突然の「出張会議禁止」はホテルの生命線を直撃
2025年2月、インドネシアのプラボウォ政権は「年間190億ドル(約300兆ルピア)の歳出削減」を閣僚に指示し、出張・会議・セミナー関連費を真っ先にカットしました。これまで政府関連イベントが売上の最大40%を占めていたホテル業界は、予告なしの“需要蒸発”に揺れています。実際、ジョグジャカルタでは2025年通期のホテル収入見通しが前年比40%減になるとの試算が報じられました。

政府会議とホテル需要の深い依存関係
指標
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2019
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2023
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2024
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2025見通し*
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政府関連泊数シェア
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38%
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41%
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40%
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22%
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*業界団体IHRA推計(2025年4月発表)。
- 出張費・会議費が前年比50%削減されたことで、ホテルは即座に約18ポイントの需要を失った。
- 一部地域では稼働率20%台まで急落。
政府がホテルで行っていた主な会議
- Rapat Koordinasi(調整会議)
- 各省庁や地方政府間での年次・四半期報告や予算進捗確認。
- 例:Bappenas(国家開発計画庁)による地方開発計画共有会議など。
- Sosialisasi(制度説明会)
- 新しい法律や政策、制度改正についての周知イベント。
- 例:BPJS制度の改正周知、災害対応マニュアルの導入説明など。
- Diklat(研修)
- 公務員向けのキャパシティビルディングや評価制度講習。
- 会場は5つ星ホテル+お弁当(snack box)付きが常態化。
- Raker / Rakor(業務会議・幹部会議)
- 各機関のトップが集まり「部門目標」や「年度KPI」などを討議。
- 実質1日しか会議をしないが、3日2泊で開催されることも。
- Laporan Evaluasi(進捗評価)
- 年末に行われる予算執行の自己評価報告会。
- 毎年同じホテル・同じスケジュール・同じスナックという例も。
なぜ「無駄」と批判されたのか?

- 内容が形骸化していた
- 実質的なディスカッションはなく、配布資料を読み上げるだけ。
- 1日目で会議は終了し、2日目は「観光付き解散」というケースも。
- 「スナックボックス経済」と揶揄される冗費
- 会議中に配布されるケーキ3個+フルーツ+ドリンクのお決まりのセット。
- 内容は毎回同じで廃棄も多く、環境負荷も問題視された。
- 「会議ビジネス」化していた
- 地方ホテル業界と結託し、特定ホテルで毎回開催される“癒着”構造。
- 観光地にあるリゾートホテルで会議を行い、家族同伴の実質バカンスも多かった。
- 費用対効果の不透明性
- 1回の会議で100人規模、会場費+宿泊+交通+スナック+お土産などで1億〜3億ルピア単位が日常的に使われていた。
- 報告書もPDFで形式的に提出されるのみ。
それでもなぜ行われていたのか?
- 地方公務員にとっては出張=報奨の意味もあり、日当や宿泊手当が貴重な副収入。
- ホテル業界・ケータリング業者・交通業者にとっては安定収入源。
- 「会議を開く=仕事をしている」という“見せかけの成果主義”が根強かった。
MICE(会議・報奨旅行等)特化型ホテルはどうするべき?

- 観光レジャー志向へのシフト
地方の観光を充実させ観光客誘致・ワーケーションに販促を集中。
- 多用途スペース化
会議室をコワーキングや結婚式場、スタジオなどに改装し、時間貸し収益を確保。
- コスト削減で政府の方針転換まで耐える。
予算削減はこのままずっとは続かないはずと信じて、固定費を下げて耐え忍ぶ。
- 大企業に売却
事業の継続を諦めて事業再生ができる会社に売却する。
問題は依存か、それとも政府の政策か?
この件は政府に依存しすぎたビジネスがいかに危険かを表していると言えるでしょう。
同時に、インドネシア経済は多くのビジネスが政府支出にまだ大きく依存していると言えるでしょう。
新しい大統領が就任すると、方針が変わります。
昨日まで「普通」だったことが、今日では「無駄」になります。
これがインドネシア政治とビジネスの現実です。
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本記事で使用した単語の解説
- Bimbel(ビンベル):インドネシア語で「学習塾」を意味する略語。正式には「Bimbingan Belajar」。
- UTBK-SNBT:国立大学入学のための全国共通試験。2023年時点で100万人以上が受験。
- EdTech:Education + Technology の略。テクノロジーを活用した教育支援サービスを指す。
- Ruangguru:インドネシア最大級のEdTech企業。動画学習などを提供。
- OMO(Online Merged Offline):オンラインとオフラインを融合した教育モデル。
- NIB(Nomor Induk Berusaha):インドネシアで法人活動に必要な事業者番号。
- Yayasan(ヤヤサン):インドネシアにおける非営利法人の形態。正規学校の運営に使用される。
- メリデカ・カリキュラム:インドネシア政府が推進する創造性や柔軟性を重視した新教育課程。
FAQ(よくある質問)
Q1. インドネシアで学習塾を開業するには外資でも可能ですか?
A. はい、塾(非形式教育)は外資100%でも設立可能です。ただし法人設立・営業許可・教育省の認可など法的手続きが必要です。
Q2. オンラインとオフライン、どちらが市場として有望ですか?
A. 地方や低所得層にも届くオンライン市場は急成長していますが、都市部では対面式塾も根強い人気があり、両方にビジネスチャンスがあります。
Q3. 塾講師の採用は難しいですか?
A. 優秀な講師は公立学校と兼務している場合が多く、確保には地域の教育ネットワークや待遇改善が重要です。
Q4. 競合が多すぎて参入は難しくないですか?
A. 都市部では競争が激しい一方、地方にはまだ空白市場も存在します。差別化されたカリキュラムや柔軟な価格戦略がカギになります。
Q5. 宗教や文化面での注意点はありますか?
A. はい。イスラム教徒の礼拝時間やラマダンなどへの配慮は不可欠です。授業スケジュールの設計などに反映する必要があります。