
4月 18, 2025 • インドネシア, 特定技能・技能実習
5月 3, 2025 • インドネシア, 特定技能・技能実習 • by Reina Ohno
目次
日本の製造業、とくに機械・金属分野では深刻な人手不足が続いています。こうした中、インドネシア人技能実習生は、技術の習得意欲が高く、まじめで協調性のある人材として大きな注目を集めています。本記事では、インドネシア人技能実習生を機械・金属分野で受け入れる際の業務内容、制度の仕組み、採用から配属までの流れ、成功事例までを網羅的に解説します。初めて外国人材を受け入れる中小企業・製造業の方でも理解しやすい内容となっていますので、ぜひ参考にしてください。
インドネシア人に限らず、機械・金属分野の技能実習生は主に金属加工、機械加工、鋳造、鍛造、溶接、板金、仕上げ、塗装、検査など、製造業の多様な現場で働きます。具体的には次のような業務があります。
機械加工(旋盤・フライス盤・マシニングセンタなど)
工作機械を用いて金属部品を削ったり、穴をあけたりする業務です。図面に基づいて材料をセッティングし、旋盤やフライス盤、CNCマシニングセンタなどの装置を操作します。切削工具の交換や寸法測定、加工後のバリ取りも重要な作業の一部です。CNC制御装置の基本操作や、簡単なプログラム修正を任されることもあります。
金属加工(鋳造・鍛造・プレスなど)
鋳造では溶かした金属を型に流し込んで製品を成形します。炉の操作補助、金属の注湯、型枠の取り扱い、鋳物の取り出しや清掃作業などが主な業務です。鍛造では加熱した金属をハンマーやプレスで成形し、自動車や機械部品を作ります。加熱炉の管理や安全確認、金属の搬送、金型のセット・交換作業などが求められます。
溶接・板金
金属と金属を接合する溶接作業では、アーク溶接、ガス溶接、TIG溶接、スポット溶接などが用いられます。材料の固定、溶接機の操作、完成後の外観検査や仕上げ研磨などを行います。板金作業では金属の切断・曲げ・穴あけ・溶接などを通じて、ダクト、筐体、部品カバーなどを製造します。手動工具からベンダーやシャーリングマシンといった専用機械の操作も覚える必要があります。
仕上げ・塗装・組立
機械や部品の最終的な仕上げ作業として、研磨、塗装、バフ掛け、洗浄、組立などを行います。塗装では塗料の調合、スプレーガンの操作、乾燥工程の管理が求められ、仕上げでは外観の美しさや精度が重視されます。組立では部品の寸法や向きを確認しながら正確に組み立て、トルクレンチなどの工具を使って締結します。
品質管理・検査
製造された部品や製品に対し、寸法測定、外観検査、機能確認などを行います。ノギスやマイクロメーターといった計測器の使い方を学びながら、製品が設計通りに作られているかをチェックします。溶接部分や鋳造品の表面検査、組立品の動作確認なども含まれます。
いずれの職種でも、技能実習生は作業手順の遵守、安全衛生(保護具の着用、火気や高温物の取り扱い、機械への巻き込まれ防止など)に関する意識が重要です。日本人技術者や指導者の指導のもと、日本の製造現場での安全ルールや5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)を実践しながら技能を習得していきます。
制度の目的と背景
外国人技能実習制度は、「技能移転による国際貢献」を理念に掲げ、日本の先進的な技術・知識を開発途上国の人材に習得させることを目的としています。インドネシアをはじめとする多くの国の若者がこの制度を利用していますが、実際には日本の製造業、とくに中小企業における深刻な人手不足の解消手段としての側面も強く、即戦力としての技能実習生への期待が高まっています。
在留期間と延長条件
機械・金属分野における技能実習生の在留期間は、原則として最長3年間(1号=1年目+2号=2〜3年目)です。ただし、実習実施者と監理団体のいずれもが「優良認定」を受けた場合、3号実習(4〜5年目)への延長が認められ、最大5年間の在留が可能です。延長には技能検定の合格や労務管理上の要件を満たす必要があります。
団体監理型と企業単独型
製造業における技能実習生の受け入れ形態は、「団体監理型」が主流です。これは、監理団体(業種別の事業協同組合など)に所属し、その管理のもとで実習を行う方式です。大企業や技術力の高い中堅企業では「企業単独型」で直接受け入れるケースもありますが、機械・金属分野では特に中小企業による団体監理型が多く見られます。
受け入れ可能人数の上限
実習生の受け入れ人数は、常勤職員数に応じて制限があります。たとえば、常勤職員が30人以下の場合、新規の1号実習生は最大3人まで、31~40人で4人、41~50人で5人と段階的に増加します。2号以降は、常勤職員数の倍数(2号=2倍、3号=3倍)を上限とし、既存の実習生数も含めて総枠で管理されます。これは、日本人従業員による適切な指導体制を維持するための措置です。
対象職種と作業範囲
機械・金属分野で認められている技能実習職種は非常に多岐にわたります。代表的なものとして以下のような職種が存在します。
いずれの職種でも、作業範囲や使用する機械・工具は細かく規定されており、受け入れ先は実習生の担当業務が制度に適合しているかを確認しなければなりません。
実習計画の作成と認定
実習を開始するには、技能実習計画を作成し、外国人技能実習機構(OTIT)による審査と認定が必要です。計画には、使用機械の種類、作業工程、指導担当者の体制、スケジュール、技能の習得目標、評価方法、賃金や労働条件などを詳細に記載します。
金属・機械加工業では繁忙期と閑散期の差が比較的小さいため、計画は年間を通じて安定した内容で構成されます。溶接・板金・鋳造などの一部工程では季節要因や工場の稼働状況による変動も考慮されます。
柔軟な受け入れ方式と技術連携
機械・金属分野では農業分野のようなリレー方式は基本的に採用されていませんが、複数工場でのローテーション実習(例:本社工場と協力工場を移動して幅広い技能を学ぶ)や、製品開発に関わる応用的な作業の補助も認められる場合があります。ただし、計画外の作業や過度な業務変更は認められませんので、計画段階でしっかりと設計する必要があります。
適用される労働法令
技能実習生は日本人労働者と同様に労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法の対象となります。製造業では特に、機械の安全操作、保護具の着用、騒音・高温・重量物取り扱いなどに関する労働安全衛生教育が重視されます。受け入れ企業は、実習生に対して就業規則の説明、安全訓練の実施、記録の保管などを適切に行わなければなりません。
実習生の人権保護と監査体制
外国人技能実習機構(OTIT)および監理団体は、実習現場を定期的に訪問し、制度が適正に運用されているか監査・指導を行います。不当な長時間労働、過重労働、賃金未払いや差別的待遇が確認された場合は、是正命令、受け入れ停止、転籍支援などの措置が講じられます。
また、実習生の日本での生活支援も重要です。企業は寮の整備、日本語・日本文化への理解支援、生活マナーの指導、地域との関係づくりに配慮する必要があります。技能実習が単なる労働力補填で終わらず、本来の「技能移転」という目的を達成できるよう、長期的な育成と尊重の姿勢が求められます。
手先の器用さと実務慣れ
インドネシアでは中等教育課程で職業訓練校(SMK)が普及しており、溶接、旋盤、電気系統などの技術を学んでいる若者も多くいます。そのため、工具や機械への基本的な知識や操作スキルを持つ実習候補者も少なくありません。特に地方出身者の中には、金属加工や機械整備に関わる実習経験をすでに積んでいるケースもあります。
集中力と安全意識
日本の工場では、高精度が求められる繊細な作業や、重機・高温設備を扱う場面も多いため、安全意識と集中力が重要です。インドネシア人実習生は、丁寧でコツコツと作業を積み重ねる傾向があり、指導に対する吸収も早いため、製造現場での基本作業を着実にこなすことができます。一方で、初めての現場では騒音や振動に慣れるまでに時間がかかることもあるため、丁寧な段階的指導が効果的です。
来日前の基礎訓練と技術教育
インドネシア人技能実習生は、渡日前に送り出し機関(LPK)で日本語教育や機械関連の基礎訓練を受けており、現場で使う用語(例:ボルト、締め付け、刃物、温度計など)もある程度理解している場合があります。N4程度の語学力を持つ人材が増えており、指示に対して正確に反応できることから、現場の日本人職員も安心して作業を任せやすくなっています。
技術への関心と学習姿勢
日本の高度なものづくりに触れることを楽しみにしている実習生も多く、図面の読み方や検査工程など、新しい知識や技術を吸収する意欲が高い傾向があります。未経験の工程(例:CNC操作や非破壊検査)に対しても、自主的にメモを取ったり、繰り返し復習する姿勢が見られます。チームでの製造やライン作業にも比較的早く順応します。
宗教観と現場環境への配慮
イスラム教徒であるインドネシア人実習生の多くは、一日5回の礼拝を生活の一部として重視しています。現場での実習に支障が出ないよう、休憩時間や昼休憩中に礼拝を行えるスペースを設けるなど、受け入れ側の理解と柔軟な運用が重要です。
また、食事や生活においても豚肉・アルコールを避ける傾向があるため、食堂や寮でのハラル対応(鶏肉・魚中心のメニューなど)や、ラードを避けた調理法への配慮が信頼構築に繋がります。
真面目さと協調性
インドネシア人は温和で礼儀正しく、教えられたことを素直に実行する傾向があります。製造現場では、指示通りの作業をきちんと繰り返すことが求められる場面が多いため、その性格特性が評価されています。また、グループでの作業や、他のスタッフとの連携が必要な工程でも、明るく協調的に対応できます。
時間感覚と日本式の働き方への適応
時間に対して寛容な文化背景があるため、最初は作業時間の厳守や「段取り優先」の考え方に戸惑うこともあります。しかし、「5分前集合」や「時間内に仕事を終える」ことの意味を丁寧に説明することで、徐々に適応していく傾向があります。日本式のPDCAや改善意識に触れ、自身の成長を感じながら仕事に取り組む実習生も多くいます。
家族への想いと高い目的意識
実習生の多くは、家族の生活を支えるという強い目的意識を持っています。母国の両親や兄弟に仕送りをすることが目標であるため、仕事に対して真剣に取り組む姿勢が見られます。一方で、家族と離れて暮らすことでホームシックに陥ることもあるため、企業や先輩スタッフが定期的に声をかけ、精神面のケアも行うことが大切です。
総じて、インドネシア人の技能実習生は、「まじめで丁寧」「協調性が高く努力家」といった日本の製造業が求める人材像にマッチする傾向があります。現場ごとの特性や個人のバックグラウンドを理解したうえで適切に指導すれば、高い定着率と生産性向上が期待できます。
協調性と責任感の強さ
インドネシア人は温厚で協調性があり、工場内のチーム作業でも円滑な人間関係を築くことができます。先輩社員や日本人スタッフにも明るく接することができるため、職場の雰囲気になじむスピードが早い傾向があります。
仕事に対しては真面目で、与えられた工程を最後までやり遂げようとする責任感を持っています。突発的な欠勤や無断離脱が少なく、「言われたことを丁寧にやり遂げる」という評価を得ることが多いです。こうした姿勢は、共同体意識の強い家庭環境や地域社会の価値観によって培われています。
また、「日本の技術を学ぶチャンスを得たことに感謝している」という意識から、日々の業務に全力で取り組む実習生も少なくありません。
技術の習得とキャリア意識
中には「将来自国で工場を起業したい」「日本の加工技術や品質管理を学びたい」という具体的な目標を持つ実習生もおり、日本語や技術資格の学習に熱心に取り組む傾向があります。CNC操作や図面の読み方など、初めて触れる知識に対しても前向きに挑戦します。
一方、「安定収入を得て家族に仕送りしたい」といった目的で来日している実習生も多く、こうした人材は必ずしも高度な技能取得を目指すわけではありません。そのため、受け入れ企業としては、各実習生の職業観を理解したうえで、適切な指導内容や目標設定を行うことが重要です。
「イエス」と言いやすい文化的傾向
インドネシア人は相手に敬意を払う文化があり、上司や指導者の指示に対して「はい」と返答することが多いです。しかし、内容を完全に理解していなくても肯定的に返事をしてしまうことがあるため、実際に理解できているかどうかを確認する姿勢が必要です。
特に工場現場では、溶接機の設定ミスや図面読み違いが大きな事故や不良品につながるため、「理解の確認」は安全・品質の観点でも欠かせません。作業手順の確認には、チェックリストやイラスト付きのマニュアル、インドネシア語での補足説明など、視覚的・言語的サポートが効果的です。
また、「分からないことはすぐ聞くように」と日常的に促し、質問しやすい空気を作ることが、ミスの防止や信頼関係の構築につながります。
緩やかな時間意識と段取りの必要性
インドネシアでは時間に対する感覚が日本ほど厳密でないため、勤務開始時刻や作業工程のタイムラインに慣れるまで時間がかかることもあります。ただし、仕事の重要性や納期意識を理解すれば、実習生の多くは自然とその文化に順応していきます。
製造業では「先を読んだ段取り」や「作業の効率化」が求められますが、そうした考え方に慣れていない実習生には、最初はペースや手順を具体的に指導する必要があります。時間管理や生産計画を理解する過程で、実習生の自主性や改善意識も高まり、生産性の向上にもつながります。
反復作業・ライン作業への適性
インドネシア人実習生は、手先が器用で単純反復作業を丁寧にこなすことに適性を示す傾向があります。検品、仕上げ、組立といった工程では、その真面目な性格が活かされやすく、不良率も比較的低く抑えられます。
精密作業と単独作業のバランス
一方で、精密で長時間にわたる集中力を必要とする作業や、静かな空間での単独作業にストレスを感じる実習生もいます。孤独感や飽きが作業効率の低下につながるケースもあるため、作業内容のローテーションや短時間での工程切替などが有効です。
また、本人が「この作業は得意ではない」と直接言うことは少なく、表情や態度の変化から読み取ることが大切です。得意な作業を任せて自信を持たせる一方、苦手な工程は丁寧にフォローすることで、全体として安定した職場運営が可能になります。
総じて、インドネシア人技能実習生は製造業の現場においても、誠実・協調的・習得意欲が高いと評価されることが多くあります。彼らの強みを活かすには、明確な指示・継続的なフォロー・異文化理解の姿勢が求められます。
監理団体との初期連絡と相談内容
まず、機械・金属分野での技能実習生の受け入れに対応している監理団体(事業協同組合など)に問い合わせを行います。未加入であれば入会し、希望する人数・配属時期・作業内容・事業所の規模や所在地を伝え、実習計画の初期相談を行います。
機械加工や溶接など、どの職種で実習を行いたいかを明確に伝えることで、監理団体から制度説明や実施可能な作業内容、必要な準備事項についてアドバイスがもらえます。
送り出し機関との連携
監理団体はインドネシアの認可送り出し機関と提携しており、候補者の募集や選抜を一括で手配します。信頼性の高い監理団体を選ぶことが、質の高い人材獲得への第一歩です。直接、送り出し機関から人材紹介を受けることはできず、必ず監理団体を通じて受け入れる必要があります。
募集開始と送り出し機関の役割
監理団体との契約が完了すると、提携先の送り出し機関が候補者募集を開始します。送り出し機関はインドネシア労働省から認可を受けたP3MIであり、日本語教育や基礎的な技能研修(機械操作、測定工具の使い方など)も実施します。
優良な送り出し機関の選び方
以下のようなポイントを事前に確認することで、安心して採用活動を進められます。
監理団体が推薦する送り出し機関でも、受け入れ企業としてチェックしておくことでトラブルを防げます。
候補者プロフィールの確認
送り出し機関による一次選考の後、候補者の履歴書やプロフィールが提出されます。内容には、技術系学校での履修科目、使用可能な機械、資格、作業経験、日本語学習歴(200〜300時間程度)などが含まれます。
希望人数の倍程度の候補者を事前選定し、面接対象者を選びます。溶接経験の有無や、マシニングセンタ操作の基礎理解なども評価材料になります。
面接準備と通訳体制
面接はZoomやGoogle Meetなどのビデオ通話で行い、監理団体や送り出し機関の通訳が同席します。簡単な日本語での受け答えや、技術的な用語の理解度を確認します。
質問の工夫
などの質問で、実務意欲や向上心を引き出します。また、騒音・油・熱・高所作業への適応、宗教的配慮(例:豚由来のグリースなどへの抵抗感)についても確認しておくと安心です。
態度・非言語的情報の観察
発言内容だけでなく、表情・姿勢・目線・リアクションから人柄を評価します。他の候補者が話す時の様子もチェックポイントとなります。最終的な判断は通訳の意見も交えながら総合的に行います。
面接後の評価と内定
社内で面接評価を整理し、監理団体と連携して内定者を決定します。応募枠に余裕がある場合は、次点候補者のキープや追加採用も検討可能です。
実習計画と在留資格申請
企業と監理団体が共同で技能実習計画を作成し、OTIT(外国人技能実習機構)へ申請します。計画が認定されたら、出入国在留管理庁へ在留資格認定証明書(COE)を申請します。発行までには通常1〜3か月かかります。
出国前研修と準備
インドネシア側では、送り出し機関で日本語教育、生活マナー、交通ルール、安全教育を行い、健康診断・必要書類の提出も進めます。企業側は、寮の整備、制服や作業靴の準備、初期生活支援物資の準備、担当指導員の配置などを事前に整えておきます。
ビザ申請と渡航
COEが発行されたら、インドネシアにある日本大使館・領事館でビザを申請し、発給後に渡航します。渡航手配・事前オリエンテーションは送り出し機関が担当します。
入国と講習(集合講習)
実習生は入国時に在留カードを取得し、監理団体の職員や企業担当者が空港で出迎えます。その後、約1か月(160時間以上)の法定講習を受講します。内容は日本語、生活ルール、労働関連法、工場の安全衛生、報連相などです。
機械・金属分野の特徴に合わせて、手袋の使い方、工具の取り扱い、工場内の立ち入り禁止区域などについても実践的な内容が含まれます。
配属とOJT開始
講習が終わると、監理団体スタッフが企業まで同行し、実習生を引き渡します。住民登録や健康保険加入手続きの後、現場でのOJTが始まります。初期は簡単な作業から始め、日本人指導員がマンツーマンで丁寧に技術とルールを教えていきます。
この一連の流れには、採用から配属まで約4〜6か月を要します。生産計画や繁忙期に合わせた受け入れを行うには、逆算して早めの準備が不可欠です。監理団体・送り出し機関・受け入れ企業の三者連携がスムーズな受け入れのカギとなります。
急増する在日インドネシア人実習生の数
近年、インドネシア人技能実習生は急増しており、国別ではベトナムに次ぐ第2位の送り出し国となっています。2022年末時点で約4万5千人だった在日インドネシア人技能実習生は、2023年末には7万4,387人に達し、わずか1年間で約1.6倍に増加しました。
全体の技能実習生に占めるインドネシア人の割合も21%超となり、2017年時点の8.6%から急激にシェアを拡大しています。特にベトナム人実習生の伸びが鈍化する中、インドネシア人の存在感が急速に高まっています。
製造業分野におけるインドネシア人材の存在感
インドネシア人技能実習生は、特に製造業の中でも機械加工・金属加工作業に多く配置されています。厚生労働省の統計によると、2023年度時点で機械・金属加工に従事するインドネシア人技能実習生は、全体の約11.9%を占めており、農業(8.3%)や食品製造(11.5%)と並ぶ主力分野となっています。
実数ベースでは、製造業全体で2万人以上のインドネシア人が活躍していると推定され、そのうち機械・金属加工分野には8,000人前後が従事しているとみられます。これは前年の水準(4,000〜5,000人)から大幅に増加しており、今後もこの傾向は継続すると予測されます。
他業種との比較と特徴
インドネシア人技能実習生の主な配置先は以下の通りです。
インドネシア人は、体力と実直さが求められる業種に強みを持ち、建設・製造・漁業などの現場に多く配置されています。一方で、電子部品組立や精密機器製造のように、細かな手作業や高度な言語理解が必要な分野では、ベトナム人や中国人が多く活躍している傾向があります。
特定技能への移行実績
2019年に導入された特定技能制度により、技能実習修了後も日本での就労が可能となりました。機械・金属加工分野は、特定技能制度の14の対象分野の中でも重要視されており、2023年末時点でこの分野の特定技能外国人数は31,000人超と推定されています。
その中で、インドネシア人は約8,000人弱に達しており、ベトナム・ミャンマーに続く上位の国籍層を構成しています。技能実習から特定技能1号に移行し、同じ企業や業界で継続的に就労するケースが年々増加しています。
実際、特定技能1号の在留外国人のうち、約63%は元技能実習生であり、実習→就労への自然なステップアップが制度上定着しつつあります。製造業においても、このルートを活用して中堅人材として継続雇用されるケースが目立ってきました。
今後の展望と企業側の対応
ここ数年でインドネシア人製造系実習生の数は飛躍的に増加し、中小・中堅の製造業者にとって不可欠な戦力となっています。また、技能実習→特定技能へのキャリア移行を見据えた採用が重要視されるようになり、長期雇用による人材育成の土台としても注目が集まっています。
受け入れ企業としては、今後の労働市場の動向や制度変更を踏まえ、特定技能制度を見据えた人事戦略・教育体制の構築が求められます。継続的なスキルアップ支援、日本語教育、評価制度の整備などを通じて、長期戦力化・信頼構築・定着率の向上を図ることが、企業競争力の鍵となるでしょう。
最低賃金と月収の目安
技能実習生には日本の法律に基づき、地域別最低賃金以上の給与を支払うことが義務付けられています。機械・金属加工の職場は都市部に多く、時給は1,000円を超える地域も珍しくありません(例:愛知県1,027円、大阪府1,064円、静岡県984円など)。
これを基準にすると、フルタイム勤務+残業少なめの場合でも月収は17万〜20万円程度、残業が多い場合には22万〜24万円に達することもあります。
厚生労働省の統計によると、技能実習生全体の平均月収は約18万1,700円とされており、金属加工や機械組立などの製造分野では比較的高水準の傾向があります。
製造業の給与モデル
例えば、静岡県の部品加工工場で時給1,000円・月160時間+残業30時間で勤務した場合:
このように、機械・金属分野では現場の稼働量によって給与が大きく変動します。
割増賃金の支払い義務
最低賃金が1,000円なら、残業代は1,250円/時間となり、正しく支給する必要があります。
賞与や各種手当の考え方
製造業の多くでは、技能実習生に賞与(ボーナス)を支払う義務はありませんが、勤続1年以上や能力評価に応じて一時金を支給する企業も増加傾向にあります。
また、以下のような手当が導入されることもあります:
工場勤務では交通手段が限られることもあり、寮からの徒歩または自転車通勤を推奨し、通勤手当を省略するケースもあります。
渡航前後の初期費用の内訳
機械・金属分野の技能実習生を受け入れる際に発生する主な初期費用は以下の通りです:
目安:1人あたり50万~90万円程度が一般的で、都市部では住居関連費がやや高くなる傾向があります。複数名同時採用・オンライン面接・グループ講習などでコストの最適化が可能です。
管理費・送出機関費
技能実習生配属後、毎月以下の費用が発生します:
加えて、監理団体への年会費や登録料が1〜3万円前後で発生する場合もあります。
住居費とその負担方法
都市部では寮家賃が高くなる傾向があり、月額25,000〜50,000円程度が相場です。多くの企業が一部を負担する形で、以下のような対応が一般的です:
家電・Wi-Fi・布団・自炊設備なども含めた生活環境整備コストは、初期投資に含めて予算を組む必要があります。
その他の追加費用
以下のような追加支出も発生します:
契約によっては帰国費用をインドネシア側の積立金でまかなうケースもありますが、あらかじめ契約条項の確認が不可欠です。
総合的な受け入れコストの目安
インドネシア人技能実習生1名を3年間受け入れる場合、年間コストは以下の通りです:
合計:年間300万〜400万円前後が目安となります。
技能実習制度は中長期的な労働力確保と技術移転が目的であり、安定性・勤続年数・離職率の低さという面で、採用コスト以上の価値を提供しています。
日本語理解の実情
多くのインドネシア人技能実習生は来日前に日本語の初級レベルを学んでいますが、工場内で使用される専門用語(例:NC旋盤、トルク、加工誤差など)や安全指示の理解には時間がかかります。「はい」と返事をしても、十分に理解していない場合もあるため、指示の出し方には工夫が必要です。
コミュニケーションを円滑にする方法
礼儀・挨拶・人間関係の違い
インドネシアでは上司との距離感が日本よりも近く、笑顔・握手・カジュアルな言葉遣いが一般的です。日本企業特有の上下関係や敬語表現、工場内の規律には戸惑うこともあるため、初期研修で現場マナーを丁寧に教えるとスムーズです。
時間感覚と勤務態度
「作業開始5分前の整列」や「昼休み明けの即時着席」といった日本の時間厳守文化は、インドネシアでは必ずしも一般的ではありません。遅刻を軽く考える傾向があるため、理由や背景を丁寧に説明して納得してもらうことが重要です。
YES/NOの表現に対する注意
インドネシア人は対立を避ける傾向があり、分からない場合でも「はい」と答えてしまうことがあります。「理解したか」ではなく「何を理解したか」を確認するようにし、「困っていない?」という具体的な声かけが有効です。
製造業の現場特有の注意点
インドネシアでは作業中にヘルメット・保護メガネ・耳栓を使う習慣があまりないため、日本の工場では安全意識を一から教える必要があります。
宗教的背景と職場での配慮
イスラム教徒が多いインドネシア人実習生は、1日5回の礼拝を行うことがあります。工場内でも、休憩室や空きスペースを提供することで信頼につながります。礼拝の時間は業務に支障のない範囲で配慮しましょう。
ラマダン(月断食)期間中の対応
ラマダン中は日中の飲食を断つため体力が落ちやすく、特に高温多湿の現場や重労働では注意が必要です。可能であれば作業時間の調整や、水分補給を促す声かけを意識します。
レバラン(断食明け祝祭)への配慮
レバランは家族で祝う大切な行事のため、実家への一時帰国や休暇希望が出ることがあります。早めの相談と、代替勤務の調整で柔軟に対応する姿勢が望まれます。
生活面の支援
日本の生活に不慣れな実習生は、以下のような不安を感じやすいです:
受け入れ企業は、生活ガイドの提供や買い物同行、翻訳アプリの使い方の指導などを通じてサポートしましょう。病気の際は必ず付き添い通訳対応を行うことが望ましいです。
医療・食品への配慮
豚由来成分の医薬品や食品を避けたいという要望を持つ実習生もいますが、個人差があります。可能な範囲で配慮し、本人と事前に話し合っておくことが信頼関係の構築につながります。
地域社会との共生
地方の工業団地周辺では、近隣住民とのトラブルを避けるためにも、騒音・ゴミ出し・夜間の出歩きなど、地域のルールを実習生に理解させる必要があります。
実際にインドネシア人技能実習生を機械・金属分野で受け入れて成果を上げている企業の成功事例に基づき、実践的なマネジメントのコツを紹介します。せっかく採用した実習生だからこそ、安心して学び、働ける環境づくりが、企業にとっても長期的な利益につながります。
1. 事前準備と受け入れ体制の整備
成功している企業では、実習生が入国する前から職場と生活環境の受け入れ準備を綿密に行っています。例えば、寮の整備や必要な家具・家電の準備、インドネシア語対応の社内マニュアル(機械操作や作業工程)、写真付きの安全教育資料などを用意しています。
初日は日本語のウェルカムメッセージや自国の国旗を掲げたボードで出迎え、温かい歓迎の雰囲気を演出。受け入れ直後は先輩社員がメンターとしてつきっきりでサポートし、道具の名称から手順、安全ルールまで丁寧に教える体制を整えています。
2. コミュニケーションと信頼関係の構築
どれだけ技術的に優秀な実習生でも、職場での意思疎通が不十分だとミスや不安につながります。成功事例では、常に「理解しているか?」を確認し、簡単な言葉とジェスチャーで補足しています。例えば、NC旋盤の操作手順や寸法の確認など、ミスが許されない工程では指差し確認や再説明を徹底しています。
また、日常的な声かけも大切にされています。「昨日はよく眠れた?」「困ってることない?」といった会話を通じて、実習生の表情や雰囲気を読み取る努力がなされています。コミュニケーションが増えることで、ちょっとした変化にも気づきやすくなり、トラブルの予防にもつながります。
3. 文化・宗教への理解を示す
機械加工工場でも、礼拝・食事・断食期間(ラマダン)などへの配慮が実習生の安心感に直結します。ある関東の金属加工企業では、ラマダン中は作業開始時間を1時間早めて夕方前に終業し、実習生の体力的負担を軽減しました。こうした柔軟な対応により、実習生から「この会社で働き続けたい」という声が自然と生まれたといいます。
また、ハラル食材への配慮やモスクへの送迎協力なども、無理のない範囲で対応することで職場全体の文化理解も進みます。社員食堂で一緒にインドネシア料理を楽しむ「食文化交流会」などを定期的に実施している企業もあります。
4. きめ細かな生活サポート
ものづくりの現場では生活面の安定も成果に直結します。ある中部地方の板金加工工場では、実習生向けに「生活便利帳」という冊子を作成し、交通機関の使い方、ゴミの分別、病院の場所や受付方法などを図解付きで紹介。外国人にとって分かりづらい部分をフォローしています。
例えば、体調を崩した実習生が「薬に豚由来成分があるか不安」と言った際には、薬局での説明を通訳付きで対応し、代替薬を用意するなど、個別の配慮が評価されました。こうした支援は「この会社は自分たちのことを大事にしてくれる」という実習生の安心感とモチベーションに直結します。
5. モチベーションの維持・向上
ある精密加工会社では、作業ごとに目標(加工精度や作業スピード)を設定し、達成すると賞状を渡す制度を導入。「名前入りの表彰状をもらった時が一番うれしかった」と話す実習生もおり、やる気の向上につながっています。
また、定期的な面談を通じてキャリアについて話す場を設けており、2号実習の終了が近づいたタイミングで3号実習や特定技能への移行についても本人の意志を確認しています。企業によっては、帰国する実習生に対して修了証や感謝状を授与し、「また戻ってきてほしい」というメッセージを伝えるところもあります。
こうした経験が口コミとなって現地の送り出し機関や候補者の間に広がり、次の優秀な人材の応募につながるという好循環が生まれています。
機械・金属分野でも、実習生を単なる労働力ではなく「共に成長する仲間」として接すれば、彼らは期待以上に応えてくれる存在になります。丁寧な準備と日々の対話、文化への理解ときめ細かな支援が、職場全体の生産性向上と人材定着に寄与します。インドネシア人実習生との信頼関係を育み、製造業の未来をともにつくっていきましょう。
インドネシア人技能実習生は、日本の機械・金属分野において、高い実務適性と真面目な姿勢で着実に戦力となる存在です。技能実習制度の理解と受け入れ体制の整備、文化への配慮、丁寧な教育とモチベーション管理を行えば、彼らは期待以上に活躍してくれます。単なる労働力としてではなく、共に学び成長するパートナーとして接することで、企業の生産性向上と人材の長期定着が実現できます。インドネシア人技能実習生の受け入れは、日本のものづくりの未来を支える重要な選択肢の一つです。
LPK Timedoorは、インドネシア・バリ島デンパサールに拠点を置く職業訓練校で、日本での就労を目指すインドネシア人に対し、日本語や日本文化、仕事に対する価値観やマインドセットを学ぶ環境を提供しています。お気軽にお問い合わせください。
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住所: Jl. Tukad Yeh Aya IX No.46, Renon, Denpasar, Bali, Indonesia 80226
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本記事で使用した単語の解説
FAQ(よくある質問)
Q1. インドネシア人技能実習生は日本語をどの程度話せますか?
A. 多くの実習生は来日前にN4レベル程度の日本語教育を受けていますが、専門用語や業界用語の理解には時間が必要です。現場では短い日本語や図解、ジェスチャーの併用が効果的です。
Q2. 宗教上の対応はどこまで必要ですか?
A. 礼拝スペースの確保、豚肉やアルコールを避けた食事の配慮、ラマダン時の勤務時間調整など、無理のない範囲での配慮が信頼関係の構築につながります。
Q3. 受け入れまでにどれくらいの期間がかかりますか?
A. 書類手続きや面接、法定講習などを含めると、採用決定から配属まで約4〜6か月を見込む必要があります。計画的な準備が重要です。
Q4. 特定技能に移行するにはどうすればよいですか?
A. 技能実習2号を修了した実習生は、特定技能1号へ試験を経て移行できます。同じ職種であれば継続雇用が可能で、企業側にも安定した人材確保につながります。
Q5. 離職や失踪のリスクはありますか?
A. 受け入れ体制が整っておらず、文化や生活面での不安が大きいと離職リスクが高まります。成功事例に学び、丁寧なフォローと信頼関係の構築が最も有効な対策です。