4月 26, 2025 • インドネシア • by Delilah

インドネシア進出の方法:現地法人・代表事務所・合弁会社の違いを徹底解説

インドネシア進出の方法:現地法人・代表事務所・合弁会社の違いを徹底解説

インドネシア市場への進出を検討する日本企業にとって、現地での拠点設立にはいくつかの選択肢があります。主な形態としては、インドネシア法人(PT PMA)の設立、代表事務所(Representative Office/Kantor Perwakilan)の開設、そして現地企業との合弁会社(Joint Venture)の設立が挙げられます。それぞれの形態にはメリット・デメリットがあり、必要な手続きや法的要件、事業範囲に違いがあります。本記事では、それぞれの特徴と設立方法、法務・税務上のポイントを詳しく解説し、さらに比較表を用いて違いを整理します。業種や進出目的に応じた適切な形態の選び方についてもアドバイスを提供します。インドネシア進出を成功させるために、各選択肢を正しく理解し戦略的に判断する一助となれば幸いです。

 

 

インドネシアの現地法人(PT PMA)とは何か

インドネシアの現地法人(PT PMA)とは何か

現地法人とは、外国資本がインドネシアに設立する株式会社のことです。インドネシアではPenanaman Modal Asing(略してPMA、外国投資)に分類される会社は、必ずインドネシアの会社法に基づく株式会社(Perseroan Terbatas、略してPT)として設立しなければなりません。日本企業がインドネシアで100%出資の子会社を設立する場合や、インドネシア人株主と共同で会社を設立する場合(外資が1株でも入る場合)は、このPT PMAに該当します。いわば「インドネシアにおける日本企業の現地法人」です。

PT PMAの特徴

PT PMAはインドネシア国内で独立した法人格を持ち、本格的な事業活動(製造、販売、サービス提供などの営利活動)が認められます。他の形態(代表事務所など)では制限される売上の計上や契約の締結、商品・サービスの販売が可能となり、現地で収益を上げることができます。また、名義上も「PT ○○」というインドネシア法人名で登記され、銀行口座開設や不動産契約、従業員の雇用など、あらゆるビジネス活動を現地法人名義で行えます。

PT PMAの設立には最低2名以上の株主が必要です(インドネシア会社法上、PTは株主2名以上で設立する必要があります)。株主には法人・個人いずれもなれ、日本法人や個人が株主となることが可能です。株主構成によってはインドネシア側パートナーを含むこともありますが、規制上許される業種であれば日本企業単独(100%出資)でも設立できます。事業分野によっては外資出資比率に制限が設けられており(いわゆるネガティブリスト、現在はポジティブ投資リストとして管理)、特定の業種では現地企業との合弁でしか参入できない場合もあります。この点については後述する合弁会社の項で触れます。

設立方法と法的要件

PT PMAを設立するには、まずインドネシア投資省/BKPM(投資調整庁)への申請を行い、事業の許可を取得する必要があります。近年の法改正(2020年のジョブ・クリエーション法〈通称オムニバス法〉など)により、手続きはオンライン・シングル・サブミッション(OSS)という電子システム上で行うことが可能になりました。OSSによるリスク基準に基づく許認可制度により、業種のリスクレベルに応じて必要な許可取得プロセスが定められています。一般的な手順としては以下のようになります:

  1. 商号の決定と定款作成: 商号(会社名)はインドネシア語で3語以上からなる名称とする必要があります。現地の公証人役場で定款(Anggaran Dasar)を作成し、公証人による認証を受けます。
  2. 法人設立の認可: 公証人認証の定款をもとに、法務人権省に会社設立を申請します。オンライン申請システムで承認が下りれば、PTとして法人格が正式に成立します。
  3. 事業者登録(NIB)とライセンス取得: OSSを通じて事業者識別番号(NIB: Nomor Induk Berusaha)を取得します。NIBは税務番号(NPWP)や輸出入許可(API)等と紐づく包括的な企業登録番号です。NIB取得時に同時に基本的な事業許可も付与されますが、業種によって追加の営業許可(Izin Usaha)や特殊な許認可が別途必要となります。
  4. 資本金の払込み: 定款で定めた資本金をインドネシア国内の銀行口座に払い込みます。銀行口座開設は法人設立認可後に可能となります。外資企業の場合、後述のように相当額の資本金を実際に送金し入金することが求められます。
  5. 各種届出: 労働省への雇用報告(WLK)や社会保障(BPJS)への登録、地方自治体への会社登録(NIB取得で自動連携される場合もあります)などの各種届出を行います。

資本金要件について特に注意が必要です。インドネシアでは、外資系のPT PMAには非常に高い最低資本金と投資額要件が設定されています。インドネシア投資庁の規定では、最低投資計画額は1事業分野あたり1,000万ドル相当(約100億ルピア、約1億円)以上とされており、その投資計画を実行する意思を示すために最低でも100億ルピアの資本金を会社に用意することが求められます。実務上は、設立時にその25%にあたる約25億ルピア(約2,500万円)をまず払込み、残額を事業開始後に順次投入する形が一般的ですが、いずれにせよ外資企業には相応の資本力が必要です。この最低資本金要件は、外資が零細・小規模ビジネスに参入することを防ぎ、一定規模以上の投資だけを受け入れる政策意図があります。なお、現地パートナーと合弁で設立する場合も、外資が関与する限りPT PMAとして同様の資本金基準が適用されます。

また、PT PMAは設立後にも投資実行報告義務(四半期ごとにBKPMへ投資活動報告を提出)や、事業ライセンスの維持管理、各種税務申告などのコンプライアンスが求められます。外資企業はインドネシア人の役員(取締役やコミッサリス=監査役会メンバー)の設置義務が課されるか否かなどの詳細な規定もありますが(現在は取締役・コミッサリス各1名以上で国籍要件は緩和され外国人でも可)、日常の経営においては現地専門家のサポートを受けつつ法令遵守を図ることが重要です。

税務・会計上のポイント

PT PMAはインドネシアにおいて納税義務を負う居住法人となります。主な税務上のポイントは以下の通りです:

  • 法人所得税(PPh Badan): インドネシアの法人税率は現在一律22%です(将来的に20%へ引き下げ予定がありましたが現時点では22%が適用されています)。PT PMAはインドネシアでの純利益に対しこの法人税を納めます。日本との租税条約も締結されており、二重課税の回避措置は講じられていますが、基本的に現地所得に対する課税はインドネシアで完結します。
  • 付加価値税(PPN): 売上に対して付加価値税(VAT、インドネシアではPPNと呼ばれる)が課税されます。標準税率は11%(2022年に10%から引き上げ)で、課税売上高が一定額を超える事業者はPPN課税事業者として毎月の申告・納税が必要となります。
  • 源泉課税と利益送金: PT PMAが日本の親会社等に配当金を送金する際には、インドネシアで20%の源泉徴収課税(インドネシアにおける最終税)が生じます。ただし日尼租税条約により、一定の持株比率の場合この配当に対する源泉税率は10%に軽減されるなどの優遇があります。配当以外にも、利子やロイヤリティ送金にも源泉税が課される点に留意が必要です。
  • 会計・監査: 外資系企業は一定規模以上になると外部監査や複式簿記による会計報告が義務付けられます。例えば総資産額や売上高が規定水準を超えると公認会計士監査が必要です。規模が小さいうちは義務ではありませんが、将来的な成長を見据えて適切な会計基盤を整備することが重要です。

このように、PT PMA形態は現地でフルに事業を展開できる反面、設立や維持にコストと手間がかかるのが特徴です。特に資本金要件が高額なため、進出当初から大きな投資を投下できる企業に適しています。一方で小規模なテストマーケット段階から始めたい場合などには、後述する代表事務所形態などの検討も必要でしょう。

 

 

インドネシアの代表事務所(Representative Office)とは何か

代表事務所(Representative Office)とは何か

代表事務所(インドネシア語: Kantor Perwakilan Perusahaan Asing、略してKPPA)とは、外国企業がインドネシア国内に設置する連絡事務所です。これは法人ではなく、あくまで本社の「延長」として位置付けられる拠点です。代表事務所はインドネシアで収益を伴う営業活動を行うことは許されておらず、市場調査や現地との連絡・交渉、情報収集など限定された活動のみが認められています。日本企業が現地に駐在員を置き、販売や生産には直接携わらずに情報収集や渉外活動を行う場合に開設されるのが代表事務所です。

代表事務所の特徴と役割

代表事務所は非営利活動専用の拠点です。その主な役割は次のようなものです:

  • 市場調査・情報収集: インドネシアの市場動向や規制情報を調査し、本社に報告する。
  • 営業先や顧客との連絡窓口: 本社の商品・サービスに関する問い合わせ対応や、顧客・取引先とのコミュニケーションを図る(ただし契約締結や販売そのものはできません)。
  • 現地パートナーとの関係構築: 将来の事業展開に向けて、現地企業や政府機関とのネットワークを構築する。
  • ブランド/製品のプロモーション: 本社製品やサービスの宣伝・紹介活動(展示会への出展や広告など。ただし受注や販売行為は不可)。

このように、将来の本格進出に備えた準備拠点としての役割を担うのが代表事務所です。インドネシア法規上、代表事務所はあくまで外国企業の一部門扱いであり、独立した商業行為を行う権限がありません。そのため売上を計上したり、現地で請求書を発行したり、商品を販売したりすることは厳に禁止されています。銀行口座も現地法人名義ではなく外国企業の在外口座として開設され、商取引の主体にはなれません。

設立条件・手続き

代表事務所を設立(開設)するには、インドネシア投資省/BKPMから代表事務所開設許可を取得する必要があります。こちらも現在はOSSシステムからオンラインで申請可能です。代表事務所はリスク分類上「低リスク事業」と位置付けられるため、基本的にはNIB(事業者登録番号)の取得と代表事務所開設届出で完了します。主な要件・手続きは以下のとおりです:

  • 外国本社からの委任状: 本社がインドネシアに代表事務所を開設する旨と、代表者(駐在員)を任命することを記載した英文の委任状(Letter of Appointment)を用意します。これは在外インドネシア大使館または領事館で認証を受ける必要があります。
  • 本社の定款写し: 外国本社企業の登録証明や定款のコピー(英文または現地語訳添付)が必要です。
  • 代表者の宣誓書: 赴任する代表者(首席代表)が、インドネシアでは他の仕事を行わず専念すること等を誓約する宣誓書(Letter of Statement)を提出します。これも大使館での認証が求められます。
  • 現地住所の確保: 代表事務所として使用するオフィス所在地が必要です。原則として州都(県都)レベルの都市部にあるオフィスビルに入居する必要があります。バーチャルオフィス(住所貸し)は基本的に認められず、実体のある賃貸オフィス契約が望まれます。
  • 申請と許可取得: OSSを通じ代表事務所の開設申請を行い、問題なければ即時にNIBおよび代表事務所の登録証が発行されます。

代表事務所には資本金要件がありません。商業活動を行わない前提のため、最低資本金の規定はなく、開設自体の公式費用もそれほど高額ではありません。ただし運営資金として、本社からの送金で賄う必要があります(収益活動ができないため)。駐在員の人件費や事務所賃料などは全て本社負担となり、代表事務所自体は収入源を持ちません。

許可の有効期間にも注意が必要です。一般的な代表事務所許可(KPPA)は初回3年間有効で、延長申請により無期限に更新可能です。かつては最大5年程度で延長打ち止めとされていましたが、現在の規定では必要に応じて何度でも延長が認められます。ただし毎回期限が来る前に更新手続きを行う必要があります。また、業種によっては代表事務所許可の更新時に事業進捗報告などを求められる場合もあります。

制限事項と留意点

代表事務所には厳格な制限が課されています。以下は主要な禁止事項です:

  • 収益活動の禁止: 前述の通り、いかなる形でも収益(インカム)を得る活動は禁止されています。商品の販売契約、サービス提供によるフィーの受領、請求書の発行などは一切できません。
  • 商業取引の当事者になれない: 本社を代理して契約書に署名したり、取引の主体となることはできません。もし現地で販売を行いたい場合は、現地の代理店やディストリビューターを介するか、後述のPT PMAを設立する必要があります。
  • 支店の開設制限: 代表事務所(KPPA)は基本的に一つの都市に一拠点のみ設置可能で、インドネシア国内で支店や複数拠点を展開することはできません(これに対し、後述の商業代表事務所=KP3Aは複数都市に支店設置が可能)。
  • 雇用制限: 代表事務所ではインドネシア人スタッフを雇用できますが、その職務はサポート業務に限られます。また代表として赴任できる外国人(駐在員)は原則1名までとされています。現地法人であれば外国人駐在員を複数招聘できますが、代表事務所では規模が小さいため人員計画にも制約があります。

以上のような制限から、代表事務所は「ビジネスの現地偵察拠点」として適していますが、それ自体で売上を立てることはできません。市場参入の第一歩として進出初期に情報収集・調査を担わせ、十分な市場性を確認した段階で現地法人(PT PMA)設立に踏み切る、といった段階的戦略がよく取られます。

なお、代表事務所には種類があります。一般的な企業の代表事務所(KPPA)のほかに、外国商社の駐在員事務所(KP3A)や外国建設サービス事務所(BUJKA)など、業態に応じた特別な代表事務所制度も存在します。例えば、外国の貿易会社がインドネシアで製品プロモーションを行う場合はKP3A(貿易活動に関する代表事務所)のライセンスが必要となり、これにはSIUP3Aと呼ばれる許可証が発行されます。ただしこれらの特別な代表事務所であっても、直接の営業・販売は許可されない点は共通しています。またKP3Aは国内複数拠点の設置が認められるといった相違点がありますが、一般的な日本企業の進出検討段階ではまずKPPAとしての代表事務所開設を指すことが多いでしょう。

 

 

合弁会社(Joint Venture)とは何か

合弁会社(Joint Venture)とは何か

合弁会社とは、現地パートナー(インドネシア人またはインドネシア企業)と共同で出資し運営する会社形態のことです。インドネシアにおいて合弁会社を設立する場合、その会社は外資が含まれるため結果的にPT PMA(外資形の株式会社)となります。つまり法的な枠組みとしてはPT PMAと同じですが、株主構成がインドネシア側と日本側のジョイント(共同出資)になっているものを一般に「合弁会社」と呼びます。インドネシア側パートナーとの合弁にすることで、外資単独では認められない事業への参入が可能になったり、現地でのネットワークやノウハウを活用できるといった特徴があります。

インドネシアにおける合弁会社の位置付け

インドネシアの投資法(2007年投資法第5条)では、外国企業が事業を行う場合は必ずインドネシア法人(PT)を通じて行わなければならないと規定されています。したがって、日本企業が現地企業と提携して合弁プロジェクトを行う場合も、まずは共同出資のPT PMAを設立してその法人格で事業を営むことになります。合弁会社そのものは特別な法人形態ではなく、PT PMAの一形態と言えます。ただし、合弁パートナー間の契約関係や出資比率によって経営権や利益配分が決まるため、単独資本の現地法人とは運営面で異なる側面があります。

合弁会社の出資比率は、事業分野の外資規制に大きく左右されます。インドネシア政府が公開しているポジティブ投資リスト(旧称ネガティブリスト)において、外資出資が許可される比率が業種ごとに定められており、例えば「外資出資最大70%まで」といった制限がある分野では、少なくとも30%はインドネシア側が株主になる必要があります。特に公共性の高いセクターや中小企業保護の観点が強い業種(例:新聞出版、不動産仲介、小売業の一部など)では外資比率が制限または禁止されており、その場合は合弁でも過半を現地側に譲る必要があります。逆に外資100%が許可されている分野でも、あえて現地有力企業と提携し合弁とするケースもあります。それは、現地の流通網や顧客基盤を持つパートナーと組むことで市場参入を円滑にし、リスクと利益をシェアできるという戦略的理由によるものです。

合弁会社設立の留意点

合弁会社を設立する際には、パートナー選びから契約条件まで慎重な計画が必要です。以下に主な留意点を挙げます:

  • パートナー選定と信頼関係: インドネシア側パートナーとなる企業・個人の信用調査や実績確認は不可欠です。合弁相手の経営能力や業界での評判、資金力などを事前に十分評価し、相互に信頼できる関係を築けるか見極めましょう。合弁成立後に意見対立や経営方針の不一致が起きることもあるため、最初のパートナー選びが極めて重要です。
  • 出資比率と経営権: 出資比率に応じて株主総会での議決権が決まります。一般的に67%以上の株式を持てば特別決議事項も単独で承認できるため経営支配が盤石になりますが、規制上それが難しい場合もあります。少数株主に留まる場合、日本企業側の意向が経営に反映されにくくなる可能性もあるため、経営権をどう担保するかが課題となります。取締役会や重要事項の決裁権について契約で細かく取り決めておくことが望ましいでしょう。
  • 合弁契約(JV契約)の締結: 定款とは別に、合弁当事者間でジョイントベンチャー契約を締結するのが一般的です。この契約には、事業目的、出資比率、各社の役割分担、取締役の派遣人数、利益配分、追加出資の取り決め、禁止事項、紛争解決方法、解散時の処理などを詳細に定めます。インドネシアでは英文契約も有効ですが、紛争時を考慮しインドネシア語版も作成するのが通常です。
  • 退出戦略: 合弁がうまくいかなかった場合に備え、事前に退出の条件を決めておくことも大切です。例えば一定期間後の株式買取オプションや、相手方による契約違反時の持分売却方法などです。円満に合弁解消できる条項があれば、最悪の事態でも被害を最小限に抑えられます。
  • 技術・知財の扱い: 日本側が技術やブランドを提供する場合、そのライセンス条件や知的財産権の帰属を明確にしておきます。合弁契約中に秘密保持条項を設け、提携終了後も技術流出しないよう手当てしておくべきです。
  • 文化・経営スタイルの違い: 日本とインドネシアではビジネス文化や慣行が異なるため、合弁経営の中で認識ギャップが生じることもあります。例えば、意思決定のスピード感やリスクの捉え方などで差が出る可能性があります。定期的なコミュニケーションと相互理解の努力が必要です。

以上のように、合弁会社は現地パートナーの力を活用できる反面、パートナーリスクの管理が鍵となります。特にインドネシアでは法制度や商習慣の違いもあるため、合弁契約の策定時には現地の法律専門家の助言を仰ぐことが重要です。また、インドネシア政府としても外国企業にはできるだけ現地企業との協業を促したい意図があり、合弁による技術移転や現地雇用創出には前向きです。そのため、戦略的に合弁を活用することは双方にメリットをもたらし得ると言えます。

 

 

それぞれの形態の比較

それぞれの形態の比較

以上で見てきたPT PMA(現地法人)代表事務所合弁会社の特徴を、主な観点で比較表にまとめます。

比較項目

現地法人 (PT PMA)

代表事務所 (KPPA)

合弁会社 (JV)

設立の目的

本格的な事業展開・収益獲得

市場調査・連絡拠点(非営利)

規制対応や現地連携のため共同事業

法人格

あり(インドネシア法人)

なし(外国本社の延長)

あり(PT PMAとして設立)

出資構成

外資100%も可(業種による)

なし(出資不要)

外資+インドネシア資本の共同出資

資本金要件

100億ルピア以上(高額)

なし

PT PMAに準ずる(比率に応じ按分負担)

事業範囲

制限なし(許可範囲内の商業活動可)

営業活動不可(非商業活動のみ)

許可範囲内の商業活動可(規制により出資比率制限あり)

メリット

・自由に商取引・収益化が可能

・自社名義で資産保有・契約締結可

・駐在員ビザ多数取得可

・低コストで開設可能

・市場調査に最適

・撤退・変更が容易

・現地ネットワーク・知見を活用

・外資規制下の事業に参入可

・リスク・資本負担の共有

デメリット

・資本・維持コストが高い

・設立手続き煩雑

・撤退時の清算手続き要

・収益を上げられない

・契約主体になれない

・活動に期間・人員制限あり

・パートナーリスク(意見対立等)

・出資比率によっては経営権制約

・契約交渉・管理が必要

設立スピード

12か月(手続きと資本準備)

数週間程度(書類準備含む)

23か月(契約交渉期間含む)

設立費用

公証人費用・許認可費用等(数十万円~)+資本金

比較的低い(許可手数料程度)

現地法人設立費用+契約関連コスト

税務扱い

純所得に法人税22%課税

VAT申告義務(条件付)

独立納税者でない(収益なし)※駐在員個人の所得税などのみ

純所得に法人税22%課税(PT PMAと同様)

配当は各株主へ分配・課税

撤退の容易さ

清算・解散手続きに時間(1年以上)

資産売却や清算人選任が必要

閉鎖届を出すだけ(比較的容易)

契約に基づき株式売却等が必要

パートナーとの合意が前提

(表)インドネシア現地法人・代表事務所・合弁会社の比較

上記の表から分かるように、収益獲得や本格事業には現地法人(PT PMA)が必要不可欠ですが、その反面コストや撤退リスクも大きくなります。代表事務所は身軽に進出できる反面、できることが限られます。合弁会社は両者の中間的存在で、規制面で有利になる場合がある一方、パートナーとの協調が必要です。

 

 

どの形態を選ぶべきか? — 業種・目的別の実務アドバイス

インドネシア進出の方法:現地法人・代表事務所・合弁会社の違いを徹底解説

では、日本企業がインドネシア進出を検討する際、どの形態を選択すべきなのでしょうか。業種や進出目的に応じて適切な選択肢は異なります。以下に、いくつかの代表的なケースを挙げてアドバイスします。

  • まず市場調査から始めたい場合: 製品やサービスの現地でのニーズを探りたい、現地のビジネス環境を見極めたい、といった初期段階では、やはり代表事務所の開設が適しています。代表事務所であれば大きな投資を伴わずに駐在員を派遣でき、市場リサーチや現地企業との交流を行えます。本格展開の前にリスクを抑えてプレゼンスを確保するには最適です。ただし前述の通り収益化はできないため、この段階ではコストセンターと割り切り、本社からの支援を受けることになります。
  • 取引先との関係強化・サービス向上が目的の場合: すでにインドネシアに顧客や取引先があり、アフターサービスやクレーム対応の窓口が必要な場合も、代表事務所が有効です。例えば機械メーカーが現地代理店経由で製品を販売している場合、代表事務所を置くことで技術サポート要員を駐在させ迅速なサービス提供が可能になります。また最近ではITプラットフォーム企業に対し現地代表事務所設置が義務付けられるケースもあり(電子システム提供者に関する現地事務所要件など)、規制遵守のために代表事務所を開くケースもあります。
  • 規制上外資100%が認められる業種で、十分な資金力がある場合: 例えば製造業や大規模サービス業など、多くの分野で現在インドネシアは外資100%を認めています。こうした業種で、進出時から一定の事業規模・投資額を投入できるのであれば、迷わず現地法人(PT PMA)を設立すべきです。100%子会社であれば経営の主導権を完全に握ることができ、本社方針に沿った迅速な意思決定が可能です。例えば自動車部品の製造工場を建設するケースでは、用地取得から設備投資まで自社裁量で進められるPT PMA形態が前提となります。
  • 中長期的に本格展開する予定だが、まずは小規模にテストしたい場合: 当初は代表事務所で様子を見て、いけそうであれば後にPT PMAに切り替える、という段階的アプローチも現実的です。この場合、代表事務所で築いた人脈や知見を活かし、1〜2年後を目処に現地法人化するロードマップを描きます。現地法人設立時には、代表事務所で雇用した優秀なローカルスタッフを引き継いで採用することも可能です。したがって、「まず代表事務所→軌道に乗ればPT PMA」という二段構えの戦略は、多くの企業にとってリスク分散の観点から有効でしょう。
  • 現地の有力企業と組んで参入したい場合: 業界大手や国有企業など、現地で圧倒的な影響力を持つ企業とパートナーシップを築ける場合は、合弁会社の選択が有望です。例えば大規模インフラ案件などでは、入札要件として現地企業との合弁が求められることもあります。合弁会社であれば相手先の政府や業界へのパイプを活用でき、事業も円滑に進めやすくなります。ただし合弁交渉には時間がかかるため、早めに交渉・契約準備を開始する必要があります。また万一合弁話が不調に終わった場合の代替プランも用意しておくと安心です。
  • 外資比率に制限がある業種への参入: もし対象とするビジネスが外資単独では許可されていない場合は、インドネシア側と合弁にする以外に選択肢はありません。たとえば、クリニック経営や一部のメディア関連事業などでは外資の持株比率上限が決まっています。この場合、パートナー探しから始め、合弁会社で規制をクリアする道を模索することになります。注意すべきは、名義だけ現地人に株を持たせ実質は日本側が全リスク負担するような名義貸しスキームは違法であり、リスクが非常に高いことです。必ず実態としても協力し合える真のパートナーを見つけ、合法的な枠組みで進出しましょう。

以上の指針は一般的なケースに基づくものですが、最終的な判断は各社の戦略と状況により異なります。重要なことは、インドネシアの法制度と市場特性を十分理解した上で、自社のリスク許容度と目的に合致した形態を選ぶことです。必要に応じて現地の専門家(法律事務所やコンサルタント)とも相談し、最新の規制動向を踏まえて最適な進出プランを策定してください。

 

 

まとめと注意点

インドネシアへの進出形態として、「現地法人(PT PMA)」「代表事務所(KPPA)」「合弁会社(JV)」の3つを中心に解説しました。それぞれ一長一短があり、企業の進出フェーズや事業内容によって適する形態は異なります。

PT PMAは事業自由度が高く成長余地も大きい反面、初期投資や運営コストが高く、法令順守の負担も重くなります。代表事務所は低コストで柔軟に進出できる一方、収益を上げられないため戦略的な位置付けが必要です。合弁会社は現地との協調効果が見込めますが、パートナー管理や契約面の綿密な対応が求められます。

進出形態を決める際には、インドネシアの最新投資規制(ポジティブリスト)を必ず確認しましょう。2021年以降、多くの分野で外資規制緩和が進みましたが、それでもなお外資に完全開放されていない業種が存在します。また、今後の法改正や政令によって条件が変更される可能性もあります。インドネシア政府の発表や信頼できる現地情報源をウォッチし、常に最新情報を踏まえた意思決定を行うことが大切です。

最後に、進出後の事業運営においてもローカルの習慣や法令遵守に十分注意してください。現地法人を設立した場合は、毎月の納税や労務管理、ライセンス更新など怠ると罰則につながる手続きが数多くあります。代表事務所であっても定期的な報告義務や、駐在員ビザの延長手続きなどが発生します。合弁会社では加えてパートナーとの定期的な調整も必要です。日本本社と現地法人(あるいは事務所)のコミュニケーションを密に保ち、問題が起きた際は早めに対処するようにしましょう。

インドネシアは巨大な人口と成長市場を有し、日本企業にとって魅力的な投資先ですが、その成功は事前準備と適切な選択にかかっています。本記事の内容を踏まえて、自社に最適な進出形態を検討し、万全の体制でインドネシア市場に乗り出していただければと思います。

 

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本記事で使用した単語の解説

  • PT PMA(Perseroan Terbatas Penanaman Modal Asing)
    外国投資枠組みで設立される株式会社。外資比率が1%でも入るとこの形態となる。
  • Penanaman Modal Asing(PMA)
    「外国投資」を意味するインドネシア語。外資による投資全般を指す。
  • BKPM(Badan Koordinasi Penanaman Modal)/投資省
    外国・国内投資を統括する政府機関。進出許認可や投資報告を所管する。
  • OSS(Online Single Submission)
    行政手続きを一元化したオンライン申請システム。会社設立やライセンス取得をここで完結できる。
  • NIB(Nomor Induk Berusaha)
    事業者識別番号。法人設立後に付与され、税務番号(NPWP)や輸出入許可などと連動する。
  • NPWP(Nomor Pokok Wajib Pajak)
    納税者番号。法人・個人を問わず税務申告に必須。
  • PPN(Pajak Pertambahan Nilai)
    インドネシアの付加価値税(VAT)。標準税率は11%。
  • KPPA(Kantor Perwakilan Perusahaan Asing)
    一般的な企業代表事務所。非営利活動のみが許可される。
  • KP3A(Kantor Perwakilan Perusahaan Perdagangan Asing)
    外国商社の駐在員事務所。複数都市で支店設置が可能だが営業行為は不可。
  • BUJKA(Badan Usaha Jasa Konstruksi Asing)
    外国建設サービス事務所。建設関連企業用の特別な代表事務所形態。
  • ポジティブ投資リスト(Positive Investment List)
    外資出資比率の上限や条件を業種別に定めた最新の投資規制リスト。旧ネガティブリストを置き換える。
  • 法人所得税(PPh Badan)
    インドネシア法人に課される所得税。現行税率は22%。
  • 源泉税(Withholding Tax)
    配当・利子・ロイヤリティ送金時などに課税される前払い税。日尼租税条約で軽減措置あり。
  • Joint Venture(合弁会社)
    外国資本と現地資本が共同出資する事業体。本記事ではインドネシア側パートナーと設立するPT PMAを指す。
  • ジョブ・クリエーション法(Omnibus Law)
    2020年に成立した大規模規制改革法。投資手続きの簡素化や労働規制の緩和を含む。

 

 

FAQ(よくある質問)

Q1. 現地法人(PT PMA)を100%外資で設立できますか?
A1. 可能ですが、業種がポジティブ投資リストで「外資全開放」に分類されていることが前提です。出資上限が定められている業種では、上限範囲内でしか外資を持てません。

Q2. PT PMAの最低資本金「100億ルピア」は実際に全額を初日に払う必要がありますか?
A2. 設立時点では25%以上の払込み(約25億ルピア)が一般的です。残額は事業開始後に投入しても構いませんが、投資計画の履行状況はBKPMに四半期ごと報告する義務があります。

Q3. 代表事務所で請求書だけ発行し、売上は親会社計上にする方法は取れますか?
A3. できません。代表事務所は収益活動自体が禁じられており、インドネシア国内での請求行為・サービス提供は違法となります。

Q4. 合弁会社で経営権を確保するには何%の持株比率が必要ですか?
A4. 特別決議を単独で可決できる67%以上が目安です。外資比率規制で67%を取れない場合は、取締役指名権や拒否権条項で経営関与を担保する方法が取られます。

Q5. OSSから法人設立完了までにどれくらい時間がかかりますか?
A5. 書類が揃っていれば1〜2か月程度が目安です。公証人認証や銀行口座開設のスピード、追加ライセンスの要否で前後します。

Q6. インドネシアに支社(Branch)を開設する選択肢はないのですか?
A6. 原則として外国企業は支社登記制度を利用できません。事業主体は代表事務所かPT PMAのいずれかになります。

Q7. 配当送金時の源泉税をゼロにする方法はありますか?
A7. ゼロにはできませんが、日尼租税条約の条件(持株比率25%以上など)を満たせば税率を20%から10%へ軽減できます。事前に租税条約優遇申請書類を税務当局へ提出する必要があります。

Q8. 代表事務所から現地法人へ形態変更する場合、代表事務所を閉鎖してから新たにPT PMAを設立しますか?
A8. 一般的にはPT PMAを新設し、代表事務所は閉鎖届を出して役割を終えます。駐在員やオフィスを引き継ぐ場合でも、両者は別の法的主体のため並行期間が発生します。

Q9. 合弁会社解消時に株式を買い取ってもらえなかった場合はどうなりますか?
A9. 事前にJV契約へ「株式売渡請求権」「ドラッグ・アロング/タグ・アロング条項」など退出条件を盛り込むことが推奨されます。契約がない場合は裁判・仲裁で解決を図ることになります。

Q10. 投資規制や税率は頻繁に変わりますか?
A10.
はい。インドネシア政府は投資促進を目的に法改正を進めており、20242025年も変更が相次ぎました。最新情報を確認するため、BKPM公表資料や専門家のアップデートを定期的にチェックしてください。

 

 

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