4月 4, 2025 • インドネシア • by Erika Okada

インドネシアの不動産投資は今がチャンス?下火?

インドネシアの不動産投資は今がチャンス?下火?

インドネシアは東南アジア最大の人口を誇る成長国であり、都市化と経済発展を背景に不動産市場への注目が年々高まっています。ジャカルタやスラバヤなどの大都市では住宅需要が堅調に推移し、近年はバリ島や工業団地、物流施設といった特殊分野にも投資マネーが集まっています。一方で、金利や政策動向、世界経済の影響も無視できず、不動産市場全体が一様に好調とは言えないのも現実です。

本記事では、2023〜2024年のインドネシア不動産市場の最新動向をもとに、各セグメントの状況、地域ごとの注目ポイント、外国人や法人による投資制度、今後の見通しなどを包括的に解説します。これからインドネシア進出を検討している投資家や企業経営者の方々にとって、実践的な判断材料となる内容をお届けします。

 

 

現在のインドネシア不動産市場の概要

現在のインドネシア不動産市場の概要

市場は成長か、それとも停滞か?

インドネシアの不動産市場は、パンデミック後の回復基調にありつつもセクターによって温度差があります。全体として経済成長率は年間約5%と安定しており、不動産セクターへの投資も堅調です。2024年のインドネシア不動産セクターへの投資実行額は約122.9兆ルピアに達し、国内総投資の一部を占めています。

政府のインフラ整備やビジネス拡大の需要に支えられ、住宅、工業団地、オフィスなど主要サブセクターが経済成長に寄与している状況です。一方で、世界経済の不確実性や金利動向から慎重な見方も残り、市場の回復ペースはセクターによって異なります。

直近の中央銀行調査では、不動産市場は2024年第3四半期時点で商業用・住宅用ともに概ね安定した成長を示しています。商業用不動産需要指数は前期比+1.05%とプラスに転じ、住宅価格指数も前期比+0.50%(前年比+0.40%)と緩やかながら上昇しました。

特にホテルやオフィス需要が主要都市で回復しつつあり、観光業とビジネス活動の再開が不動産市場を下支えしています。他方、住宅販売量については2024年半ば以降に減速傾向がみられ、2024年第3四半期の住宅販売件数(新築一次市場)は前年同期比で7.14%減少に転じました。

これは前年に一時的な需要増があった反動や、高インフレによる建築コスト上昇など複合要因によるものです。開発業者によれば、建築資材価格の高騰(回答者の約39%が指摘)や各種許認可の遅れ(約27%)、住宅ローン頭金比率の高さ(約19%)および税負担(約16%)が販売の足かせになったとのことです。

もっとも、住宅ローン金利(KPR)はむしろ低下傾向にあり、2024年第3四半期時点で平均7.46%まで低下しており、高金利自体は販売を大きく阻害していないとの調査結果も出ています。

総じて、市場全体は大きな落ち込みからは脱しつつあり、セグメントごとに回復の勢いが異なる「ゆるやかな成長局面」といえます。

 

 

インドネシアの住宅不動産市場の動向

インドネシアの住宅不動産市場の動向

戸建て住宅(住宅用地付き物件)の市場動向

インドネシアでは伝統的に戸建て住宅(いわゆる「ランドハウス」)が主流の住宅形態であり、需要も根強いです。2023年から2024年にかけて、戸建て住宅市場は中低所得者向けを中心に政府支援策の恩恵を受けつつも、市場全体としては慎重な買い控えの傾向が見られました。

2024年第3四半期の住宅販売は前年を下回りましたが、その内訳を見ると、小型住宅の販売が前年同期比▲10.05%、中型住宅が▲8.80%と低迷する一方で、大型住宅は+6.83%と増加しています(ただし前期の+27.41%から伸び率は鈍化)。

富裕層向け高額物件の需要は比較的堅調だったものの、中価格帯以下では購入者の慎重姿勢が強まったことがうかがえます。

価格面では、戸建て住宅価格は全国平均で緩やかな上昇を維持しています。2024年第3四半期の住宅価格上昇率は前年比約1.46%で、前年よりも伸びが鈍化しました。特に大型住宅の価格上昇が顕著に減速しており、前年同期+1.47%から+1.04%へと伸び率が低下しています。

地域別では都市圏によって動向が異なり、地方都市では価格上昇がやや大きい例もあります。例えばポンティアナック(カリマンタン島西部)では住宅価格上昇率が2024年第2四半期の5.40%から第3四半期は3.34%へ減速しましたが依然全国平均を上回っています。

このように戸建て住宅市場は全般に緩慢ながら上昇を続けつつ、エリアや価格帯で強弱が分かれる状況です。

政府の需要喚起策と政策支援

政府と中央銀行は住宅需要の喚起策として、パンデミック後の景気刺激策を展開しています。住宅ローンの頭金(ダウンペイメント)0%容認など融資規制の緩和措置が2023年末まで延長され、商業銀行も競争的な低金利ローン商品を提供しています。

また、政府は付加価値税の減免措置(PPN Ditanggung Pemerintah: PPN DTP)を住宅購入者向けに導入し、一定価格以下の新築住宅に対して最大11%のVATを国庫負担するインセンティブを提供しました。このVAT減免措置は2024年末までとされましたが、市場からの好評を受け2025年まで延長が検討されています。

この税制優遇によって対象となる住宅の購入コストが大幅に軽減されるため、「今が買い時」として販売促進につながった例もあります。ジャカルタでは約10,581戸の住宅物件がこのVATインセンティブの適用要件を満たし、住宅価格が数百万ルピア台~数十億ルピア台にわたる広範な層で需要喚起効果が期待されています。

特に価格帯別では、中間層向けの物件が全体の41%、中低層向けが45%を占め、幅広い層で恩恵が及ぶと試算されています。

2023年には住宅販売が一時持ち直しましたが、2024年は物価上昇や選挙前の様子見もあり再び減速しています。ただし住宅不足(バックログ)は依然として1,200万戸以上とも言われる国策課題であり、中長期的な住宅需要は底堅いと見られます。政府は2025-2029年で300万戸の住宅建設計画を掲げており、住宅開発は引き続き政策的な後押しが期待できる分野です。

マンション・アパート(集合住宅)の市場動向

インドネシアの都市部では近年マンション(高層集合住宅)市場が拡大してきましたが、2023-2024年はこの分野が最も供給過剰感の強い状況にあります。

ジャカルタ首都圏を中心に2010年代後半に相次いだマンション建設プロジェクトの在庫が積み上がり、新規販売は伸び悩みました。2024年にジャカルタで完成した新規マンション供給は約4,070戸となり、2023年から26%も減少しました。

開発業者は市場在庫の消化を優先し、新規プロジェクト着工を絞る傾向が強まっています。実際、売れ残り在庫が豊富にあるため開発控えが続き、2024年はジャカルタ首都圏で目立った新規マンションの引き渡しが無かったとも報じられています。

販売面でも、購入需要は低調が続きました。とくに個人投資家や実需層がマンション購入に慎重で、新築より既存の完成物件を選好する傾向が強まり、新規分譲への需要は限定的と分析されています。

このため価格も頭打ち状態で、ジャカルタの区分所有マンション平均価格は㎡あたり約3560万ルピアで足踏みし、今後3年間で1~2%程度の緩慢な上昇に留まるとの予測が出ています。2027年頃までは大幅な値上がりは見込みにくく、基本的に買い手市場が続く見通しです。

賃貸市場の回復傾向

一方、賃貸マーケットでは回復傾向が顕著です。ジャカルタのサービスアパートメント(家具・サービス付き賃貸マンション)の平均入居率は、2023年上半期時点で約61%、2024年初には63%超まで改善しました。

特に都心の高級サービスアパートでは、駐在員の帰任や長期滞在者の増加により賃料が前年比5%前後上昇しています。ジャカルタの高級サービスアパート賃料はCBDで平均Rp400,000/㎡/月、一般賃貸でもRp250,000/㎡/月超と上昇傾向にあります。

主要テナントは駐在外国人および法人契約で、日本・韓国・中国・インドなどからの駐在員が増加し、都心の駐在員向け物件の空室が徐々に埋まりつつあります。

「コロナ前より渋滞が悪化したジャカルタでは、郊外から通勤するより都心に住みたいという需要が強まり、高級マンション賃料が回復している」との業界関係者の指摘もあります。ただし、郊外エリアの中古マンション賃料は依然として伸び悩んでおり、全体としてマンションセクターの収益性回復には時間を要する状況です。

 

 

インドネシアの商業用不動産の動向(オフィス・商業施設)

インドネシアの商業用不動産の動向(オフィス・商業施設)

オフィス(オフィスビル)市場の動向

ジャカルタを中心とするオフィス市場は、依然として供給過剰と低稼働率に悩まされています。2020年のコロナ禍でテナント撤退や縮小が相次ぎ空室率が急上昇しましたが、その後2023年〜2024年にかけてはゆるやかに改善傾向にあります。

ジャカルタ首都圏のオフィス総在庫は約1,120万㎡に達し、そのうちCBD(中心業務地区)が740万㎡、郊外・非CBDが380万㎡を占めています。2024年には新規供給が見送られ、新築オフィスビルの完成ゼロという異例の年となりました。開発各社が需給悪化に対応し新規プロジェクトを延期したためであり、この供給抑制は市場にとってポジティブな材料とされています。実際、次の大規模オフィス新ビル供給は2028年頃(35万㎡程度、主に郊外)まで予定が無く、今後数年間は既存ビルの消化に専念するフェーズとなる見通しです。

稼働率(入居率)を見ると、ジャカルタCBDの平均オフィス稼働率は約74〜75%で推移し、2023年から2024年にかけて微増しました。非CBDエリアも77%程度と小幅改善しています。これは供給抑制によるもので、新規需要自体の大幅な増加は見られていません。

依然として約25%のオフィス空間が空室という厳しい状況ですが、高グレードビル(プレミアムグレード)の一部ではテナントの「フライト・トゥ・クオリティ」(より質の高い新しいビルへの移転)により埋まりつつあります。老朽化したビルや設備の古いビルから、新築・高品質ビルへとテナントが移動する動きがあり、優勝劣敗が進む二極化が起きています。

賃料面では、空室率上昇の影響でここ数年下落傾向でしたが、足元では下げ止まりつつあります。特にグレードB以下のビルでは、オーナー側がテナント誘致のため柔軟な賃料交渉に応じ、フリーレント期間の提供やリース期間の短期化などのテコ入れ策も取られています。

一方、グレードA・プレミアムのビルでは賃料水準を維持しているケースもあり、都心一等地のオフィス需要は底堅さを見せています。CBDでの平均賃料水準は㎡あたりRp200,000〜300,000/月(約1,700〜2,500円)程度となっており、ビル間の格差が広がっています。

今後については、選挙後の投資拡大や企業のオフィス復帰に伴い賃貸需要が持ち直すとの見通しがあり、既存の空室吸収が進めば2025年以降ゆっくりと改善する可能性があります。

新首都移転が与える影響

中長期的にはジャカルタのオフィス市場に不確実要因もあります。それはインドネシア新首都(ヌサンタラ)への政府機能移転です。ジャカルタには現在中央官庁オフィスだけで40棟・延床133万㎡超のオフィスが存在します。

今後、これらの官公庁オフィスが移転により空きビル化する懸念があり、仮に民間に転用された場合でも事実上の新規供給増となり、供給過多をさらに悪化させかねません。現状では新首都移転は段階的に進む見込みで、即座の影響は限定的ですが、長期的にはジャカルタのオフィス需要減少リスクとして注視されています。

商業施設(ショッピングモール・小売)の動向

商業施設分野は、パンデミックで打撃を受けた後、来客数・売上ともに回復傾向にあります。とりわけ大型ショッピングモールは2022年以降の経済再開で客足が戻り、テナント稼働率も改善しました。

2024年第3四半期時点で、ジャカルタの小売施設平均稼働率は約90%に達したとの報道もあり、プライム物件を中心に空きテナントがほぼ解消された例もあります。

一方で、全国のショッピングモール運営事業者の業界団体(APPBI)は、「モール平均稼働率は2023年末時点で80%程度であり、2024年も90%に届くことは難しい」との慎重な見方を示しています。この差は、都心や富裕層地域にある人気モールと、郊外や地方のモールとの間で稼働率に大きな差があるためです。

政府の輸入規制強化(Permendag No.36/2023)の影響もあり、正規輸入品の供給にも影響が出たことでテナント誘致に慎重さが出ています。2024年も平均稼働率は80%前後で停滞する可能性があるとの予測もあります。

一方で、モール来訪者数(フットフォール)はコロナ前水準に回復しており、飲食・娯楽テナントを中心に売上も増加しています。テナント構成にも変化があり、エンタメ要素や体験型店舗へのシフトが進んでいます。

例えば、ミニ水族館や屋内テーマパークを導入するモールが増えており、eコマースにはない来店価値を高めようとする動きです。また、飲食テナントの比率が高まり、フードホールやカフェ街区の拡張によって集客力向上が図られています。

賃料水準は、優良モールでは据え置きまたは微増傾向です。2024年第4四半期のジャカルタ主要モール平均賃料はRp825,500/㎡/月(約7,200円/㎡)に達し、半年前から約2.9%上昇しています。

今後、新規モール開業も控えており、2024年末時点の予測稼働率は一時的に74~75%程度に低下する可能性がありますが、長期的には消費市場の拡大を背景に再び埋まっていくと期待されています。

総じて商業施設市場は、都市部の人気モールは好調、その他はやや遅れ気味という状態です。消費者の購買力も徐々に戻りつつありますが、低中所得層の可処分所得はインフレで圧迫されており、郊外型モールではテナント売上が目標未達との声もあります。今後は経済の安定と所得向上が小売不動産セクターの鍵を握るでしょう。

 

 

インドネシアのリゾート物件市場の動向(主にバリ島)

インドネシアのリゾート物件市場の動向(主にバリ島)

バリ島不動産の復調と現在のトレンド

バリ島のリゾート不動産市場は、2023年〜2024年にかけて大きく復調しました。観光客数の増加に伴い別荘・ヴィラ需要が高まり、国内外から投資マネーが流入しています。

開発業者のコメントによれば、現在のバリ島はインドネシアのみならずアジア全体で見ても有数の不動産投資ホットスポットとなっており、観光業の回復と外国人投資の増加が2025年の不動産価格上昇を後押しすると予測されています。

実際、バリの不動産は過去5年間で平均年間7%の価格上昇を遂げており、中にはそれ以上のペースで値上がりした地域もあります。人気エリアのチャングー周辺では、海外投資家によるヴィラ購入が相次ぎ、地価や物件価格が大幅に上昇しました。

高い収益性と投資家の注目

バリの不動産の需要の中心は、観光客向けの貸別荘や保養用のセカンドハウスです。賃貸利回りは全国で最も高く、観光レンタルによる収益性の高さに魅力を感じた投資家が増えています。

2024年上期には観光需要の本格回復で賃貸収入が急増し、6月には月間総収入が1.42億米ドルに達し、前月比33%増という記録的な伸びを示しました。

このような高収益性が示されると、国内富裕層だけでなく国際的な投資家からも「バリ物件を持ちたい」というニーズが高まり、市場にさらなる活気をもたらしています。

外国人投資に追い風となる政策

インドネシア政府は2022年後半以降、外国人長期滞在ビザ(セカンドホームビザ)を導入し、富裕層外国人の誘致を進めています。2023年には不動産購入に関する規制が一部緩和され、外国人がより容易にバリの物件を取得できるようになりました。

こうした追い風もあり、バリ島不動産市場には明るい見通しが広がっています。バリ住宅価格指数も全国平均を上回る上昇を示しており、堅調な需要を裏付けています。

新興エリアへの開発の広がり

供給面では、高級ヴィラやコンドミニアムの新規開発が進んでいます。デンパサールや南部リゾートエリアでは既に飽和気味なため、新たな開発は西部沿岸やウブド近郊など新興エリアにシフトしています。

近年注目されているのは、バリ島西部のスセ、クラパ・ビーチ周辺、ペレレナン地区などで、「第二のチャングー」とも呼ばれるこれらのエリアは、新しいリゾート開発のフロンティアとして期待されています。

課題と今後の展望

課題としては、環境問題や規制変更が市場の不確実要因となっています。過度な開発による水不足や環境悪化への懸念から、大型プロジェクトに対する規制が強化されるケースもあり、地域住民との調整や土地所有慣習への配慮も求められています。

しかし、観光市場自体は非常に力強く、2024年は1〜8月の国際線入域者数が前年同期比で22.6%増加するなど、回復基調が鮮明です。2025年には外国人・国内客合わせて年間2,400万人に迫る来島者が見込まれており、不動産需要にとっては強力な追い風となるでしょう。

総じて、バリ島のリゾート不動産は「売り手市場」に転じつつあり、世界中から投資家が集まる状況です。短期的な上下動よりも長期的な上昇トレンドを信じて参入する投資家が増えており、今後もその傾向は続くと見られます。

 

 

インドネシアの工業団地・物流施設の開発・投資動向

インドネシアの工業団地・物流施設の開発・投資動向

製造業投資の活性化と工業団地の需要拡大

インドネシアの産業用不動産(工業団地・物流)は、近年非常に活発な動きを見せています。特に製造業の対内直接投資が伸びており、海外企業の工場進出やサプライチェーン再編(いわゆる「チャイナ+1」戦略)によって工業団地の土地需要が急増しました。

2023年1~9月期の工業団地用地販売面積は累計203.9ヘクタールに達し、前年同期から約46%増加しました。自動車産業(特にEV関連)やデータセンター需要といった新たな需要分野が土地取得を進めた結果です。業界団体は、今後も電気自動車、データセンター、ハイテク産業が主要な需要元になると見ています。

地域別動向と注目の港湾周辺開発

地域的には、ジャカルタ東方の西ジャワ州エリアが依然として人気です。ジャカルタ~チカンペック高速道路沿線の工業団地群では安定した引き合いがあり、2023年の販売の約60ヘクタールが西ジャワ州で占められました。

ジャバベカ工業団地では、中国企業からの投資誘致成功もあり、分譲地が「飛ぶように売れた」と伝えられています。さらに、新たな開発が進行中で、プルワカルタやスバンなどパティンバン港に近い地域でも工業団地が拡大しています。パティンバン港は2021年に開業し、今後の輸出入拠点として期待されています。

ジャカルタ西方のバンテン州セランでもボジョネガラ港の開発に合わせて工業団地が広がっており、港湾インフラとの連携が新たな成長軸になっています。

物流施設とデータセンターの需要急増

物流施設(倉庫・ディストリビューションセンター)も電子商取引の拡大とともに高い需要を見せています。近代的な高床式倉庫や冷蔵倉庫への投資が主要都市近郊で盛んであり、大手デベロッパーや物流企業が新設を競っています。

即日配送ニーズに応える都市部近接の小型配送拠点(ラストマイル倉庫)の需要も顕在化しています。また、テック企業やクラウド事業者によるデータセンター施設の投資も増加中で、電力・通信インフラの整備が課題となるほどです。

政治的影響と投資家の姿勢

2024年は政治イベントの年でもあり、一部では投資判断の先送りも見られました。実際には四半期ごとの販売面積が前年同期を下回る時期もありましたが、業界としては「選挙年でも需要は堅調」との見解が示されており、2024年初頭の販売も好調で価格も安定しています。

交渉期間が長期化する傾向はあるものの、全体として投資案件は政治的要因に左右されにくく、着実に進行していると見られています。

政策的支援と今後の展望

インドネシアの産業用不動産は「明確な成長セクター」として位置付けられており、製造業の高度化やサプライチェーン強化を国家戦略に掲げる中で、工業団地の開発は政府の奨励分野です。

経済特区(KEK)の指定や外資100%参入の認可など、規制緩和と投資誘致策も積極的に取られています。港湾や高速道路網の拡充といったインフラ整備が進むことで、工業・物流向け不動産への投資は今後も伸び続ける見込みです。

 

 

インドネシアの地域別の注目ポイント

インドネシアの地域別の注目ポイント

ジャカルタ首都圏(Jabodetabek)

ジャカルタとその周辺(ボゴール、デポック、タンゲラン、ブカシを含む)は、インドネシア不動産市場の中心地です。オフィスや高級住宅、商業施設が集中しており、土地価格や賃料は全国で最も高い水準にあります。

都心では高層マンションや再開発が進行中であり、公共交通との一体開発(TOD)も注目されています。MRTやLRTの開通を受け、駅周辺での住宅・商業施設の開発が加速しています。

郊外では大規模ニュータウンの整備が進み、BSDシティやコタハルモニなどが代表例です。価格が比較的手頃で、生活環境も整っており、今後も人口移動が続くと見られています。

また、新首都(IKN)への政府移転により官公庁需要は減少する懸念がありますが、ジャカルタをビジネス・金融都市として再定義するチャンスとする見方もあります。

スラバヤ(東ジャワ州)

スラバヤはインドネシア第2の都市であり、東部インドネシアの経済・産業拠点です。住宅、工業団地、オフィス、商業施設の整備が進んでおり、ジャカルタに次ぐ規模の不動産市場を持ちます。

特に西部グレシックや南部シドアルジョでは工業団地が活発で、住宅も富裕層向けから中価格帯まで幅広く供給されています。オフィスの稼働率も安定しており、スタートアップや中小企業の進出も増加中です。

商業施設では複数の大型モールが存在し、稼働率も85〜90%と高水準を維持しています。

バンドン(西ジャワ州)

バンドンは「インドネシアのシリコンバレー」とも呼ばれる高原都市で、教育・クリエイティブ産業の中心地です。2023年10月に開業した高速鉄道「WHOOSH」により、ジャカルタとの距離が大幅に縮まり、不動産需要が急上昇しました。

沿線地域では大規模なニュータウンや住宅地開発が進み、駅周辺には商業施設や住宅複合開発が計画されています。学生や若年層向けの賃貸物件(コス)も旺盛で、不動産投資先としての注目が集まっています。

バンドンは観光地としても人気があり、週末には多くの観光客が訪れるため、郊外ではヴィラやグランピング施設の開発も進んでいます。

バリ島(バリ州)

バリ島は国際的な観光地として不動産市場が常に活発です。南部のクタ、ヌサドゥア、チャングーには高級ヴィラが集中しており、価格も高騰しています。

一方で、ギャニャールやタバナンといったエリアでは、エコ志向のヴィラや新興エリアへの開発が進行中です。外国人による購入も多く、最近では購入可能な価格帯の引き下げなど、外国人投資家に有利な制度変更も実施されています。

全体として、バリ島は需要超過気味の「売り手市場」となっており、今後も旺盛な投資・購買意欲が継続する見込みです。

 

 

外国人および法人による不動産投資:制度・メリット・手続き

外国人および法人による不動産投資:制度・メリット・手続き

土地所有権と外国人の制限

インドネシアでは原則として土地の完全所有権(Hak Milik)はインドネシア国籍の個人にしか認められていません。これは憲法および基本土地法に基づくもので、外国人や外国法人が土地を自由に保有することはできません。

しかし、2015年以降の法改正や2020年の職創造法(Omnibus Law)に伴う施行規則の整備により、外国人でも一定の条件下で不動産を所有・利用できるようになりました。

外国人が取得できる権利形態

外国人個人が取得できる代表的な権利形態は「使用権(Hak Pakai)」です。これは土地や建物を一定期間使用できる権利で、実質的には長期リースに近い形態です。たとえば一戸建て住宅を購入する場合、最長30年のHak Pakaiが与えられ、さらに20年+20年の延長が可能となっています(合計最大70年)。

また、アパートメント(区分所有マンション)にもHak Pakaiが付与されます。2015年以降は、区分所有権「Hak Milik atas Satuan Rumah Susun (HM SRS)」も創設されており、外国人が建物単位で所有する仕組みも制度化されています。

いずれにしても、外国人が土地そのものをフリーホールドで永続的に所有することはできず、すべて期限付きの使用権に限定されます。

不動産購入の条件と最低価格

かつては住宅取得の条件として滞在許可(KITAS/KITAP)の保有が求められていましたが、現在ではパスポートやビザなどの所持で条件を満たすように要件が緩和されています。

2021年に発効した農地・空間計画省規則18号(Permen ATR/BPN No.18/2021)では、外国人による住宅不動産取得における最低価格が明記されました。地域によって金額は異なり、たとえばジャカルタでは戸建て住宅でRp10億(約1億円)以上、アパートはRp3億以上が基準とされています。地方都市ではそれよりも低く、全国最低基準は戸建てRp1億、アパートRp7,500万と定められています。

近年ではこの最低価格要件が引き下げられ、外国人が購入できる物件の範囲が広がったことが、投資を後押しする要因となっています。

法人による不動産取得とスキーム

外国人個人に比べ、外国法人(企業)による不動産取得は柔軟性が高くなっています。インドネシアでは外資系企業(PMA)が現地法人を設立することで、商業用・工業用の土地を取得することが可能です。

外資100%出資の株式会社(PT)であっても、事業目的に応じて「建物利用権(Hak Guna Bangunan: HGB)」の名義で土地を保有できます。HGBは最長30年(延長20年+20年)で設定され、工場やオフィスビルの用地などに利用されています。

特定の条件下では「管理権(Hak Pengelolaan: HPL)」の取得も可能で、より長期かつ安定的な土地利用が実現します。

法人スキームのメリットと注意点

法人スキームを利用するメリットは、大規模プロジェクトへの参画が可能となる点です。土地売買だけでなく、大型商業施設やタワーマンションの開発にも外資が参入しており、シンガポール・中国・日本などの不動産会社が既に複数展開しています。

外資系企業が自社のオフィスビルや社宅を建設・所有するケースもあり、この場合はPMA法人を通じて投資調整庁(BKPM)の認可を得る必要があります。

ただし、最低投資計画額として約10億ルピア(約1億円)以上の資本が求められるため、個人が不動産取得のためだけに法人を設立するのは現実的ではありません。個人利用であればHak Pakai、事業目的であればPMA法人を使うのが合理的な選択です。

名義貸し(Nominee)のリスク

過去には信頼できるインドネシア人の名義を借りてHak Milikを取得する、いわゆる「名義貸し(Nominee)」スキームが存在していましたが、これは違法であり、法的には無効です。

法改正により外国人が合法的に物件取得しやすくなった現在では、こうしたリスクの高い方法を選ぶ必要はなく、政府も透明な所有形態を推進しています。

購入手続きと権利登録

外国人・外国法人いずれの場合も、公証人役場(Notaris/PPAT)での売買契約締結と権利登録が必要です。Hak PakaiやHGBといった権利は、登記簿に正式登録され、証書に期限が明記されます。延長する場合は再申請が必要です。

もし外国人が帰国等により条件を失った場合は、1年以内に物件を売却・処分する必要があります。ただし実務的には、外国人購入物件でも再販売市場が存在するため、流動性が著しく低いというわけではありません。

税制上のメリット

外国人投資家に対する税制優遇も進められています。2022年には不動産譲渡所得税やVATに関する特例措置が導入され、一部の取引で税率が軽減されています。

さらにREIT(不動産投資信託=DIRE)の税制優遇、特定地域(新首都や観光エリア)における最長95年の土地利用権設定などもあり、外国人投資家を歓迎する姿勢が制度面において強化されています。

 

 

インドネシア政府の規制・インセンティブの動向

インドネシア政府の規制・インセンティブの動向

付加価値税(VAT/PPN)の減免措置

2021年から導入された住宅取得時のVAT減免(PPN DTP)は、延長や条件変更を経ながら2024年まで継続されました。価格上限5億ルピアまでの新築住宅・マンション購入時にVAT11%が免除され、買主の負担軽減につながっています。政府は2025年までの延長も計画しています。

低所得者向け住宅融資支援

中央銀行は2020~2023年にかけてローン価値比率(LTV)規制を緩和し、住宅ローンの頭金0%を容認しました。「KPR Sejahtera」などの金利補助制度も整備され、初めて住宅を購入する低所得世帯への支援が強化されています。政府主導の「100万戸住宅計画(Sejuta Rumah)」も継続中です。

不動産関連税制の見直し

2022年には付加価値税の標準税率が10%から11%に引き上げられ、高級不動産への税率は30億ルピア超の物件に対して12%となる改定が行われました。また、不動産取得税(BPHTB)の軽減措置や、電子決済システムの導入による手続き迅速化も進められています。

新首都(IKN)開発に伴うインセンティブ

新首都ヌサンタラ(IKN)では、土地利用権を最長95年まで保証する制度が設けられました。さらに法人税減免、関税の優遇、輸出入税の軽減など、多岐にわたるインセンティブが提示されています。

これらは新首都特有の措置ではありますが、今後は他の経済特区にも展開される可能性があります。

デジタル化と許認可制度の改革

建築許可のオンライン一元管理システム(OSS)が導入され、許認可手続きの簡略化が進められています。ただし、現場レベルでは依然として許認可の遅れが開発に影響を与えており、制度の実効性向上が今後の課題です。

 

 

まとめ

インドネシアの不動産市場は、住宅・商業・産業・リゾートの各分野で異なる特徴と成長段階を見せており、全体としては「ゆるやかな回復とセグメントごとの分化」が進んでいる状況です。

住宅市場では政府支援の後押しを受けた戸建て住宅の需要が堅調である一方、マンション市場は供給過剰による調整局面にあります。オフィスや商業施設も選別的な需要に左右され、立地や建物の質による二極化が進行しています。バリ島のリゾート不動産や工業団地・物流施設は、観光回復や産業誘致を背景に今後も高い成長が期待されるセグメントです。

外国人・法人投資家にとっては、制度面での規制緩和や税制優遇措置が整備されてきており、かつてに比べて遥かに投資しやすい環境が整っています。ただし、依然として不動産取得には慎重な調査と適法な手続きが求められ、名義貸しなどのリスク行為は厳禁です。

中長期的に見れば、インドネシアの人口構造と経済成長、インフラ開発は不動産市場に対して追い風となる要素が多く、今のうちから準備を進めることが賢明です。すべてのセグメントが一様に「買い時」というわけではないものの、投資戦略と地域・物件の目利き次第では、今後の大きなリターンも期待できるフェーズに入っていると言えるでしょう。

 

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本記事で使用した用語解説

Hak Milik(所有権)
インドネシア国籍者のみに認められる土地の完全所有権。外国人は取得不可。

Hak Pakai(使用権)
外国人が取得できる不動産権利の一種で、一定期間(最長70年)土地や建物を使用することができる。

Hak Guna Bangunan(HGB/建物利用権)
法人が主に取得する権利で、建物の建設と使用を目的に一定期間土地を使用できる。最長80年。

PMA(Penanaman Modal Asing)
外国資本による現地法人。外国人が不動産取得や事業展開する際に必要。

KPR(Kredit Pemilikan Rumah)
インドネシアで一般的な住宅ローン。民間銀行によって提供される。

PPN(Pajak Pertambahan Nilai)
付加価値税(VAT)。不動産購入時には原則11%課税されるが、一部免税措置あり。

Sejuta Rumah
「100万戸住宅プログラム」。政府主導による低中所得者向けの住宅供給計画。

REIT(DIRE)
不動産投資信託制度。インドネシアではDIREと呼ばれ、税制優遇も導入されている。

IKN(Ibu Kota Nusantara)
インドネシアの新首都。ボルネオ島の東カリマンタン州に建設中。

FAQ(よくある質問)

Q1. インドネシアの不動産は今が買い時でしょうか?
一概には言えませんが、戸建て住宅や工業団地、バリ島のリゾート物件など一部セグメントでは需要が強く、価格上昇の兆しがあります。逆にマンション市場などは供給過多で慎重な判断が必要です。

Q2. 外国人でも土地を所有できますか?
土地そのものの所有(Hak Milik)はできませんが、Hak Pakai(使用権)やHM SRS(区分所有)などの形で不動産の保有は可能です。条件付きで長期間の利用も可能です。

Q3. 投資するならどの地域が狙い目ですか?
ジャカルタ近郊の戸建て市場、西ジャワの工業団地、観光回復が進むバリ島などが注目されています。高速鉄道開通後のバンドンも将来性があります。

Q4. 不動産を法人名義で取得するメリットは?
土地利用権(HGB)を通じてより長期的かつ広範な開発・活用が可能になります。事業目的での取得に適しています。

Q5. 賃貸運用の利回りはどれくらいですか?
エリアや物件の種類によりますが、ジャカルタやバリ島の一部では年利回り5〜10%超の案件もあります。長期滞在需要が高まるエリアでは利回りが良好です。

Q6. 不動産取得時の税金はどのようなものがありますか?
取得時にBPHTB(取得税)、PPN(付加価値税)がかかります。特定条件下ではPPNが免除される制度もあります。

Q7. インフラ整備は不動産投資にどう影響しますか?
MRTや高速鉄道、港湾整備などは周辺不動産の価値を高める要因です。再開発が進むエリアでは資産価値の上昇が期待できます。

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