4月 6, 2025 • インドネシア • by Delilah

要注意!? インドネシアのビジネスパートナーとノミニー制度(名義貸し代理人)

要注意!? インドネシアのビジネスパートナーとノミニー制度(名義貸し代理人)

インドネシアへの進出を検討されている日本人経営者やマネージャーの皆様にとって、現地のビジネス環境や法規制を理解することは極めて重要です。 特に、インドネシア人ビジネスパートナー、いわゆる「ノミニー(名義代理人)」との関係構築に関しては、慎重な対応が求められます。本記事では、インドネシアにおけるノミニー制度の現状、関連する法規制、実際の事例、リスク、そしてリスクマネジメントの方法について、詳細に解説いたします。

 

 

インドネシアのノミニー制度(名義貸し)とは?

インドネシアのノミニー制度(名義貸し)とは?

 

ノミニー制度とは、外国人投資家がインドネシア人の名義を借りて、実質的な経営権や所有権を持つ形態を指します。 これは、外国資本の参入が制限されている業種や、外資規制を回避する目的で利用されることが多い手法です。 しかし、インドネシアではこのような名義貸し行為は法律で禁止されており、違法とされています。

インドネシアにおけるノミニー制度の現状

インドネシアでは、2007年に施行された投資法(法律第25号)により、ノミニー行為が明示的に禁止されています。 同法第33条では、他者の利益のために会社の株式を保有する行為は法律により無効とみなされると規定されています。 さらに、2017年の規制(BKPM規制第13号)では、投資調整庁(BKPM)から求められた場合、名義だけの株主ではないことを証明する陳述書の作成・提出が義務付けられています。

ノミニー制度に関連する法規制

  • 投資法(2007年第25号): 第33条において、名義貸し行為を禁止し、違反した場合の契約は無効とされています。
  • 会社法(2007年第40号): 第5条第2項により、外国からの投資はインドネシア法に基づく株式会社の形態をとり、インドネシア国内に住所を有する必要があると規定されています。

これらの法規制により、ノミニーを利用した会社設立や経営は、法的に無効とされる可能性が高く、慎重な対応が求められます。

ノミニー制度が問題となった事例

PT Global Jet Express(J&T Express)のケース

2015年に設立された国際物流サービス企業、PT Global Jet Express(J&T Express)は、内資法人として登録されていましたが、実際には香港の企業が実質的な所有者であることが明らかになりました。 この事例は、ノミニー行為が疑われ、上場や罰則のリスクが指摘されました。 最終的に、投資調整庁の調査で事業ライセンスに問題はないとされましたが、ノミニー利用のリスクを示す代表的なケースとなりました。

 

 

インドネシアのノミニー制度を利用するリスク

インドネシアのノミニー制度を利用するリスク

1. 法的リスク

ノミニー行為はインドネシアの法律で禁止されており、違反した場合、契約の無効や罰則が科される可能性があります。 また、将来的に規制が強化される可能性もあり、摘発のリスクが高まっています。

2. 経営権の喪失リスク

ノミニーを利用すると、実質的な経営権が名義人に委ねられるため、経営の主導権を失うリスクがあります。 名義人との信頼関係が崩れた場合、会社の乗っ取りや経営方針の不一致などの問題が発生する可能性があります。

3. 税務および財務リスク

ノミニーを利用した企業は、税務調査の対象となりやすく、不適切な申告や利益操作が指摘されると、重い罰金や法的処分を受けるリスクがあります。 また、資金管理が困難になり、企業運営に支障をきたす可能性もあります。

4. 企業イメージの悪化

ノミニーの利用は、企業の透明性や法令遵守に対する疑念を招き、顧客や投資家からの信頼を失う原因となります。 これにより、企業イメージが損なわれ、売上や市場シェアの減少につながる可能性があります。

 

 

ノミニー制度を利用する際のリスクマネジメント

ノミニー制度を利用する際のリスクマネジメント

ノミニー制度の利用は高いリスクを伴いますが、やむを得ず利用する場合、以下のリスクマネジメントが推奨されます。

1. 信頼できるノミニーの選定

ノミニーとなる現地パートナーの経歴や信頼性を十分に確認し、過去のビジネス実績や評判を調査することが重要です。 知人や友人をノミニーとして選ぶケースもありますが、金銭が絡むと関係性が変化する可能性があるため、慎重な判断が必要です。

2. 明確な契約の締結

ノミニーとの間で取り交わす契約書は、非常に重要な役割を果たします。ただし、インドネシアの法律ではノミニー契約自体が違法とされるため、「裏契約」は法的効力を持ちません。
しかし実務的には、リスクを軽減するために以下のような文書を整備するケースがあります:

  • 株主間契約(Shareholders’ Agreement):実質的な所有構造や配当、議決権などについて合意内容を記録。
  • ローン契約や担保契約:外国投資家がノミニーに貸し付けているという形式にし、実質的な資金の出所を明示。
  • 業務委託契約:経営の実権が誰にあるのかを間接的に示す。
  • Exit条項:紛争時の解決方法や、名義変更の手続き、企業売却時の取り決めなどを記載。

これらの契約は、インドネシア法の専門家や国際的な弁護士と連携して作成することが不可欠です。法的に保護されない契約に頼る限界を理解しつつ、最悪の事態に備えたシナリオプランニングが重要です。

3. 経営・財務面の透明性の確保

ノミニー構造の中でも、企業の運営や財務の透明性を保つことは極めて重要です。以下のような取り組みが推奨されます:

  • 全ての取引を記録・管理:口約束や現金取引は極力避け、書面化・記録を残す。
  • 定期的な監査の実施:第三者による会計監査や内部監査を実施することで、ノミニーに権限が集中しすぎるのを防ぐ。
  • 資金管理権限の分散:ノミニーが自由に会社口座を操作できないように、共同署名制やアクセス制限を設ける。
  • 税務コンプライアンスの強化:正確な税務申告を行い、税務署からの突発的な調査リスクを回避。

4. 現地スタッフやノミニーとの信頼関係の構築

契約や制度も重要ですが、最終的には「人と人との信頼関係」がトラブルを防ぐ最大の要素です。特にインドネシア文化では、形式的なルール以上に人間関係が重視されます。

  • 定期的なコミュニケーション:ビジネスに関する情報共有だけでなく、家族や健康などパーソナルな会話も大切。
  • お祝い事や宗教行事への理解と参加:レバラン(イスラムの断食明け)などにギフトを贈るなど、小さな配慮が信頼につながります。
  • 報酬・インセンティブの明確化:報酬に不満があると、ノミニーが裏切る動機となり得るため、業績連動型の報酬制度を整備すると良いです。

5. 最終的には「正規ルート」を選択する意志を持つ

現在のインドネシアは以前と比べて外資規制が緩和されており、多くの業種で100%外資が可能です。ノミニー制度に頼らず、以下のような正規ルートを模索することが最も健全です:

  • PMDN(内資)ではなくPMA(外資)法人としての設立
  • 地場企業とのJV(合弁会社)設立による権利保護のバランス確保
  • 自社ブランドでのインドネシア法人設立、BKPMのライセンス取得

長期的には「透明性の高い経営」が企業のブランド価値と持続可能性を高めます。安易なノミニー利用は短期的なメリットに見えますが、数年後に致命的なリスクに変わる可能性があることを常に意識すべきです。

 

 

まとめ

ノミニー制度は一見便利な方法のように見えますが、インドネシアにおいては法律で明確に禁止されており、非常にリスクの高い手段です。特に、名義人との信頼関係が崩れた際には、経営権の喪失、資金流出、企業イメージの低下など深刻な問題に発展しかねません。

現在では多くの業種で外資100%での進出が可能になっており、法に準じた「正規ルート」による企業設立や投資が推奨されます。やむを得ずノミニー制度を利用する場合であっても、契約や財務管理の透明化、信頼関係の構築など、リスクマネジメントを徹底することが不可欠です。

短期的なコストや手間に惑わされることなく、長期的な成長と安全性を重視した事業運営を目指しましょう。

 

 

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本記事で使用した単語の解説

ノミニー(Nominee)
外国人投資家が現地の法律上会社設立ができない業種において、インドネシア人の名義を借りて会社を設立する際の名義代理人のこと。法的には禁止されており、リスクが高い。

PMA(Penanaman Modal Asing)
外資法人。インドネシアにおいて外国資本によって設立される企業の法的形態。BKPMによる許認可が必要。

PMDN(Penanaman Modal Dalam Negeri)
内資法人。インドネシア人またはインドネシア法人によって所有される企業。名義のみをインドネシア人にすることで、実質的に外資企業がPMDNとして登録されるケースが問題視されている。

BKPM(Badan Koordinasi Penanaman Modal)
インドネシアの投資調整庁。外資投資の許可や監督を行う政府機関。現在はインドネシア投資省に統合されている。

Shareholders’ Agreement(株主間契約)
株主間で交わす合意書。議決権や利益配分、株式売却などの条件を明文化し、紛争防止を図る目的がある。

Exit条項
株主や投資家が将来的に事業から撤退する場合のルールを事前に定めた契約条項。紛争回避や資本回収の手段となる。

 

 

FAQ(よくある質問)

Q1. ノミニー制度は現在でも利用されていますか?
A1. 非公式には一部の企業で利用されているケースがありますが、インドネシアの法令では明確に禁止されており、摘発リスクが高まっています。

Q2. ノミニー制度を使って会社設立をしたら、後から100%外資に変更できますか?
A2. 理論上は可能ですが、名義変更や再登記には法的手続きが複雑で、BKPMや税務署の審査を受ける必要があります。リスクとコストが高いため、最初から正規ルートでの設立が望まれます。

Q3. ノミニーとの間に契約を交わしておけば問題ありませんか?
A3. ノミニー契約自体が法律で禁止されており、契約内容が無効とされる可能性があります。裏契約に依存するリスクは非常に高いため推奨されません。

Q4. ノミニーを避けるにはどうすれば良いですか?
A4. 外資100%で可能な業種を選び、BKPMから適切なライセンスを取得してPMA法人を設立するのが最も安全です。また、現地法人との合弁会社設立も一つの手段です。

Q5. 過去にノミニーを利用していたが、今後問題になりますか?
A5.
過去の契約が違法と見なされる可能性があります。今後のトラブルを避けるためにも、法的助言を受け、可能であれば正規の構造への移行を検討することが望ましいです。

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