
4月 12, 2025 • インドネシア, 特定技能・技能実習
5月 3, 2025 • インドネシア, 特定技能・技能実習 • by Reina Ohno
目次
日本の農業現場では高齢化と人手不足が深刻化する中、インドネシアからの技能実習生の受け入れが年々拡大しています。外国人技能実習制度(農業分野)は、人材確保と技能移転の双方の目的で活用されており、特にインドネシア人材はその適応力や真面目さから注目されています。本記事では、インドネシア人技能実習生(農業)の業務内容や制度の概要・要件、インドネシア人農業人材の特徴や性格・職業観、さらに採用の流れや費用相場、受け入れ時の注意点、そして成功事例に学ぶ活用のコツまで、項目ごとにわかりやすく解説します。インドネシア人技能実習生の受け入れを検討している企業・農家・監理団体の皆様は、ぜひ参考にしてください。
インドネシア人に限らず、農業分野の技能実習生は主に耕種農業(植物の栽培)と畜産農業(動物の飼育)の現場で働きます。具体的には次のような業務があります。
いずれの職種でも、技能実習生は安全衛生作業(農業機械の安全な操作や防護具の着用、熱中症対策など)に関する業務も重要な一部です。日本人従業員の指導の下、農場での基本的な安全ルールを守りながら作業を習得していきます。
制度の目的と背景
外国人技能実習制度は、「技能移転による国際貢献」を目的とし、インドネシアをはじめとする発展途上国の研修生に日本の技術や知識を習得してもらうために設けられた制度です。しかし実際には、日本国内の深刻な人手不足を補う側面が大きく、農業分野でも即戦力としての活用が期待されています。
在留期間と延長条件
実習生の在留期間は原則として最長3年間(技能実習1号=1年目+2号=2〜3年目)とされています。ただし、受け入れ企業(実習実施者)および監理団体が「優良」認定を受けた場合には、さらに2年間の3号実習が可能となり、最大で5年間の在留が認められます。なお、3号への延長には、技能検定の合格や優良要件の充足といった一定の条件が必要です。
団体監理型と企業単独型
農業法人や個人農家が技能実習生を受け入れるには、監理団体(農協や事業協同組合など)に加入し、その管理・監督のもとで実習を実施する必要があります。制度上は、受け入れ企業が単独で実習生を受け入れる「企業単独型」も存在しますが、農業分野においては「団体監理型」が一般的です。
受け入れ可能人数の上限
受け入れ可能な実習生の人数は、受け入れ先の常勤職員数に応じて設定されています。たとえば、常勤職員が30人以下の事業所では、技能実習1号(1年目)の新規受け入れ人数は最大3人までとされています。職員数が31~40人の場合は4人、41~50人なら5人と段階的に増えていきます。
2年目以降は、既存の実習生も含めた総数での上限が定められています。たとえば、常勤職員が30人以下の場合、実習2号では最大6人(常勤数の2倍)、実習3号では最大9人(同3倍)まで受け入れ可能です。この人数枠の管理は、日本人スタッフが適切に指導できる体制の維持を目的としています。
対象職種と作業範囲
農業分野における技能実習は、大きく分けて「耕種農業(施設園芸・畑作・果樹)」と「畜産農業(養豚・養鶏・酪農)」の2職種に分類されます。それぞれの職種において、実習可能な作業範囲は詳細に定められており、受け入れ先は実習生に従事させる業務内容がこれに適合しているかを確認する必要があります。
実習計画の作成と認定
実習を行うには、技能実習計画を策定し、外国人技能実習機構(OTIT)へ申請・認定を受けなければなりません。計画には、実習期間中に習得させる技能の内容やスケジュール、指導担当者、受け入れ先の体制、実習生の待遇などを詳細に記載します。
農業では季節によって作業内容や繁忙の度合いが大きく変わるため、年間を通じた実習内容を無理のない範囲で計画に反映させることが求められます。
リレー方式と加工実習の導入
2017年の制度改正により、農業分野では新たな柔軟な受け入れ形態が認められるようになりました。農閑期に農産物の加工実習(例:収穫果実でのジャム製造など)を行うことや、繁忙期にのみ短期で実習生を受け入れ、他の時期には別の実習生に交代する「リレー方式」が可能となっています。
例えば、夏季繁忙期には実習生A、冬季繁忙期には実習生Bを交代で受け入れることで、一年を通して安定した労働力を確保することができます。なお、このような実習形態を実施するには、監理団体との調整および実習計画の認定が必要です。
適用される労働法令
技能実習生は、日本人労働者と同様に労働基準法や最低賃金法の適用対象です。受け入れ企業は、就業時間、時間外労働、休日、深夜労働などの法定基準を順守し、適切な賃金を支払わなければなりません。また、労働安全衛生法に基づいた安全教育の実施も義務づけられています。
実習生の人権保護と監査体制
実習生の人権を守り、制度の適正な運用を確保するために、監理団体と外国人技能実習機構(OTIT)が定期的に実習先を訪問し、監査・指導を実施します。
不当な長時間労働、賃金未払い、ハラスメントなどが認められた場合には、是正指導や転籍支援などの保護措置が講じられる仕組みが整っています。
受け入れ企業・農家は、実習生が安心して働ける職場環境を整えるとともに、就業規則や地域社会でのマナー、近隣住民への配慮など、日本で生活・就労するうえで必要なルールを丁寧に教えていく姿勢が求められます。
農業経験と作業への慣れ
インドネシアは国民の多くが農業や水産業に従事する農業国であり、特に地方出身の実習候補者の中には幼少期から家族の農作業を手伝っていた経験者も多く存在します。そのため、農具の扱いや野菜の育て方など、基礎的な作業に馴染みがある人材もいます。
体力と気候への適応性
日常的に高温多湿の環境下で体を動かしているため、屋外での肉体労働に対する体力や耐久力は高い傾向があります。「自然相手の厳しい環境でも順応できる」と評価されることもあり、真夏の圃場作業などにおいても粘り強く対応できる力を持っています。
一方で、インドネシアには冬が存在しないため、寒冷地や冬季の農作業は未経験です。日本の寒さの中での作業(ビニールハウスの補修や畜舎の清掃など)には不慣れなため、防寒対策や慣れへの配慮が必要です。また、日本特有の蒸し暑さや長時間の直射日光も初体験となるケースが多いため、こまめな休憩や水分補給のサポートが重要です。
来日前の基礎教育
多くのインドネシア人技能実習生は、来日前に日本語や技能の研修を現地で受けています。数か月にわたって送り出し機関附属の日本語学校やトレーニングセンター(LPK)で学習し、日本語能力試験N4レベルの合格を目指す教育も推進されています。これにより、来日時点で基本的な日本語のコミュニケーションが可能な人材が増加しています(個人差あり)。
向上心と責任感
多くの実習生は「日本で技術を学びたい」「家族を支えるために稼ぎたい」といった明確な動機を持って来日します。新しい作業にも前向きに取り組み、指導された内容を素早く吸収する意欲を示す傾向があります。農業の専門知識や機械操作を初めて学ぶ場合もありますが、丁寧な指導によって習得が期待できます。
ただし、すべての実習生が農業経験者というわけではなく、都市部出身で農業未経験の人もいます。重労働が苦手な実習生には徐々に体を慣らし、経験者にはやりがいのある作業を任せるなど、個々の適性に応じた対応が求められます。
イスラム教徒としての習慣
インドネシア人の約87%はイスラム教徒であり、多くの実習生もイスラム教の戒律を守っています。代表的な例として、豚肉やアルコールを口にしない、一日5回の礼拝を行うなどの宗教的習慣があります。
例えば、養豚場での実習に関しては宗教的な配慮が必要であり、多くの実習生は豚の飼育や食肉処理といった職種を避けたがります。そのため、受け入れ側は実習生の宗教を理解し、希望しない作業を無理に割り当てないことが重要です。
食事と生活スタイル
食事面では、豚由来成分を含まない「ハラルフード」を好む実習生が多く、社員食堂などでの配慮も求められます。鶏肉や牛肉を中心とした献立や、ラードを使用しない調理が望ましいです。最近ではハラル認証食品も入手しやすくなり、実習生自身が自炊をすることも増えています。こうした生活支援を受け入れ側が行うことで、信頼関係の構築に役立ちます。
協調性と真面目さ
インドネシア人は温厚で協調性があり、真面目で責任感の強い性格とされます。職場では笑顔を絶やさず、周囲と打ち解けやすいため、チームワークにも適しています。困難な状況でも前向きに取り組む精神的な強さも特徴です。
時間感覚と適応力
時間に対してはおおらかな面があり、作業の段取りや納期意識は日本人ほど厳密ではないこともあります。こうした違いに対しては、「5分前行動」のような基本を根気よく教えていく必要があります。職場文化に慣れることで、徐々に改善していく傾向があります。
家族愛と目的意識
インドネシア人の多くは家族思いで、「家族を支えるために日本で働く」という明確な目的意識を持っています。そのため、時にはホームシックに陥ることもありますが、温かく接することで乗り越えるケースがほとんどです。
総じて、インドネシア人実習生に対する日本での評価は非常に高く、「誠実で努力家」「素直で教えたことを守る」といった声が多く寄せられています。義理堅く実直な性格から、日本人スタッフとの信頼関係も築きやすい傾向があります。
協調性と責任感の強さ
インドネシア人は穏やかで人当たりが良く、職場の和を重んじる協調性を持っています。初対面の相手にも明るく接することができるため、農場の先輩や同僚、日本の地域社会にも比較的早く溶け込みやすい傾向があります。
指示された仕事に対しては真面目に取り組み、任された作業は最後までやり遂げようとする責任感を持っています。途中で投げ出したり、無断で欠勤したりすることが少ないため、受け入れ企業からの信頼も得やすいです。こうした姿勢は、家族や地域社会の中で助け合いや責任を大切にする価値観を育んできた文化的背景に由来しています。
また、「日本で働く機会を与えてもらった恩に報いたい」という気持ちから、真剣に仕事に取り組む実習生も少なくありません。
向上心と学習意欲
中には、「将来自分の国で農業ビジネスを起こしたい」「日本の先進技術を学んでキャリアアップしたい」といった高い目標を持つ実習生もいます。そうした人材は、自主的に日本語学習や資格取得に励み、余暇時間を活用して勉強するなど、意欲的に取り組みます。
一方で、大きな野望よりも「安定した収入を得て家族に仕送りしたい」と考える実習生もいます。このようなタイプも仕事には真面目ですが、キャリア形成や技能向上に対する反応は人それぞれです。受け入れ企業としては、各人の職業観を理解し、それに合った目標設定や指導、声かけが重要となります。
「イエス」と言いやすい文化的傾向
インドネシア人は相手に敬意を払う文化を持っており、指示に対して「はい、わかりました」と答えることが多いです。しかし、その実態としては、内容を十分に理解していないまま返答していることもあります。疑問点や不満があってもその場では遠慮して言わないケースも多く見られます。
そのため、コミュニケーションにおいては「理解しているかどうか」を確認する意識が重要です。仕事の手順を一度伝えただけで終わらせず、様子を観察したり質問したりして、実際に理解しているかを確認しましょう。
言語の壁もあるため、写真や動画を用いた説明、インドネシア語で書かれたマニュアルなど、視覚的・言語的な工夫が効果的です。基本的にインドネシア人実習生は素直で従順ですが、言葉のニュアンスまでは汲み取れないこともあります。「分からないことは遠慮なく聞いて」と日頃から伝え、相談しやすい雰囲気をつくることが大切です。
南国気質と柔軟性
インドネシアでは時間に対して比較的おおらかで、「ジャム・カレー(緩やかな時間)」という文化があり、少しの遅れは許容される風潮があります。日本のように時間管理が厳しい職場では、最初は戸惑うこともあるかもしれません。
しかし、仕事の重要性や納期の意味を理解すれば、多くの実習生は次第に順応していきます。特に農業のように天候や生き物に左右される現場では、予定通りに進まないことが多いため、柔軟に対応できるインドネシア人の気質は強みとなることもあります。
収穫や出荷前など、短期間で一気に作業を終えなければならない場面では、日本人スタッフがペース配分を示すことで、インドネシア人実習生も周囲に合わせてスピードを上げることができます。チーム全体の雰囲気次第で、生産性も高めることが可能です。
屋外作業とチームプレイへの適性
インドネシア人は、屋外での作業や仲間と協力して行う仕事に高い適性を示します。農作業は肉体労働や共同作業が中心であるため、インドネシア人実習生の特性が活かされやすい職場といえます。
単独作業や細かい作業への注意
一方で、ハウス内での単調な選別作業や、長時間の単独作業などには苦手意識を持つ実習生もいます。こうした作業が続くと、明るく社交的な性格が影を潜め、モチベーションの低下につながることもあります。
そのため、作業にバリエーションを持たせたり、ローテーションを組んで仲間との共同作業の時間を増やすといった工夫が効果的です。実習生自身が「この仕事が向いていない」と口に出すことは少ないですが、表情や行動から察知できることがあります。得意な作業は積極的に任せ、苦手な部分にはフォローを厚くするなど、柔軟な対応で実習生の力を最大限に活かすことができます。
監理団体との初期連絡と相談内容
まず、農業分野で技能実習生を受け入れられる監理団体に問い合わせます。監理団体とは、受け入れ企業の支援・監督を担う事業協同組合や農協等の団体です。未加入の場合は入会し、受け入れ希望を伝えて計画の相談を行います。
希望人数、時期、作業内容、農場の規模や所在地を伝えることで、監理団体から制度の説明とアドバイスを受けられます。繁忙期・農閑期のスケジュールとのすり合わせも重要です。
送り出し機関との連携
監理団体は通常、インドネシアの送り出し機関と提携しており、候補者の募集や選抜も代行してくれます。信頼できる監理団体を選ぶことが、良質な人材獲得の第一歩となります。なお、送り出し機関からの直接紹介であっても、監理団体を通さずに受け入れることはできません。
募集開始と送り出し機関の役割
監理団体との契約が済むと、提携先の送り出し機関が候補者募集を開始します。送り出し機関はインドネシア政府から認可を受けた団体で、教育や選抜を担います。
優良な送り出し機関の選び方
以下のポイントを確認すると安心です。
監理団体が信頼できる送り出し機関を選定していますが、受け入れ企業としても確認しておくと安心です。
候補者プロフィールの確認
送り出し機関が行った一次選考を経て、候補者の履歴書やプロフィールが送られてきます。内容には学歴、職歴、資格、家族構成、志望動機などが含まれます。
希望人数の倍程度を選抜し、面接対象者を決めます。農業経験の有無や日本語学習時間(150〜300時間程度)、志望理由などが注目ポイントです。実家が農家であるか、有機農業への関心があるかなども評価材料になります。
面接準備と通訳体制
監理団体や送り出し機関のコーディネーターが通訳を担当し、ビデオ通話での面接が行われます。簡単な日本語で質問を投げかけて反応を見ることも大切です。
質問の工夫
農業への意欲や実体験を引き出す質問(例:「農業で何を学びたいか」「大変だった作業」)を行います。身体的負荷への耐性や宗教上の配慮が必要な職種(養豚など)についても確認しておくとよいでしょう。
態度・非言語的情報の観察
表情、姿勢、態度などから協調性や熱意を読み取ることが大切です。質問への反応だけでなく、他の人の話を聞く姿勢も観察しましょう。評価は通訳の意見も参考にして総合的に判断します。
面接後の評価と内定
面接後に社内で評価をまとめ、監理団体と相談のうえ内定者を決定します。枠に余裕があれば優秀な人材を追加採用することも可能です。内定後は正式に候補者本人と合意し、受け入れが確定します。
実習計画と在留資格申請
監理団体と企業で技能実習計画を作成し、外国人技能実習機構(OTIT)へ申請します。認定後、出入国在留管理庁へ在留資格認定証明書(COE)を申請します。通常、審査は1〜3か月程度かかります。
出国前研修と準備
インドネシア側では日本語教育や生活習慣・マナーの研修を受け、健康診断や各種届け出も済ませます。受け入れ企業側も住居や作業服、道具などを準備し、指導員を選任しておきます。
ビザ申請と渡航
COEが発行されたら、インドネシアの日本大使館でビザ申請を行い、発給されたビザで渡航します。航空券の手配や最終オリエンテーションも送り出し機関が担当します。
入国と講習(生活適応研修)
空港で在留カードを受け取り、監理団体や企業担当者が出迎えます。入国後、監理団体が実施する1か月間(160時間以上)の法定講習を受講します。内容は日本語、労働法、安全教育、文化理解など多岐に渡ります。
農業分野に合わせて農機具の使い方や農村生活のマナーなども指導されます。講習期間中は月6〜7万円の生活支援手当が支給されます。
実習先への配属とOJT
講習修了後、監理団体職員が実習生を農場まで同行し、受け入れ企業へ引き渡します。住民登録、保険加入などの手続きの後、指導員がOJTを開始します。言語や文化の違いに配慮しつつ、マンツーマンでの指導が理想的です。
この一連の流れを通して、採用から配属まで約4〜6か月を見込んで準備を進めるとスムーズです。農繁期に配属させたい場合は、逆算して早めに行動を開始することが重要です。
急増する在日インドネシア人実習生の数
インドネシア人技能実習生は近年急増しており、国別で見てもベトナムに次ぐ第2位の送り出し国となっています。2022年末時点では約4万5千人だった在日インドネシア人技能実習生の数は、2023年末には7万4,387人にまで増加し、1年間でおよそ1.6倍に増えました。
技能実習生全体に占めるインドネシア人の割合も21%を超え、2017年時点の8.6%から大きく存在感を増しています。近年はベトナム人の伸び率が鈍化傾向にある一方で、インドネシア人の比率が急激に高まりつつあります。
農業実習生におけるインドネシア人の割合
製造業や建設業に比べると農業分野での受け入れはやや少ないものの、インドネシア人実習生に限っては農業関係職種への配置が相対的に高い傾向があります。2023年度時点で技能実習生全体のうち、農業分野に従事しているのは約7.2%ですが、インドネシア人に限ると8.3%に上昇します。
この数字を実数で見ると、2023年末時点で農業分野に従事するインドネシア人技能実習生は6,000〜7,000人規模と推定されます。これは前年の3,000〜4,000人から倍近く増加しており、農業実習生全体に占めるインドネシア人の割合は約28%に達しています。ベトナムに次ぐ規模で、存在感を急速に高めています。
他分野における配置状況
インドネシア人技能実習生は農業のほか、建設分野に多く配置されています。職種別の構成では以下の通りです。
インドネシア人は、身体を使う分野での適応力が評価されており、特に建設・農業・漁業などの現場作業で活躍しています。一方で、日本語能力や細かな作業が要求される工場の電子機器組立分野などでは、ベトナム人や中国人の方が多い傾向があります。
特定技能への移行実績
2019年に創設された特定技能制度により、技能実習修了後も日本で働き続ける道が広がっています。農業分野はこの制度における14の重点分野の1つであり、2023年末時点で農業分野の特定技能外国人数は23,861人に達しています。
そのうちインドネシア人は6,743人と、全体の28%を占める最大の国籍グループとなっています。これはベトナム人を僅かに上回っており、インドネシア人実習生が技能実習から特定技能1号へ移行して継続就労するケースが増加していることを意味します。
統計によると、特定技能1号で在留する外国人のうち、約63%は元技能実習生が占めています。農業分野でも、技能実習を3年間修了後に帰国せず、そのまま特定技能として再来日するインドネシア人が増加しており、企業側にとっても即戦力の継続雇用という大きなメリットがあります。
今後の展望と企業側の対応
ここ2年ほどでインドネシア人農業実習生の数は飛躍的に増加し、日本の農業現場で欠かせない存在となりつつあります。また、技能実習から特定技能へとキャリアパスを描く人材も現れており、今後は中長期的に活躍するインドネシア人材の受け入れがますます重要となっていくと考えられます。
受け入れ企業としては、こうした統計的動向を踏まえ、実習生から特定技能人材への移行を見据えた人材戦略や教育体制の整備が求められます。安定した労働力の確保とともに、信頼関係の構築を通じた長期的な人材育成が、今後の競争力強化につながるでしょう。
最低賃金と月収の目安
技能実習生には最低賃金以上の給与を支払うことが法律で義務付けられています。農業分野においては地域差があり、時給は多くの地方で900円~1000円程度です(例:茨城県916円、群馬県895円など)。これをもとに計算すると、フルタイム・残業なしの場合で月収はおおよそ14万~18万円程度となります。
厚生労働省の調査では、外国人技能実習生の平均月収は約18万1,700円とされており、最低賃金ギリギリではなく一定の水準が保たれていることがわかります。
具体的な給与例と割増賃金
たとえば、北海道の酪農牧場では時給920円で月160時間+残業20時間働き、基本給約14.7万円+残業代2.3万円=月収約17万円となるケースがあります。一方、関東の施設園芸の大規模農場では時給1050円・残業少なめで月収16万円程度といった例もあります。
残業代(25%増)、深夜労働(25%増)、休日労働(35%増)などの法定割増賃金は必ず支給する必要があります。最低賃金が900円の地域であれば、残業1時間につき1,125円以上の支払いが必要です。
賞与や手当について
技能実習生に賞与(ボーナス)を支給する義務はありませんが、企業によっては年1~2回、数万円の一時金を支給することがあります。通勤手当・残業手当・深夜手当などは、日本人と同様の基準で支払わなければなりません。
農村地域では自転車通勤や徒歩通勤が多いため、通勤手当が不要なケースもあります。代わりに、低額な家賃設定や無償提供など、住宅手当的な処遇を行う場合もあります。
渡航前後の初期費用の内訳
初期費用には以下のようなものが含まれます。
費用の目安は、1人あたり約70万~150万円ですが、多くのケースでは約50万~90万円で収まることが一般的です。面接をオンラインで行う、講習をグループ形式で行うなどの工夫により費用を抑えることも可能です。
初期費用の注意点
これらの費用は実習生の配属前にまとめて発生するため、受け入れ企業は事前に資金計画を立てておく必要があります。
毎月発生する管理費と送出費用
実習生配属後には、毎月以下の費用がかかります。
合わせて、1人あたり月額3.5万~4万円程度の管理経費がかかります。これとは別に、年会費・入会金が1~3万円程度発生する場合もあります。
住居費とその負担方法
受け入れ企業は実習生に対して住居を用意する責任があります。家賃の相場は農村部で月2~5万円程度です。一部または全額を企業が補助する例もあり、例えば家賃3万円のうち2万円を企業負担、1万円を実習生負担にするなどの対応がされています。
家具・家電・布団などの生活必需品の購入費や、引越し関連の初期費用も必要となるため、予算化が必要です。
その他の追加費用
最近では、帰国費用がインドネシア側の積立金から支払われるケースもありますが、契約によっては企業負担となるため、事前確認が重要です。
総合的な受け入れコストの目安
インドネシア人技能実習生1名を3年間受け入れた場合、以下を含む総合的な費用は年間300万~400万円程度になることが多いです。
日本人新規雇用者と単純比較することは難しいものの、技能実習制度には途中離職が少なく、最長5年の継続雇用が可能であるという利点があります。適切に運用すれば、コストに見合った安定した人材確保ができる制度といえるでしょう。
日本語理解の実情
多くのインドネシア人技能実習生は来日前に日本語の基礎を学んでいますが、現場での会話や専門用語、方言の理解には時間がかかります。返事は「はい」と言っても実際は理解していないケースもあるため、工夫が必要です。
コミュニケーションを円滑にする方法
礼儀・挨拶・人間関係の違い
インドネシアでは目上の人にもフレンドリーに接する文化があり、笑顔や握手、冗談が多い傾向があります。日本の上下関係や敬称の使い方に戸惑うこともあるため、初期に簡単なマナーを教えるとスムーズです。
時間感覚と勤務態度
日本のような「5分前行動」は一般的でなく、「遅れたら謝ればいい」と考える実習生もいます。時間厳守の重要性や、遅刻が信頼を損なうことを丁寧に伝える必要があります。また、休憩時間から戻らないときは事情を聞く配慮も重要です。
YES/NOの表現に対する注意
インドネシア人は遠慮して本音を隠す傾向があり、問題があっても「大丈夫」と答えることがあります。沈黙や笑顔の裏にある気持ちを汲み取り、「何か困っていない?」と具体的に尋ねると、本音を引き出しやすくなります。
安全衛生への意識
インドネシアの農村では安全装備の意識が低いため、日本の安全基準を一から説明する必要があります。なぜ必要かを論理的に伝えることで、実習生の理解と協力を得やすくなります。
日々の礼拝への理解
イスラム教徒であるインドネシア人実習生は、1日5回の礼拝を行う場合があります。全員が厳格に行っているとは限らないものの、昼休みや小休憩中に静かに祈る姿も見られます。きれいな場所を提供すると好印象です。
ラマダン(月断食)期間中の対応
ラマダン中は日の出から日没まで飲食を断つため、体力的に厳しくなります。特に夏場は熱中症リスクが高まるため、作業時間を早朝や夕方に調整するなどの配慮が必要です。
レバラン(断食明け祝祭)への理解
レバランはインドネシア人にとって最も大切な祝祭です。休暇を希望する実習生がいれば、できるだけ配慮し、モスクでの祈りや仲間との集まりに参加できるようにすると、モチベーションの向上にもつながります。
生活面の支援
実習生は日本の生活に不慣れであり、買い物や病院受診、公共交通機関の利用などに不安を感じることがあります。買い物に同行したり、生活ガイドを提供することで安心感を与えられます。体調不良時には迷わず病院に同行し、必要に応じて通訳を手配してください。
医療や食品への配慮
薬のカプセルなどに使われる豚由来の成分を避けたいという希望を持つ実習生もいますが、そこまで厳格でない場合もあります。可能な範囲で配慮する姿勢が信頼関係につながります。
地域住民との共生
農村部では近隣との関係が重要です。事前に自治会などに説明をし、地域行事への参加やゴミ出しルールの遵守など、地域の一員としての自覚を持たせることが大切です。
クレームがあった場合は、相手の話を聞きながら丁寧に対応し、誤解を対話で解消していく姿勢が求められます。
最後に、実際にインドネシア人技能実習生を受け入れてうまく活用している農家・企業の成功事例に基づき、効果的なマネジメントのコツを紹介します。せっかく縁あって受け入れた実習生ですから、お互い気持ちよく働き、最大限の成果を上げられるよう工夫しましょう。
丁寧な準備とコミュニケーション、文化理解とサポート体制を万全にすれば、インドネシア人技能実習生は日本の農業現場に欠かせない戦力となってくれるでしょう。受け入れ側が真心を持って接すれば、実習生も期待に応えようと精一杯努力してくれます。互いに助け合い学び合う関係を築き、インドネシア人実習生との協働を農業経営の発展にぜひ活かしてください。
インドネシア人技能実習生の受け入れは、日本の農業現場における深刻な人手不足を補う重要な手段として注目されています。彼らの身体的な適応力や責任感、素直な性格は、現場において非常に高く評価されています。本記事では、技能実習制度の概要や採用プロセス、費用の内訳、文化的な配慮点、成功事例までを幅広く紹介しました。
受け入れを成功させる鍵は、制度の正確な理解と丁寧な準備、実習生の個性や背景を尊重した柔軟な対応にあります。適切なサポート体制とコミュニケーションを通じて、インドネシア人実習生との良好な関係を築き、持続的な人材確保と農業経営の安定化に繋げていくことが期待されます。
LPK Timedoorは、インドネシア・バリ島デンパサールに拠点を置く職業訓練校で、日本での就労を目指すインドネシア人に対し、日本語や日本文化、仕事に対する価値観やマインドセットを学ぶ環境を提供しています。お気軽にお問い合わせください。
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本記事で使用した用語の解説
技能実習制度
日本の技術・知識を開発途上国の若者に移転し、母国の経済発展に貢献することを目的とした制度。実際には労働力確保の役割も担っている。
団体監理型
監理団体(農協や事業協同組合など)が実習生を受け入れる企業を支援・監督する形態。農業分野では一般的。
送り出し機関
実習候補者の募集・選抜・教育を行い、日本の監理団体や企業に人材を送り出すインドネシア側の政府認可機関。
特定技能
技能実習を修了した外国人などが、一定の技能水準と日本語能力を有する場合に、就労継続が可能となる新たな在留資格制度。
リレー方式
農業の繁忙期にあわせ、複数の実習生を季節ごとに入れ替えながら受け入れる仕組み。年間を通じて労働力を確保できる。
ラマダン(断食月)
イスラム教における宗教行事。日の出から日没まで飲食を断つ慣習があり、夏場は体力的な負担が大きいため配慮が必要。
レバラン(断食明け大祭)
ラマダン終了後に行われるイスラム教最大の祝祭日。実習生にとって重要な家族行事であり、特別な配慮が望まれる。
よくある質問(FAQ)
Q1. インドネシア人実習生を受け入れるにはどうすればいいですか?
まずは技能実習制度に対応した監理団体に相談し、受け入れ計画を立てます。送り出し機関との連携、書類手続き、ビザ取得、講習などを経て配属されるまで、通常4〜6か月程度を要します。
Q2. 実習生に支払う給与はいくらですか?
地域の最低賃金に基づき、月給は14万〜18万円が一般的です。残業や深夜・休日労働がある場合は割増賃金が発生します。賞与は義務ではありません。
Q3. 宗教や文化への配慮はどの程度必要ですか?
イスラム教徒が多いため、礼拝や断食(ラマダン)、ハラル食への理解が重要です。礼拝スペースの確保やラマダン中の作業調整など、実習生の信仰を尊重することが望まれます。
Q4. 特定技能への移行は可能ですか?
技能実習2号を修了した実習生は、特定技能1号へ移行可能です。移行すれば在留を継続でき、同一企業で働き続けることも可能になります。
Q5. 実習生とのトラブルを防ぐには?
こまめな声かけや相談機会の確保、日本語以外の伝達手段(写真、翻訳アプリ)の活用が効果的です。信頼関係を築くことが何よりも重要です。