4月 2, 2025 • インドネシア • by Erika Okada

インドネシアではギャンブルは禁止?実際のところを調査

インドネシアではギャンブルは禁止?実際のところを調査

インドネシアに進出している、あるいはこれから進出を検討している日本企業・外国企業の経営者やマネージャーにとって、現地の法制度や文化的価値観を正しく理解することは非常に重要です。中でも「ギャンブル」に対する規制は、宗教的・歴史的・社会的要因が複雑に絡み合い、非常に厳しく設定されています。しかし、オンライン化の波に乗って新たな問題も噴出しており、現地の法令を知らずにサービスを展開した結果、トラブルに巻き込まれる企業も後を絶ちません。本記事では、インドネシアにおけるギャンブルの禁止状況や法的規制、実際の取り締まり、そしてビジネスへの影響と注意点を詳しく解説します。

 

 

インドネシアにおけるギャンブル禁止の背景と歴史

インドネシアにおけるギャンブル禁止の背景と歴史

1. 宗教的背景:イスラム教におけるギャンブルの禁止

インドネシアにおけるギャンブル禁止の最大の理由は、イスラム教の教義です。

  • イスラム教では、ギャンブル(アラビア語で「Maisir」)はハラーム(禁忌)とされています。
  • 聖典コーランの中で、ギャンブルは酒や占いと同列に扱われ、「悪魔の業であり、それを避けなさい」と明確に記述されています(コーラン第5章90-91節)。

インドネシアは世界最大のイスラム人口を抱え(人口の約87%がムスリム)、国家の価値観や法律にもイスラム教の影響が非常に強く反映されているため、宗教的観点からのギャンブル忌避が法制度にもつながっています。

2. 歴史的経緯:植民地時代〜独立後の動き

■ 植民地時代(オランダ統治時代)

  • オランダ植民地時代には、一部のギャンブルが合法的に行われていたとされています。
  • 闘鶏(sabungan ayam)やロト(くじ引き)などが地方の祭りやイベントと結びついて行われ、ある種の「娯楽」として容認されていました。
  • ただし、当時も富の偏在や貧困層への悪影響が問題視されることがありました。

■ 独立後〜スハルト政権期(1967〜1998年)

  • インドネシア独立後も、競馬、スポーツ賭博、くじ引き宝くじ(SDSB)などが政府主導で運営されていた時期があります。
  • 特に1980年代~1990年代初頭、政府は宝くじ(Sumbangan Dana Sosial Berhadiah/SDSB)を社会福祉の財源とするため、国家公認でギャンブルに近い制度を合法化していました。

■ 転換点:1993年 SDSBの廃止

  • しかし、1993年、宗教指導者やイスラム系政党の圧力によりSDSBは廃止されました。
  • これ以降、「国家によるギャンブル公認」は厳しく否定されるようになり、現在に至るまでギャンブルは一貫して禁止対象となっています。

3. 社会的・文化的要因

■ 家計破綻や家庭崩壊の原因に

  • ギャンブルは「家庭崩壊や貧困の原因」とされ、社会的にも強いマイナスイメージがあります。
  • 特に低所得層がギャンブルに依存し、借金・暴力・家庭問題を引き起こすケースが多発したことから、「社会の秩序を乱す行為」として扱われる傾向があります。

■ 道徳教育と一致しない娯楽

  • インドネシアの教育制度や宗教教育では、「正直」「努力」「節制」といった価値観が重視されており、「運」や「偶然」に頼るギャンブルは非倫理的行為と見なされがちです。

4. 政治的要因:イスラム系政党や保守的な国民感情

  • インドネシアは民主主義国家でありながら、宗教的情勢に配慮しないと政治的に支持を得にくい社会構造になっています。
  • 特に地方選挙や大統領選などでは、イスラム系団体や保守的な有権者層の支持を得るため、「ギャンブル排除」は政治的にも正当性がある政策テーマとされてきました。
  • このような文脈の中で、政府は「宗教道徳に反するギャンブルを禁止すること=信頼できる政治」として活用している側面もあります。

5. 地域による差異:アチェ州と他地域

  • インドネシアはユニタリー国家である一方、一部の地域では特別な法制度が適用されています。
  • その代表例がアチェ州(Aceh)で、シャリーア(イスラム法)が公式に導入されています。
  • 同州ではギャンブルは重罪として扱われ、むち打ち刑(Cambuk)や長期拘束刑が科されるなど、全国平均よりも厳格です。

 

 

インドネシアにおけるギャンブルの取り締まりとその影響

インドネシアにおけるギャンブルの取り締まりとその影響

1. オンラインギャンブルの爆発的拡大と政府の危機感

ここ数年、インドネシアではオンラインギャンブルの急増が深刻な社会問題となっています。

  • 2023年の政府報告によると、オンラインギャンブルに関連する金融取引件数は約1億6,800万件に上り、総取引額は約327兆ルピア(約3兆円)に達したと推計されました(出典:PPATK)。
  • ギャンブルサイトは国内外のサーバーを使用し、SNSやWhatsApp、Telegramを通じて個人にリーチしてきます。仮想通貨や電子マネーを介して匿名で入金できるケースも多く、追跡が困難になっています。

2. 主な取り締まり機関とその活動

インドネシアでは複数の省庁・機関が連携してギャンブル取り締まりにあたっています。主な機関は以下の通りです。

■ Kominfo(通信情報省)

  • 違法サイトの検出とブロック措置を担当。
  • 2023年だけで1万件以上のギャンブル関連サイトを遮断したと発表。

■ PPATK(金融取引報告分析センター)

  • ギャンブル関連の疑わしい金融取引を監視・分析。
  • 2023年、オンラインギャンブルに関連すると見られる銀行口座2,000件以上を凍結。
  • 金融庁(OJK)や警察と連携し、資金洗浄(マネーロンダリング)対策も進行中。

■ 警察(Polri)

  • 実行犯の摘発やサイト運営者の検挙を担当。
  • 特にジャワ島・スマトラ島・バタムなどで摘発が強化されており、外国人運営者が逮捕されるケースも複数報告されています。

3. 取り締まりの成果と課題

【成果】

  • ギャンブルサイトの遮断件数は年々増加しており、公共の警戒心の向上に一定の効果。
  • 金融取引の透明化が進み、一部の大規模サイトは運営を停止に追い込まれました。
  • 政府は2024年にオンラインギャンブル撲滅タスクフォースを正式に設置(Komite Pemberantasan Perjudian Online)。

【課題】

  • 技術的には海外サーバー・VPN利用により遮断を回避されるケースが多く、「いたちごっこ」状態。
  • ギャンブル業者は名義貸しされた個人口座や電子マネー口座を利用して資金洗浄を実行。
  • SNS広告を使って新たなプレイヤーを獲得しており、特に低所得層や学生に被害が広がる傾向にあります。

4. 社会への影響:家庭・教育・若年層

■ ギャンブル依存症の増加

  • 警察庁の調査では、オンラインギャンブルにハマって借金を重ねた若者が犯罪に手を染める事例が増加。
  • 家庭内暴力や夫婦間トラブルの原因にもなり、「家族を壊す静かな破壊者」と呼ばれることも。

■ 若年層の巻き込み

  • PPATKの報告によると、10歳未満の子供が保護者のスマホからギャンブルアプリにアクセスし、知らずに参加していたケースが確認されている。
  • 高校生~大学生でも「稼げる副業」として安易に手を出す傾向があり、教育現場での対策が急務となっています。

5. 経済・金融業界への影響

■ 銀行・フィンテック業界の規制強化

  • 金融庁(OJK)はe-WalletやQRISの送金履歴チェックを強化。
  • 電子マネーの本人確認(KYC)強化が求められ、フィンテック企業にとっては運用コストの増加を招いています。

■ 一部の企業・マーケターへの悪影響

  • アフィリエイト広告を利用したギャンブル誘導が摘発され、一部のWeb広告運営者が処罰対象に。
  • 不注意に「賞金」や「当選」などの文言を使ったプロモーションが問題視され、SNSマーケティングでもリスク管理が必須に。

6. 今後の政府の方針と新たな施策

インドネシア政府は、オンラインギャンブルを「国家の敵」と明言し、以下の対策を段階的に進めています。

■ 国家タスクフォースの創設(2024年)

  • Kominfo、PPATK、警察、教育省、宗教省などを含む国家機関横断のチームで統合的な対策を進める。
  • オンライン広告、SNS運営会社にも規制の網をかける予定。

■ 教育・啓発活動の拡充

  • 学校やモスクでの啓発活動を強化し、若年層に対して「ギャンブルは Haram(禁忌)」という価値観を徹底。
  • 国民への通報アプリ(Aduan Perjudian Online)の運用も開始され、住民による監視ネットワークを構築。

 

 

インドネシアにおけるギャンブル禁止がビジネスに与える影響と注意点

インドネシアにおけるギャンブル禁止がビジネスに与える影響と注意点

1. ビジネス環境におけるギャンブル規制の重要性

インドネシアは世界第4位の人口を誇る巨大市場であり、多くの外国企業が進出を目指していますが、宗教的・文化的価値観が法律と密接に結びついている点を理解することが非常に重要です。

特にギャンブルに関しては、「違法行為」としてだけでなく、不道徳・反社会的行為として扱われるため、ビジネスの信頼性やブランドイメージに大きなダメージを与える可能性があります。

2. ビジネスに与える具体的な影響

(1) オンラインサービス・アプリ事業

  • ソーシャルゲーム・ガチャ・Loot Box要素の導入には注意が必要。
    • アイテムやスキンに「確率」「当たり」「抽選」などの要素があると、ギャンブルとみなされる恐れがあります。
    • インドネシア政府は「価値のある報酬を金銭で取得する抽選的な仕組み」に対しても疑いの目を向けています。

対策例:

  • ガチャに当たる確率の明示
  • 無償通貨でのみガチャが回せる仕様
  • 明確に「ギャンブルではない」利用規約の設定

(2) マーケティング・キャンペーン

  • 「当選」「くじ」「賞金」「キャッシュバック」「スピンして当てよう!」といったギャンブル的な表現を広告で使用すると、法律違反やSNSアカウント凍結の対象になる可能性があります。
  • 特にSNSインフルエンサーを起用したキャンペーンでは、彼らが無意識に違法広告を投稿して炎上や通報されるリスクが高い。

対策例:

  • インドネシア国内のSNS広告運用者と連携し、言語・文化的なチェックを徹底
  • 表現を「報酬」「お得なプレゼント」などに切り替える

(3) 金融・フィンテック関連ビジネス

  • オンライン決済、QRIS決済、e-Walletなどの金融取引プラットフォームを運営する場合、ギャンブル資金の流入を防ぐ義務があります。
  • 適切なKYC(顧客確認)・AML(マネーロンダリング対策)を行っていない場合、当局から罰金や営業停止処分を受ける恐れがあります。

対策例:

  • ギャンブル関連キーワードの送金チェック(例:judi, taruhan, slot, togel)
  • 特定アカウントのモニタリングと凍結フローの整備

(4) エンタメ・アミューズメント事業

  • ゲームセンター、カラオケ、レストランなどで、「チップ制」「景品交換式」「コイン投入型のくじゲーム」などを提供すると、風営法違反またはギャンブルとの類似性を問われる可能性があります。

対策例:

  • 景品の金銭価値を限りなくゼロに近づける(例:記念品のみ)
  • 店舗内で換金可能なシステムを絶対に導入しない

(5) 社内のコンプライアンス教育とモニタリング体制の必要性

  • 駐在員や現地スタッフが「軽い気持ち」でプライベートにギャンブルに関与することで、会社の評判が毀損されるリスクも存在します。
  • 特にオンラインギャンブルはスマホひとつでできてしまうため、社員教育と内部規定の整備が重要です。

 

 

まとめ

インドネシアでは、イスラム教の教義に基づき、あらゆる形態のギャンブルが法律で厳しく禁止されています。オンラインギャンブルも例外ではなく、政府は近年その取り締まりを強化し、サイト遮断や口座凍結などを通じて対策を講じています。また、社会的にもギャンブルに対する嫌悪感が根強く、ビジネスにおいては慎重な対応が求められます。

企業としては、商品設計・広告表現・決済システムにおいてギャンブル性が疑われる要素を排除し、現地法と文化に配慮したコンプライアンス体制を整えることが不可欠です。特にデジタルビジネスやエンターテインメント分野では、「知らなかった」では済まされないリスクが存在するため、正確な情報収集と法務面の対策が重要です。

 

 

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本記事で使用した単語の解説

KUHP(Kitab Undang-Undang Hukum Pidana)
インドネシアの刑法典。ギャンブルの禁止や刑罰について規定している法的枠組み。

PPATK(Pusat Pelaporan dan Analisis Transaksi Keuangan)
インドネシアの金融取引報告分析センター。不審な取引の監視・報告を行う独立機関。

Kominfo(Kementerian Komunikasi dan Informatika)
インドネシア通信情報省。インターネット上のギャンブルサイトの監視・遮断を担う。

Sharia(シャリーア)
イスラム法。アチェ州など特定の地域で正式に導入され、ギャンブルには身体刑など厳罰が科される。

SDSB(Sumbangan Dana Sosial Berhadiah)
1990年代まで存在した政府公認の宝くじ制度。1993年に宗教団体の反発で廃止。

ITE法(Undang-Undang Informasi dan Transaksi Elektronik)
インドネシアの電子情報取引法。オンラインギャンブルや違法なデジタル取引に対する法律。

KYC(Know Your Customer)
顧客確認手続き。金融機関が顧客の身元を確認するために行う。

AML(Anti Money Laundering)
資金洗浄防止措置。金融取引を通じた不正な資金移動を防ぐ仕組み。

 

 

FAQ(よくある質問)

Q1. インドネシアでギャンブルはすべて違法なのですか?
はい、原則としてすべての形態のギャンブルは違法です。オンライン・オフライン問わず、金銭や物品を賭ける行為は刑法で禁止されています。

Q2. 友人同士の私的な賭け事も取り締まりの対象になりますか?
法律上は、非公開であっても金銭を賭けた時点で違法です。実際に摘発されたケースもあり、油断は禁物です。

Q3. ゲームアプリでのガチャやLoot Boxは問題になりますか?
金銭との交換や確率による報酬がある場合、ギャンブル性があると見なされるリスクがあります。慎重な設計と表現が求められます。

Q4. 海外にサーバーを置けばインドネシア法の対象外になりますか?
なりません。インドネシア国内からアクセス可能なサービスであれば、現地法の対象となり、ブロックや法的措置のリスクがあります。

Q5. 銀行や電子マネーでギャンブル利用があった場合、企業に責任はありますか?
取引を許容した場合、KYCAMLの義務違反と見なされ、罰金や業務停止の対象になる可能性があります。

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