4月 19, 2025 • インドネシア, 教育 • by Yutaka Tokunaga

なぜ国家予算の20%を教育予算に使ってもインドネシアの教育が良くならないのか

なぜ国家予算の20%を教育予算に使ってもインドネシアの教育が良くならないのか

―インドネシア教育投資の“パラドックス”を解く

インドネシアは憲法と教育法で「国家予算(APBN)の最低20%を教育へ投じる」と明記し、毎年国家予算の20%を教育に充てることを義務づけています。2025年の教育予算は過去最大の7,226兆ルピアに達し、名目上は着実な投資が続いています。

それでも PISA 2022 の順位は下位グループ、地域間格差は拡大、教師の質も依然として低いままです。

なぜ、これほどの予算を投じているにもかかわらず、教育の質が向上しないのでしょうか?その根本的な要因を探ります。

 

 

1. 2015〜2025年:教育予算と20%ルールの歩み

1‑1 10年間の教育予算の総括

以下は、政府公表値と主要メディアの集計をもとにした教育予算の名目額(兆ルピア)です。総予算(Belanja Negara)欄はあくまで当初案または修正予算の「上限額」であり、実行段階では変動します。

年度

総歳出

教育予算

教育比率(名目)

2015

1,984.1

404.0

20.3

2016

1,822.5

370.0

20.3

2017

2,080.5

406.1

19.5

2018

2,220.7

431.7

19.4

2019

2,461.1

460.0

18.7

2020

2,540.4

473.7

18.6

2021

2,750.0

479.6

17.4

2022

2,714.2

480.3

17.7

2023

2,783.2

552.1

19.8

2024

3,325.1

665.0

20.0

2025

3,621.3

724.3

20.0

1‑2 教育予算のブレークダウン 中央 vs 地方

  • 中央政府支出(約35%)
    • Kemendikbud‑Ristek、Kemenag、Kemendagri、Kemenpora などに分散
  • Transfer ke Daerah & Dana Desa(約45%)
    • BOS補助金、DAK Pendidikan、地方教員手当など
  • Pembiayaan Investasi(約20%)
    • LPDP奨学金基金、Dana Abadi Pendidikan、大学病院設備投資など

1‑3 教育予算のブレークダウン 主な支出カテゴリー

  1. 教員給与・手当(約30%)
  2. 学校運営費 BOS/BOP(約22%)
  3. インフラ整備(校舎・ICT)(約18%)
  4. 奨学金・補助金(KIP, LPDP 等)(約15%)
  5. 省庁横断プログラム(宗教教育、職業訓練など)(約15%)

 

2 20%ルールの“数字マジック”

20%ルールの“数字マジック”

2‑1 人件費と年金まで教育費にカウント

政府は「教育予算は20%を達成している」と言いますが、その内訳を見ると、半分近くは先生の給料や退職後の年金です。もちろん教師の給与は大切ですが、それがすべて「教育の質向上」につながるとは限りません。例えば、実際に教えていない先生(幽霊教師)や、非効率な配置によるムダもあります。

つまり、「教育に使った」とされているお金の多くが、授業や教材、生徒への支援ではなく、固定的な人件費に消えているのです。法律で決められた20%の枠を守るために、意味を広げて「教育関連」として帳簿上計上しているだけの部分もあります。

2‑2 執行率の低迷と繰り越し

2023年度の教育予算の使われた割合(執行率)は69%でした。つまり、100のうち31は使いきれずに残ってしまったということです。そして2024年も10月時点で約69.6%。

この未使用分は、翌年に繰り越されて「教育基金」などに積み立てられるだけで、すぐに現場の先生や子どもに届くわけではありません。帳簿では20%使ったように見えても、実際には現場に届かない「使われない教育予算」が積み上がっているのが現状です。

2‑3 実質は教育以外に使われるケースも

さらに深刻なのは、「教育予算」として地方自治体に渡されたお金が、実際には教育とは関係のない役所の運営費や管理費に使われることがあるという事実です。

たとえば、地方の公務員の給料の一部に充てられたり、会議費や事務費に流用されたりするケースがあり、これも形式的には教育支出として処理されます。教育予算として渡されたお金が、現場の子どもたちの学びとは全く関係ないところに使われるという矛盾が生まれているのです。

 

 

3 汚職によって予算が奪われている?

汚職によって予算が奪われている?

3‑1 教育セクターで相次ぐ汚職とその被害

インドネシア腐敗監視団体(ICW)の調査によると、2016年から2021年上半期までの間に、教育セクターに関連する汚職案件は少なくとも240件が摘発され、被害総額は推計1.6兆ルピアに達しています。これらの案件は教育のあらゆる領域に広がっており、予算の適切な執行が妨げられています。

3‑2 学校運営費(BOS)をめぐる典型的な不正手口

最も多く見られるのが、学校への補助金であるBOS(Bantuan Operasional Sekolah)資金の不正使用です。全体の約22%、52件がこの補助金に関連した着服や架空請求に関するものでした。具体的には、実在しない「幽霊生徒」や「幽霊学校」を仕立てて、生徒数を水増しすることで、本来存在しない生徒分の補助金を関係者が横領するといった手口が報告されています。

そのほかにも、教科書や物品調達の価格水増し、学校の建設や修繕工事での入札談合、手抜き工事、不正な寄付金の徴収、教育行政職員による採用汚職や賄賂要求など、多岐にわたる不正が横行しています。

3‑3 教育の質向上を妨げる腐敗の構造

地方自治体に配分される予算の一部が、途中の行政機関などによってピンハネされるケースも多く、本来学校に届くべき資金が中間で失われてしまう構造的な問題も存在します。これにより、せっかく確保された教育予算が実際には教育現場に届かず、子どもたちへのサービス向上に結びつかないという現実があります。

こうした腐敗の蔓延は、インドネシアの教育制度が直面している深刻な課題の一つであり、教育の質を高めるための取り組みに対して大きな障害となっています。

 

 

4 インドネシアの学校現場を阻む構造的要因

インドネシアの学校現場を阻む構造的要因

4‑1 教師の質と配置

全国教師能力テスト(UKG)の平均は 100 点中 53 点。地方ほど低く、パプアでは全国平均を大きく下回ります。臨時教師比率が高い農村部では離職も多く、予算があっても専門人材が不足しています。尊敬される職業としての「教師」像が揺らぎ、若者は民間やスタートアップを志向。優秀層の教職離れが進行し、質的改善が追いつきません。

4‑2 カリキュラムの迷走

政権が変わるたびにカリキュラムも方針も一新される「ガチャン・カリキュラム」状態が続いてきました。

2013 カリキュラム → 2019 改訂 → 2022「Merdeka Belajar」 →  2025 「???」…と 10 年で 何度も大改編。教材刷新・研修・システム開発のたびに多額の予算や改善が“初期化”され、蓄積が途切れます。

4‑3 学習到達度の停滞

PISA 2022 でインドネシアは 読解・数学・科学すべてが OECD 平均より約 70 点低い一方、都市部と農村部の差は 2 学年相当。投入資金が学力向上に変換されていないことがデータに表れています。

 

 

5 インドネシアの教育を抜本から改善するための6つの提案

インドネシアの教育を抜本から改善するための6つの提案

5-1. 予算の使い道をすべてデジタルで記録・公開し、無駄と汚職を防ぐ仕組みの構築

教育分野に使われる予算が、どの学校にどのように配分され、実際に何に使われたのかをすべてデジタルで記録し、国民に公開する仕組みを導入すべきです。さらに、全国すべての学校・教職員のデータベースを整備し、顔認証や出勤記録、報告書の電子化などを通じて「幽霊学校」や「幽霊教員」の存在を排除し、無駄な予算支出を防ぎます。

→ 教育のための予算が、正しく・透明に・必要なところに届く社会を目指します。

5-2. ICTとAIを活用して、教育の地域格差を縮小する

都市部と地方で教育の質に大きな差がある現状を改善するため、AIによる学習支援ツールや優れた授業動画の導入を通じて、どこに住んでいても質の高い授業を受けられる仕組みを整備します。地方の教員は、これまでの講義型の授業から、学習をサポートする“メンター”としての役割へと転換し、子どもの理解を個別に支援する方向へと進みます。初期投資は大きいものの、中長期的には持続可能で効率的な制度になります。

→ 子どもたちのデジタルスキルも同時に育成され、将来の仕事にも役立ちます。

5-3. 教育の成果に応じたインセンティブ制度の導入

学力向上、卒業率、出席率など、明確な成果を上げた学校や教員には、追加予算や報酬の増額といった正当な評価を行う一方で、明らかに成果が上がらず改善の努力も見られない場合は、研修義務の付与や人事の見直し、減給や解雇などの措置を検討します。これにより、現場の意欲や責任感が高まり、結果として教育の質が底上げされます。

→ 「がんばる人が報われる」教育の仕組みを作ります。

5-4. 民間人材を積極的に登用し、新しい学校運営モデルを構築する

民間企業などで経営・マネジメントの経験を持ち、社会的にも経済的にも自立した優秀な人材が、公立学校の校長や教員として現場に参画できる制度を整えます。これにより、効率的な予算管理や教育現場の組織運営など、民間のノウハウを活かした新しいモデル校を多数創出できます。

→ 官民の垣根を越えて、実践力のある教育リーダーを育てます。

5-5. 放課後の学びと成長を支える「学童」や「部活動」の仕組みをつくる

日本では「学童保育(がくどう)」という制度があり、学校が終わった後に子どもたちが安全な場所で過ごし、宿題をしたり、軽食をとったりしながら保護者の帰りを待てるようになっています。これは、共働き家庭を支え、子どもたちに安心と教育の場を提供する“第二の教室”のような存在です。
また「部活動(クラブ活動)」では、スポーツや音楽、ダンス、美術などを通じて、子どもたちが興味や才能を伸ばしたり、協調性や粘り強さといった”強いメンタル”や“生きる力”を育てることができます。

→ 放課後も子どもたちが学び、成長できる環境を整えることで、家庭・学校・地域がつながる教育を実現します。

5-6. 家庭教育を高めるための「親への再教育とサポート制度」

多くの家庭では、教育の大切さや子どもの学び方についての理解がまだ十分とは言えません。そこで、保護者向けの研修や学びの機会を提供し、家庭でも子どもの学習を支えられる環境づくりを進めます。
また、研修に参加し積極的に子どもの学びを支援している家庭には、制服代や教科書代の免除などのインセンティブ制度の導入も検討します。

→ 家庭も教育の“パートナー”として機能する社会を目指します。

 

 

ボランティアで地元の子に教えるところか

私は日本人ですがこのインドネシアという国が大好きで、本当にこの国に良くなってもらいたいと思っています。そしてこの国を根本からもっと良い国にするためには教育を良くしなければならないと思っています。

まだまだ小さいビジネスですが、弊社もTimedoor AcademyというITスクールやLPK Timedoorという日本語教育・送り出し機関を通じてこの国の教育に貢献していますが、抜本的な改善をするには公教育と教育予算の見直しが必須であると考えてこのような記事を作成させていただきました。

この国の教育の為に一生懸命働いている政府の方や学校関係者の方には最大限の尊敬と敬意を持っていますが、まだまだこの国の教育は良くできると思います。

ぜひみんなで意見を出し合って、協力して、次の社会を作る子供達に良い教育を届けていきましょう。

 

 

 

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