4月 18, 2025 • インドネシア, スタートアップ • by Yutaka Tokunaga

不正をしたeFisheryの創業者のインタビューから私がインドネシアで挑戦する起業家として学んだ事

不正をしたeFisheryの創業者のインタビューから私がインドネシアで挑戦する起業家として学んだ事

スタートアップ創業者の苦悩と倫理観

eFishery(イーフィッシャリー)の創業者Gibran Huzaifah氏はBloombergのインタビューで、自身の行為について詳細に語りました。その内容は生々しく個人的には心の痛くなる衝撃の内容でした。この記事では、その内容を通じて私が1人のインドネシアで挑戦する起業家として感じたこと、そして学んだことを記します。

 

1. eFisheryのGibran Huzaifahは何をしたのか?

Gibran Huzaifah氏は、インドネシア発のアグリテック・スタートアップeFishery(イーフィッシャリー)の創業者です。彼は、魚の自動給餌機の開発から事業を始め、全国の養殖業者にテクノロジーを提供し、生産性の向上を支援してきました。2013年に創業し、やがて従業員は2,000人近く、ソフトバンクの孫正義氏からも投資を受け企業評価額は13億ドル(約2兆円)にまで達しました。

しかしその成長の裏には、継続的な虚偽報告と不正な会計処理がありました。資金難に陥った2018年、Gibranは投資家向けの報告資料に架空の売上や業績を記載し、事業継続のための資金調達に成功。その後も「実態とは異なる数字」を維持するために、二重帳簿の運用、架空企業の設立、偽装取引などを重ね、虚構の上に成長を演出し続けました。

最終的には、内部告発を受けた取締役会が調査に乗り出し、2024年末には実際の売上が表記の1/5程度であることが発覚。数百億円単位の損失が発生し、同社は事実上の崩壊状態となりました。

 

2. Gibran Huzaifahは“なぜ”間違いを起こしたのか?

不正をしたeFisheryの創業者Gibran Huzaifahのインタビューから私が起業家として学んだこと

彼の証言から見えてくるのは、金銭欲ではなく、「インパクトを与えたい」「全員を守りたい」という理想とプレッシャーの板挟みです。

Gibranは、資金が尽きかけた2018年、苦悩の末に虚偽の数字を入力します。そしてその行為を自ら「トロッコ問題(Trolley Problem)」になぞらえています。

トロッコ問題とは──暴走するトロッコの進路を切り替えることで、5人の命を救う代わりに1人を犠牲にすることになるというジレンマです。

Gibranにとって、レバーを引く=数字を偽ることでした。

「今ここで正直に報告すれば、会社は潰れ、従業員も農家も路頭に迷う。
だが“少しの嘘”で彼らの生活を守れるなら、社会的には正しいのではないか?」

彼は、自身の道徳観を「影響の総量を計算して判断する数学的なモラルコンパス」と表現しました。

これは、ある意味で非常に“理性的”なように聞こえます。しかしその実態は、「全体のためなら個の犠牲や嘘は容認される」という危うい思考でもあります。そしてその思考の先にあったのは、さらに大きな嘘の連鎖と崩壊でした。

 

3. 私がこの事件から学んだこと

3. 私がこの事件から学んだこと

スタートアップ創業者の抱えるプレッシャー

スタートアップの創業者は、限られたリソースの中で夢を語り、未来を信じさせ、常に成長と結果を求められます。私自身もその立場にあるからこそ、このプレッシャーがどれほどのものか、痛いほど理解できます。特にインドネシアのような新興国では、社会課題の解決と企業成長が並行して求められ、「社会的意義あるビジネス」と「投資家のリターン」のバランスが非常に難しいのが現実です。

 

インドネシアに残る悪しき慣習:「数字のごまかしは当たり前」

Gibranは、他のスタートアップ創業者から「ちょっと数字をマッサージするのは普通」「フェイク・イット・ティル・ユー・メイク・イット(成功するまでは嘘でもOK)」という“アドバイス”を受けたと語っています。

つまり、ある種の「業界の常識」として、誇張や虚偽が容認されてしまっている文化が存在しているのです。これは、私自身も経営者として絶対に見過ごしてはいけない現実です。

 

嘘はいつかバレる

最初は「少しの調整」のつもりでも、1つの嘘が次の嘘を呼び、やがては自分でも制御できない巨大な構造に変わっていきます。Gibranは「これはもう自分の手に負えない」と語りました。それは、自ら作った虚構が、現実を上回って自分自身を呑み込んだ瞬間だったのでしょう。

 

4. 会社が潰れそうな時、従業員を守るために、嘘をつくことは許されるのか?

Gibranは、「誰も傷つけたくなかった」と語っています。

しかし、結果として起きたことは以下の通りです:

  • 投資家たちは数百億円の資金を失い、一部ファンドでは9割以上の損失が発生。

  • 農家たちは壊れたeFeederを修理する手段を失い、かつて向上した収入は消え、生活を大きく後退させられました。

  • そしてもう一つの犠牲が、従業員たちです。

eFisheryは2024年末に大量のスタッフを解雇。現場技術者、営業、カスタマーサポート、エンジニア…多くの人々が、突然職を失い、将来を絶たれました。「従業員を守るための嘘」は、最終的に従業員を傷つける結果となったのです。

「会社を守るため」「社会のため」「従業員のため」という言葉が、いつしか倫理的な境界を曖昧にし、“嘘をつくこと”の正当化に使われてしまうことは、どんなに高尚な理念のスタートアップでも起こり得ます。

 

この事件を受けて思うこと

この事件を受けて思うこと

この事件は、「成長」や「インパクト」といった言葉の裏にあるリスクと責任を、私たち経営者に突き付けました。

  • スタートアップ創業者は、「生存と成功」に全てを賭けざるを得ない立場です。

  • 投資家は、「夢を応援する」ことと「現実を見抜く」ことの両立が求められます。

  • 社会全体も、「結果さえ良ければ過程は問わない」文化を許してはいけません。

最も重要なのは、「倫理とビジネスの結果」は“どちらかを選択することはできない”という認識です。
嘘やごまかしの先に持続的な成長はありません。

 

Gibranの言葉を借りれば、

「私は“宇宙に爪痕を残したい”と思っていた。でも今思えば、もっと小さくても、長く続く爪痕の方が価値があると気づいた。」

この反省が、私自身を含め、インドネシアのスタートアップシーン、そして世界中の起業家にとって、貴重な教訓となることを願っています。

 

あなたがGibranだったらどうしましたか?
資金がなくなって会社を潰して従業員を解雇するか、それとも嘘をついてお金を集めるか。これは究極の選択です。
「正しさ」と「現実」の狭間で、私たちは何を選ぶべきか。これは他人事ではありません。

参照:CEO Explains How He Faked Results in $300 Million Meltdown 

 

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