
2月 22, 2025 • インドネシア, スタートアップ
5月 11, 2025 • インドネシア • by Delilah
目次
インドネシアは、2億8000万人を超える人口と安定した国内消費を背景に、近年ますます存在感を高めている東南アジア最大の経済圏の一つです。特に金融・テクノロジー分野を中心とした新興企業の台頭や、スタートアップによるIPO件数の増加は、インドネシアが世界の投資家にとって注目の対象となっていることを象徴しています。その中心にあるのが、ジャカルタに本部を構えるインドネシア証券取引所(IDX) – Indonesia Stock Exchange (Bursa Efek Indonesia)です。
本記事では、IDXの成り立ちや仕組み、現在の市場動向、上場実務、日系企業の事例、そして今後の戦略的可能性までを丁寧に解説します。インドネシア市場に上場を検討している経営者、あるいは現地法人の成長戦略に悩むマネージャーの方々にとって、有益な一歩となれば幸いです。
インドネシア証券取引所(IDX)は、2007年にジャカルタ証券取引所とスラバヤ証券取引所の統合によって設立されました。設立当初から、国内企業の資本調達の中核インフラとしての役割を担ってきました。2025年時点での上場企業数は約940社、時価総額はおよそ7300億ドルに達しており、ASEAN諸国の中でも最大級の規模です。
IDXはインドネシア金融庁(OJK)の監督下にあり、透明性と信頼性のある資本市場を構築することを目的としています。また、スタートアップや中小企業の上場を促進する制度設計にも力を入れており、従来の証券取引所の枠を超えた柔軟な対応が進められています。
IDXには、企業の規模や成長段階に応じた複数の市場区分が設けられています。
IDXでは複数の株価指数が運用されており、それぞれ異なる目的で投資家に利用されています。
2024年のIPO件数は68社に達し、世界ランキングでもトップ10入りする実績を記録しました。特に注目すべきは、テクノロジー企業や中小企業のIPOが目立つ点であり、これはアクセラレーターボードなど制度面の改革による成果とも言えます。2025年も引き続き60社以上の新規上場が見込まれています。
証券口座の開設数も年々増加しており、現在では1,300万口座以上。投資家層の中心は若年層や中間層で、スマホアプリを通じた取引が主流です。これは東南アジアでも稀な規模であり、今後のさらなる市場成長の余地を示しています。
インドネシア市場の伝統的な主役は銀行・コモディティ・インフラ系企業でしたが、ここ数年でeコマース、デジタル決済、物流テック、再生可能エネルギーといった新興セクターが急成長を見せています。特に都市部の中間所得層向けサービスを展開するスタートアップの上場が続き、IPO市場の多様化が進んでいます。
また、政府主導によるEV政策やヘルステック支援策も追い風となり、これらの分野でのIPO準備も加速しています。
インドネシア市場の平均日次売買代金は約11億ドル。これはシンガポールを上回り、東南アジア有数の流動性を誇る水準です。なお、日本や香港、米国と比べるとまだ規模では劣りますが、国内の個人投資家による取引が活発で、取引回転率の高さが特徴となっています。
IDXに上場するためには、利益基準や株主数、公開株式比率(フリーフロート)などの要件を満たす必要があります。たとえばメインボードでは、直近3年間の累積利益が一定基準以上、かつ最低300人以上の株主が必要とされます。
上場までの流れは以下の通りです:
また、2022年以降はIPO後24か月以内の株式分割・併合が原則禁止とされており、投機的な価格変動の抑制が図られています。
すべての上場企業には、年次のサステナビリティ報告書提出が義務づけられており、ガバナンス・環境負荷・社会貢献の評価が投資家から厳しく問われる時代になっています。ESGに真剣に取り組む企業ほど、海外投資家の評価が高まる傾向にあり、インドネシア市場においても同様です。
さらに、2023年にはIDXが運営する炭素取引所「IDX Carbon」が開設され、上場企業にとって新たな資本政策やブランディングの機会が生まれています。
実際にインドネシア市場に上場した、あるいは強い日系関係を持つ企業は以下のような事例があります:
これらの事例に共通するのは、「インドネシア国内でのブランド浸透」「ローカルパートナーとの信頼関係」「現地従業員のインセンティブ設計」といった要素を丁寧に構築している点です。
インドネシアで注目を集めたスタートアップ上場の代表例として、「GoTo」と「Bukalapak」の2社は欠かせません。両社は2021年以降のIPOブームの象徴とも言える存在でしたが、上場後の株価推移と事業運営には大きな波があり、「上場はゴールではなくスタートである」という基本を改めて市場に問いかける結果となりました。
GoToは、GojekとTokopediaというインドネシアの巨大スタートアップ2社の統合によって誕生した「デジタルユニコーン」であり、2022年に満を持してIDXに上場しました。上場時の時価総額は3,000兆ルピア(約210億ドル)に達し、国内史上最大規模のIPOとして脚光を浴びました。
しかし、上場後すぐに株価は大きく下落。主な要因としては以下が挙げられます:
上場によって一時的な資金調達には成功したものの、短期間での時価総額の下落はブランドにも影響を与え、「上場=成功」の神話に一石を投じました。
Bukalapakも同様に、2021年に約15億ドルを調達し、インドネシア初のテック企業による大型IPOとして注目されました。しかし、上場後の数ヶ月で株価は60%以上下落。一時は“BukaShock”とも呼ばれる市場不信の引き金となりました。
株価下落の主因は以下の通りです:
一方で、Bukalapakはその後、非コア事業の売却や黒字化を視野に入れた構造改革を進めており、上場後の成長戦略の重要性を体現する事例ともなっています。
IDXは2025年に向けて投資家口座数を200万人以上増やす目標を掲げており、教育活動や金融リテラシー向上にも取り組んでいます。制度面では、IPO審査の効率化、ESG対応の簡素化、外国人投資家にとっての透明性向上などが進められています。
インドネシア市場で成功する上場には、単に利益を出していること以上に「将来の成長シナリオ」を語れるかどうかが問われます。特に中小企業にとっては、上場後のIR活動やESG報告を通じて、企業価値を高めていく体制構築が不可欠です。
シンガポールや香港との資本争奪が激化する中、インドネシアの強みは「巨大な国内市場」「若い人口構成」「政府支援策」にあります。これらを活かしながら、外資の取り込みと現地人材育成を両立できる企業こそが、今後のIDX市場で優位に立つ存在となるでしょう。
インドネシア証券取引所(IDX)は、ASEAN最大級の人口規模と旺盛な内需を背景に急速な進化を遂げています。メインボード・デベロップメントボード・アクセラレーターボードという3層構造により、大企業から赤字スタートアップまで多様な企業が資本市場へ参入しやすい制度が整備されました。若年層を中心とする1,300万超の個人投資家は日々の流動性を支え、東南アジア有数の取引高を実現しています。ESG開示の義務化や炭素取引所の開設など、世界基準を意識した改革も進行中です。もっとも、GoToやBukalapakが示したように「上場=成功」ではなく、上場後の成長戦略とガバナンス体制こそが真価を問われるポイントになります。日本企業や現地法人がIDXで成果を上げるには、ローカル市場への深い理解、パートナーシップ、そして長期的な公開経営の覚悟が不可欠です。
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本記事で使用した単語の解説
• IDX(Indonesia Stock Exchange): インドネシア証券取引所。ジャカルタに本部を置く同国唯一の株式市場。
• OJK(Otoritas Jasa Keuangan): インドネシア金融庁。証券・銀行・保険を統括し、IDXの監督も行う。
• IPO(Initial Public Offering): 新規株式公開。企業が初めて株式を証券取引所に上場し資金を調達すること。
• JCI(Jakarta Composite Index): IDXに上場する全銘柄で構成される総合株価指数。
• LQ45: 流動性と時価総額が高い45銘柄で構成される代表指数。
• ESG: Environment, Social, Governance の略。環境・社会・企業統治の3要素で企業を評価する概念。
• アクセラレーターボード: 2023年に設けられた新市場区分。一定のガバナンス水準を満たせば赤字企業でも上場できる。
• フリーフロート: 市場に流通する株式比率。IDXでは最低7.5%・300株主が基準。
• ブックビルディング: IPO時に需要予測を行い、発行価格を決定するプロセス。
• ロードショー: 上場前に経営陣が投資家を訪問し、事業内容を説明する販促活動。
• DD(デュー・ディリジェンス): 財務・法務・ビジネス面での精査手続き。上場準備の第一歩。
• IDX Carbon: IDXが運営する炭素取引プラットフォーム。排出権取引やカーボンクレジットの売買が可能。
• EV(Electric Vehicle)政策: インドネシア政府が推進する電気自動車産業育成策。関連企業の上場機会を広げている。
FAQ
Q1. IDXに上場する場合、審査期間はどれくらいかかりますか?
A. 事前準備を含めて一般的に4〜6か月が目安です。予備審査に約30営業日、その後OJK登録やロードショーを経て最終承認となります。
Q2. 日本本社企業が直接IDXに上場することはできますか?
A. 技術的には可能ですが、多くの企業は現地子会社を上場させる形を採用しています。ローカル投資家とのコミュニケーションや税務上のメリットを得やすいからです。
Q3. 赤字でも上場できると聞きました。条件はありますか?
A. アクセラレーターボードであれば黒字要件は免除されます。ただし、コーポレートガバナンスの基準や将来の成長戦略、十分な情報開示が求められます。
Q4. ESG報告はどの程度詳細に作成する必要がありますか?
A. POJK 51/2017に基づき、環境負荷、社会貢献、ガバナンス体制の各項目に具体的数値や目標を記載する必要があります。第三者認証を取得すると海外機関投資家からの評価が高まります。
Q5. 上場後の株価下落を防ぐために企業が取れる対策は?
A. 中期事業計画の定期的なアップデート、透明なIR活動、ESG指標の改善状況の公表が重要です。また、ロックアップ期間設定や需要予測時の適正価格設定も下落幅を抑える要素となります。
Q6. IDX Carbonの活用メリットは何ですか?
A. 自社の排出権を売却できるだけでなく、カーボンクレジットの購入で実質排出量をオフセットし、ESGスコアを向上させる手段として活用できます。
Q7. 外国人投資家による株式保有に制限はありますか?
A. 業種ごとに外資保有上限が設定されています。上限に達した銘柄は追加取得が制限される場合があるため、投資前に確認が必要です。