引き継がれない場合、製造プロセス全体の安定性が低下することも懸念されます。適切な温度管理や組立工程の微調整、異常検知への対応力が低下すれば、結果として市場クレームやリコールリスクにもつながりかねません。
近年、顧客の品質要求はより高まっており、「常に同じレベルの製品を安定して供給する」ことが求められています。この中で品質にばらつきが生じれば、取引停止やブランド価値低下、そして収益悪化に直結します。
生産ライン縮小・事業撤退リスク
人手不足が慢性化することで、企業が一部の製品ラインの縮小や、採算の取れない分野からの事業撤退を余儀なくされるケースも増えています。
開発余力や製造キャパシティの縮小は、長期的に企業の競争力低下につながり、受注減少や収益悪化、グローバル市場での地位低下を引き起こす可能性があります。
特に、地方工場や中小企業では、事業継続が困難となり、廃業や他業種への転換を検討する事例も出ています。これは地域経済や雇用にも悪影響を及ぼし、製造業集積地としての活力を損なうリスクをはらんでいます。
働く人の負担増加とモチベーションの低下
人手不足は、現場で働く技術者やオペレーターの精神面・身体面にも大きな負荷を与えています。一人あたりの作業量が増え、残業や休日出勤が常態化すれば、心身の疲弊や健康リスクの高まりは避けられません。
また、余裕のない現場では、ヒューマンエラーや作業ミス、チーム内トラブルも起こりやすくなります。新人スタッフが入社しても十分な教育時間を確保できず、早期離職が続く悪循環が形成されてしまいます。
こうして「人がいない→職場環境が悪化→さらに離職者が増える」という負のスパイラルに陥るリスクが高まっています。
電気・電子分野は本来、精密さと革新性を武器に世界市場で競争する産業ですが、人手不足によってその強みが失われ、現場で働く人たちの誇りややりがいも損なわれてしまう懸念があります。
このように、電気・電子情報関連産業における人手不足は単なる労働力不足にとどまらず、生産、品質、物流、経営、そして働く人の心身の状態にまで、広範かつ深刻な影響を及ぼしています。
深刻化する電気・電子情報関連産業の人手不足に対して、企業、業界団体、そして政府がさまざまな対策に取り組んでいます。ここでは、製造・開発現場における労働力不足を緩和・解消するための具体的なアプローチを紹介します。働き方改革や労働環境の整備、外国人材の活用、スマートファクトリーによる省力化、そして新たな人材活用の可能性まで、複合的に施策が進められています。
企業・業界による取り組み
まずは企業や業界団体による自助的な工夫です。高度人材の確保が難しい中でも、持続的な製造・開発体制を維持するため、さまざまな実践が始まっています。
政府・自治体による支援策
電気・電子情報分野の人手不足は、製造業の国際競争力維持に直結する国家的課題と認識され、各種支援施策が進められています。
外国人材の活用(技能実習・特定技能)
電気・電子分野では、フィリピン、インドネシア、ベトナムなどから来日する外国人技能実習生や特定技能人材の活用が拡大しています。
組立、検査、ライン作業などを中心に、即戦力として外国人技術者が現場で重要な役割を果たしています。
特定技能「素形材産業」「産業機械製造業」分野は、電気・電子製造業にとっても重要な受け皿となっており、日本語試験や技能試験に合格した外国人が安定的に雇用されています。
一方で、文化的ギャップや生活環境面の課題もあり、受け入れ企業には生活支援・教育サポート体制の整備が求められています。
送り出し機関との連携を強化し、現地での事前教育や適切なマッチングを行うことで、定着率の高い人材活用が可能になります。
スマートファクトリー・省人化技術の導入
人手不足に対応するためには、工場全体のデジタル化・自動化が不可欠です。最近では以下のような取り組みが進んでいます。
ホワイトカラー人材の再配置とリスキリング
生成AIや自動化の普及により、今後オフィスワークの一部は縮小すると予想されています。この流れの中で、「ものづくり現場への人材還流」が期待されています。
都市部で働いていたホワイトカラー層が、リスキリング(学び直し)を経て、製造・開発の現場に転身する動きが注目されています。
電気・電子情報産業では、マネジメント力、ITリテラシー、品質管理力などオフィスワーク経験者が活かせる領域も多くあり、彼らを現場の新たな担い手とすることが新たな時代の働き方モデルとなりつつあります。
日本の電気・電子情報関連産業は、少子高齢化と労働環境の厳しさを背景に、深刻な人手不足に直面しています。
採用難と定着率の低下、賃金上昇によるコスト負担、品質や納期への影響といった課題が現場に広がっており、産業全体の競争力にも影響を及ぼし始めています。
これに対して、企業や業界団体、政府は、労働環境の改善、外国人材の受け入れ、スマートファクトリー推進、人材のリスキリングといった多角的な施策を進めています。
今後は、製造現場の省力化とDX化を加速するとともに、幅広い人材を活用できる体制を構築し、持続可能な産業基盤を築くことが求められます。
電気・電子情報関連産業が未来に向けて成長を続けるためには、時代に即した人材戦略と現場力の強化が不可欠です。
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本記事で使用した単語の解説
電気・電子情報関連産業
電機メーカー、電子部品メーカー、半導体製造、IT製造、通信機器開発など、電気・電子・情報分野に関連する製造・開発産業の総称。
技能実習制度
開発途上国の人材に日本の技能や知識を移転することを目的とした在留資格制度。製造分野も対象職種に含まれる。
特定技能制度
一定水準の技能と日本語能力を持つ外国人を受け入れるための在留資格制度。電気・電子製造分野も「素形材産業」などとして対象。
スマートファクトリー
IoT、AI、ロボット技術などを活用して、製造工程の効率化・自動化・省人化を進めた次世代型工場。
リスキリング
既存の職業スキルを学び直し、異なる職種や新しい分野に適応できる能力を身につけること。
物流の2024年問題
トラック運転手の労働時間規制強化により、物流業界全体で人手不足や配送遅延が懸念される社会課題。
FAQ
Q1. なぜ電気・電子情報関連産業で人手不足が深刻化しているのですか?
A1. 少子高齢化による労働力人口減少に加え、製造現場の厳しい労働環境、他業界との待遇格差、勤務地の地域偏在が若年層の就職離れを招いているためです。
Q2. 外国人材の受け入れはどのように進んでいますか?
A2. 技能実習制度や特定技能制度を活用し、組立・検査・製造支援分野で東南アジア諸国からの技術者受け入れが進められています。生活支援や日本語教育を含めた体制整備も重要視されています。
Q3. スマートファクトリー導入の効果はどのようなものですか?
A3. ロボット導入やIoTによる生産管理により、省人化・品質向上・業務効率化が図られ、人手不足リスクの軽減や競争力強化につながります。
Q4. リスキリングとは具体的にどのような取り組みですか?
A4. オフィスワーク中心だった人材が、製造・開発現場に必要な技術知識やマネジメント力を新たに学び直し、現場で活躍できるようにする取り組みを指します。
Q5. 今後、企業が取るべき人手不足対策は何ですか?
A5. 労働環境改善、外国人材受け入れ拡充、スマートファクトリー推進、社内教育とリスキリングの強化、多様な人材活用など、複合的かつ戦略的な人材対策が求められます。