5月 3, 2025 • インドネシア, システム開発 • by Reina Ohno

高騰するベトナムのオフショア開発と代替えとなる国としてのインドネシア

高騰するベトナムのオフショア開発と代替えとなる国としてのインドネシア

近年、日本企業にとってオフショア開発は、慢性的なIT人材不足の解決策として重要な選択肢となっています。中でもベトナムは、低コストで優秀な人材が揃う国として注目され、多くの企業が開発拠点を置いてきました。しかし2020年代半ばに入り、ベトナムの人件費上昇や人材流動性の高さ、定着率の低さといった課題が浮き彫りになりつつあります。

本記事では、最新のデータをもとにベトナムのオフショア開発の現状と課題を整理し、代替地としてのインドネシアの可能性について検討します。

 

 

ベトナムのオフショア開発の現状

ベトナムのオフショア開発の現状

かつての魅力:低コスト・高品質の代名詞

2010年代以降、ベトナムは中国に代わる新たなオフショア開発拠点として急成長しました。以下のような要素が、企業のベトナム進出を後押ししました:

  • 人件費の安さ
  • 理工系の教育レベルの高さ
  • 若くて学習意欲のある労働人口
  • 地政学的な安定性

人件費の高騰

2024年〜2025年現在、ベトナムの開発者の給与は大きく上昇しています。たとえば、以下のようなデータが報告されています:

  • フロントエンド開発者:月給 約900〜1,500ドル
  • バックエンド開発者:月給 約1,200〜2,000ドル

かつては500〜700ドル程度だった水準からは、実に1.5〜2倍近い上昇です。特にハノイやホーチミンなど都市部ではこの傾向が顕著です。

ジョブホッピングと定着率の低さ

給与上昇と並行して、ベトナムではエンジニアのジョブホッピング(短期間での転職)が常態化しています。企業が育成しても、数カ月後には他社に移ってしまう例が後を絶ちません。この傾向は以下のような要因に起因しています:

  • エンジニアの需要過多による売り手市場
  • 外資系企業の大量採用
  • キャリアアップや給与アップを求める若年層の志向

結果として、開発体制の安定性に欠け、プロジェクト品質や納期に影響を及ぼすリスクが増しています。

代替地としてのインドネシアの可能性

代替地としてのインドネシアの可能性

基本情報と成長背景

インドネシアは東南アジア最大の人口(約2.8億人)を擁し、若年層の比率も高く、今後の労働力供給において大きな可能性を秘めています。近年、以下のような理由でオフショア開発地として注目を集めています:

  • ベトナムに比べて人件費が安定
  • 労働者の定着率が高く、ロイヤルティが高い
  • IT教育への国策的な支援(例えば、Merdeka Belajar政策)
  • スタートアップ文化の台頭と技術者層の拡大

人件費の比較

インドネシアのエンジニアの給与水準は以下のような範囲に収まります:

  • フロントエンド開発者:月給 約500〜1,000ドル
  • バックエンド開発者:月給 約600〜1,200ドル

ベトナムと比較すると、同等かそれ以下の水準であり、開発コストを抑えつつ、安定した人材供給が期待できます。

人材の定着率と採用環境

インドネシアでは、ジョブホッピングの文化がベトナムほど一般的ではなく、同一企業に数年以上勤める技術者も多く存在します。地方出身の労働者が多く、企業に対する忠誠心も高い傾向にあります。

また、エンジニアの教育水準についても、大学・ポリテクニック・ブートキャンプの3本柱による育成体制が整備されつつあります。

 

 

ベトナムとインドネシアの実務面の比較と留意点

ベトナムとインドネシアの実務面の比較と留意点

言語と文化的な違い

英語の通用度ではベトナムの方が一歩リードしていますが、インドネシアの若年層は英語教育が強化されており、TOEIC平均スコアも上昇傾向にあります。また、日本文化への親和性という点では、インドネシアの方が高く、日本企業との相性も良好です。

労働法と契約面

ベトナムの労働法は比較的企業寄りですが、インドネシアも2023年の雇用創出法改正以降、外国企業の進出を促す労働環境整備が進んでいます。給与・社会保障制度・就労ビザの取得などについては、現地パートナーとの連携が重要です。

 

 

今後の選択基準:どちらを選ぶべきか?

今後の選択基準:どちらを選ぶべきか?

ベトナムを選ぶべきケース

  • すでに現地法人・ネットワークを持っている
  • 短期で高品質の開発体制が必要
  • AI・IoTなど先端技術を扱う案件

インドネシアを選ぶべきケース

  • 長期的な人材育成と定着を重視
  • コストパフォーマンスを追求したい
  • BPOやWeb制作など労働集約型案件

 

 

おわりに

ベトナムのオフショア開発は、確かにその質と実績で魅力ある選択肢です。しかし、給与の高騰や人材流動性の高さは、今後の中長期的な成長において無視できないリスクとなりつつあります。一方、インドネシアはまだ未成熟な面も多いものの、今後の発展余地が大きく、開発パートナーとしての可能性は十分に秘めています。

海外開発を検討する際には、単なるコスト比較だけでなく、人的資源の質・安定性・法制度・文化的相性など、多角的な観点で拠点選びを行うことが求められます。

 

 

本記事で使用した用語解説

オフショア開発
海外に開発業務を委託する形態のこと。日本国内に比べてコストを抑えられるため、IT業界で多く活用されている。東南アジアが主な委託先とされる。

ジョブホッピング
労働者が短期間で職を転々とする傾向のこと。特にITエンジニアにおいては、キャリアアップや給与増加を目的とした転職が頻繁に行われる。

バックエンド開発者
システムやアプリケーションの裏側、すなわちサーバーやデータベースの設計・開発を担当するエンジニア。業務ロジックやデータ処理が主な役割。

フロントエンド開発者
ユーザーが直接触れるWebサイトやアプリの画面側の開発を担当するエンジニア。HTML、CSS、JavaScriptなどを用いて視覚的なUIを構築する。

BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)
業務処理の一部を外部の企業に委託すること。IT以外にも、カスタマーサポートや経理、HRなどの分野で活用されている。

Merdeka Belajar(メルデカ・ブランジャール)
インドネシア政府による教育改革政策。「学びの自由化」を掲げ、産業界と連携した実践的教育プログラムの導入を推進している。

よくある質問(FAQ)

Q1. ベトナムとインドネシア、オフショア先としての大きな違いは何ですか?
A1. ベトナムはすでに多くの企業が進出しており、IT人材の質や実績が高い反面、人件費の上昇と離職率の高さが課題です。インドネシアは人件費が安定し、定着率も高いため、長期的視点での開発に向いています。

Q2. 英語力はどちらの国が高いですか?
A2. 現時点ではベトナムの方が英語力の平均値は高いとされていますが、インドネシアでも若年層を中心に英語力は向上傾向にあります。プロジェクトによっては、言語対応を事前にチェックすることが推奨されます。

Q3. 初めてのオフショア開発ならどちらを選ぶべきでしょうか?
A3. 短期間でスピーディに成果を出したい場合はベトナム、長期的にチームを育成したい場合はインドネシアが適しています。自社のリソース状況や目標に応じて選定すべきです。

Q4. インドネシアでの開発は品質面で問題ないですか?
A4. 教育・育成体制が整いつつあり、スキルの高い人材も増えています。ただし、パートナー企業の選定と育成支援の設計が重要になります。

Q5. ベトナムからインドネシアへ開発拠点を移す際の注意点は?
A5.
法制度や税制、労働契約の取り扱いが異なるため、現地専門家との連携が必要です。また、文化やマネジメントスタイルの違いも事前に理解しておくことが重要です。

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