3月 28, 2025 • インドネシア • by Delilah

インドネシアの小売市場:リテールの現状と将来性

インドネシアの小売市場:リテールの現状と将来性

インドネシアは、急速な経済成長と若年層の多さに支えられ、今や東南アジア最大の消費市場として注目を集めています。本記事では、インドネシアの小売市場の現状と今後の成長性について、マクロ経済の視点や最新の統計データをもとに詳細に解説します。進出を検討する日本企業や欧米企業の経営者・マネージャーにとって、現地の市場構造や中間所得層の動向、消費者行動の変化、法制度の影響など、知っておくべき重要なポイントを網羅的に紹介しています。これからインドネシアでの事業展開を進めるうえで、ぜひ参考にしてください。

 

インドネシアのマクロ経済概観

インドネシアのマクロ経済概観

インドネシアは、東南アジア最大の経済国であり、新興市場国の中でも注目される存在です。人口の多さ、地政学的な位置、中間所得層の拡大、そしてインフラ・デジタル分野の投資により、今後も成長が見込まれる国です。

① GDP(国内総生産)

インドネシアの名目GDPは、2023年に1.42兆ドル(約22,000兆ルピア)に達し、ASEAN最大の経済規模を維持しています(出典:BPS / Statistik Indonesia, 2024年2月)。

実質GDP成長率は以下のように推移しています:

  • 2021年:3.7%
  • 2022年:5.3%
  • 2023年:5.0%
  • 2024年予測:5.1%前後(出典:Bank Indonesia)

コロナからの回復が順調に進み、成長は安定化しています。特に個人消費と輸出(ニッケル・パーム油などのコモディティ)が成長を牽引しています。

② 人口と労働力構造

2025年時点の人口は約2億8,000万人で、2050年には3億人超が見込まれています(出典:Bappenas)。この人口規模は、国内消費市場の大きな強みです。

さらに:

  • 労働人口(15〜64歳)は全体の約70%
  • 若年人口(30歳未満)が全体の45%以上

若くて労働可能な層が多いことは、生産性の向上と市場の拡大余地を意味します。

③ 一人当たり所得(GNI per capita)

世界銀行の分類によると、インドネシアは現在「中上位所得国(Upper-Middle Income Country)」に属しています。

  • 2013年:3,460 USD
  • 2023年:4,690 USD
    (出典:World Bank, Bank Dunia)

一人当たり所得は着実に上昇しており、将来的な「高所得国」入りが目指されています。

④ 物価とインフレ率

インドネシア中央銀行(Bank Indonesia)の目標インフレ率は2〜4%ですが、近年の動きは以下の通りです:

  • 2022年:5.5%(エネルギー価格の上昇が原因)
  • 2023年:2.6%(目標レンジ内に安定)
  • 2025年2月:-0.09%(デフレ)
    (出典:BPS、)

最近のデフレは、政府による電力補助金の影響とされていますが、持続的なデフレ傾向ではありません。

⑤ 雇用と失業率

失業率は以下の通りで、コロナ後の回復基調が続いています:

  • 2020年:7.1%
  • 2022年:5.9%
  • 2023年8月5.32%(BPS)

また、労働市場では「非公式労働(Informal Sector)」の割合が高く、約58%が未登録の中小業者・個人商店・日雇い労働者などに従事しているとされます。

今後の課題は、安定的・正式な雇用の創出です。

⑥ 財政・公共投資

2023年の国家予算(APBN)は以下のような構成です

  • 総歳出:3,061兆ルピア
  • 教育支出:612兆IDR(全体の20%)
  • インフラ支出:392兆IDR
  • 健康・社会保障:327兆IDR

教育とインフラに積極的な投資を続けており、中長期的な経済発展の土台が整いつつあります。

 

 

インドネシア小売市場の現状

インドネシア小売市場の現状

インドネシアの小売市場は、東南アジア最大級の規模を誇り、近年著しい成長を遂げています。以下に、その現状を詳細に解説いたします。

市場規模と成長率

2023年のインドネシア小売市場は、個人消費の増加と都市化の進展により、約590億米ドルと推定されています。 今後も年平均成長率(CAGR)5%で成長し、2033年までに791億米ドルに達すると予測されています。

主要な流通チャネル

インドネシアの小売市場は、多様な流通チャネルで構成されています。主なチャネルとその特徴は以下のとおりです:

  • スーパーマーケット/ハイパーマーケット: 都市部を中心に展開し、幅広い商品を提供しています。
  • コンビニエンスストア: 24時間営業や利便性の高さから、都市部で急速に普及しています。
  • デパート: 中高所得者層をターゲットに、高級ブランドや多様な商品を取り揃えています。
  • 専門店: 特定の商品カテゴリーに特化し、専門性の高いサービスを提供しています。
  • オンライン小売(Eコマース): インターネットの普及とともに急成長しており、Tokopedia、Shopee、Lazadaなどのプラットフォームが市場をリードしています。

伝統的小売と近代的小売の共存

インドネシアでは、近代的小売(モダントレード)の拡大が進む一方で、伝統的小売(トラディショナルトレード)も依然として重要な役割を果たしています。 特に地方都市や農村部では、ワルンと呼ばれる小規模な個人商店が日常生活に欠かせない存在となっています。

消費者行動の変化

近年、インドネシアの消費者は健康や環境への意識を高めています。 これにより、オーガニック製品やエコフレンドリーな商品の需要が増加しています。

中間所得層の縮小とその影響

一方で、インドネシアの中間所得層は2019年の21.5%から2024年には17.1%に縮小しており、これは小売市場にとって大きな課題となっています。 中間所得層の減少は、消費支出の減少を招き、小売業者の売上や利益率に影響を及ぼしています。

 

 

インドネシアの中間所得層の動向

インドネシアの中間所得層の動向

インドネシアの中間所得層は、同国の経済成長と安定において重要な役割を果たしています。 しかし、近年、この層の縮小が顕著となり、経済全体に影響を及ぼしています。以下に、その動向を詳しく解説します。

中間所得層の定義と現状

インドネシア政府は、中間所得層を月間支出額が200万ルピア(約122米ドル)から990万ルピア(約605米ドル)の範囲にある世帯と定義しています。 この層は、国内消費の主要な担い手であり、経済成長の原動力とされています。

人口割合の変遷

  • 2014年: 総人口の15.6%(約3,900万人)が中間所得層に属していました。
  • 2018年: この割合は23.0%(約6,000万人)まで拡大しました。
  • 2023年: しかし、18.8%(約5,200万人)に減少しています。

さらに、2024年には17.1%(約4,800万人)まで縮小したとの報告もあります。

縮小の要因

  1. 雇用の質の低下: 近年の雇用増加は、卸売・小売、宿泊・飲食サービスなど、比較的賃金が低いサービス業が中心となっています。 一方、製造業などの高付加価値産業での雇用創出が停滞しています。
  2. インフォーマルセクターの拡大: 非公式経済(インフォーマルセクター)での雇用が増加しており、2023年には全雇用の59%を占めています。 これらの職は一般的に低賃金で、社会保障も不十分です。
  3. 経済構造の課題: インドネシアは資源依存型の経済構造を持ち、製造業のGDP比率が低下しています。 これにより、高所得を生む雇用機会が減少しています。
  4. パンデミックの影響: 新型コロナウイルスの流行により、多くの中間所得層が職を失い、収入が減少しました。

経済への影響

中間所得層の縮小は、以下のような経済的影響を及ぼしています:

  • 消費の減退: 家計消費はインドネシアのGDPの半分以上を占めており、中間所得層の減少は消費支出の低下を引き起こしています。
  • 税収の減少: 消費の減少は、政府の税収減少にも直結し、財政運営に影響を及ぼしています。
  • ビジネスへの影響: 中間所得層を主要顧客とする企業は、売上の減少や店舗閉鎖を余儀なくされています。

政策的対応と今後の展望

新政権は、経済成長と雇用創出を優先課題として掲げています。 具体的には、大規模プロジェクトを通じて数百万の雇用を創出する計画がありますが、財政制約が課題となっています。

また、製造業の強化や高付加価値産業への投資促進、インフォーマルセクターからフォーマルセクターへの移行支援など、中間所得層の再拡大に向けた政策が求められています。

中間所得層の動向は、インドネシア経済の健全性を測る重要な指標です。 今後の政策とその効果に注目が集まっています。

 

 

インドネシア小売市場の大手企業

インドネシア小売市場の大手企業

インドネシアの小売業界は、多様な企業が存在し、それぞれが独自の強みを持っています。以下に、売上高や規模が特に大きい主要な小売企業を具体的な数値とともにご紹介します。

1. アルファマート(Alfamart)

  • 概要: PT Sumber Alfaria Trijaya Tbkが運営するミニマーケットチェーンで、全国に広がる店舗網を持ちます。
  • 売上高: 2022年の売上高は約76.2億米ドルで、前年から40%の増加を記録しました。
  • 店舗数: 2021年時点で約16,492店舗を展開しています。

2. インドマレット(Indomaret)

  • 概要: PT Indomarco Prismatamaが運営する国内最大のコンビニエンスストアチェーンで、日用品から食品まで幅広く取り扱っています。
  • 売上高: 2022年の売上高は約76億米ドルで、前年から22.7%の増加を示しました。
  • 店舗数: 2023年3月時点で約21,800店舗を展開しています。

3. マタハリ・デパートメントストア(Matahari Department Store)

  • 概要: PT Matahari Department Store Tbkが運営する国内最大級のデパートメントストアで、衣料品や生活雑貨を中心に取り扱っています
  • 売上高: 2024年度の売上高は約6,399億インドネシアルピアを記録しました。
  • 店舗数: 2024年時点で全国に142店舗を展開しています。

4. ハイパーマート(Hypermart)

  • 概要: PT Matahari Putra Prima Tbkが運営するスーパーマーケットチェーンで、生鮮食品から日用品まで幅広く取り扱っています。
  • 売上高: 2020年の売上高は約4億5,510万米ドルでした。

5. トランスマート・カルフール(Transmart Carrefour)

  • 概要: PT Trans Retail Indonesiaが運営するハイパーマーケットで、多様な商品を一堂に取り揃えています。
  • 売上高: 2020年の売上高は約10億7,000万米ドルで、国内のハイパーマーケットとしてトップの売上を誇ります。

6. スーパーインド(Super Indo)

  • 概要: PT Lion Super Indoが運営するスーパーマーケットチェーンで、新鮮な食材と高品質な商品を提供しています。
  • 売上高: 2020年の売上高は約4億3,250万米ドルでした。

これらの企業は、インドネシアの小売市場において重要な役割を果たしており、それぞれが独自の戦略で市場シェアを拡大しています。 特にミニマーケットチェーンのアルファマートとインドマレットは、広範な店舗網と売上高で市場をリードしています。

 

 

インドネシア小売市場の今後の展望

インドネシア小売市場の今後の展望

  1. 市場規模の拡大: インドネシアの小売市場は、2024年から2033年にかけて年平均成長率(CAGR)約5%で成長し、2033年末には市場規模が590億米ドルから791億米ドルに達すると予測されています。
  2. デジタル市場の成長: Eコマース市場の拡大、デジタル広告市場の成長、スタートアップ企業への投資増加など、デジタル分野での成長が期待されています。

直面する課題

  1. 中間所得層の縮小: 2019年には人口の21.5%を占めていた中間所得層が、2024年には17.1%に減少しています。 これは消費支出の減少を引き起こし、小売市場の成長を鈍化させる可能性があります。
  2. ハラール認証の義務化: 2024年10月17日から、インドネシアでは全ての食品にハラール認証が義務付けられます。 これにより、特に輸入業者や外資系企業は、複雑なサプライチェーンや認証手続きへの対応が求められます。
  3. インフラと物流の課題: 小売市場の拡大には、インフラ整備と物流の効率化が不可欠です。 特に離島や地方都市への配送網の構築が求められます。
  4. デジタルリテラシーの向上: デジタル市場の成長を最大限に活用するためには、消費者と企業双方のデジタルリテラシー向上が必要です。 特に中小企業のデジタル化支援が重要となります。

 

 

まとめ

インドネシアの小売市場は、人口2.7億人という巨大市場と若年層中心の人口構成を背景に、今後も安定した成長が見込まれます。都市化の進展やEコマースの普及などにより、流通チャネルも多様化しています。一方で、中間所得層の縮小、インフラ整備の遅れ、規制対応といった課題にも直面しており、企業は柔軟かつ中長期的な戦略が求められています。今後のインドネシア市場で成功するためには、現地の社会経済構造を理解し、地域特性や消費者ニーズを踏まえたローカライズ戦略を強化することが重要です。

 

 

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本記事で使用した単語の解説

GNI(Gross National Income)
国民総所得。国内外から得た所得の合計を指す。国の所得水準を測る指標の一つ。

中間所得層
所得が低すぎず高すぎず、月間支出が200万ルピアから990万ルピアの層を指す。安定した消費を支える経済の中心的存在。

CAGR(Compound Annual Growth Rate)
年平均成長率。複数年にわたる成長率を年単位で平均化した指標。

Eコマース
インターネット上での商品売買。ShopeeやTokopediaなどが代表的なプラットフォーム。

インフォーマルセクター
政府に登録されていない労働者や事業活動。社会保障の対象外で、収入が不安定なことが多い。

ハラール認証
イスラム法に則った製品であることを示す認証制度。2024年以降、食品などへの義務化が進む。

 

 

FAQ(よくある質問)

Q1. インドネシアの小売市場に進出する際に注意すべき規制はありますか?
はい。2024年10月からは、食品分野におけるハラール認証の義務化が実施されます。特に輸入品や加工食品を取り扱う企業は、認証取得や流通過程での管理体制に注意が必要です。

Q2. 伝統的小売と現代的小売の違いは何ですか?
伝統的小売(トラディショナルトレード)は、個人経営のワルン(小規模商店)や市場での販売を指し、地方や低所得層で根強く支持されています。対して現代的小売(モダントレード)は、スーパーマーケットやコンビニなど、体系化された流通網とマーケティング戦略を持つ業態です。

Q3. 中間所得層の減少は市場にどのような影響を与えていますか?
中間所得層の減少は、消費支出の鈍化に直結しており、小売業者の売上減や顧客単価の低下につながっています。今後は、より低価格帯の商品展開や地方市場への進出が重要になります。

Q4. 地方都市への小売展開は有望でしょうか?
はい。地方都市は依然として伝統的小売が主流ですが、購買力の向上やスマートフォンの普及により、近代的小売やEコマースの拡大余地があります。ただし、物流インフラや支払い手段などの課題にも注意が必要です。

 

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