
3月 1, 2025 • インドネシア
4月 6, 2025 • インドネシア • by Delilah
目次
インドネシアでビジネスを展開するにあたり、会計処理や財務管理の基礎を理解することは非常に重要です。特に、日本や欧米からインドネシアに進出する経営者・マネージャーの方々にとって、現地の会計基準や財務報告のルールを把握しておくことで、スムーズな事業運営と本社との連携が容易になります。本記事では、インドネシアの会計基準SAKと国際基準IFRSの関係から、財務諸表の種類・構成、会計年度の設定や記帳ルール、減価償却と固定資産管理、さらに電子化された税務・会計システム(e-Fakturやe-Bupotなど)、そして資金繰り管理や基本的な財務指標に至るまで、初心者にもわかりやすく解説します。
インドネシアと日本では会計や財務の制度に共通点も多いですが、ローカルルールや実務上の注意点も存在します。本記事を通じて、インドネシアで事業を行ううえで最低限押さえておくべきポイントを把握し、現地の会計・財務担当者とのコミュニケーションや意思決定に役立ててください。
インドネシアの会計基準はSAK(Standar Akuntansi Keuangan)と呼ばれ、日本の会計基準に相当する国内基準です。SAKは2008年末から始まったIFRS(国際財務報告基準)とのコンバージェンス(収斂)プロジェクトによって大きく変化しました。2012年1月1日以降、インドネシアのSAKはIFRSにほぼコンバージェンス(調和)された形で運用されており、その後も国際基準の動向に合わせ改訂が続けられています。特に2022年末には、IFRS Accounting Standardsの完全な採用に基づく改訂が行われ、現在のSAKは主要点でIFRSとほぼ一致しています。つまり、インドネシアで財務諸表を作成する際も、基本的にはIFRSに準拠した原則で行われると考えて差し支えありません。
もっとも、全てが全く同一というわけではなく、インドネシア独自の事情により一部のIFRS基準が採用されていなかったり、逆にインドネシア独自の基準が存在したりします。例えば、IFRSでは存在するがSAKにはない項目(例:規制資産・負債に関する基準など)や、逆にインドネシアでのみ定められている基準(例:共通支配下での企業結合に関するPSAKや、税務免除に関するPSAKなど)があります。しかし、これらは特殊なケースであり、一般的な企業の通常の財務諸表作成においては大きな差異は生じないでしょう。要するに、インドネシアの会計基準はIFRSにほぼ準拠しているため、国際的な基準での財務報告に慣れている方であれば、大枠では同じ考え方で財務諸表を読み書きできます。
インドネシアには、企業の種類や規模に応じて適用される複数のSAK区分があります。一般の株式会社や大企業には上述のIFRS準拠のSAK(俗に「SAK Umum」)が適用されますが、中小企業向けにはSAK ETAP(UKM向け簡易基準)が存在します。SAK ETAPは公開会社でない中小企業のために作られた簡易な会計基準で、IFRSよりも簡略化された処理が認められています。また、インドネシア特有のイスラム金融(Syariah)に対応したSAK Syariahも別途整備されています。例えば、ムスリムの商慣習に基づく金融商品や取引の会計処理についてはSAK Syariahで詳細が規定されています。もっとも、一般的な日系企業の現地法人であれば基本的には通常のSAK(IFRS準拠)を適用することになるため、特別な場合を除きIFRSとほぼ同様の基準で財務諸表を作成すると考えてよいでしょう。
インドネシアの企業が作成する財務諸表(Laporan Keuangan)は、日本や国際会計基準における財務諸表と同様に、企業の財政状態や経営成績を示すための複数のレポートで構成されます。主なものとして貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書があり、さらに自己資本の変動を示す持分変動計算書や財務諸表の内容を補足する注記(Catatan atas Laporan Keuangan)も含まれます。以下、それぞれの目的と構成について見ていきましょう。
貸借対照表は、ある時点における企業の財政状態を表す報告書です。インドネシア語では「Laporan Posisi Keuangan」または慣用的に「Neraca(ネルサ:勘定棚卸表の意味)」と呼ばれます。貸借対照表には以下の3つの要素が含まれます:
貸借対照表では「資産=負債+資本」の関係が成り立ち、このバランスが企業の財政状態を示します。インドネシアの貸借対照表の表示様式は縦書き形式(報告式)が一般的で、上から資産・負債・資本の順に記載されます。主要項目や並べ方はIFRSに準じており、日本基準と大きく異なる点はありません。
損益計算書は、一定期間における企業の経営成績(利益または損失)を示す報告書です。インドネシア語では「Laporan Laba Rugi(ラパラン・ラバ・ルギ)」といい、「ラバ」は利益、「ルギ」は損失を意味します。基本的な構成要素は以下の通りです:
インドネシアの損益計算書も、日本の損益計算書と同様に単一ステップ方式または区分式で表示され、売上総利益や営業利益といった中間小計も示されます。IFRSでは包括利益計算書の概念もありますが、通常Laporan Laba Rugi dan Penghasilan Komprehensif Lain(損益計算書及びその他の包括利益)として、為替差損益や再評価差額などを含めた包括利益を表示する形式が採られることもあります。基本的な読み方は日本のものと変わらず、期間の儲けを把握するための書類です。
キャッシュフロー計算書は、一定期間における現金および現金同等物の増減(資金繰り)を示す報告書です。インドネシア語で「Laporan Arus Kas(ラパラン・アルス・カス)」と呼ばれ、その構成は世界共通で3つの活動区分から成ります。
キャッシュフロー計算書を見ることで、企業がどの活動で現金を得ており、どこに現金を使っているかが把握できます。インドネシアでも直接法・間接法のいずれかでキャッシュフロー計算書を作成しますが、上場企業では間接法が一般的です。資金繰り管理が重要なインドネシアでは、損益計算書上黒字であっても現金不足に陥らないよう、このキャッシュフロー計算書の分析が重視されます。
上記の主要3表に加えて、インドネシアの財務報告には持分変動計算書(Laporan Perubahan Ekuitas)と注記(Catatan atas Laporan Keuangan)が含まれます。
以上が財務諸表一式で、インドネシアでも「貸借対照表+損益計算書+キャッシュフロー計算書+持分変動計算書+注記」のフルセットが基本となります。未上場の中小企業では簡易版であるSAK ETAPにより注記項目等が簡略化されますが、基本的な財務3表は同様に作成されます。財務諸表のフォーマットや作成プロセスを効率化するために、多くの企業が後述する会計ソフトを利用しています。
インドネシアの会計年度(事業年度、Tahun Buku)は、基本的に暦年(1月1日~12月31日)を用いる企業が多数派です。税務上も暦年が標準の「課税年度(Tahun Pajak)」とされています。ただし、必ずしも全ての会社が暦年でなければならないわけではなく、他国の親会社に合わせて年度を変更したい場合などは事前に税務当局の承認を得て年度変更が可能です。インドネシア税法(1983年法律第7号など)では、一度採用した年度期間は原則として毎年継続適用(prinsip taat asas)しなければならず、途中で年度終了月を変更するには税務総局(DJP)への申請と許可が必要と明記されています。例えば、1-12月期から7-6月期へ変更するといったケースでは、所轄税務署への申請書提出と合理的な理由の説明が求められ、許可が下りて初めて変更が認められます。
なお、年度変更を行う際には、変更する年に重複または欠落する月の税務申告(いわゆるブリッジ期間の申告)が必要になる点にも注意が必要です。このように、年度期間については日本と同様に柔軟性がありますが、事前承認なしの勝手な変更は認められないこと、そして一貫性を保つことが求められる点を押さえておきましょう。
インドネシアでビジネスを営む法人(PT会社など)は、適切な会計帳簿を備え付け、取引を記録する義務があります。税法上も、事業を行う個人事業主や法人は原則として複式簿記(pembukuan)による記帳を行い、毎年財務諸表(少なくとも貸借対照表と損益計算書)を作成することが義務付けられています。小規模な事業者の場合は簡易な単式記帳(pencatatan)のみで許容されるケースもありますが(年商4.8億ルピア未満の個人事業者など)、通常の日系企業現地法人であれば複式簿記でしっかり帳簿を付ける必要があります。
記帳においては、日本と同様に発生主義(Akrual)が基本です。すなわち、収益や費用は現金の収支にかかわらず発生事実に基づき認識します。ただし税務上はごく小規模事業者について現金主義(Kas)も認められる特例があります。一般的な法人企業は発生主義で財務諸表を作成し、それをもとに税務申告を行います。
帳簿の作成言語と通貨についても留意点があります。インドネシアの法律では、原則として記帳はインドネシア語(Bahasa Indonesia)およびインドネシア通貨ルピア(IDR)で行うこととされています。もっとも、多くの外資系企業では本社との連携上、英語や米ドルで帳簿をつけたいケースもあるでしょう。その場合、財務省の許可を得て英語・米ドルでの記帳を行う制度があります。具体的には、一定規模以上の外国資本企業などを対象に、英語およびUSDでの帳簿管理が認められており、許可を受けると税務申告もUSD建てで行えるようになります。許可なく勝手に英語帳簿のみで運営すると、税務調査等で不備を指摘される可能性がありますので注意が必要です。
さらに、インドネシアの記帳では法定保存期間にも気を配りましょう。インドネシア税法では帳簿および関連資料は最低10年間の保存義務があります(原則として税務署による追徴可能期間が5年+延長可能期間5年のため)。そのため、現地での書類管理やシステム上のデータ保存体制も整備しておく必要があります。
以上のように、インドネシアでは記帳・財務報告に関する基本ルールは国際標準に沿いつつも、言語と通貨、年度や手続き面でいくつかのローカル要件があります。進出当初は現地会計士や税理士の助言を受け、これらのルールに沿った帳簿体制を築くことが肝要です。
減価償却(Penyusutan)は、固定資産の取得原価をその耐用期間にわたり費用配分する会計処理です。インドネシアの会計基準(PSAK)でも、この基本的な考え方はIFRSと同様で、例えば製造設備を購入した場合はその使用可能期間にわたって減価償却費として費用化します。会計上は一般に定額法(Metode Garis Lurus)か定率法(Metode Saldo Menurun)のいずれか適切な方法で償却し、見積耐用年数や残存価値に基づいて計算します。
PSAKにおける減価償却ルールはIFRSに準じており、各企業が資産の経済的耐用年数を見積もって償却費を計上しますが、税務上の減価償却ルール(penyusutan fiskal)も別途存在する点に注意が必要です。税法(所得税法=2008年法律第36号11条)では、耐用年数1年以上の有形資産取得費用は減価償却により損金算入すると規定されています。税務上認められる減価償却方法は2つで、定額法(法律11条(1))と定率法(倍額償却法)(11条(2))のみとなっています。建物(bangunan)については定額法のみで減価償却しなければならず、非建物の有形固定資産は定額または定率のどちらかを会社が選択できます。定率法を選ぶ場合は二倍定率法(saldo menurun ganda)が適用され、初年度に大きな減価償却費を計上し徐々に減っていく形となります。
税務上、減価償却費を計算する際には資産の種別ごとに耐用年数(masa manfaat)が定められています。インドネシア税務当局は財務省令(PMK第96/PMK.03/2009号など)で有形固定資産を以下のようなグループに分類し、それぞれ法定耐用年数と償却率を規定しています。
例えば「自動車」はグループ II(8年)に、「パソコン」はグループ I(4年)に、それぞれ分類されます。上記耐用年数に基づき、各年に計上できる減価償却費の最大額が決まります(定率法ではこれら定額率の2倍を未償却残高に乗じます)。このようにインドネシアの税務では資産を細かくカテゴリー分けしているため、日本本社での耐用年数設定と異なる場合は注意が必要です。会計上は自社見積り耐用年数で減価償却しつつ、税務申告時に別途耐用年数を調整する(いわゆる減価償却費の加減算調整)ことがあります。この差異を管理するため、多くの企業では固定資産台帳を会計用と税務用で並行して管理しています。
減価償却計算のみならず、インドネシアで固定資産(Aset Tetap)を管理する上で知っておきたいポイントがあります。まず、インドネシアの会計基準では土地(Tanah)は原則として減価償却しません。土地は耐用年数が無限と考えられるため、取得原価のまま帳簿に残ります。ただし、鉱業権など特殊な場合は償却・減耗が必要になります。
次に、インドネシアでも資産の棚卸が内部管理上重要です。特に地方の工場や支店に資産が点在する場合、所在地別の資産リストを作成し、定期的に実地棚卸し(Stock Opname)を行うことが推奨されます。資産管理ソフトやバーコードを用いた管理を導入する日系企業もあります。
さらに、IFRSでは減損会計(Impairment)や公正価値による再評価モデルの適用もあります。インドネシアのPSAKでも減損テストの考え方は導入されており、資産の収益性低下時には減損損失を計上するルールがあります。また、資産再評価については税務上の特例措置(一定条件下で再評価差益に対する税率軽減など)が時折認められることがありますが、通常は保有資産を取得原価から再評価することは任意です。必要に応じ専門家に相談すると良いでしょう。
まとめると、インドネシアの固定資産管理は基本原則は国際基準どおりですが、税務上の減価償却区分や実地管理においてローカルな工夫が必要となります。固定資産は一度購入すると長期間にわたり会社のリソースとなるため、適切な管理と計画的な更新を心がけましょう。
インドネシアでは、多くの企業が日々の取引記録や財務諸表作成に会計ソフトウェアを活用しています。日本の会計ソフト同様、仕訳入力から試算表・財務諸表の自動作成まで行えるものが普及しており、現地中小企業向けのローカルソフトから、多国籍企業向けのグローバルERPまでさまざまです。ソフトを使用することで、複雑なインドネシアの税計算(後述の付加価値税や源泉税の控除計算)も自動化でき、月次・年次のレポート作成の負担が大きく軽減されます。
代表的なインドネシアの会計ソフトには、Mekari JurnalやAccurate、Zahirなどがあり、多言語対応やクラウド型サービスも登場しています。また、近年はこれら会計ソフトと政府の電子税務システム(e-Faktur等)をAPI連携させ、売上・仕入データから税務申告書をワンクリックで作成するようなソリューションも提供されています。日本から進出した企業の場合、既存の本社システムと現地ソフトとの互換性に留意する必要がありますが、インドネシア固有の帳票(現地語財務諸表や納税書類)出力のためにもローカルソフト導入は有益と言えます。
会計ソフト導入時には、現地スタッフへの研修や科目体系の現地化(インドネシア語科目の設定)なども検討しましょう。インドネシア語の勘定科目リストを用意しておくと、ローカルスタッフとの情報共有が円滑になります。総勘定元帳や財務諸表を日本語・英語とインドネシア語で併記できるように設定する企業もあります。
e-Faktur(エーファクトゥル)は、インドネシア税務当局(DJP)が提供する付加価値税(PPN)電子インボイス発行システムです。インドネシアで事業を行い一定以上の売上がある企業は課税事業者(PKP: Pengusaha Kena Pajak)として付加価値税の納税義務がありますが、2016年以降、このVATインボイスの発行・報告はe-Fakturという電子システムで行うことが義務化されました。e-Fakturアプリケーションを使用することで、紙ではなく電子的に正規の「税務インボイス」を発行し、相手先にPDFで提供することができます。発行されたデータはそのままオンラインで税務当局に送信・蓄積されるため、従来必要だった紙のインボイス管理や月次申告書(SPT Masa PPN)の作成が大幅に効率化されます。
税務当局の説明によれば、「e-Fakturとは付加価値税の課税証票(Faktur Pajak)を電子的に作成するためのシステム」であり、課税事業者(PKP)がインターネットを通じていつでもどこでもVATインボイスを発行できるようにするものです。現在、e-Fakturはバージョン4.0までアップデートされ、Web版も提供されています。ソフトをPCにインストールして使う従来型と、ウェブブラウザ上で利用できるオンライン版があり、いずれも機能はほぼ同等です。
実務上、インドネシアで売上VATを請求する際は、まずe-Fakturでインボイス番号を取得し、取引情報を入力して正式なFaktur Pajak(課税請求書)を発行します。発行後は相手先にもそのデータが共有され、相手は自社のe-Fakturシステムで「進行中の仕入VAT」として受領承認します。このデータが当局にも届き、月次VAT申告が半自動化される仕組みです。紙の請求書ではVAT控除が認められないため、PKP同士の取引では必ずe-Fakturを用いる必要があります。
なお、e-Fakturの利用にあたっては電子証明書の取得やNPWP(納税者番号)登録が必要です。初回利用時に税務署からデジタル証明書を発行してもらい、ソフトに組み込んで使用します。また、インボイス発行時にはインターネット接続が必要で、オフラインで発行して後からアップロードする機能もありますが、基本はリアルタイム接続が推奨されています。
e-Bupot(エーブポット)は、源泉徴収税(PPh)の支払調書(Bukti Potong/Bukti Pemungutan)を電子的に作成・提出するためのシステムです。インドネシアでは各種所得に対し源泉徴収税が課されており、例えばサービス支払に対する所得税(PPh第23条)や、利息・配当・ロイヤリティ等に対する所得税(PPh第26条)、給与所得税(PPh第21条)など、多くの場面で支払者が税金を天引きし、税務署に納付する義務があります。その際に発行する源泉徴収証票(Bukti Potong/Pemotongan)を電子化し、かつ月次申告をオンライン提出できるようにしたのがe-Bupotシステムです。
特に代表的なのがe-Bupot Unifikasiと呼ばれる統合版システムで、これは従来別々だった複数種類の源泉徴収税の処理を一元化した最新プラットフォームです。2020年代に入り段階的に導入され、ウェブ上で源泉徴収証票を作成し、そのまま関連する月次申告書(SPT Masa PPh)の提出まで完結できるようになっています。例えば従業員の給与税(PPh21)について、従来は紙の源泉徴収票(Bukti Potong 1721-A1など)を交付していましたが、今ではe-Bupot21/26システム上で電子的に発行・報告します。また外部業者への支払に係るPPh23/26もe-Bupot Unifikasiで電子処理が可能です。
税務当局規定(PER-24/PJ/2021号)では、e-Bupot Unifikasiは税務総局のサイト上で提供されるソフトウェアで、源泉徴収証票の作成および源泉税の月次申告(SPT Masa)提出に用いると定義されています。これにより、従来は各種源泉税ごとに別々のフォームで申告していたものが、一画面でまとめて処理可能になりました。
実務としては、例えば外注先にサービス料を支払う際、支払額の2%を源泉徴収(PPh23)する場合、e-Bupotシステムにアクセスし所定の項目(受取人のNPWP、支払額、源泉税額など)を入力して電子Bukti Potongを発行します。受取人へは電子的に控えが交付され、同時に当局へもデータ送信されます。そして翌月の申告時にはそのデータをまとめてオンライン提出します。これにより、紙の支払調書発行や手書き申告書提出が不要となり、源泉税処理の効率と透明性が飛躍的に向上しました。
e-Billing(エービリング)は、税金のオンライン納付システムです。従来、インドネシアで税金を納付する際は紙の納付書(SSP)を銀行に持ち込んで手続きをする必要がありましたが、現在では全ての納税は電子的な振込に移行しています。その中核となるのがe-Billingシステムで、これは「納付すべき税額に対応するBilling ID(16桁程度の納付コード)をオンラインで発行し、対応する金融機関経由で納付する仕組み」です。
具体的には、納税者はDJPのシステム(DJP Online)や公認アプリを通じて、納付したい税目・税額を入力しKode Billing(納付コード)を取得します。このコードは支払い伝票のような役割を果たし、銀行やモバイルバンキングでコードを入力して支払うことで、その税金が国庫に納付されます。納税者側には電子受領書(Bukti Penerimaan Negara)が発行され、これが正式な領収証となります。
e-Billingは納税者にとって24時間いつでもどこでも納付が可能という利便性だけでなく、政府側にもリアルタイムで納税状況を把握できるメリットがあります。インドネシア財務省はMPN-G2(国庫収入モジュール第2世代)というシステムで国庫収入を管理しており、e-Billingはその一部として運用されています。現在では主要税(所得税、付加価値税など)はもちろん、関税や非税収入に至るまで、あらゆる国家収入が電子化されたBillingシステムで一元管理されています。
納税者にとって注意点は、期限までにBillingコードを発行し支払いを済ませることです。コード発行だけでは納付完了ではなく、別途インターネットバンキング等で送金処理が必要です。またコードには有効期限がありますので期限切れの場合は再発行します。e-Billingの導入により、紙の納付書記入ミスや銀行窓口の混雑といった問題が解消されました。現在はDJP公認の民間アプリ(ASP)も充実しており、例えばMekari Klikpajakなどのサービスを使えば、納付コードの発行から即時決済までワンストップで可能です。
以上、e-Faktur・e-Bupot・e-Billingという3つの主要電子システムについて説明しました。これらは税務分野のシステムですが、会計処理と密接に関連しています。適切に利用することで、紙中心だった経理・税務作業が大幅に効率化されます。インドネシア進出企業の経営者としては、スタッフがこれらシステムを正しく使えているか把握し、必要に応じIT環境の整備や教育投資を行うことが求められます。
企業経営において資金繰り(Pengelolaan Arus Kas)は利益以上に重要といわれます。インドネシアでも同様で、特に現地で事業を始めたばかりの頃は、黒字倒産を避けるためにキャッシュフローへの細心の注意が必要です。資金繰り管理(Manajemen Arus Kas)とは、日々の入出金予定を把握し、手元資金が不足しないよう計画・調整することです。売上代金の回収サイト、仕入や経費の支払サイトをコントロールし、必要に応じて追加資金の調達や支払条件の交渉を行います。
インドネシアは商習慣上、売掛・買掛の支払条件が日本と異なる場合があります。例えば取引先によっては入金が予定より遅延するケースもありえます。また銀行融資の金利水準も日本に比べ高い傾向があるため、不用意に短期借入に依存すると金利負担で利益が圧迫されかねません。このため、平時からキャッシュフロー計画表(Cash Flow Projection)を作成し、数ヶ月先までの資金余裕を予測しておくことが重要です。
キャッシュフロー計算書(前述)を毎月確認することで、本業の収支で十分現金が創出されているか、投資や財務活動で大幅な流出入が起きていないかを分析できます。例えば、営業キャッシュフローがマイナスで投資キャッシュフローもマイナスの場合、資金は減少する一方なので早急な対策(売上増加や費用削減、資金調達)が必要です。一方、営業キャッシュフローがプラスでも、設備投資が嵩んでいると一時的に資金不足となることがあります。このように利益と現金は異なるため、両面から企業の状態をチェックする習慣をつけましょう。
資金繰り改善の具体策としては、売上債権の回収促進(与信管理の徹底や早期入金割引の活用)、在庫適正化(滞留在庫の処分、仕入タイミングの工夫)、支払条件の交渉(仕入代金の分割払い、支払サイト延長の相談)などが挙げられます。また、一時的に不足が見込まれる場合は銀行からの当座貸越枠(Credit Line)を確保したり、親会社からの融通を受けることも検討されます。
いずれにせよ、経営者はキャッシュフローについて「今後●ヶ月後にいくら不足しそうか」「不足を埋める手立ては何か」を常にシミュレーションすることが重要です。資金繰りに余裕があれば、新規投資や事業拡大のチャンスも掴みやすくなります。逆に資金繰りが逼迫していると、せっかく利益が出ていても事業継続が危ぶまれます。「利益よりキャッシュ」——インドネシアでもこの原則を念頭に、健全な財務運営を心がけましょう。
最後に、インドネシアで事業を行う上で経営者が知っておくべき基本的な財務指標(rasio keuangan pokok)を整理します。これらの指標は企業の財務健全性や収益性を測るもので、日本や他国で用いられる指標と同じです。定期的に自社の指標をモニタリングし、問題の兆候があれば早めに対策を打つことが大切です。
以上のような指標は、インドネシアでも決算書分析(Analisis Laporan Keuangan)として一般に利用されています。たとえば銀行から融資を受ける際にも、これら指標がチェックされます。経営者として、毎月の数値を把握し、異常値や業界平均との差異に気付けるようにしておくと、適切な経営判断に役立ちます。
ここまで、インドネシアで事業を営む上で最低限知っておきたい会計処理および財務の基礎知識を解説しました。インドネシアの会計基準(SAK)はIFRSにほぼ準拠しており、財務諸表の形式や作成プロセスも国際的な標準と大きくは変わりません。したがって、日本や欧米で培った会計の知識はそのまま応用できます。一方で、会計年度の扱いや税務面での電子システム利用、減価償却の税務ルールなど、ローカル特有の実務があります。特に税務当局が提供するe-Fakturやe-Bupotといったシステムは、デジタル化が進む現代において不可欠なツールとなっています。
また、資金繰り管理や財務指標の把握は万国共通の経営課題ですが、新興国であるインドネシアでは経済変動も大きく、より慎重なモニタリングが求められます。高金利環境の中での借入や為替変動リスクにも留意し、健全な財務体質を維持することが長期的成功につながります。
インドネシアの文化や商習慣に適応しつつ、本記事で紹介した会計・財務のポイントを押さえておけば、現地法人の経営数値を的確に読み解き、適切な意思決定ができるでしょう。ローカルスタッフや専門家との円滑なコミュニケーションのためにも、経営者自ら基本知識を持っておくことが大切です。ぜひ本記事を参考に、インドネシアでの事業運営に役立ててください。
インドネシアでのビジネスなら創業10周年のTimedoor
システム開発、IT教育事業、日本語教育および人材送り出し事業、進出支援事業
本記事で使用した主な用語の解説
FAQ(よくある質問)
Q1: インドネシアの会計基準はどの程度IFRSと同じですか?
A1: 大部分は同じです。2012年以降、IFRSに準拠したSAKが使われており、財務諸表の作成原則や科目もIFRSとほぼ一致します。細かな例外として、IFRSにある基準がローカル事情で未導入だったり、インドネシア独自の基準(例えばイスラム金融向け基準など)がありますが、通常の企業活動では違いを意識する場面は少ないでしょう。
Q2: インドネシアの財務諸表は英語や日本語で作成できますか?
A2: 法的にはインドネシア語での作成が求められます。社内管理用に英語や日本語で作成すること自体は可能ですが、当局提出用や法定開示用はインドネシア語が原則です。また帳簿も原則ルピア通貨・インドネシア語での記載義務があります。ただし、要件を満たせば英語・米ドルでの記帳許可を財務省から得ることも可能です。許可取得には申請と一定の条件(外国資本比率等)が必要になります。
Q3: 会計年度を日本本社と合わせて4月~3月にできますか?
A3: 可能ですが、事前に税務当局の承認を得る必要があります。インドネシアでは原則1月~12月を年度としますが、本社との連結の都合で別期間にしたい場合、年度開始前までに所轄税務署に申請し認可を受ければ変更できます。変更後は原則として新年度を継続適用する必要があり、頻繁な年度変更は認められません。
Q4: e-Fakturやe-Bupotは小規模企業でも使わないといけませんか?
A4: はい。付加価値税の課税事業者(売上4.8億ルピア超)であれば規模に関係なくe-FakturによるVATインボイス発行・申告が義務です。また源泉税のe-Bupotも、2020年代に入り特定の源泉税について順次電子申告が義務化されています。例えば、PPh23/26(サービス料等の源泉税)は指定納税者から段階的にe-Bupot利用が義務づけられ、現在では多くの法人が利用対象です。小規模でも該当する税務がある場合はeシステムを使う必要があります。
Q5: インドネシアで資金繰りが厳しくなったら、どう対処すればよいですか?
A5: まずはキャッシュフローを詳細に把握し、どこに原因があるかを分析しましょう。売上債権の回収遅れが原因なら取引先と交渉し、在庫過多が資金を圧迫しているなら在庫処分や仕入調整を検討します。また銀行の当座貸越枠の利用や、親会社からのローンも選択肢です。インドネシアの銀行融資は金利が高めなので、極力社内努力での資金繰り改善を図り、それでも不足する部分だけを外部調達するのが望ましいでしょう。早期に手を打つことで手遅れを防げます。必要であれば現地の財務コンサルタントに相談することも有効です。
Q6: 現地で必ず雇うべき会計・財務スタッフはどんな人材ですか?
A6: 規模にもよりますが、インドネシアの会計資格を持った経理スタッフを最低1名は確保すると安心です。現地の会計士(Akuntan)や税務コンサルタントと契約し、月次・年次決算や税務申告を代理してもらう方法もあります。小規模進出企業ではアウトソーシングで経理税務を委託するケースも多いです。ただし、社内に信頼できる経理担当者を置くことで、本社との連携や内部統制の面でメリットが大きいため、将来的には現地財務マネージャーを育成することをおすすめします。