
4月 12, 2025 • インドネシア, 特定技能・技能実習
4月 27, 2025 • インドネシア, 特定技能・技能実習 • by Reina Ohno
目次
日本のビルクリーニング業界は、少子高齢化と労働環境の厳しさが重なり、人手不足が慢性化しています。清掃スタッフの数は減少を続け、平均年齢は高齢化。採用難・定着難が業界全体に広がり、施設管理の品質や顧客満足度、さらには都市機能にも影響が及び始めています。本記事では人手不足の現状と背景を整理し、その結果として現場で起きている課題、そして外国人の技能実習生や特定技能ビザによる清掃人材活用、さらには清掃の機械化・省力化といった多角的な解決策を解説します。
労働力人口の減少(少子高齢化)
日本全体の少子高齢化は、ビルクリーニング業界にも鮮明に表れています。建物清掃業に従事する労働者は、この20年あまりで大幅に減少し、平均年齢は60歳を超えました。特にマンションやオフィスビルの共用部清掃を担う人材の多くが高齢者となっており、若年層の従事者は全体の2割未満にとどまります。今後10〜20年で担い手がさらに急減するのは確実と見られています。
業界特有の要因(3K・低賃金・地味な労働)
清掃業務は昔から「きつい・汚い・危険」の3K職場とされがちです。腰をかがめての作業や重量物の取り扱い、トイレ清掃といった業務内容が敬遠される主因となっています。さらにビル管理業界は価格競争が激しく、単価下落が続いた影響で賃金水準も全産業平均を下回る傾向が続いています。華やかなイメージが持たれにくいこともあり、若者の新規参入が限られています。
求職者の志向変化と需要ギャップ
リモートワークやデジタル関連職への人気が高まる一方で、現場労働かつルーティンワークの清掃業務は「やりがいを感じにくい仕事」と見なされがちです。都市部の若者たちが清掃業界に興味を示すことは少なく、より柔軟性や自己成長が期待できる職を求める動きが加速しています。その結果、求人を出しても応募が集まらず、採用しても短期間で離職するケースが増加。人手不足と高い離職率という悪循環に陥っています。
地域差と深刻なケース
有効求人倍率(求職者1人当たりの求人数)は全産業平均で1.33倍(2024年平均)ですが、ビルクリーニング業界ではこれを大きく上回る地域も珍しくありません。特に東京都心部や大阪、名古屋の大型オフィスビル街では2倍超となる例も見られます。ビルや商業施設の清掃ニーズは安定している一方で、供給する人材が足りず、サービス維持が困難なケースも報告されています。
コロナ禍と外国人労働力の動向
2020〜2021年の入国制限により、技能実習生や留学生アルバイトに頼っていた清掃現場では一気に人手不足が表面化しました。その後、水際措置が緩和され、2023年には清掃分野で働く外国人労働者数が大幅に回復。特に特定技能「ビルクリーニング分野」の在留者数は2024年6月末で約1万5000人に達し、前年比で急増しています。今後も外国人清掃スタッフの受け入れ枠拡大が見込まれており、業界にとって重要な人材確保策となりつつあります。
では、人手不足が深刻化するビルクリーニング現場では、具体的にどのような問題が起きているのでしょうか。現場レベルでの課題を以下に整理します。
採用難と定着率の低下
まず最大の課題は、新たな人材の採用そのものが難しいという点です。求人を出しても応募が集まらず、紹介会社を通しても適任者が見つからない、といった声が各地の清掃会社から聞かれます。ビル清掃は都市部中心の業務が多い一方で、夜間作業や早朝勤務が含まれるため、働き方のハードルが高く、応募者が限られる傾向にあります。さらに、他業種と比べて給与水準や業務内容のイメージで不利な面もあり、若い人材から選ばれにくいという現実もあります。
せっかく採用できても、数ヶ月で離職してしまうケースが少なくありません。「想像よりも肉体的にきつい」「シフトが不規則」「キャリアアップの見通しが立たない」といった理由で、短期離職が繰り返されます。パートやアルバイトなど非正規雇用が主流であるため、現場のチーム形成や人間関係構築が難しく、職場定着の阻害要因になることもあります。さらに、採用と教育にかけた時間やコストが無駄になってしまう側面もあり、長期的に人材が定着する仕組みづくりが課題となっています。
また、高齢のベテラン従業員が退職する際に、効率的な作業ノウハウや現場対応力が十分に若手に引き継がれないケースも見られます。人手不足により教育やOJTが十分に行えず、次世代のリーダーが育ちにくいという循環が続いています。
人件費高騰とコスト負担
ビルクリーニング業界でも、人材確保のための費用が経営を圧迫しています。募集広告費や紹介料がかさみ、さらに採用後も定着率向上のために賃金を引き上げざるを得ない場面が増えています。近年の物価高騰の影響もあり、清掃用資材や消耗品のコスト上昇と並行して人件費負担も増大。特に中小規模の清掃会社では、収益モデルの見直しを迫られるケースが増えています。
2024年には最低賃金の引き上げにより、パート・アルバイト清掃スタッフの時給改定を余儀なくされた企業も多く見られました。しかし、ビル管理契約は長期契約で単価固定のケースが多く、清掃コストを簡単に価格転嫁できないという事情があります。結果として、利益率が低下し、設備投資や新規事業開拓に充てる余力が削がれています。特に中小のビルメンテナンス企業では、この影響が大きく、廃業や統合が進む要因にもなっています。
現場負担の増大と労務管理上のリスク
人手が足りない状況では、現場にいる従業員一人ひとりの負担が増大します。通常の作業量に加えて、欠員分のフォローまで求められることが多く、体力的・精神的負担が大きくなっています。特に夜間や深夜帯での長時間労働では、疲労蓄積から怪我や事故リスクが高まり、清掃品質の低下にもつながりかねません。
また、シフトの柔軟性が低い、休日取得が難しいといった労働環境も、若い世代の定着を妨げています。長時間労働が当たり前という現場文化が残っているところでは、離職率が高まり、さらに人手不足が深刻になるという悪循環が発生しています。労働時間の管理や適正な休憩確保が不十分だと、労働基準法違反リスクも発生しうるため、経営者にとっては現場マネジメントの難しさが課題となっています。
外国人材受け入れに伴う課題
人材不足を補う手段として、多くの清掃会社が外国人労働者の受け入れを進めています。特定技能「ビルクリーニング分野」や技能実習制度の活用が広がっていますが、運用には多くのハードルがあります。まず、日本語での業務指示が伝わりにくい、文化や宗教上の違いによる誤解や孤立、といった問題が生じやすい点が挙げられます。
また、深夜勤務や複数現場の移動を求められる清掃業務では、生活環境の整備が難しい場合もあり、住居確保や交通手段の手配など、企業側の支援負担が大きくなります。技能実習や特定技能制度の運用には専門的な知識が求められ、特に中小企業では対応しきれずに監理団体に委託するケースが多いですが、そのための追加コストも経営負担となります。
近年では外国人材の間でも労働環境の良い職場を求める傾向が強まっており、条件の良い企業へと流出する事例も増えています。こうした中で、外国人を「ただ採用する」のではなく、きちんと職場に定着させ、戦力化していくための体制づくりが求められています。特に清掃業界では、生活支援を含めた包括的なケアがなければ、安定的な人材確保は難しいという現実もあります。
人手不足はビルクリーニング会社や清掃業界内部だけでなく、施設運営や建物管理の現場、さらには関連する物流・流通システムにも深刻な影響を及ぼし始めています。ここでは、実際に生じているサービス品質や作業効率、物流面での具体的な影響について見ていきます。
清掃作業の遅延とサービスレベルの低下
最も直接的な影響は、日常清掃や定期清掃など基本作業の遅延によるサービスレベルの低下です。人手が足りないと、予定していた清掃範囲を縮小せざるを得なかったり、作業時間が限られることで仕上がりが雑になるケースも増えています。特に夜間帯や朝方の短時間で済ませなければならないオフィスビルや商業施設では、作業が完了しきらず、クレームや契約違反リスクが高まる事例も見られます。
一部では、マンパワー不足により特定のエリア清掃を停止したり、清掃頻度を減らす対応を取る施設も出てきています。結果として、施設全体の美観が低下し、入居テナントや利用者満足度に悪影響を及ぼしています。特に、高級志向のオフィスビルやホテルなどでは清掃品質の低下がブランドイメージに直結するため、深刻な問題となっています。
品質管理の精度低下と清掃品質のばらつき
人手が不足している状況では、通常であれば行われるべき丁寧なチェックや仕上げ作業が簡略化されがちです。たとえば、細かい汚れの拭き取り、床面のワックスがけ、トイレ清掃の仕上がり確認といった工程が省略されることが増え、結果として施設内の清潔感にばらつきが生まれます。
また、熟練スタッフの退職によって、効率的な作業手順や臨機応変なトラブル対応力が失われるリスクも高まっています。新人スタッフに十分な教育時間をかけられないため、清掃ミスや見落としが発生しやすく、施設管理側からの信頼低下にもつながりかねません。近年、利用者の衛生意識は高まっており、わずかな清掃不備がSNSなどで拡散するリスクも抱えています。
作業の遅延と施設運営への影響
清掃業務の一環であるゴミ収集や備品搬入などの付帯作業も、人手不足の影響を受けています。定期的なゴミ出しや廃棄物搬出、清掃資材の補充作業に必要な人員が確保できず、施設内の衛生状態が維持できないケースが増えています。
特に大規模商業施設や空港、駅ビルといった24時間稼働施設では、清掃と物流が密接に結びついているため、少しの遅れでも施設運営全体に支障をきたします。生ゴミの滞留や資材不足は、利用者の不快感を招き、施設全体の評価低下につながりかねません。
また、都市部では物流ドライバー不足と清掃スタッフ不足が重なり、ゴミ収集の遅延や廃棄物回収サービスの縮小が問題となっています。今後、全国的に懸念される「物流の2024年問題」により、こうした影響がさらに広がる可能性も指摘されています。
業務縮小・サービス停止・清掃事業の縮小リスク
慢性的な人手不足により、清掃会社が受注件数を制限したり、採算の取れない現場から撤退したりする動きも出てきています。スタッフが確保できず、契約条件を守れない場合には、契約解除や違約金発生のリスクも抱えることになります。
清掃サービスを維持できなくなったビルや商業施設では、第三者委託から自主管理に切り替えるケースもありますが、専門性の高い清掃技術や衛生管理が不十分になる恐れがあります。その結果、施設全体の価値低下、テナント離れ、入居率低下といった悪循環につながるリスクが高まっています。
また、特に中小規模の清掃会社では、採算割れによる廃業や業界再編が進む懸念も強まっています。清掃事業の縮小は、地域経済にも波及し、雇用機会減少や都市環境悪化といった新たな社会問題を引き起こす可能性もあります。
働く人の負担増加とモチベーションの低下
人手不足の現場では、清掃スタッフ一人あたりの業務負担が大幅に増えます。短時間で多くのエリアを清掃しなければならず、肉体的な負荷が大きくなるだけでなく、心理的なプレッシャーも高まります。
加えて、現場の雰囲気もピリピリしやすくなり、新人スタッフが教育を受けられずに早期離職する悪循環が発生しやすくなります。こうして「人がいない→現場がきつい→さらに辞める」という負のスパイラルが加速してしまいます。
ビルクリーニングは本来、利用者に快適な環境を提供する重要な仕事であり、誇りを持って働ける現場であるべきですが、人手不足によってその魅力が伝わらず、モチベーションを維持できない現場が増えているのが実情です。
このように、ビルクリーニングにおける人手不足は単なる労働力不足にとどまらず、清掃品質、サービスレベル、物流、経営、さらには働く人たちの健康や意欲にまで、広範かつ深刻な影響を及ぼしています。
深刻化するビルクリーニング分野の人手不足に対して、清掃会社、施設運営側、そして政府がさまざまな対策に取り組んでいます。ここでは、清掃現場における労働力不足を緩和・解消するための具体的なアプローチを紹介します。働き方改革や労働環境の整備、外国人材の活用、清掃機械化による省力化、そして新たな人材活用の可能性まで、複合的に施策が進められています。
清掃会社・施設運営側による取り組み
まずは清掃会社やビル管理会社による自助的な工夫です。限られた人材の中でも高品質な清掃サービスを維持するため、さまざまな実践が進められています。
政府・自治体による支援策
清掃業界の人手不足は社会インフラの維持にも直結する課題として認識され、国や自治体も対策を強化しています。
外国人材の活用(技能実習・特定技能)
ビルクリーニング分野では、フィリピンやインドネシアなどから来日する外国人技能実習生や特定技能人材の活用が定着しつつあります。清掃は特定技能1号の対象分野の一つであり、日本語試験と実技試験をクリアした外国人が、現場の即戦力として活躍できる仕組みが整っています。
近年では、インドネシア人材の増加が顕著で、都市部のビル清掃における重要な戦力となっています。一方で、文化的な違いや生活面でのサポート体制の強化が求められており、安定した受け入れにはきめ細かな対応が不可欠です。送り出し機関との連携を強化し、現地での事前教育やマッチング精度向上に取り組む企業も増えています。
清掃ロボット・省人化技術の導入
人手不足に対応するため、ロボット・IT技術の導入も加速しています。最近では以下のような取り組みが進んでいます。
ホワイトカラー人材の再配置とリスキリング
生成AIや自動化の普及により、今後オフィスワークの一部は縮小すると予想されています。こうした中で、新たに生まれる「清掃現場への人材還流」も期待されています。都市部で働いていたホワイトカラー層がリスキリングを経て、施設管理や清掃マネジメント分野で新たなキャリアを築く動きが注目されています。
ビルクリーニングの現場では、現場マネジメント力、顧客対応力、機械管理スキルなど、オフィス経験者が活かせる領域も多く存在します。こうした人材を受け入れることで、清掃業界は新しい働き方の受け皿となり、産業全体の底上げにつながる可能性を秘めています。
日本のビルクリーニング業界は、少子高齢化や労働環境の厳しさによって慢性的な人手不足に直面しています。採用難と定着率低下、賃金上昇によるコスト負担、サービス品質の低下など、現場ではさまざまな課題が生じています。
これに対して、清掃会社や施設運営側では労働環境の改善や多様な人材の受け入れ、政府や自治体による外国人材の受け入れ支援、清掃ロボットの導入といった多角的な解決策が進められています。
今後は、外国人材の定着支援や省力化技術の活用に加え、ホワイトカラー人材の現場再配置など、さらに幅広い取り組みが求められるでしょう。清掃業界は社会インフラを支える重要な役割を担っており、業界全体で持続可能な人材戦略を構築することが急務となっています。
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本記事で使用した単語の解説
ビルクリーニング業界
オフィスビル、商業施設、公共施設などの建物内外を清掃・衛生管理する産業分野のこと。
技能実習制度
開発途上国の人材に日本の技能を移転することを目的とした在留資格制度。清掃分野も対象職種に含まれる。
特定技能制度
特定の業務分野で一定の専門性と日本語能力を有する外国人を受け入れるための在留資格制度。ビルクリーニング分野も対象。
物流の2024年問題
トラックドライバーの労働時間規制強化によって、物流業界における人手不足や配送遅延が懸念されている問題。
スマート清掃システム
センサーやAI、ロボット技術を活用して、清掃作業の効率化・省人化を図るシステム全般を指す。
リスキリング
既存の職種や業務領域から新たな分野に転向するため、必要な知識やスキルを学び直すこと。
FAQ
Q1. なぜビルクリーニング業界では人手不足が深刻なのですか?
A1. 少子高齢化により労働力人口が減少していることに加え、清掃業務の肉体的負担や低賃金、夜間作業などの厳しい労働環境が敬遠されるためです。さらにリモートワークやデジタル関連職への人気が高まったことで、若年層の応募が減少しています。
Q2. 外国人材の受け入れはどのように進んでいますか?
A2. 特定技能制度や技能実習制度を活用し、主に東南アジア諸国からの人材受け入れが進められています。ビルクリーニング分野では特定技能1号の在留資格が活用され、日本語能力や業務スキルを備えた外国人が即戦力として活躍しています。
Q3. 清掃ロボットの導入はどれくらい進んでいますか?
A3. 大型商業施設や空港、ホテルなどを中心に、自動床洗浄ロボットやAI搭載清掃機器の導入が進んでいます。人手不足解消だけでなく、作業品質の均一化や作業効率の向上を目的としています。
Q4. 清掃業界に転職する場合、どのようなスキルが求められますか?
A4. 基本的な清掃技術はもちろん、ロボットやITシステムの操作スキル、現場マネジメント力、顧客対応力などが重視されつつあります。今後はICTリテラシーを持った清掃スタッフの需要が高まると考えられています。
Q5. 今後、清掃業界における人材確保のカギは何ですか?
A5. 労働環境の改善と賃金水準の引き上げに加え、外国人材の定着支援、スマート清掃技術の導入、そしてオフィスワーカーのリスキリングによる新たな人材確保が重要になると考えられています。