6月 27, 2025 • インドネシア • by Delilah

インドネシア政府ファンドダナンタラがガルーダインドネシア航空に資金注入

インドネシア政府ファンドダナンタラがガルーダインドネシア航空に資金注入

 ダナンタラからの資金投入、その背景とは

2025年6月、インドネシア政府系の主権投資機関「ダナンタラ(Danantara)」が、ガルーダ・インドネシア航空に対し約6.65兆ルピア(約4億5千万ドル)もの資金を株主ローンの形で提供したことが大きな話題となりました。航空機のメンテナンスや運航の安定化を目的としたこの支援は、低価格航空会社Citilinkも対象に含まれ、ガルーダグループ全体の再建を意識した動きといえます。

ダナンタラは国営企業の配当金を活用して国家戦略事業に投資する政府直下の新ファンドであり、この支援もその一環です。しかし、「未来への成長投資」という本来のミッションと、経営不振企業の救済という実態に乖離があるのではないか、という声も上がっています。

 

 

ガルーダ・インドネシアの財務状況:表面回復、実態は?

ガルーダ・インドネシアの財務状況:表面回復、実態は?

確かに近年、ガルーダの営業キャッシュフローは改善傾向にあります。2024年度には約5.85兆ルピア(USD 585.7百万)のキャッシュを稼ぎ出し、前年比でも大きく回復しています。フリーキャッシュフローもUSD 150百万に達しています。

しかしながら、純利益ベースでは赤字が続いており、純資産は–4630億ルピア(–0.46兆IDR)とマイナス。総負債は7.94兆ルピアに上り、総資産(6.62兆ルピア)を大きく上回っています。これにより負債比率は–266%と深刻な状態です。

短期的な資金繰りの指標である流動比率は0.46、当座比率は0.31と極めて低く、運転資金の安定性には懸念が残ります。また、ROA(総資産利益率)は3.35%、ROIC(投下資本利益率)は9.06%と改善傾向にある一方で、純利益率は–1.8%と依然赤字圧力の中にあります。

つまり、ガルーダは「キャッシュは生み出せているが、債務超過・資本不足・赤字構造という三重苦」を抱えている状態なのです。

 

業績悪化の原因は構造不全か、それとも外的要因か?

ガルーダの業績不振は、パンデミックによる航空需要の蒸発だけが原因ではありません。実際、他の航空会社が回復を見せる中、ガルーダは構造的な非効率さに悩まされ続けています。

機材調達コストの高さ、不透明な契約、肥大化した人件費。これらは単なる経営ミスではなく、長年にわたる組織的なガバナンス不全の結果と言えるでしょう。また、世界標準と比べて低いサービス品質や時間厳守率も、収益力の低下につながっています。

 

 

新CEOは空軍とライオン航空出身、変革の起爆剤となるか?

新CEOは空軍とライオン航空出身、変革の起爆剤となるか?

2024年11月、長年経営を担ってきたイファン・セティアプトゥラ前CEOに代わり、新たに空軍出身のワミルダン・ツァニ・パンジャイタン氏が社長に就任しました。彼はインドネシア空軍アカデミーを卒業後、軍用パイロットとしてのキャリアを経て、民間航空業界ではライオン航空グループで幹部を歴任し、安全運航や運用管理に精通した人物として知られています。

空軍という国家機関出身であると同時に、民間航空最大手の一角であるライオン航空出身という経歴は、異色であると同時に戦略的でもあります。この人事には、ガルーダの規律強化とコスト意識の徹底という経営課題に対し、軍的思考と民間の競争環境で鍛えられた実務力の融合を期待する政府の意向が色濃く表れていると見る向きもあります。

一方で、こうした経歴からは、政治的な影響力の介在も否定できません。国家主導で再建を進めるガルーダに対して、「政治的にコントロールしやすい人物が起用されたのではないか」という懐疑的な声も上がっており、彼の就任が象徴するのは単なる経営刷新ではなく、政治と航空の密接な関係性そのものかもしれません。

軍人としての規律と民間航空での実務経験を併せ持つ彼の手腕に期待する声もありますが、組織文化の根深い問題や政治的な圧力が彼の改革にブレーキをかける可能性も否定できません。

 

 

過去の政府支援は、何をもたらしたのか?

ガルーダ・インドネシアへの政府支援は今回が初めてではありません。過去にも国家予算や政府系金融機関を通じて、複数回にわたる資金注入が行われてきました。

たとえば、1998年のアジア通貨危機時には、ガルーダの債務(当時約24億ドル)に対して政府保証や債務の株式化が行われ、経営再建の一端を政府が担いました。

さらに2020年のCOVID-19パンデミック時には、政府からの橋渡しローン(dana talangan)として約8.5兆ルピア(約5億ドル)が実行されました。この資金は主に運転資金、空港使用料、燃料代の支払いなどに充てられ、経営継続の危機を一時的に乗り越えることに貢献しました。しかし、この資金は「ローン」として提供されたものの、返済された形跡は明確ではありません。

その後2022年には、さらに約7.5兆ルピア(約4.8億ドル)が「国家資本注入(PMN)」の形で供与されました。これは返済義務のない出資金であり、ガルーダの再建計画の一環として位置づけられていました。これに伴い、既存のイスラム債(sukuk)500百万ドル分の債務再編案が発表され、一部を株式転換、残りを最大10年の長期返済に切り替えるなどの財務リストラが実施されました。

しかし、これら一連の支援が財務体質の抜本的な改善に繋がったかというと、答えは否定的です。現在もガルーダは純資産がマイナスであり、債務超過の状態から脱していません。また、財務支援と並行した構造改革が不十分だったため、根本的な経営改善には至らなかったとの指摘が根強くあります。

つまり、ガルーダは“定期的な政府支援を受けながらも、財務・経営両面での自立を果たせていない”という状況が続いているのです。

 

 

繰り返される不祥事と経営ガバナンスの欠如

繰り返される不祥事と経営ガバナンスの欠如

歴代経営陣による汚職事件も、ガルーダの信頼を大きく損なってきました。中でも象徴的なのが、元CEOエミルシャ・サタールによる複数の贈収賄事件です。

彼はエアバス機材やロールスロイスエンジンの調達に関連し、約340万ドル相当の賄賂を受け取ったとして2020年に有罪判決を受け、懲役8年と罰金1億ルピア、およびシンガポールドル210万の返還命令が下されました。その後、2024年にはCRJ-1000およびATR 72-600の調達に関する不正でも再び有罪となり、5年の懲役が追加されました。

これらの不正契約によって国家に与えた損失は、累計で約6億ドル(約8.8兆ルピア)にも及ぶとされ、ガルーダにおける調達の不透明さが浮き彫りとなっています。また、共犯とされた民間企業顧問も6年の実刑を受けており、KPK(汚職撲滅委員会)による国際的な調査協力が行われた重大事件です。

さらに、整備契約(MRO)においてもRolls-Royceとの契約で数十億ルピア規模の不正が疑われ、2018年にはガルーダ側から訴訟が提起されるなど、企業内部だけでなく契約相手との関係にも深い問題があることが明らかになりました。

こうした一連の不祥事と組織的ガバナンスの欠如は、国民の“税金で救う意味はあるのか”という疑念をさらに深める要因となっているのです。

 

 

救うべきか?潰すべきか?

救うべきか?潰すべきか?

「国家の象徴だから」「雇用維持のため」「交通インフラとして不可欠」――。ガルーダを救う理由は確かにあります。一方で、「競争力のない企業に何度も税金を投入するのは正義か」「構造改革なしに支援だけしても再発するだけでは?」という疑問も無視できません。

さらに今回の資金投入は、インドネシア政府が新たに設立した国家ファンド「ダナンタラ(Danantara)」から実行されたものであり、その使途と成果は今後の国民的議論の対象になっていく可能性があります。ダナンタラは、本来は将来の成長投資や国益の最大化を目指すべき国家資産の運用機関です。

そのダナンタラが経営再建の見通しが不透明な企業に巨額の資金を注ぎ込んだことは、投資機関としての信頼性やレピュテーションに直結するリスクとも言えるでしょう。仮にこの資金投入が失敗に終わった場合、ガルーダだけでなくダナンタラ自身の信用も揺らぎかねません。

今回の支援は単なる延命策なのか、それとも本当の再建への第一歩なのか。

今後のガルーダインドネシア航空に要注目です。

 

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