3月 11, 2025 • インドネシア • by Erika Okada

インドネシアのキャッシュレス決済の現状 – キャッシュレスアプリの社会への浸透

インドネシアのキャッシュレス決済の現状 – キャッシュレスアプリの社会への浸透

インドネシアではキャッシュレス決済が急速に発展し、現金を使わない生活が一般的になりつつあります。本記事では、インドネシアの主要なキャッシュレス決済アプリの種類や市場シェア、キャッシュレス化の普及率とその影響、さらには利便性や課題について詳しく解説します。また、店舗や消費者の受け入れ状況、不正行為の実態、政府の政策や今後の展望についても掘り下げます。インドネシアのキャッシュレス社会の現状を知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

 

 

インドネシアのキャッシュレス決済アプリと市場シェア

インドネシアのキャッシュレス決済アプリと市場シェア

インドネシアでは電子マネーやキャッシュレス決済アプリが急速に普及しており、主要なプラットフォームが市場をけん引している。特にGoPay(ゴーペイ)、OVO(オヴォ)、DANA(ダナ)、ShopeePay(ショッピーペイ)などのアプリが人気を集めており、それぞれ特徴的なサービスを展開している。

主要なキャッシュレス決済アプリの概要

GoPay(Gojek社)

GoPayは、配車サービス大手Gojekの一部として2016年に導入され、当初はライドシェアやフードデリバリーの決済手段として利用されていた。しかし現在では、幅広い店舗やオンライン決済で使用できる、インドネシア最大の電子ウォレットのひとつとなっている。
主な機能として、電気・水道料金支払い機能(GoTagihan)、支出管理機能の「GoPay日記」、割り勘機能、後払い(PayLater)などを提供している。

OVO(オヴォ)

2017年にリッポー・グループによって設立された電子マネーサービス。現在はGrabやTokopediaとも提携し、利用範囲を拡大している。電子マネー残高による決済のほか、ローン・投資・保険といった金融サービスにも展開している点が特徴的である。
また、Grabの配車サービスやTokopediaのEC決済と連携することで、広範なユーザーベースを確保している。

DANA(ダナ)

DANAは2018年に設立された電子ウォレットで、Emtek(インドネシアのメディア企業)と中国のAnt Financial(アリババ傘下)の出資を受けている。
「安心・フレンドリー・アクセス容易」を掲げ、全取引に対する100%補償を提供するなど、セキュリティ面を重視している点が特徴である。携帯電話料金のチャージ、各種請求書の支払い、Eコマース決済など、多岐にわたる機能を提供している。

ShopeePay(ショッピーペイ)

ShopeePayは、大手ECプラットフォームShopeeの電子ウォレットで、2018年頃から本格展開された。
Shopeeでのオンライン決済の利便性や、銀行振込無料サービス、QRコード決済、後払い(SPayLater)などの機能が支持されている。特に、Shopeeのセール時にはShopeePayを利用すると特別割引が適用されるため、多くのユーザーに利用されている。さらに、積極的なキャッシュバックやプロモーション戦略により急成長し、一時は取引量ベースで市場最大のシェアを獲得した。

LinkAja(リンクアジャ)

2019年に国営企業(Telkomselなど)が主導して統合した電子マネーサービスで、以前のT-Cashなどを統合したもの。携帯通信大手によるインフラを活かし、送金・決済・チャージなどの基本機能を提供している。
市場シェアでは民間の電子ウォレットに比べて低いが、公共サービスとの連携(公共料金支払い、補助金配布など)に強みを持っている。

市場シェアの動向

インドネシアではGoPay、OVO、DANA、ShopeePayの4社が市場を寡占しており、多くのユーザーがこれらのサービスを利用している。消費者は用途に応じて複数のウォレットを使い分けており、特定のウォレットに依存することは少ない。
例えば、Grabの利用者はOVOを、Gojekの利用者はGoPayを、ShopeeユーザーはShopeePayを優先的に使用する傾向がある。また、キャッシュバックや割引キャンペーンの有無によって、利用するアプリを変えるユーザーも多い。

調査によると、電子ウォレットを積極的に利用している人の割合は70%以上に達しており、現金や銀行振込を上回る支持を得ている。さらに、複数のサービスを併用するユーザーも多く、GoPayとOVOを併用している人は全体の60%以上にのぼるとされている。
各社ともユーザー基盤の拡大を目指し、プロモーションや新機能の追加に力を入れている。例えば、OVOはアプリのダウンロード数が1億1500万回を超えており、パンデミック期には前年から267%の利用増加を記録した。

 

 

インドネシアのキャッシュレス決済の普及率

インドネシアのキャッシュレス決済の普及率

インドネシア全体のキャッシュレス決済普及率は、近年著しく向上している。銀行口座や電子マネー口座を何らか持つ人の割合(金融包摂率)は2022年時点で76.19%に達しており、特に都市部を中心にキャッシュレス決済が日常的に利用されるようになった。

Visaの消費者調査によると、モバイルウォレットやQRコード決済を利用したことがある人は全体の93%に上り、ジャカルタやスラバヤなどの主要都市では、若年層を中心に「ほぼ現金を使わない生活」が現実になりつつある。

都市部と地方の格差

都市部では高速通信網や加盟店インフラが整っており、キャッシュレス決済が広く普及している。ジャカルタ首都圏、スラバヤ、バリ島デンパサールなどの大都市では、多くの店舗が電子決済を受け入れており、タクシーや公共交通機関でもキャッシュレス決済が一般的になっている。

一方、農村部や離島部では、インターネット環境の未整備やスマートフォン保有率の低さが影響し、依然として現金取引が主流となっている。政府は全国統一QRコード規格「QRIS」の導入を進め、露店や小規模店舗にもキャッシュレス決済を広めようとしている。しかし、電波が不安定な地域や高齢者層には普及が遅れており、デジタル金融サービスへのアクセスが十分でないのが実情である。

特に、地方ではデジタルデバイスや金融サービスへのリテラシー不足が課題となっており、キャッシュレス未利用の人も多い。都市と農村の利用率の開きは依然として大きく、政府や民間企業によるさらなる啓発活動が求められている。

年齢層・所得層別の利用状況

若年層や高所得層ほどキャッシュレス決済の利用率が高い傾向にある。Visaの「Consumer Payment Attitudes 2022」調査では、Z世代(18~24歳)の78%、Y世代(25~40歳)の74%がキャッシュレス決済をすでに試しており、富裕層でも73%が現金からキャッシュレスへと移行している。

逆に言えば、中高年層や低所得層では、依然として現金への依存度が高く、キャッシュレス決済未体験者も一定数存在している。ただし、新型コロナウイルスのパンデミック以降、全世代でデジタル決済に対する抵抗感は減少傾向にある。

調査によると、インドネシア人の67%が「現金なしでも生活できる準備ができている」と回答しており、高齢層でもスマホ決済に挑戦する例が増えている。しかし、依然として63%の人は現金での支払いに好意的であるとの結果も出ており、完全なキャッシュレス化には世代間ギャップの解消が課題となっている。

今後、政府や金融機関がデジタル金融リテラシーの向上を図ることで、幅広い層へのキャッシュレス決済の普及が進むと考えられる。

 

 

インドネシアのキャッシュレス決済の利便性

キャッシュレス決済が急速に広まった背景には、その利便性やメリットが大きく寄与している。一方で、運用上のデメリットやリスクも指摘されている。ここでは消費者や専門家の声を踏まえ、キャッシュレス決済の利点と問題点を整理する。

キャッシュレス決済のメリット

手軽さ・スピード

スマートフォンさえあれば財布を持ち歩かずに買い物や支払いができるため、支払いの手間と時間が大幅に短縮される。
特に現金のようにお釣りの受け渡しが不要で、1ルピア単位まできっちり支払える点が効率的である。
また、特に若年世代では「できるだけ荷物を減らしたい」「小さなバッグでも出かけたい」というニーズが強く、非接触決済はライフスタイルに合致している。

安全性の向上

大量の現金を持ち歩かないことで、スリや強盗被害のリスクが減少する。また、偽札をつかまされる心配もなく、決済ごとに記録や認証(PIN/OTP)があるため、不正利用時も追跡が可能である。
新型コロナウイルスの流行下では、接触機会を減らせる衛生面の利点も注目され、「現金よりも清潔で安心」との声も増えている。

家計管理の容易さ

デジタル決済は支出履歴が自動で記録されるため、後からスマホアプリで何にいくら使ったか確認できる。
このため、無駄遣いを抑制し計画的な家計管理に役立つとの意見が多い。
実際、ある若年ユーザーは「現金だとつい使ってしまうが、キャッシュレスだとかえって支出に慎重になる」と述べており、金銭感覚のコントロールがしやすいと評価されている。

豊富な特典・割引

各電子ウォレット事業者は顧客獲得のため、キャッシュバックや割引キャンペーンを頻繁に展開している。
例えば、ShopeePayは「IDR1(約1ルピア)キャンペーン」や送料ゼロ、最大110%還元など、大胆なプロモーションを打ち出している。
また、GoPayやOVOも加盟店での5~50%オフクーポンを配布するなど、現金にはないお得感がキャッシュレス決済の普及を後押ししている。

決済以外の付加サービス

電子決済アプリ上で、融資(マイクロローン)、投資商品、保険の申し込みができるほか、携帯料金や公共料金の支払いがワンストップでできるなど、金融プラットフォームとしての利便性も高まっている。
現金払いでは実現しにくいサービス連携が可能になり、ユーザー体験の向上につながっている。

 

キャッシュレス決済のデメリット

システム障害時のリスク

完全にキャッシュレスに依存していると、通信障害やシステムダウン時に支払いができなくなるリスクがある。
実際、過去には特定の電子マネーで障害が発生し、店舗で長蛇の列ができた例や、スマホの電池切れで帰宅の交通費が支払えなくなった事例も報告されている。
現金であれば災害時にも使えるが、デジタルはインフラ障害に弱いため、非常時の脆弱性が指摘されている。

セキュリティ上のリスク

デジタル決済はサイバー攻撃や詐欺の標的にもなりうる。
不正アクセスによる残高盗難、スキミング被害、フィッシング詐欺など、ネット犯罪の脅威は現金にはないリスクである。
ユーザー自身が十分注意しないと、知らぬ間にアカウントを乗っ取られ、被害を被る可能性がある。また、個人情報流出の懸念も常につきまとうため、セキュリティ対策コストが運営側・利用者側双方で必要となる。

利用格差・デジタル弱者の存在

スマホや銀行口座を持たない人は、キャッシュレス決済を利用できないため、そうした人々がサービスから取り残される懸念がある。
特に高齢者の中には操作に不慣れで誤って送金ミスをしたり、デジタル機器に抵抗感を示す人も多い。
キャッシュレス社会が進むほど、こうしたデジタルデバイド(格差)への配慮が課題となる。
政府は金融教育や簡単なユーザーインターフェース(UI)の提供などの対応を進めているが、全員が恩恵を受けるには時間を要すると考えられる。

手数料負担

電子決済には各種手数料が発生する。
例えば、チャージ時の手数料、他行口座への送金手数料、加盟店側の決済手数料(MDR)など、現金払いでは発生しないコストが利用に伴う。
銀行ATMから電子マネーへチャージする際に数千ルピアの手数料が差し引かれるケースや、QRIS決済では2023年より小規模商店にも0.3%の手数料負担が発生している。
金額的には小さいものの、頻繁に発生すると無視できず、「無料」の現金に比べ、コスト面でのデメリットとなる。

現金派への不便

一部では、キャッシュレス決済しか受け付けない店舗やサービスも登場している。
都市部のカフェや小売店では「現金お断り(Cashless Only)」の表示が見られ、現金しか持たない顧客が困るケースが発生している。
また、路上駐車料金の支払いなどの公共サービスでも電子決済限定となる例が増えており、「現金の方が安心」と考える層には、不便さや疎外感を与えかねない。
政策的にも、現金利用者への配慮とキャッシュレス推進のバランスが求められている。

今後の展望

キャッシュレス決済の利便性は高く、多くのユーザーにとって不可欠な存在となりつつあるが、依然として課題も残っている。
特に、インフラ障害やセキュリティリスク、デジタルデバイドの解消、手数料負担の問題などが、今後のさらなる普及に向けた鍵となる。
政府や金融機関はこれらの課題に対応するための施策を講じており、キャッシュレス社会の実現に向けた取り組みが今後も続いていくと考えられる。

 

 

店舗や消費者のキャッシュレス決済の受け入れ状況

店舗や消費者のキャッシュレス決済の受け入れ状況

キャッシュレス決済の普及に伴い、店舗側・消費者側の受け入れ状況も大きく変化している。小売・飲食・交通などあらゆる業種で電子決済対応が進み、消費者の満足度は概ね高いものの、一部では課題も指摘されている。

店舗側の導入状況と課題

QRISの導入によるキャッシュレス化の加速

インドネシア政府と中央銀行(Bank Indonesia)は2019年に統一QRコード規格「QRIS(キューリス)」を導入した。これにより、小さな屋台から大規模チェーン店まで、QRコードを一つ設置するだけでさまざまな電子ウォレット決済を受け付けることが可能になった。
2024年時点で、QRIS加盟店数は全国で約3,271万店に達し、露天商や中小零細企業にもキャッシュレス決済が広がっている。特に都市部では、コンビニやショッピングモールはもちろん、伝統市場の商人までもがスマホにQRコードを提示して決済を受ける光景が一般的になった。
また、公共交通でもキャッシュレス化が進み、ジャカルタ首都圏のバスや鉄道では電子マネーカードが利用可能となり、タクシーやバイク配車アプリでもアプリ連動決済が主流となっている。

店舗側の課題

キャッシュレス決済の普及は進んでいるものの、店舗側では以下のような課題が指摘されている。

  1. 決済手数料(MDR)の負担
    QRIS決済の場合、従来は政府主導で手数料が無料だったが、2023年7月以降、一部負担が導入された。現在では通常0.7%、零細店でも0.3%の手数料が課されている。これはクレジットカード決済手数料(2~3%)より低率ではあるが、利益率の低い小規模商店にとっては負担となりうる。特に、薄利多売の商売では「キャッシュレス決済がかえって収益を圧迫する」との声もある。
  2. 導入コスト・オペレーションの問題
    QRコード決済自体は印刷物一枚で開始できるため手軽ではあるものの、売上記録の電子管理や従業員教育が必要となる。高齢の店舗主にはハードルが高く、「機械が苦手だから現金のままで良い」と電子決済導入を避ける例もある。
  3. 課税強化を警戒する店舗の存在
    キャッシュレス決済では売上が電子的に記録されるため、納税の透明性が向上する。一方で、これを避けるために敢えてキャッシュレス決済を受け付けない事業者も存在する。特に、小規模商店や個人経営の飲食店などでは、「売上をごまかせなくなる」ことを理由に、キャッシュレス導入に消極的なケースも見られる。

消費者側の受け入れ状況と満足度

キャッシュレス決済に対する消費者の評価

消費者の満足度は概して高く、多くの人がキャッシュレス決済の利便性を実感している。
調査によると、電子ウォレット利用者の多くが「安全で信頼できる」「使い勝手が良い」と評価しており、サービスの信頼性向上が普及の鍵となっている。特に、電子決済を好む理由としては以下のような意見が多い。

  • 支払いが速く簡単
    現金を出す必要がなく、スマホ一つで決済できるため、レジでの待ち時間が短縮される。
  • 家計管理に便利
    取引履歴がアプリに記録されるため、支出の管理が容易になり、無駄遣いを防ぐことができる。
  • お得なプロモーションが多い
    キャッシュバックや割引キャンペーンが頻繁に実施されており、現金払いにはないメリットがある。

Visaの調査によると、過去84%だった現金利用率が年々低下し、電子決済の利用が増加している。

消費者の不満点

一方で、消費者の間には以下のような不満の声もある。

  1. システム障害時に困る
    電子決済システムがダウンした場合、支払いができなくなるため、トラブルに直面することがある。過去には、特定の電子ウォレットが障害を起こし、一時的に決済不能となった例もある。
  2. 現金しか使えない場面がゼロではない
    一部の店舗やローカル市場では、依然として現金払いのみを受け付けているため、結局は両方持ち歩く必要がある。
  3. 使いすぎの懸念
    便利な反面、実際の現金を見ずに支払いができるため、使いすぎてしまうリスクがあると指摘されている。

今後の展望

インドネシアのキャッシュレス決済インフラは、政府の政策や企業の取り組みにより急速に発展している。今後、さらなる普及には以下の点が鍵となると考えられる。

  • 手数料の引き下げ
    小規模事業者への負担を軽減し、より多くの店舗でキャッシュレス決済を導入できるようにする。
  • デジタルリテラシーの向上
    高齢層や地方の事業者がキャッシュレス決済をスムーズに導入できるよう、教育プログラムやサポート体制を強化する。
  • システム安定性の向上
    障害時のバックアップ対策を強化し、決済システムの信頼性を高める。

今後、キャッシュレス決済がさらに拡大し、都市部だけでなく地方の小規模店舗にも広がることで、インドネシア全体のキャッシュレス化が進んでいくと予測されている。

 

 

スタッフによる不正行為の実態

現金主体の運用からキャッシュレス決済への移行は、店舗スタッフによる不正行為にも影響を及ぼしている。従来、店舗従業員がレジのお金を着服したり、売上をごまかすケースが問題視されていたが、キャッシュレス化によってその手口や頻度に変化が生じている。

現金運用時の典型的な不正手口

キャッシュレス決済が普及する以前、現金取引においては以下のような不正行為が発生していた。

  • レジからの抜き取り
    スタッフが販売時に売上をレジに記録せず、受け取った代金をそのまま自分のポケットに入れる手口。特に、小規模店舗や露店などでは売上管理が厳格でないため、こうした不正が容易に行われていた。
  • お釣りのごまかし
    顧客に正しいお釣りを渡さず、差額を着服する行為。特に小銭のやり取りが多い店舗では、少額の誤差が積み重なり、店側が気づきにくいケースもあった。

これらの手口は、売上記録が曖昧な現金取引だからこそ可能だった。しかし、キャッシュレス決済ではすべての取引が電子的に記録され、店主もリアルタイムで把握できるため、こうした売上ごまかし行為は大幅に減少している。
実際、多くの事業者がPOSシステムや電子決済を導入した後、「レジ差異がなくなり、従業員不正が減った」と報告している。

キャッシュレス時代の新たな不正手口

キャッシュレス決済の普及に伴い、新たな不正手段も発生している。最近話題となったケースとして、スタッフが店舗の公式QRコードを隠し、個人のQRコードを無断で設置して顧客の支払いを自分の電子ウォレットに送金させていた事例がある。

QRコードのすり替え

ジャカルタのあるアイスクリーム店では、女性店員が3か月もの間、店舗の公式QRコードを隠し、個人のQRコードを提示して客からの支払いを自分の口座に入金していた。
最終的に、店主が売上の減少を不審に思い、防犯カメラとおとり調査を実施した結果、約5,000万ルピア(約45万円)を着服していたことが発覚した。
このように、QRコード決済の利便性を逆手に取った不正が新たな問題となっている。

二重請求や返金詐欺

  • 決済端末の不正操作
    スタッフが決済用端末に細工をして、同じ取引を二重に課金し、差額を着服する手口。顧客が気づかずに支払いを済ませてしまうことがある。
  • 不正な返金処理
    一部の店舗では、スタッフが返金機能を悪用し、客に無断で返金処理を行い、その金額を自分のウォレットに移すケースが報告されている。

このようなデジタル不正は、キャッシュレス決済ならではの新たな課題となっており、店舗オーナーにとっては新たなリスク管理が必要になっている。

企業側の対策

こうした不正行為に対し、企業側もさまざまな対策を強化している。

  1. POSシステムと電子決済の統合
    決済時に売上が自動で記録される仕組みを導入し、スタッフが取引データを改ざんできないようにする。
  2. QRコードの管理強化
    店舗の公式QRコードを固定したディスプレイに表示し、スタッフが勝手に別のQRコードを使用できないようにする。さらに、一部の店舗ではQRコードを店のPOS画面に組み込むことで、顧客が誤ったQRコードをスキャンするリスクを低減している。
  3. 監視カメラの活用
    店内に防犯カメラを設置し、不審な行動を監視する。特にレジ周辺の監視強化により、QRコードのすり替えなどの不正を防ぐことができる。
  4. 不正行為への厳格な処罰
    不正が発覚した場合は、即座に警察に通報し、横領罪として立件するケースも増えている。政府当局(OJKや警察)もデジタル金融犯罪への監視を強めており、厳格な処罰が行われることで不正抑止につながっている。
  5. 従業員教育と啓発活動
    キャッシュレス決済の透明性が高く、不正が発覚しやすいことを従業員に理解させるため、研修や社内ルールを徹底する企業が増えている。特にQRコード決済の正しい運用方法や、不正が見つかった際の対処法をスタッフに周知することが重要となっている。

今後の展望

キャッシュレス決済の普及により、従来の現金不正は大幅に減少しているが、QRコードの悪用や返金詐欺といった新たな手口が問題となっている。
今後は、店舗側が技術的対策を強化するとともに、従業員教育を徹底し、不正行為を未然に防ぐことが求められる。

また、政府や業界団体も、公式アプリでQRコードの正当性を確認する方法の周知や、不正発見時の厳正な処罰を呼びかけており、キャッシュレス社会の健全な発展のために監視体制を強化していくとみられる。

 

 

インドネシアのキャッシュレス化の課題と今後の展望

インドネシアのキャッシュレス化の課題と今後の展望

インドネシアのキャッシュレス化は著しい進展を遂げているが、まだ克服すべき課題があり、将来に向けた展望が議論されている。政府や中央銀行の政策動向と、普及拡大に向けたポイントを整理する。

政府の施策とキャッシュレス推進政策

全国ノンキャッシュ運動(GNNT)とキャッシュレス化の基盤整備

政府は2014年から「Gerakan Nasional Non-Tunai(全国ノンキャッシュ運動、GNNT)」を掲げ、行政サービスや公共料金の支払いの電子化を推進してきた。
中央銀行であるBank Indonesia(BI)も、「インドネシア決済システム2030ブループリント」を策定し、APIを活用したオープンバンキングや中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入準備など、次世代のキャッシュレス基盤整備に取り組んでいる。

具体的なキャッシュレス促進策

  • 地方自治体の支払い電子化
  • 社会保障給付の電子マネー配布(例:労働者向けプレ労働カード支援金を電子ウォレットで支給)
  • 高速道路料金のETC化やバス料金のQRコード決済対応
  • 統一QRコード規格「QRIS」の導入(2019年)

QRISの導入により、一つのQRコードで全ての電子マネーに対応できる環境が整い、ユーザーと加盟店双方の利便性が飛躍的に向上した。また、手数料優遇策やキャンペーンを通じて、中小商店や露店でのキャッシュレス導入も後押ししている。

クロスボーダー決済の推進

インドネシア政府は、周辺国(タイ、マレーシア、シンガポールなど)とのLinkedinQRコード相互乗り入れ(クロスボーダー決済提携)Linkedinを進めており、旅行者が自国の電子マネーで決済できる仕組みがASEAN域内で構築されつつある。
これにより、インドネシア国内だけでなく、東南アジア全体でのキャッシュレス決済の利便性が向上することが期待されている。

キャッシュレス化の課題

インフラ整備の遅れ

キャッシュレス決済のさらなる普及には、通信インフラの整備が不可欠である。約30%以上の国民がインターネット未接続地域に住んでおり、特に電波や電力が不安定な地域では、電子決済の導入が難しいという課題がある。
地方や離島部でも安定したキャッシュレス決済を可能にするためには、携帯通信網やデジタル金融サービスのインフラ強化が求められている。

デジタル金融リテラシーの向上

金融サービス庁(OJK)の調査によると、2022年時点の金融リテラシー指数は38%と高くなく、キャッシュレス決済を適切に利用できる層は限られている。
詐欺被害を防止し、電子決済をより広く普及させるためには、金融教育の強化が不可欠である。特に、高齢者や低所得層向けのデジタル金融教育が必要とされている。

決済プラットフォーム間の相互運用性

QRISの導入により、基本的な決済の統一はなされたが、ポイントプログラムやアプリ間送金の相互乗り入れなど、異なる電子ウォレット間の互換性には課題が残っている。
ユーザーが複数のウォレットを併用せずに済むよう、さらなる統合が求められている。

サイバーセキュリティの強化

キャッシュレス化が進むほど、サイバー攻撃の対象となるリスクが高まる。
政府は2021年にLinkedin国家サイバー暗号庁(BSSN)Linkedinを設立し、金融分野のサイバーセキュリティ強化を図っているが、民間事業者との協調も不可欠である。
特に、不正取引の検出、ハッキング対策、フィッシング詐欺防止などの技術的な対策が今後さらに強化される必要がある。

今後の成長予測と技術革新

電子マネー市場の成長見込み

インドネシアのキャッシュレス決済市場は今後も高成長が見込まれている。
中央銀行の予測によると、電子マネー決済の取扱高は2022年の約399兆ルピアから2023年には495兆ルピアへ、約23.9%増加するとされている。
さらに、2025年まで年率15%前後の成長が続くとの見通しも示されている。

2030年のデジタル決済ビジョン

政府はデジタル経済全体の将来像として、Linkedin「2030年までにデジタル決済額を現在の2.5倍(約12,300兆ルピア=7,600億ドル規模)に拡大させる」Linkedinとのビジョンを掲げている。
この計画が実現すれば、インドネシアはASEAN地域で最も発展したキャッシュレス経済の一つとなる可能性が高い。

技術革新と新しい決済手段

インドネシアでは、以下のような技術革新が今後のキャッシュレス化を後押しすると考えられる。

  • 中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入
    中央銀行(BI)はホールセール向けCBDC(デジタルルピア)の実証実験を進めており、将来的には小売決済にもデジタル通貨を導入する計画がある。
    これにより、国内決済のさらなる効率化と安定化が期待されている。
  • 生体認証決済の導入
    指紋認証や顔認証を活用した決済システムの開発が進んでおり、特に銀行や電子ウォレット企業が積極的に取り組んでいる。
  • オフライン電子マネー利用の拡大
    電波が届かない環境でも使えるICカード型の電子マネーや、Bluetooth/NFCを活用したオフライン決済の導入が検討されている。
  • AIを活用した不正検知
    AI技術を活用して、異常な取引パターンを検知し、不正取引を未然に防ぐ仕組みの開発が進められている。

 

 

まとめ

インドネシアのキャッシュレス決済市場は、GoPay、OVO、DANA、ShopeePayを中心に急成長しており、消費者の利便性向上に貢献しています。都市部ではキャッシュレス決済が日常化しており、政府の支援により地方や小規模店舗への普及も進められています。

一方で、インフラの未整備、デジタルリテラシーの格差、サイバーセキュリティのリスク、決済手数料の負担などの課題も残っています。特にスタッフによる不正行為の変化や、キャッシュレス社会における新たな不正手口には注意が必要です。

今後、インドネシア政府はQRISの普及、デジタル金融教育の強化、キャッシュレス決済の相互運用性向上、サイバーセキュリティの強化などを進めることで、より安全で利便性の高いキャッシュレス社会の実現を目指しています。2030年までに「ほぼ現金を使わない社会」を実現できる可能性も高く、今後の動向に注目が集まっています。

 

 

本記事で使用した単語の解説

  • キャッシュレス決済:現金を使用せずに、電子マネーやクレジットカード、QRコードなどを利用して支払いを行うこと。
  • 電子ウォレット(E-Wallet):スマートフォンなどで使用できる電子マネーサービス。GoPay、OVO、DANA、ShopeePayなどが代表例。
  • QRIS(キューリス):インドネシア中央銀行(Bank Indonesia)が導入した統一QRコード決済システム。すべての電子マネーサービスに対応。
  • PayLater(後払いサービス):キャッシュレス決済アプリに組み込まれた分割払いや後払い機能。一定期間後に支払いが発生する仕組み。
  • 金融リテラシー:お金の管理や金融サービスの活用に関する知識や理解度のこと。低いと詐欺に遭うリスクが高まる。
  • サイバーセキュリティ:キャッシュレス決済やオンライン取引の安全性を確保するための技術や対策。不正アクセスやフィッシング詐欺の防止が含まれる。
  • クロスボーダー決済:異なる国の決済システムを相互に利用できる仕組み。例えば、インドネシアのQRISでタイやマレーシアでも支払いができる。

 

 

FAQ(よくある質問)

Q1. インドネシアで最も普及しているキャッシュレス決済アプリは何ですか?

A. GoPay、OVO、DANA、ShopeePayの4つが特に人気で、市場シェアの大部分を占めています。用途や特典によって利用者が使い分けています。

Q2. インドネシアのキャッシュレス決済の普及率はどのくらいですか?

A. 2022年のデータでは、金融包摂率(銀行口座または電子ウォレットを保有する人の割合)は76.19%、電子ウォレットを使用したことがある人はLinkedin約93%Linkedinに達しています。

Q3. キャッシュレス決済のメリットとデメリットは何ですか?

A. メリット

  • スマートフォンだけで決済可能
  • スピーディで簡単
  • 家計管理がしやすい
  • キャッシュバックや割引が多い
  • スリや盗難のリスクを減らせる

デメリット

  • システム障害時に決済ができなくなる
  • サイバー攻撃や詐欺のリスクがある
  • 高齢者やデジタルに不慣れな人には使いにくい
  • 一部のサービスで手数料が発生する

Q4. インドネシアのキャッシュレス決済は安全ですか?

A. 基本的に安全ですが、フィッシング詐欺や不正アクセス、QRコードのすり替えなどのリスクがあります。公式アプリを利用し、二段階認証を設定することで、セキュリティを強化できます。

Q5. キャッシュレス決済を利用するにはどうすればいいですか?

A. スマートフォンに電子ウォレットアプリをダウンロードし、銀行口座または電子マネーをチャージすることで利用できます。QRコード決済の場合、加盟店でQRコードをスキャンするだけで支払いが完了します。

Q6. インドネシアの地方ではキャッシュレス決済は使えますか?

A. 都市部では普及が進んでいますが、農村部や離島ではインターネット環境やスマートフォンの普及率が低いため、まだ現金が主流です。政府はQRISを通じて普及を促進しています。

Q7. インドネシアのキャッシュレス社会は今後どうなる?

A. インドネシア政府は2030年までにデジタル決済額を現在の2.5倍に増加させることを目標にしています。今後、デジタル金融教育の拡充、生体認証決済の導入、サイバーセキュリティの強化などが進められ、より利便性の高いキャッシュレス社会が実現する見込みです。

 

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