
1月 22, 2025 • インドネシア
4月 21, 2025 • インドネシア • by Yutaka Tokunaga
目次
― 安い労働力と低生産性のジレンマ ―
インドネシアのローカルレストランやカフェを訪れたことがある方なら、一度はこう思ったことがあるでしょう。「この小さな店に、なぜこんなにスタッフが多いのか?」と。注文を取る人、料理を運ぶ人、レジを打つ人、掃除をする人、ドアを開ける人まで、10人以上が同時に働いているケースも珍しくありません。
これは決してレストランに限った話ではありません。ショッピングモール、オフィス、ホテル、さらには公共施設でも、必要以上に多くの人が配置されている場面をよく目にします。インドネシア社会には、労働力の“過剰配置”ともいえる構造的な傾向が広く見られるのです。
日本やシンガポールでは、1人のスタッフが複数の業務をこなす「マルチタスク型」が一般的です。飲食店であれば、1人が接客・配膳・レジ・片付けまでをスムーズに対応します。シンガポールでは人件費が高いため、スタッフ数を最小限に抑える工夫が常に求められます。
しかし、インドネシアでは真逆の「シングルタスク・大量配置型」。ひとりが担う業務は非常に限定的で、「水を注ぐだけの人」「レジを打つだけの人」など、役割が細かく分かれています。
この問いには、主に3つの理由があります。
① 教育とトレーニングの不足
マルチタスクをこなすには、一定の判断力・応用力・基本的なITリテラシーや接客力が必要ですが、そうしたスキルを身につけるための教育や研修制度が整っていない現場が多く見られます。
② 能力の個人差・訓練不足
すべての人がマルチタスクをこなせるとは限りません。基礎的な読み書きや計算スキル、時間管理や論理的思考など、業務を効率的に進めるための基本的能力が不足しているケースも少なくありません。また、同じ仕事を繰り返すことには慣れていても、新しいことを学ぶ習慣や意欲が十分に育っていない場合もあります。
③ 労働コストが安いため「数でカバー」する文化
インドネシアでは最低賃金が低く、事業者側からすれば「1人に複数の仕事を任せて効率化を図る」よりも、「安い給料でたくさん雇った方が安全」と考える方が合理的になってしまう面があります。人を増やしてもコストが大きく跳ねないため、非効率でも問題視されにくいのです。
「今日はちょっと Sakit(サキッ=具合悪い)だから休みます!」──インドネシアの現場では、これがわりと日常。
ちょっとした体調不良でも医者の診断書さえあれば、病欠 OK。
風邪っぽい + 家の用事 + お祈り = ぜんぶ “Sakit” 扱いになることも。
オーナー目線では「誰かが急に消えても店を回せるように」あらかじめ多めに人を置くしかない。
このような「人海戦術型モデル」は、短期的にはコストを抑えられ、雇用も生まれますが、長期的には次のような問題を引き起こします:
* 労働者1人あたりの生産性が低い
* 付加価値の高い仕事が育ちにくい
* 企業の利益率が上がらないため、賃金も上がらない
* 労働者はスキルも報酬も伸びず、社会の中で低いポジションに留まりがち
* その結果、社会全体として生産の高い優れたビジネスが生まれづらくなる
こうした状況が何十年も続けば、「人が多いのに成長しない国」というジレンマから抜け出せなくなってしまいます。
誤解されがちですが、解決策は「人を減らすこと」ではありません。本質的な対策は、1人ひとりの“生産性”を高めることにあります。つまり、
* 教育制度の改革
* 現場でのOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)
* 社員の能力を引き出すマネジメント
* 業務プロセスの見直しとデジタル化
などを通じて、「少人数でも高い価値を生む組織」に進化することが必要なのです。
* インドネシアのレストランや社会全体では、スタッフが過剰に配置されるケースが多い。
* その背景には、教育の不足、個人の能力差、安価な労働力への依存がある。
* この構造は生産性の低さを固定化し、結果的に賃金も上がらない。
* 今後の成長には、人数ではなく「1人あたりの力」を育てることが不可欠である。
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