
2月 3, 2025 • インドネシア
2月 6, 2025 • インドネシア • by Erika Okada
目次
2024年のインドネシア大統領選挙で勝利し、国の新たなリーダーとして選出されたプラボウォ・スビアント(Prabowo Subianto)。彼の政治的キャリアは長く、インドネシアの軍事界や政界で重要な役割を果たしてきました。しかし、その背景には多くの疑惑や論争もつきまといます。本記事では、プラボウォ大統領の過去、実績、大統領までの道のり、そして彼を取り巻く疑惑や暗い歴史について詳しく解説します。
プラボウォ・スビアントは1951年10月17日、インドネシアの政治家であり経済学者でもあったスマルノ・ジョヨハディクスモ(Sumitro Djojohadikusumo)の息子として生まれました。彼の家族は裕福で、父親はインドネシア独立後の経済政策に大きな影響を与えた人物です。このため、プラボウォは幼い頃からエリート教育を受け、国際的な視野を持つようになりました。
プラボウォはインドネシア陸軍士官学校(Akademi Militer)を卒業し、軍人としてのキャリアをスタートさせました。彼は特殊部隊(Kopassus)の司令官として活躍し、1990年代にはスハルト政権下で重要な軍事作戦を指揮しました。
特に有名なのは、1998年のジャカルタ暴動時における反体制派への弾圧です。この際、学生運動の指導者や活動家が次々と失踪し、後に彼の関与が疑われる事件として国際的な問題となりました。
プラボウォはスハルト元大統領の娘であるティティク・スハルト(Titiek Suharto)と結婚していました。ティティクはスハルト政権時代に特権を享受していたスハルト一族の一員であり、プラボウォの政治的キャリアに大きな影響を与えました。しかし、2人の結婚生活は長くは続かず、後に離婚しました。
それでも、スハルト家との関係は続いており、特にスハルト一族のビジネスや政界での影響力を利用することで、プラボウォは自身の政治基盤を強化することができました。また、彼の兄弟であるハシム・ジョヨハディクスモ(Hashim Djojohadikusumo)は、インドネシアの富豪として知られ、グリンドラ党の資金面で重要な役割を担っています。ハシムの企業グループが政府契約を受けるなど、政財界の結びつきについての疑念も指摘されています。
スハルト政権崩壊後、プラボウォは軍を離れ、政治の世界へと足を踏み入れました。最初はスハルトの娘婿であることが彼の政治的足かせとなりましたが、次第に国民の支持を集めていきました。元々ゴルカル党に所属していましたが、離党後、自身の政治的理念を実現するために新党グリンドラ党を立ち上げました。
グリンドラ党は、ナショナリズムと右派ポピュリズムを掲げ、インドネシアの政治において重要な役割を果たしています。プラボウォは、グリンドラ党の総合議長(党首)として、党内で強力なリーダーシップを発揮し、党の方向性を主導しています。彼の指導の下、グリンドラ党は国民議会で第三党の地位を確立し、2024年の総選挙では86議席を獲得しました。
プラボウォは2009年、2014年、2019年と大統領選に出馬しましたが、いずれも敗北。しかし、2019年の選挙ではジョコ・ウィドド(Jokowi)に敗れたものの、後に国防大臣の座を得ることで政治的影響力を維持しました。
プラボウォ・スビアント氏は、2019年から2024年までインドネシアの国防大臣を務め、その間、軍の近代化と防衛力強化に注力しました。彼は中国やロシアとの防衛協力を推進し、最新鋭の兵器システムの導入を進めました。また、国内の軍需産業の発展にも力を入れ、国産兵器の開発や生産能力の向上を図りました。さらに、国防予算の増額を実現し、軍事インフラの整備や兵士の待遇改善にも取り組みました。これらの施策により、インドネシアの防衛政策に大きな影響を与え、地域の安全保障環境の変化に対応する体制を強化しました。
プラボウォは2014年と2019年の大統領選挙でジョコ・ウィドド(Jokowi)と激しく争いました。しかし、2019年の選挙敗北後、彼はジョコ・ウィドド政権に参加し国防大臣を務めました。この協力関係を経て、2024年の選挙において、プラボウォ氏はジョコウィ大統領の長男であるギブラン・ラカブミン・ラカ氏を副大統領候補として擁立しました。この戦略により、ジョコウィ支持層や若年層からの支持を獲得し、選挙戦を有利に進めることができました。
一方、ジョコウィ大統領の出身政党である闘争民主党(PDI-P)を率いるメガワティ・スカルノプトゥリ氏との関係は複雑です。ジョコウィ大統領は、政権運営においてメガワティ氏の意向を考慮する必要があり、政治的な緊張が生じることもありました。このように、プラボウォ氏の大統領当選には、ジョコウィ大統領との協力関係や副大統領候補の選定が大きく寄与しています。一方で、ジョコウィ大統領とメガワティ氏との間には政治的な緊張が存在し、インドネシアの政界に複雑な影響を及ぼしています。
Hashim Djojohadikusumo
1998年のスハルト政権崩壊直前、ジャカルタでは多くの民主化活動家が失踪する事件が相次ぎました。後の調査で、プラボウォが指揮する特殊部隊がこれらの事件に関与していた可能性が高いとされ、彼は軍を追われました。この件に関しては現在も完全には解明されていませんが、国際人権団体からの批判が続いています。
プラボウォは東ティモール独立運動が激化していた1990年代に、残虐な弾圧作戦に関与したとされる疑惑もあります。特に、インドネシア軍による東ティモールの民間人虐殺に彼がどの程度関与していたのかについては、現在も議論が続いています。
インドネシアでは、政治家が汚職に関与することが珍しくありません。プラボウォ自身は汚職の直接的な証拠を突きつけられたことはありませんが、彼の資産管理やグリンドラ党の資金運営に関しては疑問の声が上がっています。
また、2024年の大統領選挙では、不正疑惑が取り沙汰されました。一部の野党や市民団体は、選挙管理機関による不透明な対応や、政府機関がプラボウォ陣営を優遇するような働きかけがあったと主張しています。特に、投票プロセスの公正性や、対立候補に対する圧力の有無についての調査が求められています。しかし、政府側はこれらの疑惑を一貫して否定しており、確固たる証拠は示されていません。
プラボウォの家族もまた、インドネシアの政治・経済界で重要な役割を担ってきましたが、その影にはさまざまな疑惑がつきまとっています。特に彼の兄弟であるハシム・ジョヨハディクスモ(Hashim Djojohadikusumo)は、インドネシアの富豪であり、大規模なビジネスネットワークを持つことで知られています。彼の企業グループが政府の契約や資金提供を受けていることについて、利益相反の懸念が指摘されています。また、家族の財産管理や資産の透明性に関する疑問もあり、政治的影響力の濫用を疑う声もあります。
プラボウォの大統領就任により、一部の専門家はインドネシアの民主主義が後退する可能性を指摘しています。彼の強硬な姿勢や軍事的バックグラウンドを考慮すると、今後の政治体制がより権威主義的になるリスクも否定できません。
プラボウォ大統領は、インドネシアの発展を加速させるためにいくつかの主要な政策を掲げています。以下は彼の主要な政策方針の概要です。
プラボウォは、経済成長の加速と国内産業の強化を重視しています。特に、インフラ投資の拡大、国産製品の推奨、農業や水産業の強化を通じて国民の生活水準を向上させることを目指しています。また、外国投資の誘致にも積極的で、特に中国との経済協力を強化する意向を示しており、8%のGDP目標を掲げてインドネシアを先進国の仲間入りさせようとしています。
プラボウォの軍事的背景を反映し、彼の政権は防衛力強化を最重要課題の一つとしています。軍の近代化、国産武器の開発、国防費の増額などが含まれています。特に、中国やロシアとの防衛協力を深化させ、地域の安全保障環境の変化に対応する姿勢を示しています。
教育の改革もプラボウォの優先事項の一つです。特に、職業教育の強化やデジタル教育の推進に力を入れ、インドネシアの若者がグローバル市場で競争できるスキルを身につけることを目指しています。また、ITや人工知能(AI)分野での研究開発を奨励し、国内の技術革新を加速させる方針を打ち出しています。教育現場への無償給食の導入や教員の給料改善なども打ち出し大きな話題となっています。
社会福祉政策の一環として、プラボウォ政権は低所得者層への支援を拡充する計画です。特に、医療制度の改善や社会保障制度の強化を通じて、より多くの国民が基本的な医療サービスを受けられるようにすることを掲げています。
環境問題への対応も課題とされています。インドネシアは森林伐採や気候変動の影響を大きく受ける国の一つであり、プラボウォ政権は持続可能な開発の促進を目指しています。しかし、一部の環境保護団体は、彼の政策が十分に厳格ではないと指摘しています。一方で豊富な自然資源を活用してグリーンテックやカーボンクレジット取引などを推進したいと言われています。
プラボウォ・スビアントはインドネシアの新たな大統領として、多くの期待と不安を抱えています。彼の過去の実績や軍事的なバックグラウンドは、国の安定と安全保障の強化に寄与する可能性があります。しかし、一方で彼を取り巻く疑惑や過去の暗い歴史は、インドネシアの民主主義や人権状況に悪影響を与える可能性もあります。
今後、プラボウォ政権がどのような政策を打ち出し、インドネシアをどの方向に導いていくのか。国民と国際社会の監視が重要になってくるでしょう。
グリンドラ党(Gerindra)
インドネシアの政党で、プラボウォ・スビアント(Prabowo Subianto)によって設立された。ナショナリズムを掲げ、軍や経済の強化を重視する政策を推進している。
コパスス(Kopassus)
インドネシア陸軍特殊部隊。エリート部隊として知られ、国内外での特殊作戦を担当。
1998年のジャカルタ暴動
スハルト政権崩壊のきっかけとなった暴動で、反政府デモが拡大し、多くの学生や市民が犠牲になった。
東ティモール独立運動
東ティモールがインドネシアからの独立を求めた運動。軍の弾圧が問題視され、国際的な非難を受けた。
GDP成長率
国内総生産(GDP)の年間成長率。プラボウォ政権はインドネシアの成長率を8%に引き上げる目標を掲げている。
Q1: プラボウォ・スビアントの軍歴はどのようなものですか?
A1: 彼はインドネシア陸軍特殊部隊(Kopassus)に所属し、司令官を務めた経験を持ちます。特に1998年のジャカルタ暴動時の対応が議論の的になっています。
Q2: プラボウォ大統領の経済政策の特徴は?
A2: 彼はインフラ投資の拡大、国産産業の振興、外国投資の誘致を重視し、インドネシアを先進国化させることを目指しています。
Q3: 選挙不正疑惑とは何ですか?
A3: 2024年の大統領選挙において、一部の野党や市民団体が政府機関による偏向的な選挙運営を批判しましたが、政府側はこれを否定しています。
Q4: プラボウォ政権の教育改革とは?
A4: 教育現場への無償給食の導入や教員の給与改善、職業教育の強化、デジタル教育の推進が含まれています。
Q5: プラボウォの環境政策の課題は?
A5: 環境保護団体からは、森林伐採対策が不十分であると指摘されていますが、一方でグリーンテックやカーボンクレジット取引を推進する意向も示されています。
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