5月 31, 2025 • インドネシア • by Yutaka Tokunaga

大卒失業者が70%増加?大卒でドライバーや家政婦に。もはやインドネシアの学位は意味がない?

大卒失業者が70%増加?大卒でドライバーや家政婦に。もはやインドネシアの学位は意味がない?

私がインドネシアに移住して10年が経ちました。この国に来て最初に感じた事は日本と違って若者が多くて生き生きとしている事でした。家族の期待を背負いながら大学へ進学し、将来の成功を夢見る学生の姿には、私自身も励まされることがありました。

しかし近年では大学を卒業しても職に就けない、あるいは希望する仕事がまったく見つからないという現実に直面している若者が急増していることに、深い危機感を覚えています。学位を取得したにもかかわらず、彼らはなぜドライバーや家政婦として働かざるを得ないのか。本記事では、インドネシア社会における大卒就職難の背景と、その意味について多角的に掘り下げていきます。

 

 

数字が語る事実:大卒失業者は10年で70%増加

数字が語る事実:大卒失業者は10年で70%増加

2024年時点で、インドネシアの大学卒業者(D4〜S3)における失業者数は約84万人に達しています。これは、2014年の49万人から実に70%以上の増加です。さらに、大学卒の失業率は全国平均(約4.9%)を大きく上回る6.2%前後となっており、学歴が高いほど有利という従来の認識が揺らいでいる状況です。

特に問題なのは、労働市場に供給される大卒者の数が毎年増加している一方で、企業はアウトソースのような非正規雇用を求めるため、正社員としての雇用枠は減少傾向にあることです。結果として、「学位を持っているのに仕事がない」という構図が恒常化しつつあります。

 

 

正社員求人の減少と「過剰供給」のジレンマ

正社員求人の減少と「過剰供給」のジレンマ

インドネシア中央統計庁(BPS)や労働省の統計によれば、2015年に約320万人あった正規雇用の求人枠は、2024年には200万人前後にまで減少しています。一方で、同期間における労働人口全体は着実に増加。つまり、労働市場では「人は余っているが、仕事は減っている」状態です。

この背景には、経済成長が必ずしも雇用増加につながっていないという構造的問題があります。かつては経済成長1%につき約27万人の雇用が創出されていた時期もありましたが、近年ではその数が約11万人にまで低下しています。

教育機関側の問題も無視できません。現在の大学教育は理論中心で、実務に即したスキルを十分に提供できていないとする声が多く聞かれます。結果として、労働市場との間に“リンク&マッチ”の欠如が生じ、「即戦力にならない」という理由で新卒者が敬遠される事例も増えています。

 

 

GenZは「就職できない」から「望まない」へ

GenZは「就職できない」から「望まない」へ

大学を卒業しても就職できない若者が増える一方で、「望まないから就職しない」若者も増えているという逆説的な現象も注目されています。

例えば、ジャカルタ南部の家政婦紹介会社では、ここ数年で大学卒や看護師資格保持者からの応募が急増しています。彼らは「職がない」のではなく、「自分の学歴にふさわしくない」と感じている仕事を避けているのです。大卒でありながら、ドライバー、家政婦、清掃員、配送スタッフなどを選ぶことに対して、心理的な抵抗感が強く働いていることが要因です。

この傾向には、ジェネレーションZ(1997年以降に生まれた世代)の特性も影響しています。GenZは、やりがいや柔軟な働き方、自己表現を重視する傾向があり、単に“安定した仕事”よりも“自分に合った仕事”を求める傾向があります。同時に、SNS世代として周囲の評価や学歴ブランドへの意識も強く、「せっかく大学を出たのに、この仕事でいいのか?」という迷いが就職を遠ざけているとも言えます。

 

 

実務経験ゼロの“新卒至上主義”の限界

実務経験ゼロの“新卒至上主義”の限界

多くの新卒者は「大学を出ればすぐに働ける」という期待を抱いていますが、企業側の視点は年々変化しています。特に中小企業やスタートアップ企業では、「未経験者を一から育てる余裕はない」、「AIに置き換える」という理由で、実務経験のない新卒者の採用を控える傾向が強まっています。

結果として、面接で「なぜ新卒なのに職歴がないのか」と問われるという矛盾が生まれています。この問題の根底には、大学と企業との連携不足、すなわち「産学連携の弱さ」があります。

教育省が推進する「Merdeka Belajar Kampus Merdeka(MBKM)」のように、インターンシップやプロジェクトベースの学習をカリキュラムに取り入れる動きは広がりつつありますが、まだ制度として十分に定着しているとは言えません。

 

 

どうすれば解決できるのか?

どうすれば解決できるのか?

この問題の解決には、複数のレベルでの同時並行的なアプローチが必要です。一つの対策だけでは根本的な解決には至らず、教育、産業、個人、国家戦略のすべてが連動することが求められます。

在学中から「実践力」を積み上げる

大学生自身が在学中からインターンシップや実務スキルの習得に積極的に取り組む必要があります。単なる「卒業証書」ではなく、「現場で通用する力」こそが今後の就職活動における評価軸です。

最近では、マイクロクレデンシャル(短期のスキル証明資格)を活用する学生も増えており、小さなスキルの積み上げが市場価値の可視化に繋がる流れが生まれつつあります。また政府主導で行われている「Merdeka Belajar Kampus Merdeka(MBKM)」のような実務経験を組み込んだ教育改革は、非常に優れた取り組みだと思います。

新産業の創出による雇用の拡大

国家としての戦略が不可欠です。インドネシアの未来においては、既存の産業だけでなく、新たな雇用を生み出す成長産業の創出が急務です。

たとえば、製造業の高度IT化、テクノロジー分野の振興、再生可能エネルギー産業の拡大、医療・介護サービスの強化、観光・創造産業の発展など、若者が活躍できるフィールドを多様化することが求められます。

海外での就業機会を「国家戦略」として育てる

日本やドイツのように労働力不足が深刻な国々との連携を強化し、海外就業を現実的な選択肢として整備することも有効です。

これには、語学教育、職業訓練、文化理解、ビザ制度への理解などを一貫して提供する仕組みが必要ですが、インドネシアではすでにいくつかの民間主導・官民連携プログラムが成功を見せています。今後は、それを国家戦略として本格的に支援・拡大するフェーズに入っていくべきでしょう。

弊社Timedoorでも日本での就職や留学支援サービスを行っていますので、興味がある方はご連絡ください。

 

 

学位の価値を見直すとき

大学は決して無意味な場所ではありません。しかし、「大学を出れば安定が手に入る」という時代は、もう終わりを迎えつつあるのかもしれません。今、私たちが問うべきなのは「どこの大学を出たか」ではなく、「何を学び、どう社会に活かすか」です。

大卒失業という現象は、単なる統計の問題ではなく、若者の希望、教育制度の機能、社会構造そのものを映し出す鏡でもあります。

この国の教育と雇用のあり方について、もう一度、根本から見直すときが来ているのではないでしょうか。

 

 

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