
2月 22, 2025 • インドネシア, スタートアップ
3月 30, 2025 • インドネシア • by Erika Okada
目次
インドネシアへのビジネス進出や駐在を検討している日本人経営者・マネージャーの皆さんにとって、現地の税制を正しく理解することは非常に重要です。特にインドネシアの個人所得税(Pajak Penghasilan Orang Pribadi, PPh Orang Pribadi)は、日本の所得税とは制度や手続きが異なる点が多く、事前に把握しておくべきポイントが数多くあります。
本記事では、インドネシア個人所得税の基本から最新の法改正動向、納税者区分、税率体系、税務登録(NPWP取得)と納税の流れ、日本人駐在員・フリーランスへの具体的な影響、そして個人所得税以外の主要な税金まで、包括的にわかりやすく解説します。インドネシアでのビジネスと生活を安心して送れるよう、ぜひ最後までお読みください。
まず、インドネシアにおける個人所得税制度の基本的な仕組みを押さえましょう。インドネシアの所得税法は累進課税制度を採用しており、個人の年間所得額に応じて5%から最大35%までの段階的な税率が適用されます。
課税対象となる所得には、給与や賞与などの給与所得、事業所得、利子・配当・不動産収入などの投資所得、その他の雑所得などが含まれます。原則として、インドネシア居住者は全世界所得(インドネシア国内外で得たすべての所得)に対して課税されますが、後述する二重課税防止条約によって国外所得については日本との調整措置が適用される場合があります。
インドネシアの課税年度は暦年(1月1日〜12月31日)です。所得税の申告と納付は年度単位で行われ、基本的に翌年の3月末日までに個人所得税の確定申告(SPT Tahunan)を行う必要があります。
企業などの雇用主は給与支払い時に毎月源泉徴収(PPh Pasal 21と呼ばれる源泉所得税)を行い、税務当局に納付します。この源泉徴収税額は年末に個人が行う確定申告で精算され、過不足があれば追加納付もしくは還付となります。また、給与所得以外に事業所得や副収入がある場合、自主的に予定納税(PPh Pasal 25)として年間見積税額を分割払いし、確定申告で調整する必要があります。
なお、インドネシアには課税最低限(PTKP: Penghasilan Tidak Kena Pajak)が定められており、一定額までの所得は非課税扱いとなります。現行のPTKPは年間所得54,000,000ルピア(月額換算4,500,000ルピア)で、独身扶養親族なしの場合に適用される基礎控除額です。
納税者の婚姻状況や扶養家族数に応じて控除額が加算され、例えば配偶者がいる場合は追加4,500,000ルピア、配偶者の所得を合算申告する場合はさらに54,000,000ルピアが加算され、扶養親族1人につき4,500,000ルピアが(最大3人まで)加算されます。
これらPTKPを差し引いた後の課税所得(PKP: Penghasilan Kena Pajak)に対して累進税率が適用される仕組みです。
近年、インドネシアでは税制の調和と強化を目的にいくつかの重要な法改正が行われました。特に2021年10月に成立した「税制調和法(UU HPP: Undang-Undang Harmonisasi Peraturan Perpajakan)」に基づき、2022年度以降の個人所得税制度に大きな変更が加えられています。
ここでは過去2年間(2023〜2025年)に関連する主な改正点・制度変更について整理します。
前述の税制調和法により、個人所得税の税率構造に変更がありました。従来は課税所得500万ルピア超は一律30%の最高税率でしたが、2022年より最高税率35%の新たな課税帯が導入されています。
具体的には、課税所得の区分が次のように改訂されました:
新税率のポイントは、5%の最軽減税率の適用範囲が年額60,000,000ルピアまで拡大され、中間層の税負担が緩和された点です。一方で超富裕層に対しては5億ルピア超の部分に30%、さらに5億〜5億ルピア超の部分に新設35%が適用され、累進性が強化されています。
インドネシアでは従来より中小零細事業者(年間売上高4.8億ルピア以下の個人事業者など)に対し、売上高に対する最終税率0.5%の簡易課税制度(PP23/2018によるいわゆる「UMKM税制」)が適用できます。
UU HPPにより、この小規模事業者向けの優遇税制が拡充され、年間売上のうち最初の500,000,000ルピアについては課税免除されることになりました。
つまり、年商が500 juta(5億ルピア)以下であれば実質的に所得税がかからない措置となり、超過分についてのみ0.5%の最終課税が課されます。この改正は2022年から適用され、小規模ビジネスやフリーランスにとって大きな恩恵となっています。
インドネシアでは納税者識別番号としてNPWP(Nomor Pokok Wajib Pajak)が発行されますが、これを住民基本番号(NIK)と統合する改革が進められました。
2022年7月より、インドネシア国民の個人納税者は16桁の住民ID番号(NIK)をNPWPとして利用できるよう段階的移行が開始されました。
当初2024年1月から完全実施の予定でしたが、システム準備のため移行完了期限が2024年7月1日まで延長され、2024年前半は旧15桁NPWPも併用可能となっています。この統合により行政サービスの効率化と「ワンデータ」政策推進が図られます。
一方、外国人納税者については16桁の新NPWPが別途付与され(既存のNPWPに先頭ゼロを加えて16桁化)、外国人にはNIKが無い場合でも納税者番号が発行されるよう整備されています。
個人所得税ではありませんが、同じUU HPPに基づきインドネシアのVAT(PPN: Pajak Pertambahan Nilai)税率も変更が予定されています。
2022年4月にVAT標準税率が10%から11%へ引き上げられ、さらに最遅で2025年1月1日までに12%へ引き上げると法律で定められました。
実際に2025年から標準税率12%が適用開始となり、贅沢品を除く一般的な商品・サービスについては課税ベースを調整することで実質的な負担は従来の11%相当に抑える特例が導入されています。
このように、近年はインドネシア全体で税体系の見直しと効率化が進められており、個人所得税もその例外ではありません。
インドネシアでは、個人の納税者は「居住者(Wajib Pajak Dalam Negeri)」と「非居住者(Wajib Pajak Luar Negeri)」に分類され、課税範囲や税率が異なります。まずは自分がどちらに該当するかを正しく理解することが重要です。
インドネシア税法上の「居住者」とは、以下のいずれかの条件を満たす個人を指します。
上記に該当する場合、その個人はインドネシアの税法上「居住者」と見做され、インドネシア国内外の全ての所得(世界所得)がインドネシアで課税対象となります。
非居住者は上記条件を満たさない人、すなわちインドネシアに住所を持たず、滞在日数が183日以下で長期滞在の意思もない個人です。非居住者はインドネシア源泉所得(Indonesia source income)のみが課税対象となり、課税方法も居住者とは異なります。
居住者は累進課税率に従って総合課税されるのに対し、非居住者個人に対する所得税(俗に PPh Pasal 26 と呼ばれる源泉徴収税)が適用され、多くの場合一律20%の最終源泉分離課税となります。
例えば、インドネシア非居住者の日本人がインドネシア国内源泉のコンサルタント料やロイヤルティを得た場合、通常その支払者は20%の税を源泉徴収しインドネシア政府に納付します(※二重課税防止条約により軽減される場合あり、後述)。
非居住者に対するこの源泉徴収20%をもってその所得に関する納税義務は原則完結し、年度の確定申告義務はありません。一方で居住者は前述のように全所得について自ら確定申告を行い、源泉徴収分はあくまで前払い・控除税額として精算します。
日本人駐在員の場合、インドネシアに赴任してから183日を超えて滞在した時点で、その年度全体について居住者と判定されるケースがあります。
例えば7月に赴任し年内に183日超滞在した場合、その年1月まで遡って居住者課税が及ぶ可能性があります。ただし日本との租税条約上は居住地国の判定において日数基準等の調整規定があるため(通常は滞在日数や主要な生活関係で居住国を判断)、実務上は二重課税とならないよう配慮されます。
いずれにせよ、長期滞在予定で赴任した場合は赴任直後から NPWP を取得し、居住者として課税に備えることが一般的です。一方、インドネシア滞在が短期(183日以下)で日本に本拠を残した出張ベースの場合は非居住者となり、インドネシア側では源泉課税のみで申告不要となるケースもあります。
参考までに、インドネシア国籍の方が海外に長期赴任・移住する場合、所定の手続きを経て非居住者となることも可能です。
たとえば、183日超海外滞在など一定要件を満たし、税務署に非居住者届出を行うことで非居住者として扱われます。このように、居住者/非居住者の区分は国籍によらず、実際の滞在状況と生活拠点で判断されます。
前述したように、インドネシアの個人所得税は累進課税となっており、課税所得の金額区分に応じて5段階の税率が適用されます。最新(2022年改正後)の税率体系は以下の通りです。
この「課税所得」とは、総所得から前述のPTKP(課税最低限)や必要経費等を控除した後の金額です。たとえば、日本人駐在員Aさん(独身・扶養なし)のケースで具体的に見てみましょう。
この課税所得に対し、以下のように税率が段階的に適用されます。
各層の税額を合計すると、年間所得税額は約Rp.107,800,000となります。月割にすると毎月約Rp.8,983,000(約898万ルピア)の税が源泉徴収されるイメージです。
実際には雇用主が毎月の給与支給時に上記に基づき源泉徴収(PPh21)を行い、年末に合計額と年間所得で再計算して過不足調整する形になります。
配偶者や扶養家族がいる場合、PTKPが増えるため課税所得が圧縮され、結果として税負担は軽減されます。
例えば扶養家族が配偶者と子1人(K/1)いる場合、年間PTKPは
54,000,000 + 4,500,000(配偶者) + 4,500,000(子1人) = 63,000,000ルピア
となります。
扶養が多いほど非課税枠が増えるため、同じ収入でも税額は少なくなります(扶養控除は最大3人の扶養親族まで適用されます)。
前述のように非居住者(WPLN)の場合は通常、一律20%の源泉徴収が最終税となります。
この20%は課税所得ではなく総支払額に対する税率であり、経費控除やPTKPの適用はありません。また、20%は国内法上の税率であり、租税条約によってさらに軽減されることがあります。
たとえば、インドネシア-日本租税条約では、インドネシア非居住者の技術サービス料等に対する源泉税率は10%に制限される規定があります。
詳しくは後述の「二重課税防止条約」の章で解説します。
インドネシアには特定支出に対する税額控除(Tax Credit)や所得控除が、日本ほど多くはありませんが、一部存在します。
たとえば以下のようなものが控除対象となる場合があります。
また、障害者手当や特定地域手当などの一部所得については、非課税扱いや課税軽減措置が取られる場合もあります。
給与所得者の場合、課税対象額の計算は会社がインドネシア税法に基づいて処理するため、個人が細かな控除計算をする機会は少ないでしょう。
ただし、フリーランスや事業所得者の場合、自身で経費計上や控除適用漏れがないように注意することが必要です。
インドネシアで継続的に所得を得る場合、納税者番号(NPWP)の取得が法律上の義務となります。NPWPは日本のマイナンバーに相当するような税務上の個人識別番号で、銀行口座開設やビザ更新など様々な場面で提示を求められる重要な番号です。
納税者となる要件を満たしたら(居住者判定されたら)速やかにNPWPを申請しましょう。申請は最寄りの税務署で行うか、現在ではオンライン(e-Registration)でも可能です。
日本人駐在員など外国人(WNA)がNPWPを取得する際の必要書類は、主に以下の通りです。
インドネシア国税庁(DJP)のシステムでは2024年現在、外国人もオンラインで登録手続きを行えるよう改善されており、必要情報を入力・書類アップロードすれば比較的スムーズにNPWPが発行されます。発行されるNPWPは16桁の番号で、カード形式や電子証明書として交付されます。
2024年7月までは旧15桁のNPWPも並行して利用可能ですが、それ以降はNIK統合形式の16桁NPWPへ完全移行される予定です。税務署窓口ではこの統合作業(NIKとのひも付け)も対応しています。
日本人の場合、赴任後すぐにNPWPを取得することが推奨されます。以下の理由からです。
例えば、源泉税が本来10%である場合、NPWPを持たないと12%に引き上げられるなど、行政的な罰則的扱いになります。したがって、税負担を避ける意味でもNPWPの早期取得は大きなメリットがあります。
NPWPを取得した後は、所得に応じて納税・申告を行います。
会社勤めのサラリーマンの場合:
最近はインドネシア国税庁(DJP)が提供するe-Filingシステムを利用して、インターネット上で簡単に申告書を提出できるようになっています。日本語対応はありませんが、英語表示は可能なので、日本人駐在員でも比較的利用しやすい環境が整っています。
申告の結果、税額に過不足がある場合:
フリーランスや現地で事業収入がある場合は、毎月の予定納税(PPh25)を銀行やオンラインで自行納付する必要があります。
もし前述のUMKM向け簡易税制(0.5%課税)を利用する場合:
この制度は小規模事業者・個人事業主・フリーランスにとって非常に使いやすい設計となっています。
NPWPを取得した後は、以下のような管理義務があります。
ただし、インドネシアに資産や継続的な収入がある場合は、NPWPを維持して年次申告のみ継続するケースも見られます。
NPWPは納税者にとって「税務上のマイナンバー」のようなものであり、この番号を軸にすべての税務履歴が管理されます。
重要な点として、NPWP取得者には毎年の確定申告義務が課されます。
たとえ所得がゼロでも「申告義務」があるため、未申告のまま放置してしまうと罰金や延滞利息の対象となることがあります。特に将来的に退職や帰国の際、税務書類の不備がビザ手続きや出国審査に影響する可能性もあるため注意が必要です。
では、日本人駐在員やインドネシアで働く日本人フリーランスにとって、上記の制度は具体的にどのような影響や注意点があるでしょうか。以下に典型的なケースと実務ポイントをまとめます。
日本本社からインドネシア現地法人へ出向し、現地から給与が支払われるケースでは、基本的に現地給与に対してインドネシアの所得税が課税されます。駐在期間が183日を超えれば居住者となり、NPWPを取得して居住者課税を受けることになります。
雇用主であるインドネシア法人は毎月の給与から源泉徴収を行い、年末には年間の収入・控除額をまとめた源泉徴収証明書(Formulir 1721-A1)を発行します。駐在員本人はこの証明書の内容をもとにe-Filing等で確定申告を行えばよく、源泉徴収分が適切であれば追加納税は基本的に発生しません。
駐在員の給与形態によっては、日本の本社から一部給与や手当が支給される場合があります(いわゆる二重給与)。この場合、インドネシア居住者となった後でも、日本源泉の所得も原則としてインドネシアでの申告対象となります。
ただし、日・インドネシア租税条約により、次のような条件を満たせば日本側の所得はインドネシアで非課税とされます。
長期駐在の場合はこれらの条件を満たさないことが多いため、インドネシアでの申告が必要となります。その場合、日本で課税済みの部分についてはインドネシアで税額控除(国外税額控除)を申請することで、二重課税を防ぐことが可能です。日本側の納税証明書などを用意し、確定申告時に提出する必要があります。
会社から支給される住宅手当・社用車・教育補助などの現物給付は、一定条件下で課税対象外とされることがあります。
たとえば以下のような場合は非課税とみなされることがあります:
課税・非課税の判断は現地法人側の給与処理に依存するため、給与明細や源泉徴収証明書に記載された内訳を確認しておくと安心です。
駐在期間を終えて日本に帰任する年は、その年の滞在日数によって年の途中から非居住者に区分変更されることがあります。
たとえば、ある年の7月に帰任しその年の滞在日数が183日未満の場合、インドネシア税務上は:
と判断されることもあります。ただし実務上は、年全体を居住者として一括で申告し、納め過ぎがあれば還付請求するケースが一般的です。帰任前には、所轄税務署で納税管理人(税務代理人)の選任やNPWPの今後の扱いについて相談しておくことをおすすめします。
現地企業に雇用されるのではなく、インドネシアでフリーランス(個人事業)として活動する日本人もいます。たとえば以下のようなケースです。
このような場合でも、滞在が183日を超えればインドネシア税法上の居住者となり、事業所得に対して納税義務が生じます。
フリーランスであってもNPWP取得は必須です。加えて、事業者として税務当局への登録が求められます。
個人事業主には、以下2つの所得税計算オプションがあります。
2022年以降、年間売上のうち5000万ルピアまでが非課税とされたため、売上が比較的少ないフリーランスであれば税負担は極めて軽くなっています。
一方で、収入が大きく経費も多い場合には、通常の所得控除方式で計算した方が有利な場合もあるため、慎重な比較検討が必要です。
なお、収入の主な源泉が日本など国外であっても、インドネシアに居住していればその所得は原則として申告対象です。すでに国外で源泉税が引かれている場合は、インドネシアでの税額控除を申請することで二重課税を回避できます。
フリーランスは会社員とは異なり、インドネシアの社会保険(BPJS Kesehatan健康保険やBPJS Ketenagakerjaan労働保険)への加入は任意です。
これらの保険料は原則として税控除の対象とはなりませんが、自己負担の医療費や保険料を経費として処理できるかは、実務的にはグレーな部分もあるため、税務上の取り扱いを税理士と相談することが望ましいです。
駐在員と異なり、フリーランスや個人事業主は税務手続きを自分で行う必要があります。言語の壁や制度の複雑さを考慮し、次のような対応をおすすめします。
フリーランスの税務管理は、日本以上に自己責任が問われる領域です。制度の理解を深め、計画的に対処しましょう。
インドネシアでビジネスを行う上で、個人所得税の他にも押さえておきたい主要な税金があります。ここでは代表的なものを簡潔に紹介します。
インドネシアの法人税率は現在一律22%です。課税対象は法人の課税所得(純利益)で、日本の法人税に相当します。
日本人が現地でPT会社(法人)を設立・経営する場合、この法人税が適用されます。また、法人から配当を受け取る場合には、配当に対して10〜20%の源泉税が課されます(日本との租税条約により軽減可能)。
商品やサービスの取引に課される消費税です。現在の原則税率は11%で、2025年には12%に引き上げられる予定です。
VATは販売時に上乗せして徴収し、仕入時に支払ったVATと相殺して納付する仕組みです。また、国外からのデジタルサービス(NetflixやZoomなど)にも「VAT on E-Commerce」制度が適用されるようになりました。
給与に関連する負担として、次の2種類の負担があります。
BPJSには以下の2種類があります:
日本人駐在員であっても現地雇用契約がある場合は加入義務があり、保険料率や上限額は法令により定められています。会社負担分は法人税計算上、損金として認められます。
不動産に関しては以下の税が発生します。
不動産投資を行う場合や社宅などを法人名義で購入する場合は、これらの税の負担も考慮が必要です。
事業運営に関わる契約関連の文書では印紙が必要な場面が多く、実務上もよく登場します。
このように、インドネシアにはさまざまな税金がありますが、ビジネス活動において日常的に意識すべき主要税は以下の2つです。
とくにVATについては制度変更や税率改正が多いため、継続的に最新情報を確認しておくことが重要です。また、業種によっては特定の優遇税制や特例が適用される場合もあるため、税務専門家のアドバイスを受けることも検討しましょう。
最後に、日本とインドネシアの間で締結されている二重課税防止条約(DTA: Double Taxation Avoidance Agreement)について触れておきます。
正式名称は「日本国とインドネシア共和国との間の所得に対する二重課税の回避及び脱税防止のための条約」で、1982年に署名・1983年に発効された長い歴史を持つ条約です(その後一部改正議定書も締結済み)。
この条約は、両国間で経済活動を行う人々や企業が同一の所得に対して日本とインドネシアの両方で二重に課税されることを防ぐための取り決めを定めています。
個人が日本とインドネシアの双方で居住者と見なされる可能性がある場合、どちらを「居住地国」とするかは、以下のような優先順で判断されます。
このルールにより、駐在員などは1国のみの居住者と判断され、もう一方では非居住者として扱われます。
条約第15条では、短期滞在者の給与所得は駐在国で課税されないルールが設けられています。
課税されないための3つの条件:
例えば、日本の会社から給与を受け取りつつ短期間インドネシアで業務を行う出張者は、この条件に該当すればインドネシアでは課税されません。一方、183日を超える長期駐在となるとこの条項は適用外となり、インドネシアでの課税対象となります。
フリーランスや個人事業主のような独立業務所得については、条約第14条が適用されます。
課税権の判断基準:
短期間のプロジェクトや出張で拠点を持たない場合、本国(日本)のみで課税されるため、インドネシアでの課税が発生しません。これにより、短期フリーランス案件でも二重課税を回避できます。
条約では、投資関連の所得に対して以下のように源泉税の上限が定められています。
これにより、たとえば日本の親会社がインドネシア子会社から配当を受け取る場合、本来20%かかる税率が10%に軽減されます。
この軽減を適用するには、「居住者証明書(Surat Keterangan Domisili: SKD)」をインドネシア税務当局に提出する必要があります。
この条約では、両国税務当局の間で以下のような協力体制が整備されています。
これにより、二重課税や税務上のトラブルが生じた場合でも、国際的な協議のもとで解決が図られます。
日本とインドネシアの租税条約は、長年にわたり両国間の経済活動を支える重要な法的枠組みです。以下のような場面での活用が想定されます。
条約を活用するには、事前に日本・インドネシア両国の税法と条文を照らし合わせながら、専門家の助言を得ることが重要です。特にSKDの取得漏れや誤った申告があると、軽減税率が適用されないケースもあるため、実務上の注意が求められます。
本記事では、インドネシアにおける個人所得税の基本制度から、納税者区分(居住者と非居住者)、税率体系、NPWPの取得と納税手続き、日本人駐在員やフリーランスへの影響、さらに法人税や付加価値税、二重課税防止条約まで幅広く解説しました。インドネシアでのビジネスや長期滞在を行う日本人にとって、正しい税知識はトラブル回避とコスト削減の鍵となります。
特に次のポイントが重要です:
現地での税務対応に不安がある場合は、必ず専門家へ相談し、正確な納税義務を果たすようにしましょう。
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本記事で使用した主な用語の解説
PPh Orang Pribadi:インドネシアにおける個人所得税。給与や事業所得などに課税される。
NPWP:納税者番号。インドネシア税務署に登録される個人・法人の識別番号。
PTKP(Penghasilan Tidak Kena Pajak):課税最低限。一定額までの所得は非課税となる。
PKP(Penghasilan Kena Pajak):課税所得。PTKPなどの控除後に課税対象となる所得額。
PPh21:給与などに対して課される源泉所得税。企業が源泉徴収する。
PPh25:事業所得などに対して行う予定納税。毎月自分で納付する必要がある。
PPh26:非居住者に対する所得に課せられる源泉分離課税(通常20%)。
BPJS:インドネシアの社会保険制度。健康保険(Kesehatan)と労働保険(Ketenagakerjaan)に分かれる。
UMKM税制:中小零細事業者向けの簡易課税制度。売上高に対し0.5%を納税すれば済む制度。
SKD(Surat Keterangan Domisili):居住者証明書。租税条約適用のために提出する書類。
DTA(Double Taxation Avoidance Agreement):二重課税防止条約。日本とインドネシアの間で締結された税務協定。
FAQ(よくある質問)
Q1:インドネシアで働き始めたばかりですが、NPWPはすぐに必要ですか? A1:はい。特に就労ビザや銀行口座開設にはNPWPが必要であり、税率上の優遇もあるため、早期の取得が推奨されます。
Q2:日本から給与を受け取っている場合もインドネシアで課税されますか? A2:インドネシアに183日以上滞在して「居住者」と認定された場合、日本の所得も申告対象になります。ただし、日本で源泉徴収されている税金はインドネシア側で控除できます(要証明書提出)。
Q3:フリーランスで売上が年間5000万ルピア以下の場合、税金はかかりますか? A3:2022年以降は最初の5000万ルピアまで課税免除となっており、それを超える場合のみ0.5%の最終税がかかります。
Q4:確定申告はどのように行えばいいですか? A4:インドネシア国税庁のe-Filingシステムを使ってオンラインで提出可能です。英語表示にも対応しているため、日本人でも比較的操作しやすい仕組みです。
Q5:帰任する場合、NPWPはどうすればいいですか? A5:インドネシアを離れる前に所轄税務署で「納税管理人」の選任やNPWPの一時停止・抹消手続きを相談してください。滞在が短縮された場合、年の途中で非居住者へ変更される可能性もあります。