
7月 6, 2024 • インドネシア
4月 25, 2025 • インドネシア, 特定技能・技能実習 • by Reina Ohno
目次
日本の農業は、少子高齢化と労働環境の厳しさが重なり、人手不足が慢性化しています。基幹的農業従事者の数はこの20年あまりで半減し、平均年齢は70歳目前。採用難・定着難に拍車がかかり、生産量や品質、地域経済にまで影響が及び始めています。本記事では人手不足の現状と背景を整理し、その結果として現場で起きている課題、そして外国人の技能実習生、特定技能ビザの農業人材活用やスマート農業による省力化など多角的な解決策を解説します。
労働力人口の減少(少子高齢化)
日本全体の少子高齢化は農業に最も鮮明に表れています。基幹的農業従事者(常時主業として農業に従事する者)は2000年の約240万人から2023年には約116万人へ半減し、平均年齢は68.7歳に達しました。年齢構成のピークは70歳以上で、60歳未満は全体の2割強しかいません。今後10~20年で担い手がさらに急減するのは確実とされます。
業界特有の要因(3K・低賃金・季節変動)
農業は昔から「きつい・汚い・危険」の3K職場と見なされがちです。夏場の高温下での肉体労働や、家畜を扱う衛生管理の厳しさ、早朝・深夜の作業などが敬遠される主因です。さらに経営規模の小さい家族経営が多く、所得水準が他産業より低い傾向が続いています。繁忙期と閑散期の差も大きく、安定した月給を得にくい点が若年層の就農を阻みます。
求職者の志向変化と需要ギャップ
リモートワークやIT関連職に人気が集まる一方、屋外かつ地域密着で働く農業は「柔軟性が乏しい仕事」とみなされています。都市部の若者が就農地に移住する心理的・経済的ハードルも高く、「きれいな仕事」への集中と「きつい仕事」への敬遠 というミスマッチが顕著です。結果として、農業法人が求人を出しても応募が集まらず、採用しても早期離職が多いという悪循環が生まれています。
地域差と深刻なケース
有効求人倍率(求職者1人当たりの求人数)は全産業平均で1.33倍(2024年平均)が目安ですが、農林漁業従事者では地域によって2倍を超えるケースもあります。たとえば和歌山労働局の統計(2024年1月)では同倍率が2.22倍まで跳ね上がりました。北海道や九州の畜産・酪農地域でも同様に高水準が続き、地方ほど求人難が深刻です。
コロナ禍と外国人労働力の動向
2020~2021年の入国制限で技能実習生など外国人農業労働者が激減し、人手不足が一気に顕在化しました。その後水際措置が緩和され、2023年には農業分野で働く外国人が約5万4千人に回復。うち特定技能の在留者は2024年6月末で約2万8千人と急増しています。農業全体の外国人比率は2.8%ですが将来的な受け入れ上限は7万8千人へ拡大予定であり、人材確保の柱になりつつあります。
では、人手不足が深刻化する農業現場では、具体的にどのような問題が起きているのでしょうか。現場レベルでの課題を以下に整理します。
採用難と定着率の低下
まず最大の課題は、新たな人材の採用そのものが難しいという点です。求人を出しても応募が集まらず、紹介会社を通しても適任者が見つからない、といった声が各地の農業法人から聞かれます。農業は特に地域色が強く、都市部から離れた場所にあることが多いため、応募数が少ない傾向にあります。さらに、他業種と比べて待遇やイメージで不利な面もあり、若い人材から選ばれにくいという現実もあります。
せっかく採用できても、数ヶ月で離職してしまうケースが少なくありません。「思ったよりきつい」「休日が少ない」「生活が不便」といった理由で、短期離職が繰り返されます。パートや季節雇用など非正規の比率が高い農業現場では、人間関係の構築が難しく、職場定着の阻害要因になることもあります。さらに、採用と教育にかけた時間やコストが無駄になってしまうという側面もあり、長期的に人材が定着する仕組みづくりが課題となっています。
また、高齢のベテラン従事者が退職する際に、暗黙知や経験的ノウハウが若手に引き継がれずに失われるケースも見られます。人が足りないため教育や研修が十分に行えず、次世代の担い手が育ちにくいという循環が続いています。
人件費高騰とコスト負担
農業でも、人材確保のための費用が経営を圧迫しています。募集広告費や紹介料がかさみ、さらに採用後も定着率向上のために賃金を引き上げざるを得ない場面が増えています。近年の物価高騰も影響しており、農業資材や燃料代の上昇と並行して人件費も膨らむ中、特に小規模農家では経営の持続が難しくなる例も出ています。
2024年には最低賃金の引き上げにより、パートやアルバイトの時給見直しを迫られた農業法人も少なくありません。しかし農産物の価格は市場相場で決まるため、他業界のように価格へ転嫁しにくいという事情があります。結果として、利益率が圧迫され、規模拡大や設備投資を行う余裕も削がれてしまいます。特に、中山間地域や個人農家ではこの影響が大きく、担い手不足に拍車をかけています。
現場負担の増大と労務管理上のリスク
人手が足りない状況では、現場にいる従業員一人ひとりの負担が増大します。作業量が増え、日照りや大雨の中で長時間の農作業を強いられるなど、体力的な負荷も大きくなります。このような状況では、怪我や熱中症などの健康被害のリスクが高まり、収穫の遅れや作業ミス、品質低下にもつながります。
また、休日が取りづらい、長時間働くのが当たり前、という風潮が残っている現場も少なくありません。こうした労働慣行が若者の離職を加速させる要因となり、さらに人手不足が深刻になるという悪循環が生まれています。労働時間の管理が不十分であると、法的リスク(労働基準法違反)も発生しうるため、経営者にとっては現場管理の難しさが課題になっています。
外国人材受け入れに伴う課題
人材不足を補う手段として、多くの農業法人が外国人労働者の受け入れを進めています。特定技能制度を活用する動きが広がっていますが、運用には多くのハードルがあります。まず、日本語での業務指示が伝わらない、文化の違いによって職場で孤立しやすい、といった問題があります。
また、農業特有の季節性や地域性により、外国人労働者の生活基盤整備が難しい地域もあります。住居の手配、生活指導、交通手段の確保といったサポートを農家自身が行う必要があるため、事務負担が大きくなります。技能実習や特定技能の制度では、手続きが煩雑で専門知識も必要であり、小規模農家では対応しきれず、外部の監理団体に委託するケースが多いですが、そのためのコストもまた経営負担となります。
近年では外国人材の奪い合いも起きており、条件の良い職場へと移るケースも増えています。こうした中で、外国人を「雇うだけ」でなく、戦力として育てるための体制づくりが求められています。農業という分野においては、生活面まで含めた包括的な支援がなければ、定着は難しいという現実もあります。
人手不足は農業経営の内部だけでなく、地域社会や市場流通にまで深刻な影響を及ぼし始めています。ここでは、実際に生じている生産量や品質、流通・物流面での具体的な影響について見ていきます。
作付け・収穫作業の遅延と生産量の減少
最も直接的な影響は、作付けや収穫といった基本作業の遅延による生産量の減少です。人手が足りないと、播種や定植が遅れ、収穫期を逃すこともあります。収穫のピークに人員が確保できなければ、畑で作物が過熟・腐敗してしまい、販売できないまま廃棄となるケースも増えています。
一部では、人手が確保できずに特定の作物の栽培をやめたり、面積を縮小したりする農家も出てきています。結果的に地域全体の生産量が落ち、市場への出荷量も減少することになります。また、手作業での収穫が必要な果樹や野菜では、特に人手不足の影響が顕著であり、収穫しきれなかった農作物が無駄になってしまう事例もあります。
品質管理の精度低下と農産物のばらつき
人手が足りない状況では、丁寧な栽培管理や収穫後の選別作業が十分に行えず、品質のばらつきが生じやすくなります。例えば果実のサイズや色をチェックする作業が簡略化されたり、病害虫の発見が遅れたりすることで、商品価値が下がってしまうことがあります。
また、ベテラン従事者の退職により、長年の経験に基づく技術や判断力が失われ、若手にうまく継承されない場合、栽培の質そのものが下がる可能性もあります。適切な施肥・潅水の判断ができなかったり、天候変化への対応が遅れたりすることで、収穫物の品質が安定せず、ブランド価値にも影響が及びます。
消費者の目は年々厳しくなっており、「いつでも、どこでも、同じ品質のものが買える」ことが求められています。そうした中で品質にばらつきが出れば、販売価格の低下や取引停止のリスクにつながり、農家の収益にも直結します。
流通・出荷遅延と地域物流の逼迫
農業の人手不足は、出荷作業や配送といった物流面にも波及しています。収穫後の箱詰め、運搬、出荷作業に人手が必要ですが、これらの作業も高齢者頼みのところが多く、限界に達しつつあります。収穫物を運ぶ軽トラックの運転手が高齢化で減少し、集荷が間に合わない、あるいは出荷時間に遅れるといったケースが増えています。
特に農村部では、トラックドライバーや物流担当者の高齢化と人手不足が深刻であり、個々の農家が自ら出荷作業を行わなければならない状況もあります。出荷が遅れれば、特に生鮮野菜や果物などの鮮度が命の作物では、市場価値が大きく下がり、廃棄につながるリスクが高まります。
今後は、全国的に懸念されている「物流の2024年問題」も農業現場に影響を及ぼすと予想されています。トラック運転手の労働時間規制により、集荷や配送のタイミングがずれたり、遠方への出荷が難しくなったりすることで、流通全体が不安定になる恐れがあります。
規模縮小・離農・地域農業の崩壊リスク
人手不足が慢性化することで、農家が経営を縮小したり、離農する例も増えています。収益が減っても投資や人材確保ができず、作付面積を減らす、特定の作物をやめる、場合によっては農業をやめるといった選択をする農家が後を絶ちません。
農業の多くは家族経営で成り立っており、担い手不足や高齢化により廃業が相次ぐと、地域全体の農業生産力が低下します。その結果、地元の学校給食や産直市場、地域スーパーなどへの供給も不安定になり、地域の食の安全性や経済活力にまで波及します。
さらに、離農が進むと耕作放棄地が増え、景観悪化や野生動物被害の増加、農業インフラの維持困難といった新たな社会問題も発生します。人手不足による事業縮小は、個々の経営だけでなく、日本全体の食料自給率や農村の存続に関わる大きな課題でもあります。
働く人の負担増加とモチベーションの低下
人手不足は、現場で働く人の精神面・身体面にも大きな影響を与えます。一人あたりの作業量が増え、早朝から夜まで働くことが当たり前になれば、体力的に厳しいだけでなく、生活リズムが乱れて心身の健康を損なう原因にもなります。
加えて、余裕のない現場ではミスやトラブルも起きやすくなり、仲間同士の関係もぎすぎすしがちです。新人が入っても教育に時間をかけられず、すぐに辞めてしまう悪循環に陥ってしまいます。こうして「人がいない→働きづらくなる→さらに辞める」という負のスパイラルが形成されてしまいます。
農業は本来、人と自然が共に働く魅力的な仕事であるにもかかわらず、人手不足によってその価値が伝わらず、やりがいを感じる余裕も失われてしまう現場が増えているのが実情です。
このように、農業における人手不足は単に「労働力が足りない」という話にとどまらず、生産、品質、流通、経営、そして働く人の心身の状態にまで、広範かつ深刻な影響を及ぼしています。
深刻化する農業分野の人手不足に対して、農業法人、地域、そして政府がさまざまな対策に取り組んでいます。ここでは、農業現場における労働力不足を緩和・解消するための具体的なアプローチを紹介します。働き方改革や労働環境の整備、外国人材の活用、スマート農業による省力化、そして新たな人材活用の可能性まで、複合的に施策が進められています。
農業法人・地域による取り組み
まずは農業経営体や地域団体による自助的な工夫です。担い手が減少する中でも持続的な営農を実現するため、さまざまな実践が始まっています。
政府・自治体による支援策
農業の人手不足は国家的課題として認識されており、各種制度・助成制度が整備されています。
外国人材の活用(技能実習・特定技能)
農業分野では、ベトナムやインドネシアなどから来日する外国人技能実習生や特定技能労働者の活用が定着しつつあります。農業は「特定技能1号」の対象分野の一つであり、日本語試験と業務試験に合格した外国人が、即戦力として農場で働くことができます。
インドネシアからの農業分野の特定技能者数はこの数年で大きく増加し、地域農業の重要な戦力となっています。一方で、文化的背景の違いや生活環境への対応も求められており、受け入れ体制の整備と定着支援が重要な課題となっています。送り出し機関と連携し、現地で教育した上で適切なマッチングを行うことで、定着率の高い人材活用が可能になります。
スマート農業・省人化技術の導入
人手不足に対応するためには、機械化・IT化による作業効率の向上が不可欠です。最近では以下のような取り組みが注目されています。
ホワイトカラー人材の再配置とリスキリング
生成AIや自動化の進展により、今後オフィスワークの一部は縮小すると見られています。その中で、新たに生まれる「地域農業への人材還流」も期待されています。都市部で働いていた人材が、リスキリング(学び直し)を経て現場に移行し、農業の新たな担い手となることが注目されています。
農業の現場には、マネジメント力、ITリテラシー、マーケティングなどオフィスワーク経験者が活かせる分野も多くあります。こうした人材の受け入れ体制を整えることで、農業は新たな時代の働き方の受け皿となる可能性を秘めています。
日本の農業における人手不足は、少子高齢化や過酷な労働環境、そして都市集中型の人口分布などを背景に、今後さらに深刻化すると見られています。この問題に対し、農業法人、自治体、政府がそれぞれの立場から対策を講じていますが、単独では限界があります。
国内人材の定着支援、外国人材の計画的な受け入れ、スマート農業の導入、異業種からの人材再配置といった多面的な施策を組み合わせて進めることが必要です。特に「人材をどう確保するか」から「人材をどう活かすか」へと視点を変え、多様性と柔軟性を持った農業経営へのシフトが求められています。
農業が持続可能な産業として成長するためには、あらゆる人が関われる、魅力ある仕事に変えていく努力が不可欠です。
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本記事で使用した単語の解説
FAQ
Q1. そもそも農業の人手不足はいつ頃から深刻化したのですか?
A. 基幹的農業従事者の急減が顕在化したのは2000年代後半からです。高齢化に加え、若年層の就農が進まなかったことで、2010年代半ば以降に「担い手不足」が問題視されるようになりました。
Q2. 外国人材を雇うメリットと注意点は?
A. 即戦力を確保できる点が最大のメリットです。一方で日本語指導や生活サポート、ビザ手続きなど受け入れ体制整備が不可欠です。待遇や労働環境を明確にし、定着支援を行わないと早期離職につながります。
Q3. スマート農業は資金負担が大きいのでは?
A. ドローンや自動機械は初期投資が高めですが、国や自治体の補助金・助成金を活用すれば導入コストを抑えられます。労務費削減と作業効率の向上で、中長期的には投資回収が期待できます。
Q4. 新規就農者を増やす具体策はありますか?
A. 住宅支援や収入保障付き研修、地域おこし協力隊の活用が有効です。都市部の若者が移住しやすい環境を整え、ITを使った営農管理など「新しい農業」の魅力を訴求することも重要です。
Q5. 離農が続いた場合、地域にはどんな影響がありますか?
A. 耕作放棄地の拡大による景観悪化、鳥獣被害の増加、農業インフラの維持コスト上昇などが起こり得ます。地域経済の縮小や食料自給率低下にも直結するため、早期の対策が求められます。
Q6. 異業種からの人材転入は実際に増えていますか?
A. はい。ITやサービス業出身者がリスキリングを経て農業法人に転職するケースが徐々に増加しています。データ管理やマーケティングなどホワイトカラーのスキルが農場経営に活かされる事例が見られます。
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