
2月 19, 2025 • インドネシア, 財閥
4月 26, 2025 • インドネシア, 特定技能・技能実習 • by Reina Ohno
目次
日本の産業機械製造業は、少子高齢化と現場の厳しい就労環境が重なり、技術者不足が慢性化しています。とくに設計・開発・生産技術といった中核人材の供給が追いつかず、現場では採用難・定着難が深刻化し、生産性や品質、競争力にも影響が出始めています。本記事では人材不足の現状とその背景を整理し、その結果として起きている課題、そして外国人の技能実習生、特定技能ビザの機械エンジニア人材活用エンジニアの受け入れやスマートファクトリーの導入による省人化など、多角的な解決策を解説します。
労働力人口の減少(少子高齢化)
日本の少子高齢化は製造業においても深刻で、特に機械系技術職では顕著です。2000年代初頭には100万人を超えていた製造業の技術系人材は、2023年には約65万人と大幅に減少し、平均年齢も50歳を超える領域に入っています。若手の担い手が減る中、現場では技能継承が困難になりつつあり、今後10年で技術の空洞化が進む懸念が強まっています。
業界特有の要因(3K・高精度・中小企業比率の高さ)
産業機械製造の現場は、精密加工や組立を伴う「きつい・汚い・危険」の3Kに加え、わずかなミスが製品の性能を左右する高精度作業が求められます。これにより緊張感が続く環境が敬遠されやすく、また大企業よりも中小製造業者が多くを占めるため、賃金や待遇面での魅力が相対的に弱い傾向があります。長時間労働や休日の少なさも、若者離れの要因とされています。
求職者の志向変化と需要ギャップ
近年はリモートワーク可能なIT系・サービス系職種が若年層に人気で、工場常駐型の製造業は「自由度の低い仕事」として敬遠されがちです。設計やCADスキルを持った若手であっても、都市部に就職先を求め、地方の製造業では求人を出しても応募がないというケースが続出しています。仮に採用できたとしても、業務のハードさや将来性への不安から早期離職が相次ぐ悪循環に陥っています。
地域差と深刻なケース
全産業の有効求人倍率が1.33倍(2024年平均)とされる中で、機械系技術者では地方を中心に2倍以上の高水準を記録する地域もあります。特に中部・北陸・九州の製造業集積地では、製造ラインの保守要員や機械設計エンジニアの採用難が長期化し、生産能力の縮小や取引先への納期遅延といった事例も散見されます。都市部と比べて若手が定着しにくい地方企業では、この問題がより深刻です。
コロナ禍と外国人労働力の動向
2020年からの入国制限により、技能実習や技術・人文知識・国際業務などの在留資格で働いていた外国人エンジニアが激減し、一部の生産工程で人材不足が顕在化しました。その後、入国制限の緩和により2023年には回復基調に転じ、製造業全体で働く外国人技術者は約4万5千人にまで戻っています。うち機械設計やメンテナンス業務に従事する特定技能・技人国ビザの在留者も2024年6月末時点で増加傾向にあり、人材確保の有力な選択肢として存在感を増しています。政府は今後、外国人エンジニアの受け入れ上限を拡大する方向で検討を進めています。
では、エンジニア不足が深刻化する産業機械の現場では、具体的にどのような問題が起きているのでしょうか。製造・設計・開発の現場レベルでの課題を以下に整理します。
採用難と定着率の低下
最も深刻な課題は、新たな技術人材の採用が極めて困難である点です。求人を出しても応募が集まらず、紹介会社を通しても適任者が見つからないという声が、地方の中小機械メーカーを中心に多く寄せられています。特に、設計エンジニアや生産技術職などは高い専門性が求められるにもかかわらず、業界の認知度が低く、若年層からの人気も伸び悩んでいます。
仮に採用できたとしても、短期間で離職してしまうケースが少なくありません。「思っていたよりも現場がハードだった」「成長イメージが持てなかった」「待遇がIT業界などに比べて見劣りする」といった理由で、早期離職が相次ぎます。また、非正規や派遣が多い現場では、組織的なスキル継承やチームビルディングが困難になり、職場への定着を妨げる要因にもなっています。
さらに、現場を支えてきたベテランエンジニアの引退とともに、暗黙知や長年のノウハウが若手に引き継がれず失われていく傾向があります。人が足りず教育やOJTに時間をかけられないため、次世代の中核人材が育たないという負の連鎖が続いています。
人件費高騰とコスト負担
製造業においても、技術者の人材確保にかかるコストが年々増大しています。求人広告や人材紹介会社の費用がかさむうえ、採用後の定着を目的に賃金や福利厚生を見直す企業も増えています。加えて、部品や原材料、電力などの高騰も重なり、人件費の上昇が経営を圧迫しています。
特に中小規模の機械メーカーでは、価格競争が激しく、製品単価への転嫁が容易ではありません。結果として利益率が下がり、設備投資や人材育成に割ける予算が限られ、さらなる競争力低下に繋がっています。2024年には最低賃金引き上げの影響で、製造補助スタッフや派遣社員の時給見直しを迫られた企業も多く、コスト構造の見直しが急務となっています。
現場負担の増大と労務管理上のリスク
技術者が不足している状況では、現場の一人ひとりにかかる業務負担が大きくなります。設計から試作、量産対応、クレーム処理までを少人数で回す必要があり、残業や休日出勤が常態化するケースも見られます。業務過多によってミスや品質トラブルが発生するリスクも高まり、顧客対応に追われると開発のスピードや精度にも影響が出ます。
また、休日取得が難しい、繁忙期には休めないという働き方が根強く残っており、若手世代の離職を早める要因になっています。労働時間の管理が不十分な場合には、労働基準法違反など法的リスクも発生しかねず、経営側にとっては生産とコンプライアンスの両立という難題に直面しています。
機械エンジニアの外国人材受け入れに伴う課題
人材不足への対応策として、外国人エンジニアの受け入れを検討・実施する企業も増えています。特定技能や技術・人文知識・国際業務のビザ制度を活用するケースも多くなっていますが、現場での運用には課題もあります。
言語の壁や業務マニュアルの整備不足により、現場での意思疎通が難しくなることがあります。文化の違いから孤立してしまうケースも見られ、生活支援やメンタルケアまで含めた対応が求められます。特に地方では、住宅の手配や通勤手段の確保といったサポート体制が整っていないことも多く、企業側の負担が大きくなります。
また、制度運用に必要な事務処理や在留資格の更新対応には専門知識が求められ、中小企業では外部の支援機関に委託せざるを得ないケースが多くなっています。その分のコストも経営に影響を与える要素のひとつです。近年では外国人エンジニアの間でも職場の条件比較が進んでおり、より良い条件の企業に転職するケースも増えています。採用した人材をいかに定着・育成させ、戦力化するかが大きな課題となっています。
産業機械製造業の現場では、「人を確保する」だけではなく、定着し、成長してもらうための制度設計や受け入れ体制の強化が必要です。外国人材を含めた多様な人材が安心して働ける環境を整備することが、今後の競争力を左右する鍵となるでしょう。
エンジニア不足は、単なる人員の問題にとどまらず、製造業の生産性、品質、そして納期や流通体制にまで深刻な影響を及ぼし始めています。ここでは、実際に産業機械の現場で発生している具体的な影響について見ていきます。
設計・製造工程の遅延と生産能力の低下
最も直接的な影響は、設計や試作、生産立ち上げなどの工程における遅延です。エンジニアが不足すると、機械の図面作成や仕様検討に時間がかかり、製造開始までのリードタイムが延びてしまいます。また、製造ラインのトラブル対応や設備調整が遅れることで、生産スケジュールにズレが生じ、生産量の確保が困難になるケースも増えています。
一部の中小メーカーでは、設計や制御ソフトのエンジニアが確保できないために新規受注を断ったり、生産品目を縮小したりする動きも見られます。結果として企業全体の売上が伸び悩み、市場での競争力を失うリスクが高まります。多品種少量生産が求められる産業機械の分野では、こうした遅延が商機の喪失に直結します。
品質管理の不徹底と製品のばらつき
現場の技術者が不足している状況では、工程ごとのチェックや最終検査が十分に行われず、品質管理が甘くなってしまう傾向があります。例えば、組立ミスや部品の取り付け不良が発見されないまま出荷されるケースや、使用する部材の選定・検査が簡略化されることで、機械の信頼性が損なわれることがあります。
また、ベテランの技術者が退職する際に、経験に基づく「勘どころ」や不具合対応のノウハウがうまく継承されないことで、若手の判断ミスが増加し、品質のばらつきや再作業の頻度が高まっています。これにより、納品後のクレームや返品対応に追われ、現場の負担がさらに増す悪循環が起きています。
取引先からは「納品時の品質が安定しない」との声も上がり、長期的な信頼関係や継続受注の維持が難しくなるケースもあります。製品の信頼性が競争力の源泉である産業機械業界において、この影響は極めて重大です。
納期遅延と物流対応の逼迫
製品の完成が遅れれば、当然ながら納期にも影響が出ます。特に製品に応じて部品の組立・調整・テストに長時間を要する産業機械では、技術者の不足がそのまま納期遅延につながります。現場では限られた人数で複数案件を掛け持ちすることが増え、結果として一件一件の対応が遅れ、顧客からの信頼を失うリスクが高まります。
また、出荷や納品後の設置・立ち上げサポートを担う技術者も足りていないため、「機械は納品されたが、立ち上げができず工場で使えない」というトラブルも増えています。これにより、取引先企業の操業に支障が出ることすらあります。
加えて、製造業全体でトラックドライバー不足が進む中、工場からの出荷や部品の調達物流にも遅れが生じ、工場内外での時間的なロスが拡大しています。今後、全国で問題視されている「物流の2024年問題」がさらに拍車をかけると見られており、製造業全体の供給体制にも影響が及ぶと懸念されています。
受注縮小・撤退・事業継続リスクの高まり
エンジニア不足が慢性化することで、設備投資ができず、技術革新への対応が遅れる企業も出てきています。とくに設計・試作から納品までの対応力が弱い企業では、受注そのものが減少し、事業を縮小したり、場合によっては撤退を検討せざるを得ない状況も見られます。
中小の機械メーカーでは、社内にノウハウが残っておらず、一部の人材に業務が集中している状態も多く、誰かが辞めるだけで業務が回らなくなるという脆弱な体制が課題となっています。こうした状況が続けば、国内のモノづくり基盤が縮小し、サプライチェーン全体の信頼性にも悪影響を与えるおそれがあります。
働く人の負担増加とモチベーションの低下
エンジニア不足は、現場の社員一人ひとりの負担増にもつながっています。開発から検証、現場対応、顧客打ち合わせまでを少人数でこなす必要があるため、日常的に長時間労働が続き、精神的・肉体的な疲弊が深刻になりつつあります。
また、職場に余裕がなくなることで、教育や育成に時間をかけられず、新人が入ってもすぐに辞めてしまうという悪循環も多くの現場で起きています。ミスが増えたり納期に追われたりする中で、仕事に対するやりがいや達成感を感じられなくなり、モチベーションの低下が加速しています。
本来、産業機械の仕事は創造性と技術力が求められる誇りある分野ですが、人手不足によってその魅力が十分に伝わらず、働く人の満足感も損なわれているのが現実です。このように、エンジニア不足は単なる労働力の問題にとどまらず、生産、品質、納期、経営、そして職場の働きやすさに至るまで、多方面にわたって大きな影響を及ぼしています。
深刻化するエンジニア不足に対して、製造業各社や地域、そして政府がさまざまな対策に取り組んでいます。ここでは、現場の人材難を緩和・解消するための具体的なアプローチを紹介します。働き方改革や教育投資、外国人エンジニアの受け入れ、スマートファクトリーによる省力化、そして異業種人材の活用といった多角的な施策が進められています。
企業・地域による取り組み
まずは製造業の現場や産業団体による自発的な改善策です。持続可能なものづくりを目指して、さまざまな試行錯誤が行われています。
政府・自治体による支援策
技術者不足は産業基盤を揺るがす国家的課題として認識され、各種政策・支援制度が打ち出されています。
外国人エンジニアの活用(技人国・特定技能)
機械系の設計・保守・製造現場では、外国人エンジニアの受け入れが進んでいます。特に技術・人文知識・国際業務ビザ(いわゆる技人国)を活用した採用が一般化しており、特定技能での単純作業から技術職への転籍ルートを整備する企業も増えています。
インドネシアやベトナム、フィリピンから来日する工学系人材は日本国内の産業機械分野で重要な戦力となっています。一方で、言語や文化の壁、生活支援体制の未整備などが課題となっており、受け入れ企業側の制度整備とフォロー体制が成功の鍵となります。送り出し機関との提携や事前研修の充実により、ミスマッチを減らす動きが活発化しています。
スマートファクトリー・自動化技術の導入
人手不足を補う手段として、ITと機械技術を融合したスマートファクトリー化が急速に進んでいます。以下のような取り組みが注目されています。
ホワイトカラー人材の現場転換とリスキリング
生成AIやRPAなどの台頭により、ホワイトカラー業務の一部は縮小傾向にあります。その中で、新たな動きとして、都市部で働く人材が製造業の現場に移行する流れが注目されています。リスキリングによって、現場に必要な実務知識やCAD、IoTのスキルを獲得することで、非製造系出身者でも現場の即戦力となる可能性が広がっています。
生産管理、品質保証、技術営業、現場マネジメントといった分野では、これまでのビジネス経験を活かせる場面も多く、製造業が新たなキャリアの受け皿となるケースが増えています。
日本の産業機械製造業は、技術者不足という構造的課題に直面しています。少子高齢化や3K職場のイメージ、都市部への若者集中といった背景により、設計・開発・生産現場では深刻な人材難が続いています。この人材不足は、生産工程の遅延や品質の低下、納期トラブル、企業の競争力低下といった多方面に影響を及ぼしており、今や経営の根幹を揺るがす問題となっています。
このような状況に対し、企業や自治体は、労働環境の改善、多様な人材の受け入れ、スマートファクトリー化、外国人エンジニアの活用など、多角的な対策を講じ始めています。また、ホワイトカラー人材の現場転換やリスキリングの動きも広がりを見せており、今後の持続可能な製造業の実現には、現場力と柔軟な人材戦略の両立が鍵となるでしょう。
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本記事で使用した単語の解説
産業機械製造業
工作機械、搬送装置、組立ロボットなどの「ものづくり」に必要な設備を設計・製造する分野のこと。
エンジニア不足
技術者(設計者、開発者、保守要員など)が足りず、業務に支障が出ている状態。採用難・定着難の両面を含む。
3K職場
「きつい・汚い・危険」の頭文字をとった言葉。若者に敬遠される業種・職場環境の象徴とされる。
スマートファクトリー
IoT、AI、ロボットなどの先端技術を使って、製造工程を自動化・最適化した次世代型の工場。
技人国ビザ
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格。外国人が日本の企業でエンジニアなどの専門職として働くためのビザ制度。
特定技能
即戦力となる外国人労働者を受け入れるために日本政府が創設した在留資格。産業機械業は対象分野の一つ。
リスキリング
既存の仕事から新たな職種や業務に対応するための「学び直し」のこと。特にデジタル技術分野で注目されている。
よくある質問(FAQ)
Q1. なぜ産業機械製造業で人材不足が深刻なのですか?
A1. 少子高齢化により若手の人材が減少している上に、3Kのイメージや待遇の面で他業種と比べて不人気であるため、採用が難航しています。また、都市部への人口集中も地方製造業の人材確保を困難にしています。
Q2. 外国人エンジニアを受け入れる際に注意すべき点はありますか?
A2. 言語や文化の違いによるミスコミュニケーションを防ぐため、マニュアルの多言語化や生活支援体制の整備が重要です。また、在留資格の手続きや制度理解も必要です。
Q3. スマートファクトリーは中小企業でも導入できますか?
A3. 可能です。政府の補助金や支援制度を活用することで、段階的に導入する企業も増えています。まずは小規模な自動化やセンサー設置から始める企業が多く見られます。
Q4. リスキリングはどのように進めればよいのでしょうか?
A4. 公的機関や民間研修プログラムを活用し、必要なスキルを明確にしたうえで段階的に学習を進めることが効果的です。特にIoTやCADなど製造業に直結するスキルが注目されています。
Q5. 今後、製造業で求められる人材像は?
A5. 技術力だけでなく、デジタルスキルやチームでのコミュニケーション能力、柔軟な発想力を持つ人材が求められています。加えて、多国籍な職場環境への適応力も重要になりつつあります。