7月 5, 2025 • インドネシア, 特定技能・技能実習
2月 16, 2026 • by Erika Okada
目次
インドネシアでは日本では考えられない事件を何度も目にします。今回明らかになったのは、不法に輸入されたブランド品の靴やバッグを国内に流通させていたとされる密輸グループの摘発です。さらに注目を集めているのは、本来不正を取り締まる立場にある関税総局の幹部が関与していた疑いが持たれている点でしょう。
押収された資産は数十億ルピア規模にのぼり、内部システムの操作によって検査を回避していた可能性も報じられています。もしこれが事実であれば、単なる贈収賄事件ではなく、輸入制度の信頼性そのものに関わる問題と言えます。
本稿では、この事件の概要を整理するとともに、その背景にある制度的課題や市場構造、そしてインドネシアで事業を行うビジネスパーソンにとっての示唆について考えてみたいと思います。
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2026年2月、インドネシア汚職撲滅委員会(KPK)は、関税総局(Ditjen Bea dan Cukai)の幹部と物流会社PT Blueray Cargoの関係者を含む6名を、贈収賄の容疑で逮捕しました。押収された証拠品の総額は約405億ルピア(約3億8,000万円)にのぼり、現金、外国通貨、金塊(計5.3kg)、高級腕時計などが含まれています。
特に注目すべきは、PT Blueray Cargoが関税総局の特定の職員に対し、月額約7億ルピア(約6,500万円)の賄賂を支払っていたとされる点です。この賄賂により、輸入品が本来必要とされる物理的な検査を免れ、偽物や違法品がインドネシア国内に流入していた可能性があります。
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関税総局の内部システムが不正に操作され、リスクの高い輸入品が検査を回避できるように設定されていたことが判明しています。具体的には、検査対象となる「レッドライン」の設定が意図的に変更され、PT Blueray Cargoの貨物が検査を受けずに通過できるようになっていたと報じられています。
このような不正により、偽物や違法品が市場に出回ることで、正規品を取り扱う企業や消費者に多大な影響を及ぼすことが懸念されます。また、国家の税収減少や市場の信頼性低下といった経済的損失も無視できません。
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文化的背景と制度の課題
今回の事件を単なる贈収賄事件として捉えるだけでは、本質を見誤る可能性があります。より重要なのは、このような不正がなぜ発生し得たのか、その背景にある文化的要素と制度的課題を冷静に理解することです。
権限集中が生みやすい不透明性
通関業務は国家の安全保障、税収確保、産業保護に直結する極めて重要な領域です。そのため判断権限が一定のポジションに集中しやすく、外部からプロセスが見えにくいという特徴があります。
権限が強い領域ほど、不透明性が高まると不正のリスクは上昇します。今回のように取り締まる側の上層部が関与していたとされるケースでは、現場レベルで異常に気づいても是正が難しくなる構造が生まれます。
ビジネスの観点から見れば、「制度が存在していること」と「制度が実際に機能していること」は別問題であるという点を改めて認識させられます。
コピー品市場が示す需要側の現実
もう一つ見逃せないのは、コピー品が流通する背景には必ず需要が存在するという事実です。
価格に敏感な消費者層が一定規模で存在する市場では、正規品と非正規品の間に大きな価格差が生じると、非公式な流通経路が形成されやすくなります。これはインドネシアに限らず、多くの成長市場で見られる現象です。
つまり、不正輸入は供給側だけの問題ではなく、市場構造そのものとも関係しています。企業にとってはブランド保護の難しさを意味し、政府にとっては税収と産業保護の両面で課題となります。
汚職撲滅機関の存在が示す「過渡期」
一方で注目すべきは、今回の摘発が汚職撲滅委員会(KPK)によって実施された点です。インドネシアにおいてKPKは比較的強い捜査権限を持つ機関として知られており、これまでも多数の高官を摘発してきました。
重要なのは、「不正が起きている」という事実だけでなく、「それが摘発されている」という点です。
制度が未成熟な段階では問題が表面化しやすくなりますが、それは同時に是正のプロセスが機能していることの裏返しでもあります。完全に停滞した社会では、不正は事件にすらなりません。
この意味で、現在のインドネシアは制度強化の途上にある「過渡期」と見ることもできるでしょう。
ビジネスパーソンにとっての示唆
インドネシアで事業を行う私たちにとって重要なのは、こうした環境を過度に悲観することでも、楽観視することでもありません。
むしろ求められるのは、
・コンプライアンスを前提とした事業設計
・取引先の慎重な選定
・手続きの透明性の確保
・短期的利益より持続可能性を重視する姿勢
といった基本を徹底することです。
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KPKの摘発により、関税総局と物流業界の不正が明るみに出ましたが、これは氷山の一角に過ぎない可能性があります。今後、関税制度の見直しや監視体制の強化が求められる中で、私たちビジネスパーソンはどのように対応すべきでしょうか。
インドネシアでのビジネスを継続する上で、制度の透明性や法令遵守の重要性を再認識し、倫理的なビジネス慣行を徹底することが求められます。また、業界全体での自己規律や内部監査の強化も、信頼性の向上につながるでしょう。
制度の改善や文化の変革には時間がかかりますが、一人ひとりの意識と行動が、より良いビジネス環境の構築につながると信じています。
■ 本記事で使用した単語の解説
汚職撲滅委員会(KPK)
インドネシアにおける独立性の高い捜査機関で、正式名称は「Komisi Pemberantasan Korupsi」です。政府高官や政治家を含む汚職事件を多数摘発してきた実績があり、国内外から一定の信頼を得ています。
関税総局(Ditjen Bea dan Cukai)
財務省の管轄下にある行政機関で、輸出入貨物の監督、関税徴収、不正輸入の防止などを担っています。国家の税収や産業保護に直結する重要な役割を持ちます。
贈収賄
公務員や組織の意思決定者に対し、便宜を図ってもらう見返りとして金銭や物品を提供・受領する行為です。多くの国で重大な犯罪とされ、企業活動においても厳しく規制されています。
密輸
正規の通関手続きを経ずに商品を国内へ持ち込む行為を指します。関税逃れだけでなく、安全基準を満たさない商品や偽ブランド品の流通につながるため、国家経済に深刻な影響を与える可能性があります。
レッドライン(通関検査区分)
輸入貨物のリスクに応じて設定される検査区分の一つで、物理的な開封検査が必要とされる高リスク貨物を指します。この設定が不正に操作された場合、違法品の流入を許す重大なリスクとなります。
コンプライアンス
企業が法令や規制、社会的倫理を遵守して事業活動を行うことを意味します。海外でビジネスを行う場合、現地法だけでなく国際的な規範への理解も重要になります。
コピー品(偽ブランド品)
正規ブランドを模倣して製造・販売される商品を指します。知的財産権の侵害にあたるだけでなく、ブランド価値の毀損や市場の混乱を招く要因となります。
制度リスク
法律や行政制度の未整備、運用の不透明性、突然の規制変更などによって企業活動に影響が及ぶ可能性を指します。新興国市場では特に重要なリスク要因の一つとされています。
市場構造
価格帯、消費者層、流通経路、競争環境など、市場を形成する要素の全体像を指します。コピー品の流通は、供給だけでなく需要側の構造とも密接に関係しています。
■ FAQ(よくある質問)
Q. なぜこの事件はビジネスパーソンにとって重要なのでしょうか?
A. 通関制度の信頼性は輸出入ビジネスの基盤です。不正が発生すると競争環境が歪み、法令を遵守している企業ほど不利になる可能性があります。
Q. インドネシアでは汚職は一般的なのでしょうか?
A. 汚職の問題は多くの新興国が直面してきた課題ですが、インドネシアではKPKのような強い捜査機関が機能しており、不正が摘発されるケースも増えています。これは制度改善の過程と捉えることもできます。
Q. 密輸は企業にどのような影響を与えますか?
A. 偽物や違法品が市場に流入すると、正規品を扱う企業の売上やブランド価値が損なわれます。また価格競争が歪み、市場の健全性が低下する恐れがあります。
Q. コピー品市場はなぜなくならないのでしょうか?
A. 正規品との価格差が大きい場合、一定の需要が生まれやすくなります。これはインドネシアに限らず、多くの成長市場で見られる構造的な現象です。
Q. 海外企業がインドネシアでビジネスを行う際に注意すべき点は何ですか?
A. コンプライアンスを前提とした事業設計、信頼できる取引先の選定、契約プロセスの透明化などが重要です。短期的な利益よりも長期的な信頼構築が求められます。
Q. 不正が摘発されることはネガティブな兆候なのでしょうか?
A. 必ずしもそうではありません。不正が明るみに出ることは、監視機能や法執行が働いている証拠でもあります。むしろ完全に表面化しない環境の方がリスクは高いと言えます。
Q. 今後、制度は改善される可能性がありますか?
A. 経済成長とともに制度の透明性や監督体制は強化される傾向にあります。ただし改善には時間がかかるため、企業側もリスク管理を前提とした経営が必要です。